11 真夜中~タイケツ・解決
真夜中、カルスはベッドから起きる。
隣のベッドではルハスが苦しそうに右腕を天へと伸ばしていた。よくない夢でも見ているのだろう、と思っていたら、次の瞬間には満面の笑みとなった。夢の中でも忙しい少年である。
カルスは開け放たれた窓に足をかけて、宙へと跳んだ。
身軽に着地する。二階程度の高さなら魔術を使うまでもなかった。
周囲に人影はない。事前に確認済みだ。
すると、隣に何かが着地する気配が続いた。
何かは言うまでもなく、人間である。
「やはり、動きましたね」
レナである。
「セラフィアは?」
「ぐっすり眠っています」
「薬を盛ったわけじゃないだろうな」
「ひどいことを言いますね。親しい人にそんなことはしません」
親しくなければするということだろうか。
「ええ、必要ならやります」
「何も言ってないが」
「顔に出ていました」
「それは失礼した」
「父の所に行くんですね」
「………」
「今さらです。たとえリーダーが行かないとしても、私は一人で行きますから」
「教育上よろしくない光景があるかもしれないが」
「そんなもの、奇襲で魔術をぶっぱなしてやればいいんです」
「……まあ、娘が言うんならいいか」
カルスとレナは闇の中を走りだした。
カルスは黒ずくめの服装である。レナは黒いローブをはおっているので、もとから夜色だ。
月が出ていないので、二人の魔術士の姿は闇にまぎれ、ほとんど気配を感じさせなかった。
「リーダーはなぜ父を訪ねようと思ったんですか?」
「昼の会話があやしいことだらけだったからな。夜、一対一で話そうと考えていた。そっちのほうがいろいろ都合がいいと思ったんだが……レナはどうなんだ。娘のためにわざわざ会いに来たって言っていたのに」
「私のため、というのに嘘はないでしょうが、それを恩着せがましくわざわざ言うような変態ではありません。あの場に来たのには、何か別の理由があると私は思いました」
走りながら喋っているのに、二人に呼吸の乱れは見られない。両人ともさすが大魔術士と形容される人物に魔術を学んでいるだけのことはあった。戦闘に必要なことをきちんと身につけている。
「リーダーはあの女のことをどう思います」
「アウトだな」
「アウト?」
「魔術士の可能性がある。というか、パオラ・ケンドじゃないかと疑っている」
「私もそう思います。何があやしいのか具体的にはあげられませんが、勘がそう言っています」
「勘ねえ」
「魔術士には必要な要素です」
「ちょっと、違う気がするけどな」
カルスとレナは目的の宿屋に到着した。
宿泊施設に一種の執念を燃やすカルスは、名前を聞いただけで宿の位置を瞬時に特定していた。調べはついてる。たどりつくことなどたやすい。
といっても、バルドル・ファンが宿泊している宿は、最高級の宿の一つである。少し調べれば誰でもすぐに場所は分かるはずだ。
「ずいぶんいいところに泊まっていますね」
「バルドル・ファンだからな。もしかしたら、五人の魔術士の中でもっとも金を持っているかもしれない」
最高級にふさわしく門構えから違う。
細かい彫刻がなされており、それだけで充分に芸術作品である。
警備員もたっており、安全も担保されている。
カルスたちはまだその宿から距離を取っているので、警備員に気づかれた様子はない。
「どうするんですか?」
「正面から入って警備員を無力化というのも意表をついていいかもしれないが、普通に壁を越えて宿に近づこう」
「そうですね」
宿は周囲を石壁で守られている。
基本的に跳び越えることは不可能な高さだ。常人であれば。
カルスは付与魔術を行使し、肉体強化を行った。魔術が発動すると、大きくジャンプして壁を越える。
超えた先に犬が離されているということもなく、あっさりと敷地内への侵入は成功した。
すぐにレナが続いてきた。
ほとんど音をたてずにレナが着地する。彼女は肉体強化ではなく、魔術士皆の憧れ『浮上』の魔法を使ったようだった。
『浮上』はぷかぷかと浮かぶだけの魔術だが、付与魔術に風の要素を組み合わせて行う高難度魔術であり、空を魔術で飛びたいという魔術士が夢見る魔術でもあった。
もう一つ上に『飛翔』の魔術もある。これは飛行する魔術で、真の意味で空を飛ぶ魔術だ。
「部屋は分かっているんですか?」
「いや、分からない。もしかしてだけど、あのじいさん、魔力感知とか得意だったりするか」
「得意ですね。ちなみに私も得意です」
「なら、ばれているかもな」
「微妙なところですね。侵入を警戒していたら、確実に気づくでしょうけど」
「で、レナはじいさんの位置が分かったりはしないか?」
「わざと分かりやすいように魔術を使ってくれたら分かりますが、それ以外だと無理ですね。でも、リーダー」
「なに?」
「けっこう杜撰な計画を立てるんですね」
「俺一人だったら、魔術をぶっぱなして騒ぎを起こしたところで、追ってきたじいさんと話をするつもりだったから」
むろん、冗談である。
一つ一つ部屋を確認していくつもりだった。
ただし、もっとも可能性が高いのではないか、と疑っている部屋がある。最高級の部屋だ。
最上階の大きなテラスのついた部屋である。一つの部屋ではなく、複数の部屋が用意されている。王都や大都市には貴族や富裕層のために必ずこういった部屋があるのだ。
「なんだ、じゃあ、そう言ってください。別に私がいるからって遠慮する必要はありませんよ。そうですね、弁償は、あの変態にさせればいいんですし」
「ちょっと待て――」
カルスの制止は遅きに失した。
魔術が発動して、美しい庭が破壊される。さらに、風刃が最高級の部屋に放たれ、窓を砕いた。
「さあ、リーダー逃げましょう。本気で追ってこられたら、この場ですぐにやられてしまいすよ」
レナが『飛翔』の魔術を発動させて、空へと飛びたった。
周囲にざわめきが生じ始める中を、カルスも『飛翔』の魔術を発動させて、空へと飛びだす。
ほんのわずかな時間だけ遅れて、窓を割られた最高級の部屋から大柄な人影が飛びだしていった。
これまた『飛翔』の魔術を使っている。
宿の明かりが灯り、周辺の建物でもぽつぽつと明かりが灯りだす。騒ぎはすぐに大きくなった。
カルスの視線の先でレナの影が少しずつ小さくなっていく。
速度の差のせいだ。
『飛翔』の魔術の精度はレナのほうが上であるらしかった。
後方から近づいてくる気配がある。こちらは、どんどんその距離を縮めてきており、三者の中でもっとも巧みに『飛翔』の魔術を操っていた。
カルスは逃走を諦めたが、降りるにしてもいい場所というやつがない。
しかも、今いる場所はどうやら貴族らが住む地域らしい。大きな屋敷が多く並んでいた。かかわりたくないところである。
だが、カルスの思いはかなわなかった。
背後の気配が急速に近づいた。
これまででも充分に速かったのに、まさかそれ以上速度があがるとは思っていなかったカルスは、対応が遅れた。
「犯人はきさまか!」
上から声が聞こえ、カルスは体勢を変えようとしたが、それは許されなかった。背中に衝撃が走り、集中が途切れて、魔術が霧散する。
カルスは地上へと落下していった。
このまま地上に激突すれば、即死しかねない。
即座に「浮上」の魔術を発動させた。
一瞬、ふわりと身体が浮いた。
ゆっくりと落下しながら、カルスは空を見あげる。
そこにはバルドル・ファンがいた。空で仁王立ちしている。表情は暗くて確認できない。だが、怒気は空気を通して伝わってきた。
怒り狂っているのは間違いない。なぜなら、バルドル・ファンの次の行動が常軌を逸していたからだ。
「嘘だろ」
詠唱でも何でもない、意味のない言葉をカルスは放つ。
バルドル・ファンが攻撃魔術を放とうとしている。その手順と構成と魔力の動きから、カルスはそれがどのような種類の魔術でどれくらいの威力があるのかをある程度予測できた。
風を主としたものである。だが、何か違う。さらに威力がバカでかい。
カルスの下には、貴族の屋敷があった。
大魔術士バルドル・ファンが貴族の屋敷を攻撃したとなったら、問題は大きくなり、政治的な話にまでなるかもしれない。
カルスに分かることをバルドル・ファンに分からないはずがない。
まさか、若者化しているから無鉄砲になっているなどという理由ではないだろうが。
カルスは瞬時に防護結界をはりめぐらせる。自身を中心に何重にも結界を張っていた途中でバルドル・ファンの魔術が放たれた。
闇に雷閃が走る。
稲妻が防護結界と接触した瞬間、爆発音がこだました。
カルスは、幾重にもはった防護結界が次々に裂かれていくのを一瞬の流れの中で感じる。
防護結界をさらにはろうとしたが、果たせずカルスは光の衝撃に撃ちぬかれた。
力を失ったカルスの身体が石像のように固まったまま落下していく。屋敷の屋根にあたり、反動でさらに地面へと落下するところで、影がカルスの身体をさらっていった。
レナである。
レナは魔術を解き、敷地内にあった芝生のしかれた庭に着地すると、きつい眼差しで空を見あげた。
ゆっくりと降下してくるのは、彼女の父であるバルドル・ファンだ。
屋根にぶつかった音に反応したのか、屋敷内が騒がしくなる。あちこちに明かりが灯り、人の気配がいっきに増した。
「久しぶりに、きついのを受けたな」
カルスは治癒という名の新陳代謝の促進をはかり、なんちゃって回復をしている。だが、痛みはまったく引く気配がない。
それなりに重傷であるということだ。
本物の奇蹟と呼ばれる治癒をカルスは使うことができない。付与魔術でも本物の治癒は特殊な才能を必要とすると言われている。その勘を持つ者は少なく、また、完璧に使用できる者といったら、その時代に数人と言われていた。
そして、その数人とは『五人の大魔術士』にほかならず、他にいることは本当に稀であった。
本物の治癒魔術を行使できる者は、たとえ完璧に使用できない者であっても、重宝される。魔術士が使えるまがい物の治癒に比べれば、数倍治癒力が高いからだ。
もっとも明確な差は、他者にも使用できるという点である。この一点をとっても、そこには絶大な差があった。
おそらく間違いなく治癒を使えるはずのバルドル・ファンは当然、カルスの治療などしないだろう。するくらいなら、そもそもケガを負わせないはずだ。
付与魔術に特別な才があるらしいレナならばもしかしたら扱えるかもしれないが、可能性は低い。治癒は付与魔術の一つとされるが、中でも特別な才が必要とされるので、付与魔術が得意と言えど、あまり参考にならないのだ。
何より、今は戦闘になりかねない状況だ。
治癒などやっている時間はない。
父と娘は向きあっている。
いや、一方的に娘が睨みつけていた。
「何をするんですか」
「無法をやった男に教育をしてやっただけだ」
「無法なのはあなたでしょう。こんなところで魔術を放って」
親子そろってどちらも無法だとカルスは思った。
「いったい何のマネだ、あれは」
「確認のためです」
「いったい何を確認する。確認すべきことがあったとしても、昼に終わったはずだろう」
「やはり、言い訳のために昼に会いに来たんですね」
「言い訳、なんのことだ」
「つまりですね――」
カルスはゆっくりと立ちあがった。
それにしても周囲の様子がおかしい。
魔術の騒ぎがあり、魔術士らしき人物が庭の中央にいるというのに、やってきた警備兵は三、四人ほど。
これだけ大きな屋敷だ。もっと多くの警備兵がいるだろうに、駆けつけてくる数があまりに少ない。
気にはなるが、まずは目の前の男をどうにかしなければならない。本気で暴れられたら、誰にもとめられないのだから。
「あなたの連れていたリンダという女性はパオラ・ケンドという女魔術士なのではないか、ということです」
「何を言っている。あれはリンダだ」
「嘘」
レナの鋭い声が飛ぶ。
「嘘ではない」
「本当にそうですか?」
カルスは何とか立ちあがったが、激痛が身体を駆けめぐり、うめき声が思わずもれそうになった。そこを痩せ我慢でぐっとこらえる。
「俺の知っている外見と少々違ったんで、最初は分からなかったんですけどね。あの会話がいただけませんでしたよ」
「何のことだ?」
「魔術士に関する会話が出た時の、あの女性の全般的な反応ですよ。まるで、魔術士のことなんか分からないふりをしながら、実際はそうでもない。王都暮らしらしいですけど、それなら魔術士がどこで誰に学ぶかと言われれば、スクールって答えるのが普通じゃないですか? ここ十年は完全にスクールの流れですし、王都なんかじゃ、もっとずっと前からおそらくそうなっていたでしょう。なのに、あの人はルハスに対して、最初に師匠はいるのと訊きました。とても違和感がありましたね」
「そんなものはたまたまだろう」
「魔術士系統の話には矛盾がまだいくつかありましたけど、そうですね、あなたたち二人が恋人関係だったとしたら、とてもおかしなところがありました。いわゆる『前の女』の話です」
「それがどうした、事実だ」
「あなたはわざわざ前の女、それも数日前に別れたような女の話を、隣いる女性に対してわざわざするんですか?」
「何のことを言っている」
「あなたの娘が前の女――パオラ・ケンドの話を振った時の、二人の対応がおかしいんですよ。あまりに落ち着きすぎている。まるで、脚本どおりだ、とでも言うふうにね」
「ふん。そんなものは、たまたまそう見えただけだろうが」
「どんな女性であれ、男が直前までつきあっていた女の話を目の前でされれば不快でしょう。不快な表情を見せてはいけないような公式の場でならばともかく、あんな食堂でそこまで感情をコントロールする必要はない。たとえ、そういった感情を出すのが嫌いな人でも少しくらい漏れるものではないですか? でもあの人はまったくでしたよ」
「何が言いたいんだ?」
「言ったでしょう。あの女はパオラ・ケンドだって。自分に対してなら嫉妬なんてしないでしょうから、説明がつく」
「そして、あの女は悪事を働いている。そのことをお父様は知っていましたね」
レナがつめよる。
「いったい何を言ってるか、さっぱりだな」
先程まであった超然とした空気が、大魔術士からきれいに失せていた。
バルドル・ファンは、視線を別にやったり、手を動かしたりと、落ち着きがなくなっている。
やはり、娘からの言葉というのは響くようだ。
「おかしいと思った。おまえが心配するようなことはない、なんてわざわざ言うから。本当に心配するようなことがなければ、わざわざお父様はそんなことを言わない。会いに来たのも、私たちが疑っていることを、どこかのルートから知ったから、そんなことはないのだ、と説明しに来たのでしょう。本当に潔白なら、お父様はわざわざそんな説明なんかしません。つまり、お父様はあの人が悪いことをしている、もしくは、しているかもしれないと知っていたのですね」
「妄想がすぎる。全部、そんな気がするというだけじゃないか」
バルドル・ファンは強情に認めない。
決定的な証拠というやつがあるわけでもない。気になった点を一つ一つあげていったとしても、言葉尻を捉えただけ、言い間違いをしただけと言われれば終わりである。
父子が睨みあっていた。
周囲にいる警備兵は、小声で何か言っているだけで近づいて来ない。
なぜか、警備兵が来ないが、いつまでも時間をかけていたら、いずれ現れるだろう。
さっさと退散するべきだ。
何とも中途半端な結末だが仕方がない。
「最後に一つだけ聞かせてください。あの女に付与魔術は教えたんですか? 特に『新魔術』を教えたのか否か」
「いいか、きさまたちは勘違いしている。彼女はパオラ・ケンドではなく――」
その時、三人のちょうど中間地点に何かが落下した。
大量の土煙が巻き起こる。
土煙が風で流れると、そこに尻餅をついた人影が座っていた。
「――彼女は、リンダ……だ」
そこには妙齢の美女がいた。
カルスの知っているパオラ・ケンドだ。
「なぜ、ここにいる、リンダ!」
パオラ・ケンドをしっかり見ながら、バルドル・ファンが彼女を「リンダ」と呼んだ。
決定的証拠というやつが降ってきた。
リンダとはバルドル・ファンが付与魔術を使って変身させた若き頃のパオラ・ケンドのことだったのだ。
「どうなんです、バルドル・ファン。この女に付与魔術を教えたんですか?」
「いいや、まだ教えてはいない」
観念したように力のない声でバルドル・ファンが答えた。
「そうよ。このエロジジイは、人が優しくしてやってるのに、なかなか『新魔術』を教えやがらない」
ひどく荒っぽい口調で、パオラ・ケンドがバルドル・ファンを非難した。
彼女は埃かぶった服をはらいながら、立ちあがった。ケガはしていないようだ。
いっきに周囲が騒がしくなってきた。
先程までほとんど警備兵がいなかったのに、今では十数人の警備兵が来ている。中には魔術士もいるようだった。
明かりが次々と灯っていった。
いや、十数人どころではない。
ぞくぞくと人影が増えてきた。応援を呼ぶ声や命令が飛びかっている。
二、三十人はいるのではないか。
この数は屋敷を守る警備兵の数としてはいくら何でも異例だろう。
常備兵ではなく、事前に人数をそろえていたということだ。
手ぐすねを引いて待ち構えていたのである。
原因は、パオラ・ケンドだろう。
狙われる何かがあった。おそらく、パオラ・ケンドが盗みにくるような何かが……貴金属や宝石類等が。
「まさか、この状況になっても、その女をかばったりしないですよね」
カルスの問いに、バルドル・ファンは答えなかった。
さて、事態は急変した。これからは捕り物の時間帯である。
この人数、そして、バルドル・ファンを含めた三人の魔術士が傍にいる。
パオラ・ケンドがどういった技術を誇ろうと、逃げだせる可能性はほとんどない。
捕り物は簡単に終わると思われた。
少なくともカルスはそう思っていた。
だが、警備兵からすれば、カルスたちも怪しい人物に他ならなかった。
また、ここで、決定的な言葉をカルスに向かって投じた男がいた。
「おまえは、昼間の師弟教育の犠牲者ではないか! このような悪事に手を染めるとは。昼に語らった友として、おまえを私が捕らえる」
暑苦しい顔をした見覚えのある男が、やけに身なりの良い姿をして、集団の中央に立っていた。兵士たちを率いるというより、守られているという感じだ。
「ああ、ルゴスか。なんで、おまえが……まあ、いいや、ここにいる女が――」
「問答無用。おとなしく縄について、悔い改めるのだ。心配するな! 更生にはこの私がつきあってやる」
「いや、なんか誤解しているぞ」
「捕らえろ!」
この後数十分間無駄な騒動が繰り広げられたのだった。
乱闘が起こったのはルゴスのせいともいえるが、騒動の後、カルスたちがパオラ・ケンドの一味ではないという説明の場を簡単に設けることができたのは、ルゴスのおかげだとも言えたので、カルスは怒りと感謝をルゴスに対して同時に抱くことになったのである。
バルドル・ファンがしっかりしていれば、いろいろなことが手間暇かからなかったのだが、この老人は失恋にひどく落ち込んでしまって、しばらく使い物にならなかったのだった。
肝心の捕り物についてだが、 乱闘に乗じて逃走されたということはなく、パオラ・ケンドはしっかりと捕縛された。
何とも締まらなかったが、こうして、怪盗騒ぎとバルドル・ファンの恋愛に決着がついたのである。




