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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
インフィニット・アドヴァギア
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眠たい目をこすりながら、ライゼルに二番目に近い町を歩いていた。

赤月とモルフォは既にログアウトを済ませ、ただ一人でバジリスクはそこにいる。

つい先ほど切株に座って寝ていた所を、オソキヨルに瞬殺されてもう一度ログインしたところだ。

荷物などの整理を終えて、そろそろログアウトしようかと言う時に、ちょっとした人だかりを見つけたのだった。

眠たい目をこじ開けながら、何とか背伸びして人だかりの原因を探る。

あるのは掲示板。

臨時ミッションの内容と、現在情報が書かれている。

最高クラスの難易度に、クリアできた者はまだいないと聞く。

各エリアごとに隔離され、それぞれのエリアにオソキヨルは出現する。

そしてこの掲示板には、戦闘地域と戦闘者が全てリストアップされているのだった。

少しずつ表示されているプレイヤーの名前が減り、残り40名程度。

しかし、その名前も減る一方だ。

そろそろ終わるかな、と立ち去りかけたその瞬間。


「このライゼルってやつ、一人で戦っているのか……」


誰かがそう、呟いた。

ライゼル、だと?

聞き間違いかもしれない。

名前がたまたま同じなだけかもしれない。

増える人垣をどうにか覗きに行く。

そこには確かに。


(草原エリア1、オソキヨル)

(戦闘参加者、ライゼル)


の表記があった。

炉衣のともだちのライゼルは、まだオフラインだったはず。

なら、たまたま名前が同じなだけだろう。

戦闘場所が草原エリア1ならば、敗北した時はおそらく初めてオンラインに踏み入れるあの街だろう。

ちょっと会ってみるかと、彼女は掲示板の前を後にした。


★☆★☆


先ほどから周囲を回りつつ、近づいては離れてを繰り返している。

チートを使っていてギリギリ躱せる程のスピード。

通常のプレイヤーが勝てる相手ではないだろう、と思いながら最小限の動きで避け続ける。

少しでも隙を見せれば、すなわち少しでも大きく避ければ当たってしまう。

どうにか、敵の弱点は無い物だろうか。

攻撃し、破壊しても再生する手足。

一部攻撃の無効化など、とてつもなく厄介である。

一撃必殺になりえるスキルは、何かないのだろうか。

それを考え始めた瞬間、一つのスキルを思い出した。


投合、か……


攻撃後のスキルに何があるのかを確認しなくては、武器が手元にないと言いうデメリットの方が大きくなる攻撃。

素手の状態における、使えるスキルを確認する。

自然と体術と言うのか、格闘術のスキルが多くなっている。

これらを使って殴り倒せるのかどうか、正直分からない。

まぁ、でも。

倒さなくては他の事が出来ないだろうし、折角だからいろいろやってみるかな。

加速し、白と黒の閃光を大きく引き離す。

柄を直接逆手で握り、スピードを維持し続ける。

槍投げのように構えた刀を、手元から光が移動してゆく。

光で構成された巨大な槍が、敵の首元へと飛翔する。

夜と朝が重なる瞬間、一筋の光が文字通り貫いた。

多段ヒットしたその攻撃は、一撃で二体を首だけにする。

傾きかけた真っ白な太陽。

首だけになったハヤキアサの額から、白い光がオソキヨルの首に照射される。

ハヤキアサによる、再生が始まった。

先ほどよりも再生スピードは遅いようだが、それでも急ぐ必要はある。

全力で走りながら、足元に意識を集中させる。

靴底に光が集まり始めた。


とび蹴りLV.10


再生に夢中なハヤキアサの額へと、高く跳躍し交互に九回もの蹴りを放つ。

まるで空気の弾が蹴られ敵にヒットしたのかのように、空中の段階からダメージが表示される。

転がる頭全体にヒビが入り、ゴロリとこちらへ顔が向く。

靴底の輝きは、まだ消えていない。

最後の十発目の蹴り。

靴底を先端に、私自身が槍のような光に包まれる。

強い衝撃をこの身に感じ、それは敵を破壊したことを感じさせた。

踵で草の生える土を削りながら、素早く減速する。

残るはオソキヨル。

完全に止まり切るよりも早く、踵に力を入れて素早く方向転換する。

ハヤキアサにより、上半身だけ再生していたオソキヨル。

再生した黒い羽根が、太陽を包む。

それまで白かった太陽が再び黒く染まりはじめ、周囲は闇に包まれた。

走りながら、両手を強く握る。

オソキヨルの額から出る黒い光が、もともとハヤキアサだった破片に照射される。

強く握った両手首から先が、輝き始める。

こちらの動きに反応し、敵は手を伸ばす。

迫る、広げた巨大な手。

私は一切の減速をせず、一切の進路変更も行わず。

まっすぐその手へと突っ込む。

全ての指が曲げられ、こちらをこらえようと迫る。

だが、鈍い!


連打LV.10


数十発もの攻撃を受け、敵の手の平は一瞬で砕け散った。

輝く拳ををのままに、砕きそこなった腕を駆ける。

完全に砕けたハヤキアサの再生は時間がかかるらしく、まだどこのパーツもできていない。

肩へと駆け上る。

一瞬だけ、石でできたような敵の目がこちらへ向いた気がした。

敵の頬をへこませながら、強く殴り飛ばす。

小さく入るヒビ。

達磨が起き上がるのかのように戻る頭部。

交互に繰り出される連続パンチ。

一秒間に十発のパンチを繰り出すと、スキルの説明文には書いてあった。

レベルによって繰り出すことが出来る回数は決まっているが、最大レベルでは100発。

加えてコードの効果により、16倍速。

それらが意味をするのは、秒間160発のカンストダメージに敵は襲われるということ。

一瞬にして残り全てパンチを繰り出す。

小さかったヒビも広がり、頭部を覆う。

最後の一発がこめかみ部分へとヒットした。

砕け散る頭部。

巻き散る破片。

そして最後に残された頭部のない上半身。

元々首があった位置で、高々と足を上げる。

踵落としによる強い衝撃に、赤いドームもろとも残された全てが砕け散った。


……おわった。


草の上に倒れこむ。

先ほどまで黒かった太陽は、既に沈みかけ空を赤く染めている。

また新しい刀を装備しなくては、と腰に手を当てる。

先ほどまで空っぽだった鞘に、いつの間にか刀身が戻っていた事に気が付いた。

大きく手足を広げる。

ひんやりとした草の感覚が、とても心地よい。

どんな金属塊よりも重たくなったその瞼が、視界を塞ぐのに時間はかからなかった。


☆★☆★


午前7時ごろ、指定された住所へと到着した。

市街地の海にぽつんと、小さな山が浮かぶ町。

大して大きな町ではないが、交通網はそこそこしっかりしているようだ。

まだ新しさを感じさせる、二階建ての家。

大して広くもない道路に駐車すると、二人はその玄関先へと向かった。

表札を確認する。


「北条……」

「ここで合っているみたいだね。」


インターホンを鳴らす。

ひんやりとした空気が、眠気を飛ばす。

何処かで雀が鳴いていた。

二度目を押そうとして、ようやく声が聞こえてきた。


「はい。」


不機嫌そうな女性の声。

インターホンへと顔を近づける。


「朝早くから申し訳ないです。」

「北条和真さんは、こちらのお家におられますでしょうか?」


まだ寝ていると思いますけど、と呟きながら玄関がわずかに開けられる。


「えっと、どちら様でしょうか?」


インターホンと同じ声の女性。

寝起きを思わせる見た目ではあるが、寝ぼけてはいないらしい。

声はしっかりとしていた。


「失礼しました。」

「私はこういう者です。」


言いながら名刺を差し出す。


「ゲーム監督……」

「御用件は?」


不信そうな目を向けてくる。

その目をまっすぐに見つめ返しながら答えた。


「和真さんが応募されたゲームプログラムについて、お話がありまして。」

「コンテストの最優秀賞に選ばれましたので、その報告へと参りました。」

「その素晴らしい才能を、お借りしたいと思いまして伺った次第です。」


サラリとつく嘘。

少し考えれば分かりそうな物であるが。

信じられない。

でも信じたい嘘は、真偽を見抜く目を曇らせる。


「少々お待ちください。」


言い終わらない内に彼女は扉を閉め、佐藤さんと共に残された。


「凄まじい嘘をつきましたね。」

「しかも相手の目を見ながら、ある意味で凄い才能ですよ。」


あきれたように佐藤さんは言う。


「予定外の徹夜で、頭の回転が早くなっている感じがしてね。」

「しかし緊急事態とは言え、休日の早朝に押し掛けたのは不味かったかな?」


両手をスーツのポケットに突っ込みながら尋ねる。


「私は仕方ないと思いますよ。」

「どう考えても悪いのはあちらであるというのに、わざわざ自宅まできて様子見しているのですから、まだ配慮している方かと。」

「それに場合によっては、口止めして見捨てなくては――」


そこで佐藤さんは口を噤んだ。

と言うのも、再び扉が開いたのが理由である。


「すいません、和真はまだ起きていないようでして。」

「どういたしましょう、中でお待ちになられますか?」


あわてて着替えてきたのだろうか、服装が変わっている気がした。


「そうですねぇ……」

「では、お言葉に甘えさせてください。」


大きく開かれた扉は、僕たちを迎え入れた。

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