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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
チュートリアル
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8

8


間に合った。

転送装置の向こう側、火山の街ゲート付近。

そこで仰向けに倒れていた。

常に広がる黒煙。

青く澄んだ空を、黒く塗りつぶそうとしているようだった。

閉じそうになる目を何とかこじ開け、気だるい身体を両足で支える。

さて、と。

報告に行きますか。

私は街の奥へと向かっていった。


☆★☆★


一組の男女が街を歩いている。

別に珍しい事ではない。

他にもそういった組み合わせはいる。

だが。

違う点で見れば、珍しい組み合わせかもしれない。

俺と、バジさん。

トップランカーの二人。

最強を目指す者たちにとって、この二つの名前はよく目にするものだった。


「君のお友達、名前はなんだったかな?」


ギルドの拠点を目指しながら、バジさんが口を開く。


「友達?」

「そう、オフラインの。」


あぁ。

一瞬わからなかった。

あいつか。


「たしか……」

「ライゼル。」


そうかと呟きながらも歩き続ける。

人は多い。

だが、見失うほどでもない。


「サムライで攻撃特化にする、っていってた。」

「ふむふむ、完全に君の後輩になる訳だな。」

「後輩?」


どこまでも続くような雑踏の中。

二人は歩き続ける。


「だってそうだろう?」

「同じ職なのだから。」


後輩、ね。


「リア友です。」


言い放つ俺を無視して、彼女はある建物の扉を開けた。


「ただいまー。」


明るくふるまう彼女の言葉に、反応する者は誰一人としていなかった。

薄暗いその部屋へ、彼女について入っていく。

足音が響く。

テーブルとテーブルの間を抜け、奥へと進む。

誰もいないバーカウンターに二人は腰かけた。


「二人はさみしいな……」

「うん……」


激しく同意。

ギルドを作ると、人数にかかわらずこのサイズが支給される。

NPCもいない。

ただ二人だけのギルド。


「君のお友達も入ってくれるとうれしいなぁ。」

「どうだろう?」


頬杖を突きながら答える。


「早けりゃ火山だろうけどね。」

「アクエリアいるし、苦戦してそう。」


初めて遭遇するドラゴン種。

強かった。


「倒さなくてもいい、って気づかないと。」

「そこから進めないね。」


窓から差し込む光が、赤く染まりつつある。

オフラインでは動かなかった時間が、一時間と三十分をかけて一日をめぐる。

埃っぽいその部屋は、少し動いただけで舞い上がる。

西日がそれに反射して、斜めに鋭く入り込んでいる様子が見えた。


★☆★☆


特に何も言われなかった。

次の目的地はどこなのだろうか。

疑問を抱えたまま、行けるようになった一本道を進み始める。

NPC達は復活し、少し後ろをついてきていた。

寂れた街道。

特に目もくれず、ただ道なりに歩き続ける。

会話は無い。

そもそもコンピューターと会話なんて、誰がするものか。

現れる敵をなぎ倒しながら、そんなことを考える。

火山由来のグレーの世界が、少しづつ色彩豊かな物になってきていた。

鮮やかな緑、咲き誇る花々。

疑似的とはいえ、やはり自然の中は気持ちいい。

そしてたどり着く、綺麗な浜辺の港町。

浜辺もあり、港もある素敵な町だ。

たぶん道中で、少しはNPCも強くなっただろう。

街へ踏み込んだ瞬間に、いつも通りに始まった、強制イベント。

海のダンジョンのボス討伐依頼。

変わり映えしないなと思いながら、ダンジョンへと向かった。


陸からある程度離れた孤島。

それ全体がダンジョンと化していた。

ここまで船で送って貰ったのだが、帰りはどうするのだろう?

転送装置は町に飛ぶのか、船に飛ぶのか……

そんないらない心配をしながら、内部へと侵攻する。

露出する岩肌。

天然由来のその光景は神秘的であり、また現実に存在してもおかしくはないほどの物だった。

ある程度の雑魚が出てきているが、今のところ全て物理攻撃が通る。

仕掛け解除の為の水中での行動も、チートにより問題なく完遂されていく。

ある仕掛けを解除した時、これまでとは違った扉が開く。

そろそろ、かな?

くぐり抜けた先、そこは中央に水が張るだけの部屋。

足場はわずか、この扉のある位置だけ。

全員がくぐり抜けると、当然のように扉は閉じる。

これまでとは違う、太古の遺跡のような石つくりの内装。

所々色が剥げてきてはいるが、綺麗な青を基調とした模様が一面に施されている。

天からは、何らかの光が差し込んでいる。

ざっと見た感じ、敵はいないな。

となるとここかな、水中を覗き込む。

天に対して、真っ暗な地。

かなり深い。

その時初めて、かなりの速度で水かさが増えていることに気が付いた。

上がり続ける水面は、膝を、腰を、胸をも越えて上昇を続ける。

ついに足が浮かび上がったころ、底から浮上する影がいた。

あらゆるファンタジーにおいて、当然のように出てくる存在。


マーメイド。


小さく、そう表示された。

女性の上半身に、魚の尾ひれ。

手にした琴は、どう考えても殴るためのものではない。

相手を捉えたまま、水中に潜る。

互いは互いの目を見たまま、一定の距離を保ち続ける。

マーメイドの手が動き、奏でられる琴。

その音は美しく遺跡と共鳴し、水中を響き渡る。

何が起こるか分からない。

草原のダンジョンでの事を思い出した。

何かが起こるよりも先に、倒す!

柄を強く握り、素早く踏み込んだ。


――つもりだった。


水中に浮かぶその身体。

踏み込まれるべき足場は、そこには無かった。

水平に刀を構える。

先端へと光が移動するよりも早く、私は眠りについた。


知らない男性体。

それと戦う私。

見た夢はそれだけだった。


水中で目を覚ます。

チートにより、水中で呼吸ができるために助かった命。

ダメージは受けていない。

ただ、眠らされるだけか。

それでも厄介なことに変わりはない。

敵の位置を探る。

周囲には見当たらない。

再び響き始める琴の音に、上方にいる事に気が付く。

上から差し込む光を背に、その美しきシルエットを落とし続ける。

同じように水平方向に構えるのだが、また眠らされてしまうのだった。


撃ちこまれる弾丸を、刀の対弾丸防御用スキルで弾き飛ばす。

間髪入れずに襲い来る三方向からの斬撃。

それらを二つは避け、一つをはじき返す。

肉薄したその状況で、私は敵の胸元に突き立てた。


目を開く。

もういい。

斬撃スキルを試すのはやめだ。

後でチートコードでも加えておこう。

状態異常を無効化するコードがあったはず。

水中では、チートコード選択の画面に入れない。

音が鳴り始めるよりも先に、溜め時間が短い光弾スキルを溜め始める。

敵はどこだ?

探し始める、と同時に音が鳴り始める。

今度は背後から。

振り向きざまに、溜めたそれを飛ばした。

急激に重たくなる瞼と戦いながら、着弾したことを確認する。

完全にオーバーキル。

音が止み、眠気も消えた。

なかなかに厄介な相手だった。

出口はどこだと探し始めるが、水が引く様子がない。

取りあえず水面に顔を出すと、眠ったままのNPC達がいた。

放っておくか……

倒した後もなお水面は上昇を続け、高所の足場へと手が届くようになっていた。

手をかけ、重たい身体を引き上げる。

立ち上がると同時に、正面にあるボス部屋特有の扉が開く。

私はその扉へと、たった一人で歩き始めた。


新しくコードを起動するのを忘れて――

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