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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
インフィニット・アドヴァギア
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大量の戦闘機が編隊を組んで飛来する。

各所で起こる爆発。

敵の進攻もいよいよ本格化し、戦闘はより激しさを増している。

一国を滅ぼしかねない機械兵団。

それらを防ぐは、たった三人のサムライ。

編隊を組んでいた戦闘機も、輝く月によって一瞬で撃ち落とされる。

片翼を部位破壊されたそれらは、回転しながら地に激突した。


「意外と、三人だけでもなんとかなるもんだな。」


信玄が敵に向かって槍を投げつけると、そういった。

敵の数は多い。

その上、スピードもある。

チートを使っているとはいえ、なかなかできないこと、なのかもしれない。


「ほら、二人とも前見て、前!」


激しい地響きを轟かせ、砂を押しのけ現れた。

巨大な鉄塊。

防衛臨時ミッション、ボス。


対地進攻用万能艦ファルシオン


それが今、砂をかき分けながら強引に乗り上げてきたのだ。

鉄がきしむ音が耳に刺さる。

甲板に設置されたハッチが開き、垂直ミサイルが放たれた。

狙うは近くの三人。

真上から数十発ものミサイルが、私たちへと降り注ぐ。

先ほどからの戦闘で、ミサイルだけは空中で撃墜出来る事を知っていた。

ジッと、動くことなくそれを見る。

私へと集まるそれら。

飛斬を溜めながら、密集するタイミングを待つ。

わずか頭上数十メートル。

逃げ出したい足でしっかりと踏ん張り、真上へと飛斬をとばす。

光の斬撃は、金属の飛翔する爆弾を空中で引き裂いた。

私は爆発の黒煙に包まれるも、それからどうにか抜け出す。

アッシュは盾を、信玄は槍をそれらに飛ばし、それぞれの方法で攻撃を回避していた。


「本当はヘリで空から甲板へと行きたいところだけど、仕方ないね。ライゼル、船底に攻撃して入口を作って。」


第二派が空へと撃ちあがる。

それらが落ちるよりも早く、船底へと飛残を飛ばした。

部位破壊エフェクトと共に、穴が開く。

そこから中へと続く通路。

私たちは素早くそこへ転がり込んだ。

照り輝いていた太陽から、ひんやりとした暗い室内。

突然の環境の変化に、わずかに眩暈を感じた。

だが、休んでいる暇はない。

三人を追って、地上すれすれで向きを変えたミサイルが自身の中へと侵入しようとしていた。

私は二人を奥の扉へと促すと、それへと向き直る。

残った最後の飛斬。

向かうそれらへと飛ばした。

何度も起こる爆発が、いくつものミサイルを撃墜したことを証明する。

背を向け、奥へと移動しようとした時。

黒煙の中から一発のミサイルが姿を現した。

全て撃ち落とした。

その慢心が、見落としを生んだ。

もう、距離的に受け止めるしかない。

片手で刀を持ち、真っ向から受け止める。

激しい金属のぶつかる音が、狭い室内に響き渡った。

暗い通路をミサイルの炎が、赤く照らしあげる。

ギリギリと、奥へと押し込まれていく。

すぐ後ろには、二人が隠れる金属の扉。

さすがに、ここで止めなければならない。

抑える刀を両手で握り、刀身を輝かせる。

輝きが完全な物になると同時に、一気に振りぬいた。

コノ世との戦闘でも使った、ゼロ距離飛斬。

真っ二つに引き裂かれたミサイルは、私の真横で壁に当たり爆発を起こした。

黒煙を身にまといながらも、扉の中へと滑り込む。


「ライゼルさん、大丈夫か?」


服の中からまだ煙が出てくる。

見たことのない消耗具合に、信玄が声をかけた。

だが、数値上一切の消耗は無い。

むしろアッシュと信玄の方が体力は減っている。


「とっさに武器を切り替えられないと、このゲームは耐えられないねぇ。」


呑気な声で言いながらアッシュは刀をしまう。

代わりに取り出したのはピアス。

それを耳につけると、盾を手にした。


「さぁ、こっからはダンジョン攻略だよ。」


甲板にいるという、この船の守り人。

そいつを倒し、今回の防衛戦は終了となる。

アナライザーのスキルで、敵の位置を視覚化された情報が共有される。

先頭にライゼルを、順に信玄、アッシュが続いていく。

暗い廊下。

金属の壁が、床が、天井が重たい冷気を放っている。

縦横自在に駆け巡る、大量のパイプ。

時折そこから蒸気が噴き出していた。

薄く張った水が、足音に合わせて跳ねる。

狭い。

ただひたすらに狭い。

進む先はティー字路。

右に行くか、左に行くか。

歩きながら迷っていた時、左右からマーカーが接近している事に気が付いた。


「敵が来た。」


空を飛ぶ、二つのローターを付けた小型のロボット。

大量のそれが、こちらの存在に気づく。

その証拠に、緑のランプが赤く光った。

向けられる銃口。

何かをされるよりも早く、それらへと接近する。

一刀両断。

壁を切り付けながらも、全ての敵を切って落とした。


「いくよ、来て。」


武器が長く、扱いにくい。

だが、私が持つ武器にこれよりも短い物はない。

金属製の完全迷宮。

先頭にライゼルを携えた彼女らに、戦闘面では苦労することは無かった。

いくつもの階段を上り、いくつもの階段を下り。

ある時は部屋に閉じ込められ、ある時は来た道を戻り。

ようやく、たどり着いた甲板上。

扉を開けた瞬間から広がる、敷き詰められた巨大な金属の正方形。

三人はゆっくりと中央へと進んでゆく。

閉まると同時に電子ロックが掛けられた扉。

この場所がボス戦用のフィールドならば、その扉が開くことは無いだろう。

正面に見えるのは三連式主砲。

四隅にはアクティブ防護システム。

かつて見たことがある、アメリカが開発したというファランクスのそれと似ている。

側面からせり上がる、片側4つのガトリング砲。

合計8つのそれが、素早く回転しこちらに向けられた。

回りだす銃口。

全方向からの攻撃は誰もが想像できる。


「あぁー、これきついね……」


苦笑いしながら、アッシュは盾を構える。

正面の主砲が、こちらへと動き出した。

一斉に始まる射撃。

隠れる場所がない三人へ、これまでとは比較にならないほどの弾丸が飛ぶ。

はずだった。

主砲を除く、全ての兵装が削がれた敵。

私の飛斬の方が早かった。

主砲の耐久力だけは高いようで、一撃では落としきれていない。


「さっすがだね。」


正面のそれへと、刃を下に向けながらゆっくりと向かう。

巨大な砲身。

その内部に、ねじれた溝が刻まれていることが確認できる。

歩きから、早足へ。

早足から、ダッシュへ。

まだ距離があるそれへと走り出す。

響き渡る砲声。

噴出する炎と共に、金属の飛翔体は放たれる。

下げられていた刀。

それを水平に掲げる。

回転する弾体。

押しのけられる空気が見えるようだ。

すれ違う直前、全力で刀を振るう。

真っ向からぶつかり合う凶器。

高周波を奏でる金属体は、その震えを刀身を伝い私の身体へと流れ込む。

電流が走るかのような衝撃。

強く握った手から、痛いほど伝わる。


抜けた。


重量、速度。

共に申し分ない弾体は、私一人の力ではどうにもならない。

すぐ後ろのアッシュ達へ、何事も無かったのかのように飛翔する。

起こる爆発。

甲板はまた、黒煙に包まれた。

海上からの風がすぐに何処かへと連れてゆく。

アッシュによる反射スキル。

一瞬だけ私が送らせたことにより、彼女でも反応できるほどの速度に落ちていた。

ボロボロになった主砲。

だがまだ健在。

間もなく刀の射程圏内。

切りかかろうとしたその瞬間、目の前の正方形が左右に開いた。

慌てて立ち止まる私。

空いた穴に何とか、転落する事だけは免れた。

中から激しい轟音と煙。

巨大な金属塊がまっすぐに空へと上がってゆく。

その風圧はこれまでと比較にならず、私は後ろへと押し戻される。

垂直ミサイル。

それが空へと舞い上がる。

発射に伴う置き土産が、視界を隠し回避を遅らせる。


直撃。


二発目の主砲からの砲弾が、的確に私の胴体を撃ちぬいた。

至近距離での爆発に入ってきた扉へと、この体を押し付けられる。

全身に響く痛み。

強烈過ぎるそれにより、呼吸までもがつらい。

動けない体でどうにか動こうとする私。

だが敵の攻撃はそれだけでは終わらない。

撃ちあがっていたミサイルは、反転し自らの甲板へと落下を始める。

狙いはもっともダメージを与えた人物。

尋常ではない爆発と衝撃が、周囲を包む。

意識はある。

だが、激しい痛みにより自由がきかない。

ぐったりともたれ掛ったまま、彼女らを見ているしかできなかった。


「アッシュ!」

「俺らだけでもどうにかするぞ!」


三本目の砲身が、ライゼルへと向けられる。

それに立ちはだかる二人の少女。

絶望の矢じりが飛ぶより早く、信玄は手にしていた槍を投げつけた。

唸る砲音。

溢れ出す炎はその威力の高さを証明している。

熱せられた赤の矢。

立ち向かう銀の矢。

空中でぶつかり合い、銀の矢はあっさりと落ちた。

だが引き換えに、瞬間的であるが勢いが弱められる。

人が見て反応するのにかかる時間は0.1秒。

アッシュ達が立つ位置に着弾する時間は0.05秒。

ほんの一瞬。

されど一瞬。

その一瞬により、ぎりぎりアッシュが見切れる速度にまで低下していた。

再び主砲を黒煙が包んだ。

反射による大ダメージ。

ゆっくりと、武器を下ろした。

本来なら空からヘリで攻略するべき敵を、自らの力で撃破したのだ。

ギリギリで戦う為に、すり減らされた精神。

結構な疲れが蓄積されているのが分かる。


だが、まだ終わっていない。


主砲が動いた。

黒煙を上げながら、ボロボロになりながらも稼働している。

ライゼルの一撃、反射による二度のダメージ。

それすらに耐えうるその強度。

臨時ミッションのボスが務まる訳だ。

四つのミサイルが空へと上がる。

動く主砲は、疲れ切ったアッシュへと向けられた。

まっすぐに、見つめる彼女。

ログアウトするその時を、ただ静かに。


また、ログインすればいいや……


諦める彼女の目の端に、光の槍が写った。

まっすぐに貫かれる主砲。

それは一瞬の静けさを取り戻した後、爆炎をあげながら崩壊を始める。


「残りの敵体力が少なくてよかったな。」


とどめを奪った信玄が、アッシュへと手を伸ばす。

あらゆる兵装が、あらゆる箇所で爆発を起こしている。

差し出されたその手を掴もうとした、その時。

撃ち上げられていた四つのミサイルが、彼女らへと襲いかかった。

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