19
19
キャラクターネーム、アッシュ。
目の前の少女を見ながら、疑問を口に出す。
「アッシュ?」
小さく現れた表示には、アッシュの名前が含まれていた。
「私の事だよ。」
彼女は人差し指で自信を指しながら、そう返答する。
「とりあえず、さ。」
「早く承認して。」
(アッシュから友達申請が届いております。)
(承認しますか?)
私は迷うことなく承認した。
アッシュの名前と、プレイヤーネーム。
それに加え職業と現在いる場所までが表示された。
「アナライズシールダー?」
職業、アナライズシールダー。
始めて聞く、気がする。
「まぁ、ね。」
「敵の攻撃をなるべく耐え、生き残れるようにしたアナライザー。」
「状況を分析および解析し、戦闘を有利になるよう表示する。」
「それが私の職、というか役割。」
話しながらも彼女は、メニューを操作する。
「じゃ、こっちも入ってね。」
こちらがメイン。
先ほどの、この子の願い。
(アッシュから、ギルド『混沌に浮く星々』の加入申請が届いております。)
(加入しますか?)
本当は、雲谷炉衣が属するギルドと同じギルドに入る予定だった。
現実の方で実際に彼女に頼まれ、承諾したことがある。
約束を破る事になってしまったが……
脅されているし、仕方ないよな。
と強引に自身を落ち着かせる。
ギルド加入者は……
「二人?」
さすがに驚いた。
加入させたからそこまで多くは無いと考えていたものの、まさか二人目だったとは。
既に二、三人はいるものだと考えていた。
「こ、これから増やすから、ね?」
「そんな事より、混沌に浮く星々。」
「宇宙に輝く星々を感じさせる、いい名前だと思わない?」
ギルドの名前なんて、正直どうでも良い。
とても気に入っているであろう彼女の前で、それを言う勇気は無かった。
「さて、と。」
「そろそろ行こうか。」
どこに、と聞く私の言葉に対して彼女は笑い転げる。
「君ねぇ。」
「ここはゲームだよ。」
「なら、分かるね。」
そうだった。
なぜ、私は忘れていたのだろう。
ならやることは決まっている。
「冒険!」
「ダンジョン攻略!」
二人が同時に答えたその解答は、大体合っていて、それでいて違うものだった。
アッシュは鼻で笑った。
「冒険かぁ。」
「まぁ、いいよ。」
「冒険もダンジョン攻略も一緒だからね。」
彼女はこちらへと手を差し伸べる。
「ほら、行こう。」
「何度挑んでも、攻略できないダンジョンがあるんだ。」
「どんなチートかは分からないけど、君が居れば勝てる。」
「でしょ?」
差し出された手を取ることなく、その場を後にしようとした。
後ろからあわてて、アッシュは追いかけてくる。
「待ってよ。」
「こら、待ちなさい!」
「ギルマスの言うことは聞け―!」
私はピタリと歩くのを止めた。
別に、この子に命令されたからではない。
「やぁ、こんばんは。」
「いや正確には、おはようかな?」
男性のガンマン。
が、細い通路を塞いでいる。
すぐに追いついたアッシュが、彼に問いかける。
「どっちでもいいけど、あんたはこいつの知り合い?」
「少なくとも、私の知り合いではないんだからね。」
アッシュの知り合いかと思い、そちらを見た瞬間に答えられた。
彼女は目の前の男から、目を離さない。
「いいや。」
「アッシュ、君の事は知っているよ。」
「先ほどの臨時ミッションはお疲れ様。」
「まぁ、僕と君との接点はそこだけだね。」
この男。
私たちを通す気がない?
「一方的に知ってるだけじゃん。」
「ほら、構ってないで行くよ。」
そう言って、手を引っ張られる。
と、その先にももう一人。
「ごめんね。」
「通すなと言われているんだ。」
同じくガンマンの男性。
完全に逃げ場がない。
「ギルジス君、ありがとう。」
「君ら二人はここを通りたい、だね?」
話をする男に、二人は向き直る。
「だったら――」
「僕ら二人に勝てばいい。」
単純単純。
強い者の願いが叶う。
「負けたらその時点で即ログアウト。」
「君たちが負けても、ログインした時にこの町のどこかから始まるから、ここでハメ殺すことは僕らにはできないよ。」
「ルールは2対2、だ。」
いきなり対プレイヤー戦。
自身は無い。
だが、負ける気もない。
「分かった。」
「あんたの挑戦状、受けとったよ。」
彼は声を出すことなく、口だけを歪めて笑った。
「僕はレクタード、とここでは名乗っているよ。」
「ライゼル君、君にはこの名前覚えていてもらいたいものだよ。」
わずかに時間を置いた後、新しいウィンドウが表示される。
(プレイヤーバトル)
(決闘を申し込まれました)
(フィールドを選択してください)
草原や月面など見たことがあるフィールドもあるが、表示されている大半は見たことが無い。
どこでも、同じ、かな?
一番最後にあったランダムを選択すると、ある一つのフィールドを選択した状態になった。
(building)
(一つの巨大なビルの中がフィールドです)
屋内戦になることを予想しつつ、それで決定した。
薄暗い廊下、全体が細かく揺れ始める。
左右の壁にはヒビが入り始めており、崩れるのではないかと予感させる。
その壁が崩れるよりも早く、閉じ込めるように二つの壁が下から突き上げた。
私はレクタードとも、アッシュとも隔離されその場に閉じ込められる。
コンクリートで出来たような、白い壁。
ヒビが入って来ていた両横の煉瓦で作られた壁は、細かい塵になり吹き飛ぶ。
その先にあるのは、全てがコンクリートで作られた廊下。
まさか、これがフィールド?
相手の位置はともかく、自分の位置でさえ分からない。
明るい蛍光灯で照らされたそこは、どちらへ進んでも突き当りになっている。
(TEAM BLUE 1 VS TEAM RED 1)
(フレンド、およびギルドのメンバーを呼ぶことが可能です。)
今表示されている180の数字は、とてもゆっくりに感じられる。
おそらく16倍速コードのせいだ。
このコードは戦闘時以外でも適応されるのか……
とか考えながら、アッシュを選択した。
しばらくすると何かが落ちる音がし、その何かはぶつぶつと文句を言っている。
「全く……」
「なんで私は呼ばれるたび、いつも上から落ちるの?」
「ほんと、理解できない。」
赤色の髪、猫なのか狐なのか分からない耳。
そして、その体よりも大きい巨盾。
これがアッシュの武器……
盾で攻撃なんてできるのだろうか?
もし一人で戦うことがあったら、この子はどうするつもりなのか?
いろいろな疑問が一瞬で駆け巡るが、それはアッシュによって遮られた。
「ほら、早く決定を選択して。」
「向こうも準備は出来てるから。」
(TEAM BLUE 2 VS TEAM RED 2)
(フレンド、およびギルドのメンバーを呼ぶことが可能です。)
選択する。
すると、10のカウントダウンが始まった。
「さぁ、武器を抜いて。」
「この時間からスキルを溜めることが出来るから。」
アッシュは両手で盾を持ち、片目を閉じている。
私も鞘に入ったままの刀に手を伸ばした。