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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
インフィニット・アドヴァギア
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暖かな黄色い照明に照らされて、それは僕を誘っている。

つい先ほどホテルの部屋を借りたところだ。

徹夜でここまでやってきて、強い眠気がその先へと誘ってくる。

鞄を投げ出し楽な格好になると、倒れるように倒れこんだ。


「君は何か分かったことがあるかい?」


顔をうずめながら、尋ねる。

今回の訪問で、何か少しでも手がかりを手に入れることが出来たのかどうか。

それが知りたいのだ。


「そう、ですね。」

「私自身はあまり見て回れたわけではないので、気が付いたことと言っても大したことが無いですが。」


置かれていたコップに、お茶を注ぐ。


「いいよ。」

「なんでもいいから聞かせてほしいな。」


一口、口に含めると言葉をつづけた。


「ほとんど推測ですが、ある程度お金に余裕がある家庭だと思われます。」

「飾られていた花の花瓶ですが、七宝焼きのそこそこ高い物でした。」

「そして靴の状況から四人家族、来客時の対応も慣れているようで来客が多い家庭とも思われます。」


コップを手にしたまま、ベッドの上に座る。

カーテンが閉められ、暗めの部屋に外の鳥の鳴き声が浸透してくる。


「なるほどね。」

「お金に余裕がある、と言う点については僕も同意するよ。」

「彼のパソコンを見せてもらったけど、僕の以上の性能を持っているみたいだったからね。」

「ただ、僕は三人家族だと予想するよ。」


枕に顔をうずめたまま、推測を並べる。


「彼の部屋は案外綺麗に片付いていた。」

「だが、ベッドの上には携帯ゲーム機が無造作に置かれ、掛布団も結構ぐちゃぐちゃだったね。」

「このことから彼自身は、かなり適当な性格であると予想する。」

「それでも綺麗に片付いていたのは、その母親の手によるものであるのかもしれない。」


仰向けに転がり、ポケットからメモリーを取り出す。


「彼女の言葉に、何度も彼の部屋に入ってきていると思わせる発言があった。」

「パソコン自体も、彼の父親によって渡されたものらしい。」

「結構甘やかされているのかもね。」

「そしてこのプログラム。」


手を伸ばし、メモリーを佐藤さんに渡した。


「中身は、見るからにチートプログラムだったよ。」

「怠惰で適当、自分勝手そんな性格なのだろうね。」

「他の人が処理落ちしようと、自分が動ければ問題ないと思っているのかもしれない。」


立ち上がり、お茶を一口飲む。


「ここまでは推測だったけど、ここからは事実だけを言おう。」

「中学生、14歳男性、一人っ子。」

「友人は多いとは言えず、また嫌われている訳でもない。」

「宿題等はきちんと行っていると、母親から聞いている。」

「まぁ、嘘の個人情報をアカウントを作る際に送っているんだ。」

「実際はどうなのかは、結局分からないけどね。」


鞄を開くように指示を出した。

中にはノートパソコンが入っている。

いつも車の中に入れてある、持ち運び用のパソコン。

佐藤さんは、それにメモリーを差し込んだ。

起動するまでの時間、どうにか目を覚まさせようと窓を開ける。

外からの風が、ほんの少しだけ目を覚まさせた。


「まるまる、不正ツールをコピーしてきたものさ。」

「全く、違法になっているというのに、どこから調達してきたのだろうか……」


保存されていた、中身を見るプログラムを起動する。

不正ツールの中身が表示されていく。


「ネット上の不正ツールっていうのには、なるべく最新の物も使えないように努力していたのだけどね。」

「どうにも網を潜り抜けてくる。」


コピーしておいた、不正ツールを起動させた。

新しいウィンドウが開き、黒字に白のアルファベットの羅列が続いている。

自動で下へと移動し、あるアルファベットの羅列が表示された。


INFINITE ADVAGEAR


エンターキーを叩いた。

一瞬間だけ真っ暗になると、またすぐに新たな文字が浮かび上がる。

半角のカタカナが、小さな四角の後ろに並ぶ。

書かれているのは、チートの効果そのもの。

自身を大幅に強化する物を中心に、通常ではありえない状態にする物ばかりがある。

このプログラムの中身を、再び確認した。

アルファベットと記号で構成された、プログラム。

どんな凶悪なコンピュータウィルスも、どんな最悪な不正ツールも中身は変わらない。

下へと進めると、数字とアルファベットだけの領域に辿り着いた。

大きく左右に8個ずつ、どこまでも長い16進数の塊。

ただ、右の8列はほとんどがFである。

16進数最大の数字、F。

その呪いは一体、僕をどこまで苦しめるのだろうか。

もう一度、不正プログラムを見えるようにしたその瞬間、先ほどまで気が付かなかったある物に気が付いた。


1.15


ゲーム名が書かれた、その右下に書かれた謎の数字。

これは……

インターネットに接続し、インフィニット・アドヴァギアのチートについて検索する。

いくつもインストールする方法が書かれたサイトが出てきたが、どれも古い。

インフィニット・アドヴァギア自体、何度かアップデートを繰り返した。

そのために現在のバージョンは3.54になっている。

サイトに書かれた、ツールのダウンロードサイトへと移動した。

青色で書かれている、いくつもの数字。

それらの一番上には、1.15の表記があった。

一番下までスクロールする。

下に行くほどその数字は大きくなっており、一番下の数字は3.2であった。

これらの数字は、これまでゲームのバージョンの数字と類似している。

なんとなく理解した。

彼は最新のツールの導入に失敗したために、本来なら弾かれる所を逆に成功してしまったのだろう。

僕らも、おそらくこれの開発者も。

全く予期しない形で起動し、バグを起こしている。


「佐藤さん。」

「これはとても面倒なことになっているね。」


目を閉じかけていた佐藤さんは、何とか画面を覗き込む。


「どういうことです?」


目をこすりながら、尋ねる。


「新しい不正ツールは弾きだされるよう、そうプログラムされていたね?」

「だが古い、いや古すぎるツールに対してはどうなっているのか。」

「おそらくこちら側の度重なるアップデートにより、逆に穴を作ってしまっていたのかもしれない。」

「その穴を潜り抜け、バグを起こしている可能性が出てきた。」


大きく欠伸をする。

目に溜まった大粒の涙が、頬を垂れた。


「つまりゲーム内に閉じ込められている、そんな可能性も出てきたということだ。」

「ただ今はまだ通常に、いやチートが作動しているが、それでも通常通りにゲームは動いている。」

「僕らがこれからするべきは、彼の様子を見ながらパッチを作るだね。」


パソコンを電源が付いたまま閉じた。

ファンの音が響いている。

ケースの内側に備え付けられていた、パソコンのコンセントを取り出しつなげた。

深く冷たい青色のランプが、オレンジ色へと変わる。

佐藤さんはまた一口、お茶を飲むとベッドに座り込んだ。


「さぁてと、今から僕らがするべき事をしようか。」


そういうと僕は、再びベッドへと倒れこんだ。

時刻は午前8時過ぎ。

道に車が走り始め、鳥が騒ぐ。

街は目を覚まし、それぞれがそれぞれのリズムで音を奏でる。

眠らない、沈まない太陽が、疲れ切った僕らを見下し始めていた。

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