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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
インフィニット・アドヴァギア
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失礼いたします、と一言告げて玄関内に入り込む。

靴は5つ。

種類から察するに、おそらく三人家族。

男性物の革靴に運動靴、女性物のサンダルとヒール。

そして小ぶりな運動靴。


「どうぞ。」


差し出されたスリッパへと足を通す。

廊下には扉二つに加え、二階へ通じるであろう階段。

奥の方は曲がっており、そこより先は確認できない。


「きれいなお家ですね。」


率直に思ったことを告げた。


「一昨年頃に引っ越したばかりなのです。」

「こちらへどうぞ。」


彼女以外は誰もいないリビングへと、二人は案内された。

どうぞ、とソファーを手で指し示す。

そっと腰を下ろした。

斜めに差し込む朝日が、目の前のテーブルを染め上げる。

ドラマにでも出てきそうな、綺麗な内装。

奥から、お湯を沸かすような音が聞こえてくる。


「今、お茶をお入れしておりますので少々お待ちください。」


壁に掛けられた知らない絵。

なんとなく、羽が生えた天使のようだ。

テーブルに飾られた二輪の花。

赤とピンクのその花は、互いに寄り添うように揺れている。

そして特徴的な、淡い青色の花瓶。


「お待たせしました。」


待つこと数分、彼女はお盆にカップを乗せて目の前に現れた。

紅茶が入った、真っ白なカップ。

僕と佐藤さんの前に一つづつ、置かれていく。


「突然で申し訳ないのですが、息子さんのお部屋を拝見してもよろしいでしょうか?」


一口だけ啜ったあと、そう問いかけた。

場合によっては降りてこないだろう。

そんな人物を悠長に待っている余裕はない。

もしそうであれば、早急に手を打っておきたいところなのだ。

当然、打てる手があるならば、だが。

とはいえ、さすがに突然過ぎたのだろう。


「いえ、私が起こしてまいります。」


そう言って部屋から出ようとする彼女。

だがここは、意地でも様子を見に行きたいところ。


「私の職業柄、どのようなパソコンをつかってらっしゃるのか興味がありましてね。」

「どうしても、ダメでしょうか?」


困ったように、迷ったように。

逃げ道を探すのかのように周囲を見回す。

言いかけてはやめ、何度か口を開けたり閉じたりを繰り返した。


「……わかりました。」

「しかしまだ、寝ていると思うのですが……。」


生活空間というものは普通、人には見せたがらない物である。

そんなことは分かっている。

無礼を承知で無理矢理、お願いしたのだから。


「大丈夫です。」

「少しだけ、見させてもらうだけなので。」


ため息と、そして呆れの混ざったような表情。

彼女はしぶしぶ部屋の扉を開け、僕を招いた。


「こちらへどうぞ。」


その部屋にただ一人、佐藤さんだけを残して僕らは部屋の外へと向かう。

若干の薄暗さを残す階段。

彼女を前に上ってゆく。

いくつか扉がある二階の廊下。

そこの中で、もっとも奥の扉へと案内された。


「こちらです。」


部屋の中にはベッドとパソコンと机。

生活に必要な家具類はあらかた揃っている。

ただ暗い。

しかしパソコンの画面だけは明るく輝いている。

机の前で、突っ伏したような体制。

一目見て確信した。

間違いない。

ゲームの世界に入っている。


「またパソコンを点けたままにして。」


言いながら消そうと歩み寄る彼女。

それを慌てて引き留める。


「待ってください。」

「このままでお願いします。」


パソコンに歩み寄る。

中々性能が良いパソコンを使ってらっしゃる。

僕のよりも性能が良いかもね。

なんて考えながらも彼女から見えないように、ある物を突き刺した。

持ってきていた、特別なプログラムが保存されているメモリー。


「貴方は、親御さんですか?」


質問を繰り出しながら、一旦ゲーム画面を隅に追いやる。

実行されているプログラムは……

これかな。

英語で書かれているであろう、妖しげな実行ファイル。

開いた状態で、僕は持ってきたプログラムを起動する。

画面は変わり、ファイル選択画面へと移行した。

選択するファイルは、見たときから使用されていた妖しいファイル。

迷うことなく実行を選択した。


「はい。」


強制的に中身を見るプログラム。

著作権的にも問題があるため、こういう事態でなければ使ったりはしない。

わずかな起動時間の後、解析が始まる。

開始後、一瞬にして中身が表示された。


「このパソコンは、この子が自分で?」


プログラムの中身が表示される。

疑いは確信に変化した。

これだ。

このプログラムがゲームへと干渉してきている。

コピーしながらも開いているプログラムを最小化し、もう一度あらかじめ開かれていたファイルを見えるようにした。

黒の背景に、白の文字。

半角のカタカナにアルファベット、大量な数字。

これがチートコード。

コードの名前が書かれた前の位置に、小さな四角が表示されている。

何も印は無い。

画面右上にあるOFFの文字。

一体どういうことだ?

使用していないと言うわけか?


「いえ、旦那が去年の誕生日にプレゼントしました。」

「前々から、パソコンが欲しいと言っていたので。」


試しに。

四角を押してみるか……

静かにファンはなり続ける。

どうなるか分からない、その恐怖に。

一筋の汗が流れた。

指先はためらいと、好奇の狭間に揺れ。

ただ、選択するギリギリの場所で震えていた。


「そうでしたか。」

「息子さんのご年齢はおいくつですか?」


ボタンを押した音が響く。

小さな四角には、それに収まるようにチェックがつけられていた。

なるほど。

選択するとこうなるのか。

コピーが完了したことに気が付き、メモリーを引き抜いた。

もう一度選択し、チェックを外した瞬間。

全身を衝撃が走った。

先ほどまでは確実にOFFだった、右上の白いアルファベット。

それが。

いま。

ONに切り替わっていたのだ。

あわててチェックを付けてしまっていたコードを確認する。


敵コントロール可能


これは……

さすがにとんでもない物を起動してしまったか。

いや。

いまさら一つや二つ、増えたところで何も変わらないだろう。

そうであって欲しい。

だが、このコードは一体どんな効果を与える?

まさか、プレイヤーは敵、ではないよな?


「今年で14になります。」


全てのプログラムを隅に追いやり、母親へと向き直る。


「そうでしたか。」

「てっきり、成人してらっしゃるものだと思っておりました。」


一応、手に武器を持ち、プレイヤーと戦いあうこのゲーム。

当然18禁に指定されている。

そもそも、始めに年齢の確認まで行われているはずだ。

褒めている訳ではないのだが、何故か嬉しそうにしている。


「うちの子は旦那の影響で、プログラミングを始めたらしく……」


もう聞いていない。

話を途中で遮りながら、そっと僕たちはこの部屋を後にした。

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