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シャッターが開き、私はそれを潜り抜ける。
その瞬間、抜けたシャッターは一瞬で閉じた。
虫の子一匹通り抜けられないように、しっかりと閉まっている。
奥のシャッターも閉まっており、また足止めを食らった。
光っているのかも分からない、その程度の光を放つ刀。
両手でそれを持ちながら、敵の出現をまつ。
真っ暗な空間に浮かぶ、真っ白な部屋。
に、あらわれた大きな火の玉。
嫌な思い出のある、厄介な敵。
火山に現れた、バーナム。
厄介この上無いが、攻略方法は既に知っている。
物理攻撃は厳禁。
使っていいのは、魔法だけ。
一瞬で光弾を溜めると、敵へと放つ。
手元で五つに分かれた光弾は、しっかりと敵に命中する。
五度にわたるカンストダメージで、あっさり倒すことが出来た。
火山のダンジョンにいたキーモンスター。
と、言うことは。
当然次に現れるのは――
巨大な爬虫類。
硬そうな外殻に、発達した爪。
火山エリア、ボス。
サラマンドラ
ギロリと動く目玉。
敵と、一瞬だけ目があった。
気がした。
しかしそのころには、飛斬がその肉体をスライスし終えた。
様々な部位を破壊しながらも、床に腹を打ち付け大きな音を立てる。
私は敵が落としたアイテムを無視して、次のシャッターを通過した。
シャッターが閉じると、今度はどこからともなく水が充満し始めた。
ゆっくりと、でも確実に。
水位は上昇していく。
順番的に海のダンジョン。
なら、敵はマーメイドとそこのボス。
水は全ての空気を押し出し、完璧にその部屋を満たした。
そして響き渡る、琴の音。
少し離れた位置に、敵が出現していた。
ゆったりと静かに鳴り渡るそれは、強制睡眠効果を持つ。
本来ならば。
チートにより状態異常無効にしている私には、ただの隙でしかない。
飛ばした光弾は、琴を破壊し、胸を貫いた。
黒く、小さく消滅し、水位はまた下降を始める。
水たまり程度の水を残し、新たな敵が出現した。
カエルのような、提灯アンコウのような。
ずんぐりむっくりとした敵。
何かするよりも早く、投合スキルを放った。
刀は光の槍を形成し、扇状に衝撃波を発生させる。
最大レベルのそのスキルは、部屋の大半を埋め尽くす。
これ、いいな。
壁に刺さった刀を抜きながら、投合とチートによる相性の良さに感心する。
投げた後に、武器を回収しなくてはならないが。
それでも対大多数戦の時の、必殺技になりえる。
足元の水は完全に引き、さらにシャッターは開く。
前進するとそこは、巨大な部屋に一つの橋が架けられている。
耳障りな機械の駆動音が、その部屋を埋め尽くす。
橋は中ほどが他よりも膨らんでおり、ちょっとした広場のようになっていた。
その地点へと到達したとき。
天から、小型の鳥類系の敵が大量に沸いてきた。
軽く50体前後。
尽きないスタミナを武器に、スキルを連発する。
少しでもかすれば、チートの効果によりカンストダメージ。
わずか三十秒程度で、奈落へと落ちて行った。
目で見える限り、敵はもういない。
後はボス。
巨大な空飛ぶクジラ。
空気がピリピリと振動を始める。
来るか。
キング・オブ・スカイ・エンペラー。
天の覇者。
光が届かず、真っ暗な天上を見上げる。
あれだけ大きな図体だから、すぐに見つかるだろう。
光弾を溜めながら、目を凝らす。
しかし、敵は常に同じ位置から現れるとは限らない。
突然の砲声。
背中を襲う激痛に、焼けるような熱。
私は大きく吹き飛ばされ、金属製の手すりにギリギリ引っかかる。
口から突き出した巨大な銃口。
そこから、煙がモクモクと立ち上る。
しまった。
下から現れていたか。
ゆったりと動き、橋と並行して滞空する。
背中につけた大量の武装が、こちらへと向けられる。
新たな攻撃が来るよりも早く、投合スキルを溜め始めた。
一斉に放たれる、大量の砲弾。
ある物は放物線を描きながら、ある物は真っ直ぐこちらへと向かって飛来する。
一発目が到達するより早く、刀は手元から離れる。
光の槍は一瞬で敵の胴体を貫通し、空中でほとんどの砲弾を爆破した。
爆破の熱をその体に感じながら、刀をどうするべきかと考える。
手の届かないところへと行ってしまった。
これまでの武器は、全て弱いと判断し一つも拾っていない。
まさか、ここで困るとは……
戻れば、先ほどまでの敵が落とした武器が手に入るだろうが。
それが出来れば、の話。
後ろのシャッターは相変わらず閉じており、前に進むことしかできない。
困った私は、新しいチートコードを起動した。
全アイテム入手
ゲームに戻り、アイテムを確認するが少しも増えていない。
おかしい……
ちゃんと起動しているはず。
だが、何もない?
仕方ない。
素手で行くかな。
とっくに開ききった奥のシャッターへと、武器を持たぬまま進んだ。
これまでとは違う空間。
駅のホームのような。
そして、すぐ近くにトロッコが停車している。
……まぢか。
既に後戻りは出来ない。
そして。
ここのボスは、魔法が効かない。
詰んだ。
ホームの隅々まで探索するが、何もない。
本当に、何も。
アイテムも何も持っていない。
いや……
暑さを軽減するアイテムならあるが、役には立たない。
こうなれば、直接殴るしかないか。
1でもダメージが入れば、あとはチートがどうにかしてくれる。
トロッコは真っ白な空間を、レールに沿って走り出した。
★☆★☆
山道を抜け、俺たちは目的の街へと到着した。
途中、バジさんが言っていたのだが。
赤月とモルフォは、俺ら二人とは少し違う。
ギルド『翠玉の薔薇園』は今のところ、完全に少数精鋭。
まぁ、この中で最も弱いのは俺だが……
それにしても、眠い。
現実の時間は何時だろう。
晩御飯は食べてから来たものの、お風呂にはまだ入っていない。
今日は終わるかな。
「今日はこの辺で終わるね。」
「お疲れ様でした。」
三人に向けて、ログアウトする旨を告げる。
メニューを開き、すぐにログアウトできる状態で三人の反応を待った。
「炉衣君おつかれ。」
「炉衣さん、お疲れ様でした。」
「おやすみなさい。」
まだ、できるならやりたいが。
ここで寝てしまうのも、迷惑をかけてしまう。
別れの挨拶を交わしながら、現実へと帰還した。
気が付くとパソコンの前。
ずっと同じ体制であったためか、疲れがひどく溜まっている。
時間は午前1時。
明るい部屋にただ一人。
椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。
一気に力を抜き、上にあげた手が体を叩いた。
血が巡ったからか、それともその逆のせいか。
大地が傾く感覚に襲われ、一旦ベッドに倒れこんだ。
天井から吊るされた明かりを見ながら、携帯に手を伸ばす。
特に連絡はない。
眠気と戦いながら、携帯をいじる。
ゲーム内では、ライゼルを名乗る人物。
彼の苗字は、北条。
私は北条へと、現在の進行状況を教えるようにと送信する。
一体いつになったら、一緒にプレイできるのか。
すぐに返信は来ないだろう。
まだプレイしているか、既に寝てしまったか。
何とか起き上がり、私はお風呂へと向かう。
真っ暗な廊下を、必要な分だけ電気をつける。
さすがにこの時間、起きている人はいないか。
少なくとも親は寝た。
ギシギシと音を立てながら、急な階段を下る。
服を脱ぎ、冷めてきていた湯船へと浸かった。
お湯を熱くさせながら、ボーっと考える。
一緒にプレイできるようになったら、何をしようか。
まずは一騎打ちだろうか。
その前に、バジさんを紹介かな。
一層、体をお湯に沈める。
それにしても、あの二人。
チートを使っているはずだ。
にも関わらず、バジさんは受け入れた。
チートは嫌いだ。
以前、チートについて話したとき。
バジさんも同じ意見だった。
なのに……
立ち上る湯気の中、大きく息を吐いた。
御風呂場の灯りが、お湯に反射しゆらりと揺れた。
こんなことを考えていても仕方がない。
私は目を閉じ、考えるのをやめた。