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月の重力に引き寄せられ、ハイスピードで進むトロッコ。
チューブ状の建築物が月面まで伸びており、その内側全てにレールが敷いてある。
今回は、無限に左右へと移動できるわけだ。
そして、敵は予想通りのあいつ。
ムカデ野郎。
光弾をすでに一度放ったが、無効化される。
後ろから追尾しながら仕掛けてくる攻撃を、落ち着いてかわしながらも素手で使えるスキルを模索していた。
どれもこれも超近接。
ほとんど密着した状況でしか使えないようなものばかり。
本当は離れた位置にも届くスキルがあったのだが、この時の私は見落としていた。
仕方がない。
この、トロッコに張り巡らされた見えない壁の内側に入る瞬間。
つまり直接私を狙って攻撃をしてきた、その瞬間に一発叩き込む。
わずかにでもダメージが入ってくれれば、こっちのものだ。
それか、トロッコから降りられれば……
後者は、まぁ無理かな。
背後から追跡していた敵は、今は並走している。
しっかりと、挙動を目に焼き付けながらその時を待った。
☆★☆★
日は上り、青く空は晴れ渡る。
先ほど降った激しい雨は、ゲームの街並みを濡らしていった。
僕はこの時間が好きだ。
雨に濡れた木々、花々、家屋。
それらが強い日の光を反射し、輝いているこの時が。
ゆったりと時間が進む。
しかし、遅いな……
雨が止んで、五分ほど。
このゲームは、臨時ミッションの一時間前から雨が降る。
つまり、既に今は臨時ミッションの最中。
僕がそれに参加していないのは、佐藤を待っているから。
今回の臨時は雑魚が大量に沸きまくるから、それをひたすら狩るだけの簡単な内容。
敵にはそれぞれポイントが降ってあり、個人、パーティ、ギルドの三つのランキングが表示される。
だからと言って、何かがもらえるわけではないが。
それでも自分のポイントをどうにか稼ごうと、黒い面も見れたりする。
極めて稀ではあるが。
雨上がりのじっとりとした空気は、早朝の冷気と混ざり合い身体を引き締める。
まだ人数が少ない、ギルドの部屋でただ一人。
ただ一人の現実での知り合いを待ち続けた。
「すいません。」
「遅くなりました。」
突然扉が開き、彼は表れた。
職業、ガンマン。
男性体の彼は、この世界ではギルジスと名乗っている。
「ギルジス、急ぐよ。」
「僕たちなら今からでも十分間に合う。」
立ち上がりながら、催促する。
朝日が窓から差し込み、暗い影を一層暗くさせる。
「頑張りましょう。」
二人は大急ぎで、目的の場所へと向かう。
「ぎりぎり、ですかね。」
現地点から、最速で5分ほどはかかるだろう。
そこからの巻き返し。
出来るだろうか……
雨上がりの滑りやすくなった石畳みを、ほとんど全力で駆けていく。
青く爽快な空を、風が思うがままに突き抜けて行った。
町のはずれから、さらに行ったその場所で。
臨時ミッションが行われている会場に到着した。
「さて、ギルジス。」
「これが終わったら新人の勧誘でもしようか。」
「人数増やさないとまずいからね。」
二人の前に、四体のグラス・ウルフが出現した。
両手に持った小銃で、二体ほぼ同時に倒す。
変わらないタイミングで、ギルジスも二体殺した。
「ガンマン縛りですか?」
僕はこの質問に対して、答えなかった。
確かに現時点では全員がガンマンではあるが、そうでなければならないということは無い。
強ければ良い、かな……
二人のガンマンは阿吽の呼吸で、出現した敵を怒涛の勢いで倒していく。
数いるプレイヤーの中でも、この二人は派手に暴れていた。
空に陸にと沸き続ける敵をなぎ倒し、見る見るうちに二人のポイントは大きくなっていく。
特に会話がないまま、時間が過ぎて行った。
「あぁ、おわったか……」
開始から約一時間。
最後の一体の頭を、僕の弾丸がきれいに貫いた。
臨時ミッションに参加していた、多数のプレイヤーはその場で武器をしまう。
一部去る者もいるが、まだそこまで減っていない。
「今回は結構、頑張りましたね。」
ギルジスは言いながら武器をしまう。
これから起こるのは結果発表。
あと数秒したら、集計結果が表示される。
彼の言うとおり、今回は相当頑張った。
一位も期待できるだろう。
目の前にリザルトが表示される。
今回の結果は……
パーティ、2位
個人、3位
ギルド、2位
惜しい……
個人の2位はギルナスだった。
もうちょっと早く来られれば、少しは変わっていたのかもしれない。
そう思い個人一位に目をやると、ポイントが大きく引き離されていたことに気が付いた。
なんだ、こいつは……
キャラクター名、アッシュ。
個人、パーティ共に一位。
しかもソロ。
「一位、凄いですね。」
ギルド一位は『パーフェクトゲーム』
そのすぐ下に『金剛石の古城』がある。
パーフェクトゲーム、か。
聞いたことのないギルドだな。
まぁ、これまでも大して気にしていなかったが……
「パーフェクトゲームか。」
「アッシュ、ってのもそこかな?」
一人ですべてを網羅したかもしれない。
アッシュと言う人物……
「さて、と。」
「終わったことだし、勧誘でもいくかな?」
数いたプレイヤーは、既にほとんどいない。
風が、草についた水滴を吹き飛ばしていく。
「頑張って入ってもらいましょう。」
頬についた水滴をぬぐう。
何処かで何かが鳴く声が聞こえていた。
招かれざる者が近づいていることも知らずに、オンラインでは初めて訪れる街へと向かい始める。
★☆★☆
外殻が後ろから追い抜いて行った。
そして、中から現れる黒色の生命体。
目と口だけをギラギラと覗かせ、四つの足で這いずり回っている。
急な勾配で宙へと投げ飛ばされた。
トロッコは回転しながら、奈落へと落ちていく。
何とか空中で体制を立て直すが、自在に動ける敵の方が圧倒的に有利と言える。
しかし今回もまた、先ほどと同じようにカウンターを狙う。
走るトロッコの上で、噛みつこうとした瞬間に思いっきりパンチを叩き込んだのだ。
そうして現れた中身が、ほぼ垂直になった坂を駆け回る。
大きな足音を立てながら、周囲をグルグルとまわっている。
ギロリと巨大な目玉がこちらを睨みつけた、その瞬間。
真っ直ぐに。
正面から飛び掛かってきた。
その様子はスローモーションで目に写り、容易に攻撃を当てられそうだ。
落ち着いて私は、縦に体を捻り足元に意識を集中させた。
ブーツが輝き、スキルが溜まったことを伝える。
口を開きながら飛び掛かる、その脳天へと踵がわずかにめり込んだ。
同時に四か所が窪み、ちょうどサイコロの五のような跡を付ける。
スキル、踵落としLv.10
強烈な下方向への吹き飛ばしが、相手を襲う。
頭を強く凹ませながらも、流れ星よりも早く落ちて行った。
両手を広げ体をそらしながら、下からの暴風を受け止める。
しばしの間、星空の中のスカイダイビングを楽しんだ。