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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
チュートリアル
9/43

9

9


円形のフィールドに、薄く水が張っている。

天井は無く、満点の星空に月。

その光は水面に反射し、ユラユラと揺れている。

明かりはない。

だが、天然の光が十分以上に明るく照らす。

見とれている場合ではない。

ここはボス部屋。

いつどこから、何が来るのかさえ分からない。

刀を抜き、光弾を溜め始める。

風の音が低く唸る。

波がさざめき、何処かの木々が震えた。


――その瞬間


一筋の光と共に、爆音が轟く。

天から注いだ閃光は、フィールドの中央に激しく着地する。

それと同時に激しい電撃が張られていた水を伝い、私の全身を駆け巡る。

雷か!

フィールド全体に電撃によるダメージと、強制気絶効果を与えた。

一つの滴が落ちた。

何かがいる。

何かが居るのは分かる。

だが、意識はすでに遠くなってきていた。


胸に激痛が走る。

突きつけられた銃口。

それからは一筋の煙が出ていた。


あまりの激痛に目を覚ます。

何があった?

状況が分からない。

踏まれ、刺さった爪を無理やり切り裂く。

痛みこそあったもの、ダメージは大したことは無い。

起き上がると同時に、身構える。

先ほどまでは何もいなかったその位置に、提灯アンコウにカエルのような足を付けた敵がいる。

ずんぐりむっくりしたそれは、無い尻尾を足元の水につけた。

わずかな間を置いた後、一瞬で凍りつく。

靴ごと凍らされ、足が動かない。

月明かりに反射し、キラキラと輝くダイヤモンドダストが舞い始めた。

しまった。

状態異常のコードを使いそびれた。

これが状態異常に含まれるかは分からないが、使い忘れていたことを思い出させた。

まぁ、いいや。

刀を中段、水平に構える。

柄から先端へと、輝きが移動していく。

到達した輝きは、消えることなく先端のみ光り続ける。

中距離用、刀スキル。


飛撃Lv.1


構えた状態から、その場で刀を振る。

先端の光球は奇跡を残し、輝きのラインは真っ直ぐ飛んでいく。

決して遅いスピードではなかったのだが、跳躍であっさりとかわされる。

巨大な図体は、月を隠し周囲を闇に染めた。

焦ることは無い、まだ手はある。

手を開き上に向け、そこに意識を集中する。

みるみる大きくなる空の影へと、完成した光弾を飛ばした。

わずかにホーミングが効いたそれは、回避行動のとれない敵に綺麗にヒットする。

隠れていた月が顔を出す。

強かったであろうボスは、たった一撃で巨大な死骸へと変わり果てた。

それはすぐそばに落下し、衝撃で足元の氷を粉砕する。

ようやく動かせるようになった足を振り、張り付いた氷を落とす。

キラキラと輝く氷と星。

それらに目を奪われることなく、新たなチートコードを起動した。


状態異常無効。


今度こそ忘れなかった。

ゲームを再開し、再び時は刻み始める。

チートを使っているとは言え、面倒になってきた。

そろそろ全力で行きますか。

敵が落としたアイテムに背を向け、転送装置を使用した。


★☆★☆


天空を旅する空のダンジョン、ボス部屋直前。

小型の鳥の形をした沢山の敵。

だいたい、五、六十匹ほどいるのが分かる。

おそらく、いやきっと全滅で扉が開くのだろう。

先ほどから連続で光弾や、飛斬を使用しているために、スタミナ切れを起こす。

てっとり早く終わらせるため、二つのコードを選択した。


スタミナ最大

スキルレベルMAX


視界は元に戻り、喚き散らす大量の雑魚。

先ほどまでほとんど空だったスタミナは、最大まで回復していた。

敵が迫るよりも早く、光弾を溜め始める。

スタミナが減り、まだ回復していない事を確認する。

形成した輝きを、相手へと押しつけるようにつきだした。

この瞬間にスタミナは元に戻った。

そしてレベルが最大になった光弾は、これまでとは違う挙動を見せる。

手元から離れると同時に、すぐさま十の弾丸へと分裂した。

それぞれがそれぞれの敵へと追尾し、カンストダメージを与える。

敵が死んだときに奏でられる、悲鳴のような音。

ほとんど同時に響き渡り、心地良く感じられる。

スタミナ切れを起こさない為に、何度でも素早く連射できた。

次々と光弾の餌食になる敵。

数いた敵も、ものの数秒で地に伏した。

最後の一匹に光弾が当たると同時に、扉はゆっくりと開き始めた。


強い光に目を細める。

扉の向こうは屋外になっており、強い風が吹き続けている。

ゲームだから場外に落ちることは無いが、行動に制約がかかる。

あるのは、ただの足場だけ。

空中闘技場、とでも言っておこう。

壁もなく、天井もない。

ただ高い所に円形の足場があるだけだ。

そこへと続く、同じように壁の無い通路。

一歩一歩、吹き飛ばされないよう踏みしめる。

何とか中央までたどり着いたとき、周囲は真っ白な霧に包まれた。

あまりの視界の悪さに、思わずしゃがみこむ。

ダンジョンそのものが雲を抜け、再び視界は元に戻る。

何も変わらない、何もいない。

強い風は吹き続け、何かが現れている訳でもない。

おかしいな。

草原のダンジョンでは、上方からいきなり襲いかかってきた。

火山のダンジョンでは、入った瞬間からそこにいた。

海のダンジョンでは、雷と共に現れた。


なら、空は?


周囲が謎の影に包まれる。

やはり上方からの、突然襲い来る攻撃。

巨大な物体が降り注いでいた。

それに向かって、素早く居合を放つ。

たった一度の動作で五つの斬撃がそれを刻む。

五度にわたるカンストダメージ。

部位破壊エフェクトと共に、落ちてきていたそれは砕け散る。

いるいる。

素敵なプレゼントの落とし主。

はるか上空で巨大な何かが、小さく見えていた。


キング・オブ・スカイ・エンペラー


クジラのような外見で、ゆったりと空を飛び回っている。

腹部に着いたいくつもの突起物。

それらが胴体から切り離され、的確にこちらを狙ってくる。

凶悪な質量爆弾が雨霰のように降り始める。

ちょっとこれ。

スキルの連発で次々と撃ち落とすが、止むことは無い。

チートなしでどうやって勝つんだ?

強化された飛斬は溜めた後、三回まで飛ばすことが出来る。

空へと放つ斬撃は、貫通しながらも広範囲を薙ぎ払った。

地面と衝突し飛散した破片が頬をかすめる。

撃ち落とすことが出来なかったいくつかのそれが、周囲に着弾し体力を少しづつ削っていく。


まずいな……


このままの攻撃が維持されると、確実に体力がなくなってしまう。

光弾でも届けばいいのだが、残念ながら落とされるそれを追尾してしまっている。

きっつい。

右へ左へと避けながらも撃ち落とし続ける。

徐々に押され始め、撃ち落とす高度も低くなり始めている。


仕方がないな……


私は撃ち落とすのをあきらめた。

妨害がなくなり、落ちてくる大量の物体。

衝突の衝撃は激しく、ダンジョンそのものが崩れ落ちるのではないかと思わせる。

爆風は体を押し込む。

破片は身を切り裂く。

爆煙がフィールドを包んだ。

強い風がそれを引き裂く。

そこには少しも体力が減っていない私がいた。

起動されたチートコード。


体力全開


大量の爆弾が着弾するよりも早く、新たなコードの起動を行った。

さすがに、あれはまずいと判断したのだ。

ゲームを再開し、再び時間は動き出す。

コードの性能を試すため、その場で刀をしまい空を見上げる。

落下ポイントを予測し、直撃だけは避け続ける。

さすがに直撃は痛いだろう。

飛び散る破片が身を切り裂く。

一瞬だけ体力が減り、すぐに戻っているのが確認できる。

しばらくして爆撃は止んだ。


さぁて、と。


煙が晴れ、敵の姿を再び捉える。

気合い入れて反撃しますかな。

チート武装により、ほぼ不死身の私。

もう死ぬことは無いだろうと、行動一つ一つに余裕が出てきている。

敵はいまだに高いところにはいる物の、少しづつ降りてきていることに気が付いた。

私はゆっくりと刀を抜き、近づいてくるのを待った。

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