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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
チュートリアル
7/43

7

7


大きく場所が変わり、同時刻。

激しい剣技が弾丸を散らす。

草は無く、ただ枯れ木だけが所々に生えている開けたステージ。

二人のトップランカーが高速戦闘を繰り広げていた。

スキルによる十数発の弾丸が、ほぼ同時に放たれる。

被弾するよりも早く踏み込む。

避けるためではなく、近づくために。

両手に持った刀と銃、それらを構えながらも相手に急接近する。

敵の弾丸が肩を、耳を、足を貫いていく。

大きく体力は削れたが、同時に間合いに入ることが出来た。

スキルが発動し、おぞましいほどの連撃が繰り出される。

だがそれらは、ことごとく盾で防がれた。

攻撃の間、盾が一瞬だけ光る。


――しまった


敵のカウンタースキルが発動し、盾で殴られた。

反動で尻持ちをつき、相手に大きな隙を与えてしまう。

相手のスキルはまだ止まらない。

銃口がまっすぐこちらをとらえ、一瞬のうちに数十発もの弾丸に撃ちぬかれる。

ある程度は残っていたはずの体力が、一瞬でなくなってしまった。




一旦現実に戻り、再度起動する。

敷き詰められた石畳と石つくりの家屋。

古い西洋風の街並みが広がっている。

メニューを開き、自分の状況を確認した。

先ほどの敗北で大きくポイントを失い、現在の順位も大きく下がってしまっていた。

リアル基準で週に三日間開催される、完全ポイント式ランキングバトル。

ここ最近、上位百位圏内の常連となっていたのだが。

今の敗北は痛い。

今回は入れないかもなと、メニューを閉じる。


「やぁ、炉衣君。」

「おつかれさん。」


気が付けば、先ほどの対戦相手がそこにいた。

名前はバジリスク、女性。

盾と銃の使い手、ナイトとガンマンの混合職。

盾射手、通称ガンシールダ―。

高耐久、高火力で射程も長い。

ただ、移動が遅い等の欠点もある。


「バジさん。」

「おつかれさま。」


キャラクターネーム、雲谷炉衣。

性別は男、中身は女。

刀と銃の使い手、サムライとガンマンの混合職。

刀射手、通称ガンソードナー。

高火力、ハイスピードで紙装甲。

なかなかにロマン職。

慣れると強い。


「どう、もう一回やる?」


やや挑発気味に尋ねられる。

大通りのど真ん中。

何人ものプレイヤーが行き来している。

風変わりな生物が、重そうな荷車をゴロゴロと引いていく。


「いいのですか?」


現在のレート差を考えると、バジリスクさんには利点がない。

なんていい人なんだ。

さすがギルドのトップ……


「では、始めようか。」


(ポイントバトル)

(決闘を申し込まれました。)

(フィールドを選択してください。)


いくつものフィールドが表示される。

それと一緒に20秒のカウントダウンが始まった。


(Wilderness)

(特に障害物の無いフラットなフィールドです。)


そこを選択し、決定を選んだ。

風景が大きく変化していく。

建物は上部から塵となり舞い上がり、敷き詰められた石畳は降り注ぐ塵に埋もれた。

元々生えていた草木は枯れ、幹枝のみを残しそこにあり続ける。


(TEAM BLUE 1 VS TEAM RED 1)

(フレンド、およびギルドのメンバーを呼ぶことが可能です。)


表示の下には空のリストと、決定の表示。

仲間を呼ぶ猶予は三分。

180の数字を囲うように円が出ている。

徐々にその数字は減り始め、合わせて円も消えていく。

最大で呼ぶことが出来るのは20人まで。

20対20の大混戦も可能なのだが、今回は一騎打ち。

呼ぶことはしない。

決定を選択した。


(stand by)


10の数字のカウントダウン。

合わせて円も消えていく。

片手で刀を、残りで銃を抜いた。

それぞれに意識を集中させる。


5、4、3……


銃と刀は鈍く輝き始める。

相手も同じく、構えた盾が輝く。

まっすぐに構えた盾は相手を隠す。


2、1……


GO


乾いた鐘の音と同時に引き金を引く。

銃口は上に向けてある。

五発ほどの輝く弾丸が空へと上がっていく。

盾が大きく動く。

現れるは輝く銃口。

間髪入れずに響く十の銃声。

臆することなくそれに向かって踏み込む。

接近しながらも、ギリギリで全てをかわしきった。

先ほどの五つの輝きが、空から舞い降りてくる。

素早く手に持った銃を振りリロードする。

空になった薬莢が飛散する。

相手も銃を上に向け、薬莢が零れ落ちる。

同時に盾が動き、再びその体を隠す。

周囲は輝く弾丸によって光に包まれる。

輝く刀に力を込める。

放つスキルは、居合切りLV.7

抜刀しつつも切りつけた。

一度の動作で四つの斬撃が相手を襲う。

盾の輝きが一瞬強く光り、全ての斬撃を受け止める。

輝きが相手を襲う直前、全てのそれが撃ち落とされ空中で爆発した。

再び銃は輝き始める。


連射LV.10


20発もの弾丸が至近距離で放たれる。

スキルの発動が間に合わなかったようで、そのまま盾で受け止められた。

いくつもの白の数字が表れる。

スキルが終わらないうちに、刀を顔の横で構える。

突進LV.4

わずかに飛び退き、リロードしながら一気に踏み込んだ。

一旦相手の横に動き、そのまま背後へと回り込む。

同時に銃のスキルを溜め始める。

盾が追尾するように動くが、こちらの方が早い。

刃がゆっくりと相手の喉元へと近づいていく。

だが。


相手の銃口が、すでにこちらを向いていた。


あわてて大きく後ろへと跳躍する。

刀は空を切り、一切のダメージは入らない。

そして起こる爆発。

これは相手のスキルによるもの。

爆風にあおられわずかに体力が削れた。

立ち込める黒煙に向け、既に溜め終えていた連射スキルを発動する。

だが、当たった様子はない。

突然中から弾が飛んでくる。

すれすれの位置を飛び、遥か後方で爆発が起きた。

銃を振り、素早く周回するように走り出す。

すぐにでも追撃したいのだが、連続したスキル発動によるスタミナ切れ。

しばらくは発動できない。

黒煙が未だに晴れず、相手の様子が分からない。

だが相手もスタミナの消費は激しいはず。

守りに使ってくれているとありがたいのだが……

煙がようやく晴れた。


……そうは行かないか。


光る銃をこちらに向け、飛び出す弾丸が襲い来る。

着弾一発目、すぐ後ろ。

連射スキルにより続けざまに飛来してくる。

二発、三発と少しづつ修正され、追いついてきた。

負けじと撃ちかえすが、通常攻撃のためにダメージはほとんどない。

だがこれの攻撃を乗り越えられれば、スタミナ切れの大きな隙が生まれるはず。

修正に修正を加えた弾丸が、かすり始める。

足に、手に当たり、体力が比例して大きく減り始めた。

だが立ち止まるわけにはいかない。

最大で10のスキルレベル。

つまり、連射スキルで放たれる弾丸の数は20が最大と言うこと。

体力の減り方が大きくなるが、反対してスタミナは回復してくる。

周回しつつも接近を始めた。

そして撃つのをやめ、それぞれのスキルを溜め始める。


勝負をつける――


――この一瞬で


弾丸が止むと同時に足元から砂埃が舞い上がる。

一度の方向転換を挟む突進攻撃。

完全ながら空き。

背後に回り込み、今度こそ刃は首筋をとらえた。

だが、まだだ。

まだダメージが足りない。

相手のリロードが終わるよりも早く、その胸元に銃口を突きつける。

今度は俺の勝ちだ。

怒涛の二十連射。

盾を挟まない、至近距離からの発砲。

これまでにないダメージを表示し続ける。

スキルは終了し、全ての弾丸が撃ち尽くされた。


そこで時は止まった。


空になった薬莢がゆっくりと回転しながら落ちていく。

ゆっくりと。

ただゆっくりと。

固い地面に薄く積もった砂。

金属製のそれが、地につき甲高い音を周囲に響かせる。


同時に――


どこまでも真っ黒な銃口が、まっすぐに捉えていた。

一発きりの発砲音。

残りわずかな俺の体力を、すべて持っていくには十分すぎる威力があった。




まけたか……


腕で顔を隠しながら天井を見上げる。

背もたれはギシギシと悲鳴を上げた。

長めの髪がサラリと落ちる。

真っ赤に染まるカーテン。

部屋の中は暗く、ただパソコンの画面だけが輝いていた。

どうして勝てない?

もう少し。

もう少しだったはず。

大きく息を吐いた。

赤い光がカーテンをも貫いて私を照らす。

壁に落とされた黒の私は何を思うか……

悔しさで胸が痛む。

口角が徐々に下がりかけたが。


っふ――


一転して大きく吊り上がる。

上等。

さすがはギルドマスター。

超えてやる。

全戦全勝を目指して。

パソコンに手を伸ばし、ソフトを起動した。




再び視界は石の街。

メニューを開き先ほどの対戦相手を探す。

すぐそばを風変わりな生物が荷車を引いていく。

少し離れたベンチに、目的の人物を見つけた。


「バジさん。」

「おーい。」


言いながらそちらへと向かう。


「おつかれ。」

「お疲れ様。」

「炉衣君もだいぶ強くなったね。」

「負けたけど?」


半分冗談、半分嫌味でそう返す。

彼女の隣に座る。

風が吹き始めた。


「バジさん、ほんとに強いね。」

「アクエリア・ドラゴンも倒せるのでは?」


なびく髪を見ながら問いかける。


「あれは、ほら……。」

「HP1より減らない仕様だから無理だって。」

「それこそチートを使っても、だね。」


なるほどと呟きながら視線を戻す。

何人ものキャラクターが、通りを行き来している。

プレイヤーか、NPCか……

判別のしようがない。


「何であれだけの攻撃に耐えたの?」


率直な疑問。

正直、あれ程の攻撃を耐えられるとは思わなかった。


「単純にナイト系統は防御と体力が高いからね。」

「君の火力不足。」


そうか……

大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

肺が空になるまで吐き出し、ベンチから立ち上がる。

そして真正面から、彼女の目を見て決心を口にした。


「俺、あんたを超える。」

「次からは全戦全勝だ!」


一瞬は驚いた表情だったが。


「やってみろ。」

「それくらいでないと、張り合いがないからな。」


笑いかけるその表情。

そしてこの強さ。

俺が。

いや、私が。

ついて行きたい。

そう思った理由だった。

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