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Sin Spec Memory F  作者: 直斗
チュートリアル
17/43

17

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大して違いのない体格。

武器もそれぞれ、刀一本。

黒い刀と、白い刀が月の陰で激しく打ち合う。

水平に降られる刃を、斜めに受け流す。

そこで生まれた隙を、逃さず切りつける。

私はチートを使っているから当然だが、それについて行けるボスもボスだ。

スキルを使わず、四方向から素早く切りつける。

全てを受け止められ、一旦距離を置く。

飛残を溜め始めると、敵は間合いを詰めてくる。

切りかかる黒き刃を、スキルを発動しながらも受け止める。

敵は十文字に斬撃を受け止めるが、それにより大きく後ろへと押される。

追撃の斬撃を、X状に二度放つ。

間髪入れずに突進スキルを溜める。

敵は一度目の斬撃をどうにか捌ききると、追撃する斬撃を体を横にし上体をそらして避けた。

それにより一瞬生まれた硬直時間。

刀を突き出し、敵に背を向けていた。

攻撃が当たったその瞬間、敵は一瞬霞んだ気がした。

突進スキルが終了した、一瞬だけ足が止まるその時。

何もない空間から敵が現れ、カウンターのとび蹴りをしかけてくる。

どうにか手だけは動かし、刀でそれを受け止めた。

多段ヒットするその攻撃は、受け止めるには厳しい。

安定しない足で受け止めたため、背中から地面へと倒れこんだ。

少し離れた位置にいる敵は、起き上がるのを待つわけでもなく容赦ない追撃を叩き込んでくる。

垂直に放たれた、斬撃スキル。

地面を大きく抉りながら、まっすぐこちらへと向かってくる。

素早く横へと転がりながら、どうにか起き上がった。

反応が少しでも遅れていたら、危なかっただろう。

敵の方を見る。

だが、その姿は無い。

代わりに残されたのは、直線状に地面から吹き出る黒色の輝き。


突進スキルか!!


すぐ後ろ。

突進スキルが終了すると同時に、敵の斬撃スキルが発動する。

水平に放たれる斬撃を、まっすぐ構えた刀で受け止める。

反動がきっつい。

どうにか受け止めたが、体制は大きく崩された。

完全に胴体ががら空き。

最後の斬撃が斜めに飛んでくる。

無理やり体を後ろに倒し、しりもちをつくように斬撃をさけた。

きっつい。

立ち上がりながら光弾を溜める。

と、光弾を維持したまま、素早く横に転がる。

先ほどまで私が居た位置には、突進スキルで駆け抜けた跡があった。

敵は今、背を向けている。

手を突出し、光弾が飛ぶ。

五つに分かれた光弾は、緩やかなカーブを描いて全て着弾した。

弾ける液体。

中から、赤色の回転するひし形が姿を現した。


敵のコア!


しかし、修復が早い。

間に合うかどうかのギリギリのところ。

白い刃は、コアへと急速に接近する。

拳一つ分程度のコアと刃の間。

そこを、黒い液体が遮っていた。

刃は何にも当たらなかったのかのように、何の衝撃も伝えずに振りぬけた。

敵は刃が通る間の一瞬、その姿は霞み消えた。


――どこだ!?


すぐ後ろから、ボスのカウンターとび蹴り。

反応しきれずに、後頭部に強い衝撃が走った。

敵が手の平を上へ向ける。

黒い霧のような風のような、そんな何かがそこへと集まっていく。

渦を巻きながら、拳程度の大きさに膨らんでる。

突進スキルを溜め、何かをされる前に懐へと突っ込む。

一度の屈折を挟み、敵の背後へと回り込んだ。

突き出した状態の刀を、首元めがけて水平に振りぬいた。


はずだった。


わずかに敵の反応の方が早く、振り向きつつも黒い渦を背中側から叩き込まれた。

先ほど放った光弾の敵バージョン、か。

前へと取れ込みそうになるのを、地に膝を付け持ちこたえる。

強烈な痛みが、腹部に響く。

だが、休んでもいられない。

黒く輝く、敵の刀がすぐに振り下ろされる。

転がりながらも、わずかな差で避けた。

一旦、距離を置かなくては。

焦るあまり、敵から離れようと背中を見せてしまった。

地面ギリギリの高さを、敵の斬撃が飛び背中から綺麗にヒットする。

前へと強くのけぞり、四つんばいになる。

慌てて立ち上がったその瞬間、突進スキルによって胸元を貫かれた。

HPは素早くもとに戻り、満タンになっている。

死なないのはいいが、この場合は逆にそれが恨めしい。

敵に情けや、容赦と言った物は無いようで。

無情にも、貫通した状態の刀から横方向へと斬撃を飛ばす。

現実なら死んでいたであろう苦痛にあてがわれ、意識は飛んだ。

満点の星空の元、地平のかなたから上る地球。

それは月のように半分だけが明るく、それでいて青い。

綺麗な青い光は、無情な黒い刃をぎらつかせる。

0と1による、命令に従うだけのその存在は、敵が存在する限り攻撃の手を止めない。

気絶していた私の身体へと、思いっきり突き立てた。

再び貫く痛みに目を覚ます。

口から洩れる絶叫は、自分の物であり自分の物ではない。

圧倒的な敵の前に、戦意のほとんどが喪失していた。


もう……

勝てない……


煌めく星々が、不死となった私を見下ろしている。

ざわめく星々が、不死となった私を見下している。


最悪……


仰向けに刺された状態で、腹を強く踏まれる。

敵は刺した刀を、勢いよく抜いた。

何とか刀に手を伸ばす。

既に弱点は分かっている。

敵の刀が再度、胸元を貫いた。

弱弱しく握った刀の柄から、白い輝きが先端へと移動していく。

地面へと向けた反対の手の平へ、意識を集中させていく。

薄れゆく意識の中、心の中で敵へと語りかける。


――覚悟

――しろよ


敵が刺した刀を抜くと同時に、踏みつけていた足を飛斬で切断する。

やはり手ごたえは無く、霞むと同時に消えた。

敵のカウンター。

何もない空中から、敵がとび蹴りを仕掛けてくる。

だが、これを見越していた。

敵が消えると同時に素早く起き上がり、迫る敵へと向き直る。

先ほどまでとは違い、見慣れたからか、敵へと集中しているからか。

蹴りが、ゆっくりに見える。

わずかに体を動かし、横へとかわす。

空中を飛ぶ敵の、無防備なその腹部へとゼロ距離で光弾を叩き込んだ。

弾け飛ぶ黒の液体。

中から現れる赤いコアを、飛斬が通り抜けて行く。


予定だった。


予定とか、計画とかは大抵うまくは行かない物だ。

たとえそれがゲーム内であったとしても、だ。


光弾を叩きこんだその瞬間。

再び敵の姿は霞んだ。

思いがけないその状況に、とっさの判断が遅れた。

カウンターの最中のカウンター。

背中を強く蹴られた。


そんな……


渾身の一撃を。

渾身の一撃の為の一撃を。

いや、それよりも。

さっきは効いた攻撃が、効かなくなっている事。

てっきり、バーナムのように魔法しか効かない物だとばかり思っていた。

だが、それは違った。

何が違った?

肌に黒い刀の冷気を感じるほどのギリギリで受け止めながら、最初に光弾を放った時との違いを思い出そうとする。

思い出せない。

分からない。

チートの効果か何かなのか?

それとも攻撃する時の距離、なのか?

確かに、始めの時は離れていた。

おそらくこれが原因だ。

敵の猛攻を受け流しながらも、どうにか距離を空けようとする。

だが少しでも距離を空けようとすれば、それに合わせて接近してくる。

片手で攻撃を受け止めながら、再びゼロ距離で光弾を放つ。

後ろから現れる敵。

一旦刀をしまい、かがみながら柄を握る。

すぐ上を通り抜ける敵へ、居合スキルを放った。

居合スキルは、敵を縦に切り裂いた。

右半身と左半身とで分かれ、その中央には赤色のコアがあった。

居合による刀そのものの攻撃の他、ほんの一瞬だけ遅れた四つの斬撃。

それら四つが、敵のコアへと直撃した。

カンストダメージが四回。

敵はコアへの大ダメージに、大きくひるんだ。

さらに二度の追撃。

合計六回にもわたるカンストダメージに、コアは破壊された。

一体、何が敵のコアを引きずりだしたのか。

全く分からない。


月のような地球はほぼ真上にまでのぼり、新たに太陽が顔をのぞかせる。

月で見る日の出。

ずっと緊張していたため、一気に疲れが襲う。

ラスボスに限らず、このゲームは敵が強すぎる。

いや、もしかするとボタン操作だけで出来たら、もっと楽だったかもしれない。

実際に自分の力で戦うから、難しく感じるのかもしれない。

回らない頭でそんなことを考えているうちに、少し離れた位置で転送装置が現れた事に気が付いた。

何度も貫かれた胸が、ズキズキと痛む。

これまでに経験したことのない痛み、そして強さ。

ここからはオンラインの世界へと突入する。

興奮よりも疲労感に襲われながらも、私は転送装置を使った。

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