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すぐそばで、地上ギリギリまで降下するヘリ。
完全に設置するよりも早く、中から一人の少女が飛び降りてきた。
「ごめん!」
「コノ世が一番最初に出てくること、完全に忘れてた。」
コノ世・醜悪。
彼女の話によると、必ず初めに出現するらしい。
攻撃力は高く、防御力、体力は低め。
敵の俊敏性や行動性能と言う物は、第一段階のコノ世に止めを刺した者と同等になるという。
こいつの攻略方法は、鈍い奴に止めを刺させるものらしい。
現状いた敵を完全に殲滅し、束の間の平和。
だがこれでもまだ、臨時ミッションの最中。
また、すぐにでも敵が沸いて出てくるだろう。
「さぁて、頑張んなきゃね。」
アッシュが盾を構えると、そこに光が集まりだす。
誰も載っていないヘリは、再び空へと舞いあがる。
「あと一分もあったかな……」
浮上し始める敵の大群。
小型の四脚のロボットと共に、ゆっくりと顔を出す人型ロボット。
一歩、また一歩と進むごとに、その姿が現れてくる。
腰より下が浸かる程度まで進むと、一斉に背中から大剣を抜きだす。
まだ距離はある。
刀を抜き、一旦正面に構えるとそっと目を閉じた。
そのまま一呼吸。
息を吸うと、ゆっくりと吐き出す。
目を開けると同時に、刀を水平に構えた。
上体をやや前に倒し、すぐにでも走り出せるような前傾姿勢。
長い刀の刃を、柄から真っ白な輝きが先端へと向かって移動してゆく。
一瞬だけ響く甲高い音が、スキルが溜まり切ったことを表す。
乾いた砂を巻き上げながら、迫るロボット軍団。
「さぁ、いくよ!」
すぐ隣で輝く盾を構えるアッシュのすぐ上を、大量の兵装を付けたヘリが後ろから飛行してゆく。
通過に伴う激しい風圧が、彼女の狐のような耳を揺らした。
一筋の黒煙。
黒煙を放つ閃光は、人型ロボットに直撃し大爆発を起こさせる。
開戦の狼煙。
先頭を行く敵へと走り込み、スキルを使うことなく下から切りかかる。
両脇を抜ける二体の敵。
それらに向かって、振り向きながら水平に飛斬を飛ばす。
レベル10の飛斬は、ダメージ範囲が著しく大きなものとなっている。
円状に広がるその攻撃。
敵の被害は二体だけにとどまらず、その近くにいた大半を失った。
時々聞こえる爆発音。
一つ響くたびに、着実に一体ずつ人型のロボットが破壊されてゆく。
射程、火力、共に中々すごいな。
あれを使うタイミングがクリアできるかどうかの分かれ目、とはよく言ったものだ。
考えるのもほどほどに、またすぐに構えなおす。
休む間もなく、海岸を埋め尽くすほどのロボットが迫っていた。
絶対に、ここを通すわけにはいかない。
アッシュが立つあのラインが、私たちの最終防衛ライン。
一秒にも満たないその一瞬で、一気に五体もの敵を切り裂いた。
スキル無しでも十分に戦える。
それでも、距離があると少しつらいが……
二度目の飛斬を放った瞬間、どこか遠くで花火が上がるような音がした。
風を切るような。
鳥が鳴くような。
甲高い音が、周囲に木霊した。
空へと向かうその音は、巨大なアーチを描きこちらへと飛翔する。
突然の大爆発。
完全に巻き込まれた私は、激しく吹き飛ばされた。
海上に浮かぶ敵艦。
それの砲身がすべて、こちらへと向けられている。
小さく広がる煙。
反動でわずかに砲身が引っ込む。
先ほどと同じ甲高い音が、また響き渡る。
熱せられ輝く弾体。
明らかに、まっすぐこちらへと向かっている。
私が吹き飛ばされたことによる、開けられた穴。
今、そこを大量の敵が進撃していく。
その先にいるのはアッシュ、ただ一人。
輝く盾を持って、向かうそれらを待ち受ける。
再び爆発に巻き込まれ、彼女からさらに遠ざかる私。
でも。
彼女なら大丈夫。
だって、アッシュだもの。
砂を巻き上げ進む敵。
アッシュのすぐそばを通過しようとした、その瞬間。
彼女を中心に、半透明な白い球体が広がった。
動きを止める敵。
球体の中に入った敵は、全て反転しアッシュへと向かい始める。
360度、全ての方向から敵が飛び掛かった。
いきなり起こる爆発。
立ち込める黒煙のなか、ただ一人だけ。
彼女の姿だけがそこにあった。
「アッシュ!」
爆発が起こる直前、彼女の持つ盾に再び光が宿っていた。
遠く離れたその位置で、さらに遠くから彼女を狙う銃口。
ヘリから放たれた一発のランチャーは、彼女の持つ盾に当たりスキルで真下に反射された。
反射により、アッシュの攻撃とみなされた砲撃は、周囲の敵だけを吹き飛ばしたようだ。
海上から上がる砲弾。
素早く立ち上がると、それから目をそらすことなく逃げ切った。
敵はまだまだ多い。
すぐさまアッシュのカバーに入る。
彼女を囲んでいた光の球体は既に消え失せ、敵も彼女を素通りし始めていた。
水平に飛ぶ飛斬が、盛大に薙ぎ払う。
対多の戦闘において、飛残はもっとも使いやすい。
チートの火力も相まって、どんな敵にも対応できるスキルだろう。
天を轟く砲声が、何処か遠くへ落ちてゆく。
着弾と同時に、激しい爆発。
強い風圧に、片手で目を覆う。
「そんな……」
アッシュの絶句。
海からの砲撃がたった一撃で、無人のヘリを撃墜した。
メインローターだったものが、爆破と共に飛んでゆく。
唖然として動けないアッシュのすぐそばを、深く浜を切り付けながら。
残り少ない敵。
距離もそこまで離れていない。
素早く走りこむ。
すれ違いながら水平に振り、刀に振られるように二回転。
縦に二体、連続して迫る敵を一気に切り刻む。
一体が抜けた。
向かう先にはアッシュ。
でも今、彼女は動けるのか?
だが、私の心配は不要な物だったようだ。
敵のど真ん中に突き立てられた刀。
ほとばしる電流を気にすることなく、それは抜かれる。
盾をしまい、片手にそれを持ったアッシュ。
「ここからが、本番だよ。」
目つきが変わった。
そんな気がした。
再び殲滅し終えた海岸に、敵の影は無い。
さざ波立つ音だけが聞こえている。
静かな、穏やかな海岸線に決して小さくはない砲声が響き渡った。
沖からの砲撃。
素早く二人は互いから離れた。
先ほどまでたっていた地点で、激しい砂柱が出来上がる。
海底から現れる人型ロボット。
今回は小型のロボットはいない。
だが、簡単ではないだろう。
30にも及ぶ人型。
それらに加え、今度は空から進攻する敵。
敵の軍用ヘリ。
大体5機ほどのそれが、沖合から飛行してくる。
すぐさま、飛残を溜めると人型へと放つ。
胸部、腎部、脚部を切断し、貫通する斬撃。
一気に五体もの敵を撃破する。
今回は人型が多い。
すぐ横から振りかかる大剣。
右手で柄を、左手で刃を抑えながら、真っ向から受け止めた。
激しい重量と質量、そして勢いが全身を伝わり地へと流す。
強く踏ん張った両足が、砂浜へとめり込む。
徐々に強まる敵の力。
押し返そうとしていたが、さすがに勝てない。
左手を離し、刀身を斜めに向ける。
刃の上を滑り、すぐ横の大地に突き刺さった。
軽くなった刀。
このタイミングを逃す事無く、足元へと切りかかった。
崩れる敵。
背後から近づいていたもう一機に、斬撃を飛ばす。
中々、難易度が下がってきた気がする。
一撃で死ぬことが約束されている敵。
数が多い方が厄介だった。
アッシュの援護に向かおうとした瞬間、頭上を敵ヘリコプターの編隊が飛んでゆく。
「ヘリ、どうにかして!」
ようやく一体を片づけたアッシュは、状況を見て声を上げる。
敵影は五。
お前たち、逃げるなよ?
刀をしまい、光弾を溜める。
そして、溜まり切ると同時にそれを放った。
緩やかに追尾する弾。
こちらの動きに気づいたのか、敵機の動きが変わった。
だが、光弾の方が早い。
光弾は五つに分かれ、それぞれに飛んでゆく。
次々と着弾し、起こる爆発。
一気にすべての敵ヘリコプターを片づけた。
激しく広がる黒い煙。
それとは別に、伸びる影。
また背後から振り下ろされる大剣を、最低限の動きだけで避けた。
まだ敵がいるのか……
片手を上に向け、光弾を溜め始めた瞬間。
一本の光の矢が、その顔へと突き刺さった。
大破し、倒れる敵。
突き刺さっていたのは、矢、はなく、最初に支給される刀だった。
「ライゼルさん、落し物ですよ。」
軽い口調で現れたのは、体力が著しく減った信玄だった。
私は敵に刺さった刀を抜き、鞘にしまった。
「あぁあ。」
「ライゼルさんがしっかりしないから、俺こんなにボロボロじゃないですか。」
片手に持った槍をもてあそびながら、まだアッシュが戦っている敵へと投げつける。
元々ダメージが蓄積されていたためか、たった一撃で胸部に大きな穴をあけた。
「ちょっと信玄!」
「とどめ、持ってかないでよ!」
怒るアッシュの言葉に対し、平謝りしながら槍を抜く。
一通り殲滅は完了した。
ようやく全員そろったこのパーティ。
本当の本番はここからだ。
「アッシュ、ちゃんと戦えるのか?」
小馬鹿にした信玄の挑発に、頬を膨らませる。
「知ってる?」
「サムライとガンマンが攻撃としては中々火力もあって、射程もあって優秀なんだけど。」
「サムライとサムライが一番近接で火力が出るんだよ?」
二人は睨みつけるように、互いを見つめる。
「知ってるよ、そんな事。」
アッシュはピアスを外し、信玄は二本目の槍を装備した。
二本の刀を腰につけ、それぞれの重量を確認する。
響き渡るエンジン音。
間もなく、敵が襲撃してくる。
三人のサムライは、それぞれの武器を手に敵の大群を睨みつけた。