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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
インフィニット・アドヴァギア
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さざ波立つ浜の上に、唯一ある大きな岩。

それに金属製の扉は取り付けられていた。

アビスドライブの入口。

さぁ、攻略だ。

と、扉に手を伸ばしかけたその瞬間。

突然の通知が来た。


(ポイントバトル)

(決闘を申し込まれました。)

(フィールドを選択してください。)


フィールド選択、そして始まるカウントダウン。


「ライゼル、受けてはダメ!」


アッシュに言われるまでもなく、キャンセルを選択。

カウントダウンは止まり、全ての表示は消える。

だが。


(ポイントバトル)

(決闘を申し込まれました。)

(フィールドを選択してください。)


まただ。

また申し込まれた。

もう一度キャンセルを選択する。

しつこい挑戦者は一体誰だ?

それは、考えるまでもなかった。


(ポイントバトル)

(決闘を申し込まれました。)

(フィールドを選択してください。)


「もういい。」

「助っ人として私を呼んで、場所は神殿の夜にして。」


(Temple Ever Night)

(最も暗いフィールドです。)


決定を選択した。

砂を押し上げ、大理石の壁がせり上がる。

舞い上がった砂は集まり、一つの岩を構成し天井となった。

地面の砂は、何処かへと吹き飛ぶ。

ジメジメとした空気。

光はほとんど無いために、目で見て何があるのか分かりにくい。

改めて表示が切り替わった。


(TEAM BLUE 1 VS TEAM RED 1)

(フレンド、およびギルドのメンバーを呼ぶことが可能です。)


言われていた通り、アッシュを召喚した。


「たぶんこれは信玄の仕業。」

「あいつは戦いたいだけの戦闘狂、誰だっていいの。」

「だから貴方は下がっていて。」

「私が相手する。」


私は決定を選択すると、10のカウントダウンが始まった。

彼女は盾を外し、一本の刀を装備する。

そっと閉じた目。

小さな青色の輝くリングが浮かび上がる。

開かれると同時に、それは瞳へと吸い込まれていった。

目の色が変わる。

一度刀を抜くと、二、三どふる。

しばらく何かいじった後、鞘に戻した。

始まりの鐘が鳴る。


「さぁ、お仕置きの時間だ。」


そう、言った気がした。

一切の足音無く走るアッシュを、部屋の隅に隠れていた私は一瞬で見失ってしまった。


☆★☆★


久しぶりの刀。

オプションを開き、重さを調節した。

信玄の武器は槍。

そこは昔から変わっていないようだ。

敵はすぐ正面、わずかながら障害物があるが対して障害にはならない。

巨大な円形のホール。

敵は正面。

その証拠に、スキルによる武器の輝きが見える。


「ライゼル、手前と戦った見たかったぜ。」

「いきなりランキング上位者なんだ、よほど強いのだろうな?」


始まりの鐘が鳴る。

信玄、あんたは人の迷惑を考えていない。

昔からだ。

ダメと言ったことを平気でしてくる。

それは人と言うよりも、動物だ。

言うこと聞かない動物には、お仕置きせねばならない。


「さぁ、お仕置きの時間だ。」


輝く槍が振られ、まっすぐ斬撃が飛ばされる。

だが当たらない。

既に横へと移動し、暗闇に紛れ込んでいた。

敵の攻撃に当たってはいけない。

スキルを発動してはいけない。

私が行うのはステルス戦闘。

いや、戦闘と言うよりも。

暗殺。

矢印へと走りこむ。

相手の位置が分からないのは、信玄だけ。

まだ残る槍の輝き。

その輝きを消失させながらの、広範囲へ斬撃。

刀を地面に突き立て、高跳びのように跳躍する。

真横へと切り伏せつつ、着地した。

現れるダメージ。

すぐさま立ち上がり、反転しながら横へと飛んだ。

先ほどまでいた場所に、私を貫こうとする槍が襲い来る。

おそらく敵の背後であろう位置へ回り込み、刀の先端を相手へ向ける。

全体重と共に、体当たりするように相手へと突き立てた。

すぐ近くで聞こえる、痛みをこらえる声。

私は優しく語りかけた。


「ねぇ知ってる?」

「戦いにおいて最も重要な事。」

「それは情報。」

「貴方では私に勝てない、昔から、ね。」


刀を抜きかけたその瞬間、背後から手で押さえつけられる。

しまった!

強く抱きしめられ、身動きが取れない。

間違って、正面から攻撃してしまったのか。

どうにか振りほどこうと暴れるが、敵もなかなか離さない。

足が縺れる。

そのままバランスを崩し、押し倒されてしまった。

馬乗りになる信玄。

唯一自由な左腕。

彼女の腹部に刺さった刀を抜こうとするが、肘が床に当たり抜くことが出来ない。


「アッシュ、知ってるか?」

「戦いに置いて一番重要な事ってのはな。」

「情報なんかじゃないんだ。」

「それは、勝つための強さだ。」


首元に突きつけられた槍。

金属独特の冷気が肌をなでる。

眩むほどの輝きが、その刃へと集まってくる。

私は負けるのか?

こいつに?

いや、負けるわけにはいかない。


負けてはいけないんだ!


素早く耳元に手を伸ばす。

着けられたイヤリングを引きちぎった。

突然消えた敵の位置情報。

どうにか痛みをこらえながら、二本目の刀を装備する。

迫る光、響き渡る金属音。

強い衝撃が、ビリビリと伝わってくる。

何処か遠くの方で、何かがぶつかる音がした。

それは、刀。

硬い石の床に、弾き飛ばされた刀が突き刺さる。


負け、た……?


手の力が抜け、床へと叩きつけられる。

視界が霞む中。

私はゆっくりと、現実へと引き戻されていった。


★☆★☆


アッシュに止めを刺した信玄が、ゆっくりと立ち上がる。

隠れていたはずの私の身体は、気が付けば敵へと突進していた。


「さぁ、来いよライゼル。」

「勝つための強さ、どっちが上か決めようじゃないか!」


顔のすぐ横で刀を構える。

こちらに気づいていた相手も、スキルを溜め始める。

だが。

遅い。

すれ違う両者。

たった一撃で決着はついた。


「勝つための強さ?」

「欲しけりゃやるよ。」


負けてログアウトした信玄に、私はそう投げかけた。

光を失ったその刀を、そっとしまう。

砂となり吹き飛ぶ天井。

残った壁は地面へと埋もれ、砂が石の床に積もってゆく。

降り注ぐ雨に、波の音。

そして目の前にはアビスドライブの入口。

アッシュが再度ログインしたことを確認すると、私はその岩にもたれて彼女を待った。

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