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最初の村へと戻ってきた。
入口をくぐったその瞬間、体の自由が利かなくなる。
バグでも不具合でもない。
イベント発生による、強制された行動。
この瞬間だけは、どうも慣れない。
その上チートの効果により、意識だけが16倍速で進んでいる。
苦しい。
いくらストーリの為とは言え、自由を封じるようなことはしてはならないと思う。
村の奥の方から、村長の娘が走ってくる。
一言二言だけ話したのち、頬を赤らめながら戻って行った。
正直、ストーリーが面倒だ。
これさえなければ、友達と楽しんでいたのに。
取りあえず、示された場所。
次の街を目指した。
巨大な火山のすぐ近く。
豊富な地熱エネルギーを利用した、独特な文化の街。
そこで私はストーリー上やむを得ず、ある依頼を承諾した。
火山内を隅々まで調査せよ。
ここが二つ目のダンジョンなのだろう。
このゲームは草原、火山、海、空、地底、宇宙の全六つに大別される。
それぞれのエリアに三種類ずつダンジョンが用意されており、上記の順で三周すればストーリの完全クリアとなる。
オンラインに行くためには、これらを最低でも一周しなくてはならない。
六つのダンジョン攻略。
それがオンライン行きへの条件となる。
途中の敵を蹴散らしながら、山の中腹へとたどり着く。
鮮やかさが失われた世界。
溶岩が固まることで、このような光景になるのだろう。
草木はなく、大小さまざまな石が転がっている。
洞窟の入り口が、金属製の扉で封印されている。
ここが今回のダンジョンの入口。
貰った鍵を使い、封印を解き放つ。
急に内部から漏れ出す、強力な熱波が身を焦がした。
この中を探索しなくてはならないのか……
冷却アイテムを使用し、うんざりしながらも内部へと足を運んだ。
燃えたぎるマグマのすぐ上。
焼けた岩の上しかない、足場。
すぐ下から湧き上がる熱に、体力は削られていく。
だが冷却アイテムにより、極端にダメージは抑えられている。
大した仕掛けがない。
そう思いながら敵をなぎ倒していると、NPCが近くにいない事に気が付いた。
ダンジョンに入ってから、はぐれてしまったか。
だがチートパワーの前では関係ないよな、と開き直り一人奥へと進む。
ある場所に踏み入れた瞬間、赤々とした金属の格子が行く手をふさぐ。
引き返そうと振り返ると、そちらも同じようにふさがっていた。
閉じ込められた。
こういう時どうすれば開くのか。
そんなもの決まっている。
何もない所から、火の玉が発生する。
敵の殲滅。
私と同じくらいの大きさはあるだろうか。
それに黒の、目と口が浮かび上がる。
名前は、バーナ。
最後に注目した敵の名前だけ、小さなウィンドウに表示される。
刀に手を置き、敵の攻撃に備えた。
移動は遅く、まだ攻撃はしてこない。
にらみ合うこと数分。
何の変化もなかった。
居合スキルが溜まり、刀全体が輝く。
敵をジッと見つめたまま、一瞬姿勢を低くし走り出した。
すれ違うその瞬間、抜きながらも水平に切りつけた。
渾身の一撃だった。
物体として存在していれば。
炎の体はゆらりと揺れただけで、白の数字は表れなかった。
それは敵に、ダメージを与えられなかったことを意味する。
もう一度!
攻撃しては距離を置く。
またしてもダメージは入らない。
なんとなく、表情が変わった気がした。
まっすぐ構えなおす。
どうやって倒すものなのか。
考えている間、敵に変化が起きた。
ゆらりと一層激しく揺れ、二つに分裂した。
そしてもう一度、それぞれ二つに分裂した。
計四つのそれは、ニヤニヤした笑みを浮かべながらこちらを見ている。
こうなったら、使うしかない。
新たなチートコードを。
刀をしまい、その場で十回ジャンプする。
すると周囲の時が止まり、視界が真っ暗になる。
そして浮かび上がる、いくつもの白の英語。
いったいどれを増やそうか。
迷ったあげく、選択したのは。
ダメージ最大のコード。
それを起動し、ゲームを再開させる。
再び目の前には、四体ものバーナが現れる。
正面からゆっくり近づき、まとめて切り伏せた。
だが数字は表れない。
それどころかさらに、増加し始める。
四体から八体に。
八体から十六対へと、物凄い勢いで増え続ける。
最終的に六十四体ものバーナが、こちらを見ていた。
さすがにこの量は、どうしようもなく熱い。
ただでさえ、地形によるダメージを受けている。
そのうえ増殖したこいつらによって、体力の減りは大きく加速した。
気が付いたら、パソコンの前。
やられた。
熱によるダメージは割合のため、体力がどれほどあろうが関係なかったようだ。
バーナは直接的な攻撃能力は持たないが、代わりに熱ダメージの割合を増加させる。
その上、切れば切るほどに増殖する。
しかし閉じ込めたんだ。
どうにか倒す方法はあるはず。
あの時しなかったこと。
魔法攻撃
そのくらいかな。
物理攻撃は完全無効。
それでいて魔法の全く使えない近接職だけが、あの空間に閉じ込められた。
しっかりNPCを待っているべきだったと、今頃ながらに後悔する。
アクション要素が強いとは言っても、これはRPG。
互いが互いの出来ることをする。
協力し合う必要があるゲーム。
だったら――
どうしてオフラインを入れた?
本当に攻略がめんどくさいんだよ。
これは。
ある程度攻略方法を考えたのち、再びゲームを起動した。
再び、火山近くの街に降り立つ。
そしてもう一度、山の中腹へと向かう。
死んでしまった際のペナルティーは、ログアウトされるという点だけである。
だが使用したアイテムは戻らない。
なけなしの金で買った、冷却アイテムを使用する。
もともと、そんなに金を持っていたわけでない。
確かに倒しまくってはいたが、金も経験値もともに少ないものだった。
キャラクターへの経験値よりも、プレイヤーへの経験値の方が圧倒的に稼げる。
そんなゲームだ。
バーナ出現ポイントまで、物理攻撃で順調に倒しまくる。
そして時折振り返っては、NPC達もついてきている事を確認する。
特に重要なのが、アルケミスト。
彼を全力で守りながら、何とかたどり着く。
それほど広くない通路。
熱せられた格子が、行方を阻む。
途中で敵の攻撃を受けたナイトを除き、私たち三人が閉じ込められた。
ガンマンから放たれた一発の弾丸が、バーナの顔へヒットする。
しかし、数字は表れない。
それどころか、二つに分裂した。
まだ、大丈夫。
あれが増えすぎると、一気に体力が削られてしまう。
ガンマンには攻撃しないよう、逆にアルケミストには攻撃するように指示した。
アルケミストによる魔法攻撃。
どうやら、予想は当たったようだ。
ヒットしたと思われるタイミングで、白の数字が表示された。
小さな数値だが、いつまでたっても分裂する気配はない。
安全な場所から、何度も何度も繰り返す。
敵が全滅するまで。
数時間かけてようやく、全てのバーナをやっつけた。
遠距離から攻撃するために、魔法は火力が低い。
その上たった一人で相手していたのだから、時間がかかるのは仕方のないことなのだろう。
鉄格子が開き、奥へと進んだ。