表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sin Spec Memory F  作者: 直斗
インフィニット・アドヴァギア
39/43

39

39


ライゼルをおろし、少しだけ軽くなったヘリコプター。

それは今、来たルートを戻りつつあった。


「あと、三分か……」


残り使用可能時間。

それが尽きると、飛べなくなってしまう。

ただ飛べなくなるだけではなく、機銃やランチャー、ミサイルと言った兵装も使用できない。

これらの装備は極めて強力なため、本来ならば終盤まで取っておくのが定石となっている。


「俺らはどうすんだ?」


ドアガンの銃座に腰掛けた、信玄が尋ねる。

前に大きく傾いた機体。

信玄がいる反対側の銃座に、アッシュはいた。


「これから残りのヘリの破壊かな。」


全部で四台のヘリ。

そのうちの一台は今、こうして使ってしまっている。


「ヘリって、破壊できるのか?」


見えてきた味方の固定砲台群。

それらのさらに奥には、三つの機体が飛び立つときを待っている。


「ヘリだけは味方の攻撃が通るから、ライゼルのところに行けないようにいないとね。」


とんだ地雷プレイだな、と信玄は鼻で笑う。

このミッションが実装された当時、早々にヘリを使う無知な輩が大勢いたものだ。

現在では攻略方法もしっかりと広まっている。

赤い空を行く、一匹のスズメバチ。

それは今、味方を殺さんと猛スピードで低空を駆けてゆく。


「いくよ。」


花火のような発射音と共に、いくつもの黄色い光が飛んでゆく。

機体の左右につけられたランチャーは、味方のヘリへと飛翔した。

立ち上る黒煙。

聞こえる悲鳴。

下の味方達は、突然の事に統率を完全に失っている。


「あっちゃー。」

「やっぱロックオンできないとつらいね。」


のんきな声で、それでいて目はしっかりと睨みつけている。

一瞬で煙は晴れた。

一台だけはダメージがよくわかるが、三台とも健在。


「乗り込め!」

「あのバカを落とさないと、負けちまう!!」


ゆっくりと旋回しながら、元々低い高度をさらに下げる。

三台すべてのメインローターが、徐々に回転速度を上げてゆく。


「信玄!」


ドアガンは起動しており、その激しい銃声にアッシュの声はかき消された。

天を舞うスズメバチ。

地を這うスズメバチ。

まだ飛び立てないヘリの両側から、次々と銃座が展開されてゆく。


「一旦距離を取るから!」


激しい応酬に、こちらの高度を上げてゆく。

ヘリに致命的なダメージは無い物の、固定砲台からの機銃掃射までもが向けられていた。


「あいつら、一気に全部使っちまってたぞ。」


一度メインローターを回してしまえば、例え地にいようとも五分のカウントダウンは始まってしまう。

そう。

これで事実上、ヘリは全て失った事になる。


「大変なのはここからだよ。」

「ここで使ってしまったって事は、何台か敵の殲滅に向かわせてもおかしくは無いからね。」

「それでは、あれらに攻撃した意味が完全になくなってしまう。」


雲にも迫るほどの高度にまで上昇し、目視でランチャーを放つ。

地上から迫る閃光からの回避のため、左右へと機体は揺れる。

距離が距離なだけに、互いに攻撃が当たらない。


「どうする?」

「三対一のドッグファイトで勝てんのか?」


下から少しずつ大きくなる、三つの円。

味方であって、敵である。

何ともいえない関係。


「どうにかするしかないねぇ。」

「さぁ、撃って!」


敵に対して上空を取っている今、こちらが有利と言えるだろう。

ドアに取り付けられた二つの銃座だけでなく、下部につけられた機銃とランチャーが敵機へと襲う。


「あの傷ついたやつから狙って!」

「って、あ!」

「まずい!」


同じ高さにまで迫ろうと、上昇を続けていたその三つの機体。

全てがこちらを撃ち落とそうとするかに思えたが、一台だけ残し二台はライゼルの元へと向かい始めた。

ようやく取れ始めた統率。

本来ならば喜ばしい事ではあるが、それが今、悪い方へと進みつつある。

残った一台と弾丸を交わらせる。

初めのランチャーで、もっともダメージを受けた機体。

激しい応酬は、互いを徐々に蝕んでゆく。

ついに敵機から黒煙が昇り始める。


「ヘリの耐久度のこり80%程度か。」

「このまま押し切るよ。」


敵から逃げるように上昇を続ける。

対地戦だけを想定されたこの機体。

常に上を取らねば、空では勝てない。

機体性能だけならば、だ。

小さく輝く、赤い太陽。

それは一つにとどまらず、ヘリの周囲を包み込む。


「座標攻撃!」


叫ぶのと爆発するのと、ほぼ同時だった。

何度も起こる激しい爆発。

巻き込まれ、大きく揺れる機体に、どうにか落ちないようにするだけで二人は精一杯だった。

激しいアラーム音。

爆発による黒煙を抜けると、先ほどまでいたはずの位置に敵はいない。

すぐ近くで聞こえるエンジン音。

それは、アッシュたちが乗っている物からではない。

上からのランチャー攻撃。

回避行動を取るも既に時は遅く、二発が見事に直撃した。


「残り耐久度20%!」


黒煙を上げる二つの機体。

だが、先ほどまでのアッシュ達の有利は覆されている。

完全に上を取られたこの状況。

その上、敵には魔法職まで乗っている。


「信玄!」

「魔法はどれだけ使えるの!?」


全力で上昇させながら、アッシュは叫ぶ。

どうにか。

どうにかしなくては。


「魔法?」

「光弾レベル7だけだぞ!」


既に雲を抜け、海岸や海が見えない。

二つの機体は間もなく、赤色のドームへと届こうとしていた。

こうしている間も、敵からの攻撃は止まらない。

天からの光を、ギリギリのところでかわした。

アッシュは自身が保持するアイテムに、強力な魔法が使える武器が無いことに悔しさを覚えていた。

ヘリをスキルで飛ばしている今、アナライザーを解除するわけにはいかない。

今、私が出来るのは……

大きく機体を傾け、急速な回避。

急がなくては、時間切れになってしまう。


「分かった!」

「もう魔法はイイから、扉閉めてどこかにつかまってて!」


訳も分からず、だが指示に従う信玄。

アッシュはドアガンを奥にしまうと。片側だけ閉じられた扉にもたれかかる。

そして背中の盾を、正面へと構えた。

上昇をやめ、大きく傾けられる機体。

それは丁度、開け放たれた扉が相手に向けられる程だった。

即ち、横にほぼ垂直。


「おい、アッシュ!」


操縦席にしがみつきながらも、心配し叫ぶ信玄。

わずかに動き、敵のランチャーがこちらを捉えた。

さぁ、来い!

いくつもの黄色い閃光。

それは、見事に開けられた扉へと吸い込まれてゆく。


「アッシューー!!」


だが、爆発は起こらない。

あるのは輝きを失った盾と、逆に上ってゆく黄色い閃光達。

それらは予想外の為、その場から動けない敵機へと吸い込まれてゆく。

激しい黒煙が、周囲を包む。

その爆風は、アッシュ達の乗る機体を大きく揺らした。


「一機、撃破。」


何故か冷めた口調に、信玄は驚きを隠せないでいた。


「えっと、おめでとう?」


なんて声をかければ良いのか。

この時の信玄には、分からなかった。


「あと二機。」

「逃がさないようにしないと……」


淡々と。

冷たいような。

そんな雰囲気に、思わず身震いをする。

明るく、やんちゃな印象の普段とは違う。

一体あの性格のどこから、こんなオーラを放つのだろうか……

二人の乗る機体は太陽を背に、地上へと冷たい、大きな影を落としている。

本来の味方に向けられる、恐怖の影。

傾けられたままの体制で、ボロボロのスズメバチは敵機へと迫って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ