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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
チュートリアル
3/43

3

3


雲一つない青空。

風は一切吹いていない。

二つ目に訪れる村にいた。

先ほどまでと変わらない。

だが、大きく変化もしていた。

メニューを開く。

そこにはライゼルと言う私の名前に加え、最大にまで上がったレベルが表示されていた。

レベル最大、16倍速。

起動したコードは、以上二種類。

先ほどから周囲が遅く感じるのは、16倍速のおかげだろう。

起動した物が、一体どれほどのものか。

試し切りしてみたいものだ。

村の外に出る。

向かう先はあのダンジョン。

私たち一人と三人は、入口へと向かった。


青々とした草原地帯。

先ほどまでなかった風が、心地よく吹き抜ける。

見渡す限りは、何もない。

ただ一つ、この古びた小屋を除いては。

ここまでで分かったことは、NPCにチートの効果は付与されていないようだ。

現に今、私一人だけがここにいる。

ゆっくり来たつもりだったが、16倍速には追いつけなかったようだ。

敵に遭遇しなかったこともあり、かなり早くここにたどり着くことが出来た。

風が一瞬強く吹いた。


遅いな……。


先に行くか。

NPCはその特権として、エリア移動の際プレイヤーのそばにワープしてくる。

本当は待っている必要自体なかったのだが、どれほどの差がついていたのか確かめたかったのである。

かんぬきを外し、腐敗が進んだ扉を開ける。

木製のそれは、軽い力で簡単に内側へと開いた。

窓があるわけではないが、木々の繋ぎ目から日の光が漏れてくる。

地下へと続く階段を見るには、十分すぎるほどの光だった。

手すりのない木でできたその階段に、一歩一歩しっかりと踏みしめて降りて行った。


階段を降り切った先の、少し開けた場所。

そこへたどり着いた瞬間、NPCが近くへと現れた。

地上からの光が届かない地下。

太陽の代わりに青白く発行している、妖しい植物。

部分的にしか明るくないため、視界が良好とは言えないが。

それでも十分、見えるほどには明るい。

周囲を警戒しながら、進みだした。


円状に開けた場所に、十字状に四方へ続く通路。

オフライン時のダンジョンは地形が変わることはない。

その代りに、謎解き要素が強くなっている。

中のほうまで進んだ瞬間、全ての通路への扉が閉まる。

代わりに現れる、蝙蝠のような敵。

ケイブ・バット。

それが三体。

耳障りな甲高い音を発しながら、洞窟内を飛び回る。

NPC達も、各々の武器を構える。

近接職の私には、高い位置を飛び回るあれに攻撃を当てる術はない。

ここはガンマンと、アルケミストに任せるか。

チートを使えばいくらでもやりようはあるのだが、そんなすぐにいくつも使う気にはなれない。

早い話、頑張れNPCというわけだ。

空から敵が落ちてきた。

さぁ、出番だ。

誰よりも早く落ちた敵に走り込み、抜刀しながら切りつけた。

ダメージは、見た感じ80万か。

同時に出てくる、表示が最大レベルだと再認識させる。

目の端に、小さくウィンドウが開く。


(おめでとうございます。)

(スキル『居合切りLv.1』を習得しました。)


スキルはその行動を取った時、初めて習得する。

そして、使えば使うほどにレベルが上がっていく仕組みだ。

立て続けに落ちてきた、残りの二体にも切りつける。

大体、同じくらいのダメージだった。

切られたそれらは、黒く小さくなって消えた。

レベルカンストだけで、このダメージ。

いろいろ使った時が楽しみだ。

わずかな地響きとともに、西側の扉だけが開いた。


おっけいおっけい、順調順調。

どこにどんな仕掛けがあり、どの扉が開くのか。

何度も訪れた私は、それなりに熟知していた。

最後の仕掛けを解除し、最初の部屋へと戻ってくる。

ここに来たのはもう三度目だ。

一度の攻略で三度、訪れる必要のある部屋だ。

全方向の扉が閉まる。

天井の方から、何かの羽音が近づいてくる。

ケイブ・バットが四体。

納刀している刀の柄に手を置き、落ちてくるのを待つ。

鞘の先端部から、白い光が手元へと昇ってくる。

ピキーンと甲高い音がし、鞘ごと全体がひっそりと輝く。

アルケミストの攻撃により、飛んでいた一体がゆっくりと落ちてくる。

それから視線をそらすことなく、着地点へと一気に走りこむ。

落ちてくるよりも早くそこへと到達し、体を捻りながら真上へと切り上げた。

新しいスキルによって攻撃されたそれは、たった一撃で消滅した。

体制を戻しながら、周囲を確認する。

少し離れた位置で、もう一体が落ちてきているのが見えた。

抜いたままの刀を、顔のそばに持っていく。

柄の部分から先端へ、白い輝きが伝っていく。

輝きが到達した瞬間、一気に踏み込んだ。

攻撃は高い所から落ちて一度バウンドしたそれに、綺麗にヒットした。

こんどはすぐ後ろ。

ほぼ同時に落ちてくる。

振り返りつつも素早く斜めに切りおろし、返して切り上げる。

残り一体。

刀を逆に持ち替え、地面でダウンしているそれに飛び掛かり突き立てた。

悲鳴にも似た甲高い音を奏でながら、黒くなり消えた。


出入り口へと続く扉以外の扉が、同時に開き始める。

まだ入っていない扉。

初めてここに来た時に、正面にある扉。

東西の扉は攻略したため、最後の扉となる。

武器をしまい、その扉へと進んだ。

このダンジョンに残る敵は二体。

ボスと、その部屋の扉を守るキーモンスター。

やや開けた場所、奥に巨大な扉。

そこのほぼ中央に一つの石。

それが宙に浮き、石が集まり人型を形成する。

中ボス、リトル・ゴーレム。

リトルの名はついているが、それでも見上げるほどには大きい。

奴の周囲を武器となる巨岩が、高速回転しながら浮遊している。

しかしさすがは16倍速。

あれだけ早かった岩の回転も、今ならゆっくりに見える。

隙間を狙って走り出す。

接近に気づいた敵は、一層回転を速めいくつもの岩を迎撃に回す。

正面からまっすぐ、一つの岩。

当たるギリギリで、スピードを維持したまま横にかわす。

かわした先で上からの攻撃。


――いける


私はさらに加速し、わずかな差で抜け出す。

左右から二つ。

巨大なそれが同じスピードで並走している。

避けれるのか?

いや、避けるしかない!

同時に迫るそれらが、体に触れる直前で無理やり後ろへと倒す。

目と鼻の先、それらは衝突した。

スライディングの要領で、落ちてくるよりも早く潜り抜ける。

刀の柄を握る。

そのままの体制、そのままの勢いで回転する岩を突破した。

輝きが昇り切った、その瞬間。

リトル・ゴーレムは真っ二つに、縦に切られた。

私は砂埃をわずかに上げながら、勢いを殺していく。

刀をしまいNPCの方を向くのとボス部屋への扉が開くのは、ほぼ同時だった。


一輪の白い花。

迷わずに、それを刈り取る。

上から敵が落ちてくる。

私はそうなることを、あらかじめ知っていた。

ので。

上方へと刀を掲げるように突き出す。

何も知らずに、いつも通り頭から落ちてくる。

こいつの弱点は、鼻。

もっとも柔らかく、そのためにもっともダメージが多い。

掲げた刀は、まっすぐそこに突き刺さった。

これまでとは比較にならないほどの数値を叩きだし、黒く小さくなって消えた。

ドロップ品を見るが、特に良さそうな物はない。

何か拾う訳でもなく、ボス部屋のさらに奥の扉へと移動する。

そこは、地上に帰還するための装置のみがある小部屋だった。

己の強さに興奮しながら、その装置を使用した。

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