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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
インフィニット・アドヴァギア
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ぐったりとベンチに腰掛け、膝に肘を置き下を向いていた。

行き交う人々。

そこに赤髪の待ち人はいない。

流れる雑踏に乗り遅れたのかのような、そんな感覚に襲われる。

目の端にメールが届いたという通知が表示された。

どうせアッシュだろう。

内容を見るのが面倒で仕方なく、表示を消して彼女を待つ。

一組の靴が、視界に入った。

先端をこちらに向け、一向に動かない。

ふと見上げると、マスクに青みがかかった長い髪の青年がいた。


「すいません。」

「長い刀と、短い刀をそれぞれ腰に下げていて、銀髪に赤のパーカーとスカートの女の子、知りません?」


銀髪はそこそこ見たことあるが、その服装はあまりいない。

そのことを告げると彼は。


「あいつ、一体どこに行ったんだ?」


と言いながら、立ち去って行った。


「やあ。」

「お待たせ。」


丁度入れ違いに現れたのはアッシュ。

今度は盾を装備している。

彼女は、つい先ほど立ち去った彼の方向を見ながら口を開く。


「さっきの人、知り合い?」

「君はチート使ってるから、あまり他の人と関わらない方がいいのかも……」


アッシュの疑問を否定する。


「チートに関しては自分でも気を付けている。」

「だから、大丈夫だよ。」


先ほど会ったバジリスクさん。

敵の攻撃も一切当たらなかったし、こちらも攻撃しなかった。

ばれてはいないはずだ。

つい先ほど現れた彼だって、ただ一言話しただけ。

普通は気づかないだろう。

チラリとアッシュを見やる。

話さずとも気づいた変態もいるのだが、まぁ多くは無いだろう。


「ねぇ、アッシュ?」

「眠いってログアウトしたよね?」

「でもサムライのアッシュがいた、どういうことなの?」


率直に思ったことを告げる。

サムライのアッシュ。

どういうことなのか、説明してもらいたいものだ。

瞬く星々から、煌めく音が聞こえてきそうだ。


「貴方はどうしてチートを使ったの?」

「誰にだって踏み込まれたくない領域はあるでしょ?」

「つまり、そういうこと。」


はぐらかされたか。

この子は、何を隠している?

チートと同等なのか。

それ以上の何かをしているのか。

様々な想像は膨らむが、全て証拠がない。

あるのは、人間らしくなかったアッシュの行動を見ただけと言う事実。


「さ、早く行こう。」

「君の力が必要なんだよ。」


そうだった。

まだ、今はいい。

今は気にすることではない。

いづれ分かることを期待して、私はうなづく。


「ラインバッハの超時計。」

「全30層からなるダンジョンで、回数としては比較的少ないかな。」

「ただ一層一層が結構広いから、探索途中でログアウトすることが多いよ。」

「これまでのオフラインとはダンジョンの性質が異なっていて、オンラインでは毎回入るたびにランダムでマップが形成される。」

「入るたびに初めから探索しなくてはならないよ。」


そう、初めてのオンラインダンジョン。

どこまで通用するのか……

そんな心配はない。

今の私なら、どんな敵だろうと勝てる。

圧勝とまでは行かなくても、勝利する自信こそはある。

ただ、独りだけ、ならばだが。

私は立ち上がると、アッシュからのパーティ申請を承認した。


全ての街をつなぐ鉄道。

それを使い、最寄りの街へと移動する。

黒い排煙が窓ガラスをなでる。

オフラインから来た時とは違い、利用者は他にも多いようだ。

と言うのも、この空間には他の乗客はいない。

私がアイテムボックスから取り出した特別乗車券を使用し、コンパートメント席の確保に成功した。

アッシュと二人っきりの空間。

キャラ的には女の二人旅。

これまで二人は一切の会話をすることなく、列車は間もなく草原地帯を抜けようとしていた。

流れ、移り変わりゆく景色を眺めながら、先ほどまでの会話を思い出していた。


一般車両の列を尻目に、私たちは悠々と歩いてゆく。

NPCの駅員に乗車券を出すと、切符へと交換された。

そしてそのまま、他の乗客とはまた少し離れたホームへと案内さる。


「ここから一旦山岳地帯を抜けて、港湾都市に行く。」

「そこで列車を変えて砂漠地域の街があるから、そこまで行くよ。」

「砂漠地域の街からは乗り物は無いから、歩くしかないね。」

「道中はもちろん、敵が出てくるから気を付けないと。」


大きな汽笛と共に、黒い塊が近づいてくる。

だが残念、反対行きだ。

ガラスで造られた曲面上の屋根。

そこに黒煙は、たどり着くより先に消える。


「オンラインのダンジョンは基本的に、10分おきに扉が開くよ。」

「で、同時に入った最大40人で攻略が可能ってわけ。」

「当然、パーティだけとかで鍵をかけることもできる。」

「今回は鍵かけていこうと思うのだけど、いいよね?」


私は小さく、いいよと答えた。

停車していた黒い塊がゆっくりと走り出した時、その進行方向とは逆からもう一つの塊が侵入してきた。

現実世界では二度と走ることのない蒸気機関が、強い風圧をまき散らしながらも減速を開始する。

目の前で扉が開く。

下車する者に道を譲りながら、質問を投げかける。


「そこを攻略する理由は?」


大小さまざまな武器を持った者たちが、音を立てながら目の前を過ぎてゆく。


「理由かぁ……」

「武器とか結構強いのが手には入るけどね、運が良ければだけど。」

「ただ楽しみたい、でいいかな?」


駅員の恰好をしたNPCに、内部へと手招きされる。

誘われるままに私たちは、客車へと乗り込んだ。

切符を見せると、いくつもの扉があるその中を案内される。

ある扉の前で立ち止まった。

その内側へと入り込むと、そこに二人は腰かけた。

扉が閉められると、外の雑音が大きく減った。

切符はもう手元にはない。

NPCが持って行ってしまったのだ。

二人の挑戦者を乗せたその列車はゆっくりと走り出す。


先ほど山岳地帯に入り、トンネルの中を突き進む。

天に流れる川は見えなくなり、ただでさえ暗いトンネルを黒煙がさらに黒く染め上げる。

一定のリズムで、一定の音を奏でるこの鉄道。

窓ガラスに反射した、頬杖をつく自身と睨めっこをしながら長い時間が過ぎてゆく。


「そうそう、これから行くダンジョンに関して情報の追加をするね。」

「ロンメルの大黒炎、四つ星十字のコールサックそしてラインバッハの超時計。」

「これら三つのダンジョンは同時期に実装されて、それぞれのボスには確率で特殊なアイテムを落とすらしいよ。」

「名前は順にネクスト・ゼロ、エマーミー・ゼロ、でこれから行くところの敵がゼロミナブル。」


全て名前にゼロが付くのか。


「ダンジョン構成は全て同じで、30層。」

「いくつか攻略サイトを見てきたけど、これから行くダンジョンは三つの中じゃ二番目の難易度みたい。」

「一番難しいのは四つ星十字のコールサックみたいだね。」

「そっちのは宇宙エリアにあるみたい。」


トンネルを抜けた。

目の前に広がるは海。

夜の海は遠くの街灯りを、天の星空をその身に写す。

キラキラと輝くその波間。

どこからが天で、どこからが海なのか。

もしかすると、その二つに違いは無いのかもしれない。


「ゼロミナブルは魔法攻撃特化型の敵で、通常の状態異常はもちろん、こいつだけが使える特殊な攻撃もあるみたい。」

「一見すると状態異常に見えないかもしれないけど、扱いは状態異常になっているらしいね。」

「物理防御は盾でそこそこあるけれどね。」

「魔法防御はからっきしなんだよ……」


ちょっと悲しそうにするアッシュに対し、心の中では刀を使えばいいのに、と。

そう、考えてしまっていた。

海を挟んだ反対側。

まだまだ街へは遠そうだ。

大きな欠伸が、自然と出る。

両目いっぱいに大粒の涙を溜めて、ゆっくりと眠りについた。

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