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雲一つない青空。
風は一切吹いていない。
二つ目に訪れる村にいた。
先ほどまでと変わらない。
だが、大きく変化もしていた。
メニューを開く。
そこにはライゼルと言う私の名前に加え、最大にまで上がったレベルが表示されていた。
レベル最大、16倍速。
起動したコードは、以上二種類。
先ほどから周囲が遅く感じるのは、16倍速のおかげだろう。
起動した物が、一体どれほどのものか。
試し切りしてみたいものだ。
村の外に出る。
向かう先はあのダンジョン。
私たち一人と三人は、入口へと向かった。
青々とした草原地帯。
先ほどまでなかった風が、心地よく吹き抜ける。
見渡す限りは、何もない。
ただ一つ、この古びた小屋を除いては。
ここまでで分かったことは、NPCにチートの効果は付与されていないようだ。
現に今、私一人だけがここにいる。
ゆっくり来たつもりだったが、16倍速には追いつけなかったようだ。
敵に遭遇しなかったこともあり、かなり早くここにたどり着くことが出来た。
風が一瞬強く吹いた。
遅いな……。
先に行くか。
NPCはその特権として、エリア移動の際プレイヤーのそばにワープしてくる。
本当は待っている必要自体なかったのだが、どれほどの差がついていたのか確かめたかったのである。
かんぬきを外し、腐敗が進んだ扉を開ける。
木製のそれは、軽い力で簡単に内側へと開いた。
窓があるわけではないが、木々の繋ぎ目から日の光が漏れてくる。
地下へと続く階段を見るには、十分すぎるほどの光だった。
手すりのない木でできたその階段に、一歩一歩しっかりと踏みしめて降りて行った。
階段を降り切った先の、少し開けた場所。
そこへたどり着いた瞬間、NPCが近くへと現れた。
地上からの光が届かない地下。
太陽の代わりに青白く発行している、妖しい植物。
部分的にしか明るくないため、視界が良好とは言えないが。
それでも十分、見えるほどには明るい。
周囲を警戒しながら、進みだした。
円状に開けた場所に、十字状に四方へ続く通路。
オフライン時のダンジョンは地形が変わることはない。
その代りに、謎解き要素が強くなっている。
中のほうまで進んだ瞬間、全ての通路への扉が閉まる。
代わりに現れる、蝙蝠のような敵。
ケイブ・バット。
それが三体。
耳障りな甲高い音を発しながら、洞窟内を飛び回る。
NPC達も、各々の武器を構える。
近接職の私には、高い位置を飛び回るあれに攻撃を当てる術はない。
ここはガンマンと、アルケミストに任せるか。
チートを使えばいくらでもやりようはあるのだが、そんなすぐにいくつも使う気にはなれない。
早い話、頑張れNPCというわけだ。
空から敵が落ちてきた。
さぁ、出番だ。
誰よりも早く落ちた敵に走り込み、抜刀しながら切りつけた。
ダメージは、見た感じ80万か。
同時に出てくる、表示が最大レベルだと再認識させる。
目の端に、小さくウィンドウが開く。
(おめでとうございます。)
(スキル『居合切りLv.1』を習得しました。)
スキルはその行動を取った時、初めて習得する。
そして、使えば使うほどにレベルが上がっていく仕組みだ。
立て続けに落ちてきた、残りの二体にも切りつける。
大体、同じくらいのダメージだった。
切られたそれらは、黒く小さくなって消えた。
レベルカンストだけで、このダメージ。
いろいろ使った時が楽しみだ。
わずかな地響きとともに、西側の扉だけが開いた。
おっけいおっけい、順調順調。
どこにどんな仕掛けがあり、どの扉が開くのか。
何度も訪れた私は、それなりに熟知していた。
最後の仕掛けを解除し、最初の部屋へと戻ってくる。
ここに来たのはもう三度目だ。
一度の攻略で三度、訪れる必要のある部屋だ。
全方向の扉が閉まる。
天井の方から、何かの羽音が近づいてくる。
ケイブ・バットが四体。
納刀している刀の柄に手を置き、落ちてくるのを待つ。
鞘の先端部から、白い光が手元へと昇ってくる。
ピキーンと甲高い音がし、鞘ごと全体がひっそりと輝く。
アルケミストの攻撃により、飛んでいた一体がゆっくりと落ちてくる。
それから視線をそらすことなく、着地点へと一気に走りこむ。
落ちてくるよりも早くそこへと到達し、体を捻りながら真上へと切り上げた。
新しいスキルによって攻撃されたそれは、たった一撃で消滅した。
体制を戻しながら、周囲を確認する。
少し離れた位置で、もう一体が落ちてきているのが見えた。
抜いたままの刀を、顔のそばに持っていく。
柄の部分から先端へ、白い輝きが伝っていく。
輝きが到達した瞬間、一気に踏み込んだ。
攻撃は高い所から落ちて一度バウンドしたそれに、綺麗にヒットした。
こんどはすぐ後ろ。
ほぼ同時に落ちてくる。
振り返りつつも素早く斜めに切りおろし、返して切り上げる。
残り一体。
刀を逆に持ち替え、地面でダウンしているそれに飛び掛かり突き立てた。
悲鳴にも似た甲高い音を奏でながら、黒くなり消えた。
出入り口へと続く扉以外の扉が、同時に開き始める。
まだ入っていない扉。
初めてここに来た時に、正面にある扉。
東西の扉は攻略したため、最後の扉となる。
武器をしまい、その扉へと進んだ。
このダンジョンに残る敵は二体。
ボスと、その部屋の扉を守るキーモンスター。
やや開けた場所、奥に巨大な扉。
そこのほぼ中央に一つの石。
それが宙に浮き、石が集まり人型を形成する。
中ボス、リトル・ゴーレム。
リトルの名はついているが、それでも見上げるほどには大きい。
奴の周囲を武器となる巨岩が、高速回転しながら浮遊している。
しかしさすがは16倍速。
あれだけ早かった岩の回転も、今ならゆっくりに見える。
隙間を狙って走り出す。
接近に気づいた敵は、一層回転を速めいくつもの岩を迎撃に回す。
正面からまっすぐ、一つの岩。
当たるギリギリで、スピードを維持したまま横にかわす。
かわした先で上からの攻撃。
――いける
私はさらに加速し、わずかな差で抜け出す。
左右から二つ。
巨大なそれが同じスピードで並走している。
避けれるのか?
いや、避けるしかない!
同時に迫るそれらが、体に触れる直前で無理やり後ろへと倒す。
目と鼻の先、それらは衝突した。
スライディングの要領で、落ちてくるよりも早く潜り抜ける。
刀の柄を握る。
そのままの体制、そのままの勢いで回転する岩を突破した。
輝きが昇り切った、その瞬間。
リトル・ゴーレムは真っ二つに、縦に切られた。
私は砂埃をわずかに上げながら、勢いを殺していく。
刀をしまいNPCの方を向くのとボス部屋への扉が開くのは、ほぼ同時だった。
一輪の白い花。
迷わずに、それを刈り取る。
上から敵が落ちてくる。
私はそうなることを、あらかじめ知っていた。
ので。
上方へと刀を掲げるように突き出す。
何も知らずに、いつも通り頭から落ちてくる。
こいつの弱点は、鼻。
もっとも柔らかく、そのためにもっともダメージが多い。
掲げた刀は、まっすぐそこに突き刺さった。
これまでとは比較にならないほどの数値を叩きだし、黒く小さくなって消えた。
ドロップ品を見るが、特に良さそうな物はない。
何か拾う訳でもなく、ボス部屋のさらに奥の扉へと移動する。
そこは、地上に帰還するための装置のみがある小部屋だった。
己の強さに興奮しながら、その装置を使用した。