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交わる白と黒。
進攻する敵の大群の中でいつぞやの敵と今、真っ向から切り合っている。
身体能力のコピーでも行っているのか、完全に同等のスピード。
水平に振る刀は、敵の頭上を受け流される。
すぐさま刃を返し、二度目の斬撃が相手へと向かう。
だが相手の反応も早く、動き出した直後に上から押さえつけられた。
滑らされる黒い刃。
それは今、柄へと向かってくる。
とっさの判断で、刃を払うとわずかに距離を取った。
スキルを溜め、敵へと三度放たれる飛斬。
エックス字状に二発、間髪入れずに水平に一発。
一歩も動くことなく、地につけた足をそのままに。
身体だけを動かし始めの二発をかわす。
三度目の斬撃が届こうとした、その瞬間。
一歩、強く踏み込むと大きく上体をそらした。
消して高くはない位置を飛ぶ斬撃。
後頭部が地に着くほどにまで、大きくそらす。
流れゆく飛斬は、周囲一帯の敵を薙ぎ払った。
コノ世・醜悪
一本の黒い刀を携えた、真っ黒な人形。
反らした上体が戻るよりも早く、突進で敵の腹部を貫いた。
ダメージ表示は無い。
黒いつややかな皮膚が、ぬるりと輝く。
突き刺したそれを、すぐに抜き戻す。
振られた黒刃。
戻しながらも受け止める。
凄まじい力に、長くは押さえつけられない。
その場で一旦しゃがむと、敵の刃を受け流す。
振りぬかれた刀。
その隙に、立ち上がりながら蹴り飛ばす。
強く、人を蹴った間隔に囚われるも、やはりダメージは無い。
片手を離し、光弾を溜め始める。
だが溜まり切るよりも早く、敵は急速に接近を開始する。
敵の突き攻撃。
完全に貫かれた腹部。
わずかに削れた体力は、すぐさま元の全快へと戻る。
実質、ダメージゼロ。
無敵対無敵のこの勝負。
どうにか黒には負けてもらわねばならない。
先ほどから表示されている、アッシュのマーカー。
残念ながら、決闘状態の今では役に立っていない。
赤い太陽が、二つの影を作り出す。
敵の首元を狙った攻撃。
それを避けようと、刺された刀がようやく抜かれる。
スピードが足りない。
両手で持っていた刀を片手だけで握ると、空いた手にもう一つの刀を装備した。
ヴュリナス・ブレイド。
白く煌めく二本の刃。
それぞれにスキルを溜め始めた瞬間、再度敵が距離を詰めてきた。
水平に振られるその攻撃。
右の刀で受け止めるも、両手で持っている時とは違う。
回転しながら宙を舞い、離れた浜辺に突き刺さった。
振りぬかれた敵の刀。
それは、腹部を引き裂いた。
慣れていないからだろうか。
痛みに耐えながら、残された刀を両手で握る。
先ほどまでの初期装備とは違い、なんとなくだが力を感じる。
震える鼓動。
高まる意識。
全身を巡る血は、より滾る物になってゆく。
敵が反転し、仕掛けられる二度目の攻撃。
ぶつかり合う刀と刀。
互いが互いの刃を押さえつける。
殆ど同等の力で、動くことのない刃が白と黒に輝き始める。
同じタイミングで溜まる、飛斬。
二人は刀を振りぬきながらゼロ距離で斬撃を飛ばす。
空気を伝わるビリビリとした衝撃。
相殺された二つの飛斬。
激しいエフェクトが、一瞬だけ周囲から色を奪い去った。
後ろに飛び退き、すぐさま二発目を水平に放つ。
銀に輝く三日月状の攻撃。
すぐさまこちらの動きに反応し、垂直に向かってくる黒の斬撃。
十字にぶつかる白と黒の三日月。
強く踏み込み、舞い上がる砂。
深い足跡を残しながら、二人はもう一度接近する。
砂浜ごと下から切り付ける。
付着した砂が軌跡を描く。
上から振られた黒の刀は。
下から降られた白の刀は。
互いを互いに傷付ける。
どちらかの体力がなくなるまで。
減らない体力を削り合う。
中々、きついな……
距離を取ながら放たれる三発目の飛斬。
あっさりとかわされ、カウンターの黒い斬撃がこちらへと迫る。
斜めに飛ぶそれを、真っ向から刀で受け止めた。
長い平行線を靴底で描きながら、どうにか持ちこたえる。
一瞬だけ地に着けられた膝と手。
すぐさま立ち上がろうとしたその時、後ろから金属が擦れる音が響く。
決して見えていた訳でも、誰かに指示された訳でもない。
ただの直感が、私の身体を強く跳躍させた。
ほんの一瞬だけ遅れて、巨大な剣が元いた場所へと振り下ろされる。
肩から転がりながら、すぐに体制を立て直す。
剣を持った巨大人型ロボット。
一台だけではない。
既に何機ものそれが上陸を果たしていた。
一度振られた剣が持ち上がるよりも早く、何もないはずの後ろへと切りかかる。
正確には、何もなかった背後。
今まさに切りかかろうとしていた、黒い人形。
それの腹部を切りつけた。
さすがに敵が多い……
振り上げた黒い刀が、私の身体にダメージを与える。
取りあえず、確実に撃破できる敵から撃破しなくては。
ロボットは先ほどの一機に加え、上陸したばかりの四機。
目の前の黒い人形を強く蹴り飛ばすと、反転し攻撃した敵へと突進を放った。
決して勝てないはずの体格差。
だが、突き刺さる刀身。
それはたった一撃で敵を粉砕した。
刀を片手で持ち、浜を浅く切りながら二機目へと走る。
溜められる飛斬。
敵ロボットの股下を潜り抜けながら、垂直に放たれる。
撃破したかどうかも確認せずに、三機目へと水平に飛ばす。
やや距離があるそれに向かって飛ぶ斬撃。
偶然にも近くにいた四機目へとヒットした。
最も遠くにいる五機目。
片手を離し、光弾を溜めかけたその瞬間。
後頭部に強い衝撃が走った。
バランスを崩し、浜に埋もれる顔。
起き上がろうにも、頭を足で押さえつけられている感覚がある。
完全に見えない。
おそらく、コノ世からの攻撃。
正直、舐めていた。
あれほど強く蹴り飛ばしたのだから、しばらくは襲ってこられないだろう、と。
だが、チートを使っているこの私についてこられるスピード。
それは尋常な物ではない。
まっすぐに私の首元へと、先端を向けた黒い刀。
それが黒く輝き始める。
もがく私。
どれだけ強く足掻こうとも、敵の押さえつける力には叶わない。
まだ昇り切らない赤い太陽が、その様を無情に見下ろす。
乾いた海からの風が、周囲を優しく包み込む。
長く、感じた。
黒い刃が、首筋を貫くその時を。
吐き出される絶叫。
それは湿った浜辺が吸い込んだ。
突き刺したまま左右へと傾けられる。
広げられる傷口。
数字上は無傷。
だが、精神上は致命的なダメージを負っていた。
かき混ぜるように動かされる刀。
それを止める者は誰もいない。
満身創痍になりながらもようやく抜かれる。
しかし、押さえつける足が退かされることは無い。
傷は無くとも、強く残る刺された痛み。
刺され、かき混ぜられるその痛み。
どうにか。
どうにかして、二度目は避けなければ。
真っ白になった頭で考えていたのは、逃げる事ばかりだった。
再び輝く、黒の刃。
それは今、また喉元を貫いた。
別に残酷ではない。
正常なら既に、痛みを感じるよりも早くログアウトしていたであろう。
二度目の刀が抜かれた瞬間。
天を舞う、救いの手が差しだされる。
激しい爆発。
熱波に包まれながら、ようやく立ち上がる。
聞こえるはエンジン音。
まだ遠いが、味方のヘリの影が見える。
アッシュ!!
黄色い光が、真っ黒な黒煙を残しながらこちらへと迫る。
大きな金属の飛翔体。
まだ晴れない黒煙に浮かぶマーカーへと、それは吸い込まれてゆく。
再度起こる爆発。
激しい風圧に、手と膝を地につけたまま動けない。
突如暗くなる、周囲。
背後から迫る、敵ロボット。
反応が完全に遅れ、迫る刃を避けることも、受け止めることもできない。
だが、動く必要は無かった。
敵ロボットの上半身を爆発が包み込む。
アッシュからの高精度射撃。
ミサイルほどの煙は出ていないことから、ランチャーによるものだと推測できる。
逆方向からの風圧に、片手で目を覆う。
大きく穴をあけた敵は、ゆっくりと後ろへと倒れた。
同時に晴れる、周囲の黒煙。
そこにはひし形のコアを露出させた、ボロボロの人形が立っていた。
吹き飛ばされた黒い液状の物質。
それがまた、コアを包み込もうと再生し始めている。
私は刀を地面に刺しながら、どうにか体を立ち上がらせる。
まだ止まない爆風に乗って、残る激痛を耐えながら。
すれ違いざまに切り裂いた。
サッと一振り。
斜めに払い、鞘にしまう。
鞘と鍔が音を奏でると同時に、敵のコアは砕け散った。