表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sin Spec Memory F  作者: 直斗
インフィニット・アドヴァギア
40/43

40

40


雲海を抜け、遥か下に見える二台のスズメバチ。

通常ではありえない荒い操作の元、二つの敵機へと近づきつつあった。


「撃たなくてもいいのか?」


操縦席には二つの席がある。

片側は、ヘリそのものの移動を制御する席。

残りはランチャーと機銃そして、ミサイルの三つを操作する為の席。

二人はそれぞれの席に腰掛けた状態で、下方の二機を猛追する。


「まだ、撃ってはだめ。」

「残りの耐久値が20を切っているから、正面から撃ち合っても勝てないよ。」


コックピットから正面を見たまま、アッシュは答えた。

先の戦闘により、ヘリからは黒煙が出ている。

間もなく破壊されてしまうであろうことは、信玄から見ても明らかだった。


「じゃあ、どうすんだ?」


残り少ない耐久値。

残り少ない稼働時間。

それらで、残りの二機を落とすことが出来るのだろうか。

いや、落とさねばならない。


「私に考えがある。」


間もなく海岸を抜けようとしている。

どうにか、山を超える前に決着をつけておきたい。

勝負は一瞬で。

アッシュからの提案に、信玄は思わずにやりとした。


平行に飛びながら、敵機の上方からゆっくりと同じ高さへと降りてゆく。


「頼むよ信玄。」


ようやくこちらの存在に気づいた敵。

ドアガンからの機銃が撃ち落とそうと攻撃を始める。


「がら空きじゃねーか!」


銃座の敵が、叫ぶ。

開け放たれたドア。

そこにはアッシュが盾を構えて立っていた。

雨よりも激しい弾丸は、アッシュの盾へとヒットする。

激しい火花を散らせながら、必死に弾丸の衝撃を押さえつけた。

反射スキル。

それは盾のみが使え、線状に動く遠距離攻撃を威力を挙げて跳ね返す。

フィールドギミックの扱いとなっているこの弾丸。

それは、敵にも味方にもヒットする攻撃となっている。

一瞬の金属音。

いくつもの弾丸が盾に当たり、まっすぐその銃座をコントロールする敵へとヒットした。

ログアウトし、誰もいなくなった銃座。

一気に二人は敵のヘリへと乗り込んだ。

二つある銃座は、アッシュのスキルによって解放されている。

残るは二人。

操縦席の二人は、まだ後ろで何があったのか知らない。

アッシュ達が乗っていた無人のヘリは、煙をあげながら高度を下げてゆく。


「やっと地雷をやっつけたか。」


何も知らないパイロットの一人が呟く。

唐突に加速する無人ヘリ。

それはやや前方の下を飛ぶ友軍機へと向かってゆく。


「おい、あれ撃ち落とせ!」


火機を操作するプレイヤーへと、慌てて指示が出される。

激しい黒煙。

それが今、前方の視界を塞ぐ。


「二機目、撃破。」


アッシュが呟くと同時に、空中で激しい爆発が起こった。

ヘリとヘリとの空中衝突。

壊れたテイルローターが、激しく回転しながらすぐ近くを飛んでゆく。

ドアガンから放たれる二発の弾丸。

それは、火機を操作するプレイヤーの頭を貫いた。


「何だ、てめえらは!」


ようやく敵襲に気づいたパイロット。

だが、アナライザーのスキルが無いために、操縦桿を手放すわけにはいかない。


「おっと、動くなよ。」

「木端微塵に吹き飛んじまうからな。」


刀の先端を向け、脅す信玄。

最も味方であるために、ダメージを与える事は出来ない。

だが防衛本能そのものには、しっかりと働きかける。


「ありがとう信玄。」

「作戦成功、だね。」


敵に握られた操縦桿へ、アッシュが手をかざす。

アナライザーのスキル。

それにより、ほんのりと輝き始める。


「もう大丈夫。」

「それ、捨てといて。」


無慈悲な指示に、信玄は従う。

腕をつかむと、無理やりヘリの外から放り投げた。

悲鳴を上げながら落ちてゆく敵。

落下によるダメージはどうだったかなと、ぼんやりと考えながら断末魔に耳を澄ませる。

まだ、ぎりぎり浜辺を越えていない。

落下ダメージが無くとも、徒歩ではここを越えようとは思わないだろう。

差しかかる山岳地帯。

先ほどまで一切の緑も無かった大地に、草が、木が生い茂り始める。

それらは赤色の太陽に照らされ、何とも言えない輝きを放っている。

真っ黒な影を地に落としながら、二人はライゼルの元へと急ぐ。

山の頂上を越え、第二の浜辺。

即ち、ライゼルのいる激戦区へと刺しかかろうとしたその瞬間。

信玄が叫んだ。


「アッシュ、下みろ!!」

「山だ、山!」


唐突にドアガンを掃射し始める信玄に、アッシュは困惑する。

一体何に対して撃っているのか。

慌てて立ち上がり、扉から下を見下ろす。

そこには今まさに、山を越えんとする雑魚敵の大群が押し寄せつつあった。


「え……」


下が見えない操縦席に座っていた彼女には、分かるはずが無かった。

大きく旋回しながら、残ったドアガンの操作へと向かう。

一体ライゼルに何があったのか。

この程度の敵を逃がすほど弱くないことは、十分すぎるほど知っている。

木々に紛れた敵の大群。

一匹たりとも逃がすわけにはいかない。

アッシュはそっと目を閉じた。


「敵座標計算、スキルハイパーリンク。」

「信玄、ライゼルを選択。」


開かれたその眼。

それは片目だけ、赤く変色していた。


「弾道補正……」

「ロック……」


ただがむしゃらに。

ただひたすらに、撃ち続けた。

どこに撃っても当たる。

それほどまでに多い、敵の数。

ランチャーが敵の大群を吹き飛ばす。

だが、まだ足りない。

開けられた軍隊の穴を埋めるように、すぐさま集まってくる。

吹き飛ばされた死骸を、残骸を越えて。

おぞましい勢いで突っ切ってゆく。


「一体ライゼルさんは何をしているんだ!」


このままでは航行可能時間が終わり、墜落のダメージを負ってしまう。

とっさの判断で、アッシュは信玄を山の頂上部へと下ろした。


「アッシュ、お前はどうすんだ?」


たった一人で何が出来るというのか。

そんな思いが、先の言葉を投げかけさせた。

だが。

先ほどまでの戦闘では……


「ちょっと、ライゼル連れてくるから。」

「ここで出来る限り食い止めていて。」


遠ざかる機体。

迫る敵。

役に立てなかった。

アッシュに任せきりとなってしまっていた。

そんな思いが信玄の身体を動かせる。


役に、立つぜ。


脅す事だけに使った刀をしまい、二本の槍を手にすると。

ただ一人。

敵軍へと真っ向から向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ