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沢山のパソコンが並べられた、やや広い部屋。
時間が時間なために、人はほとんどいない。
僕らはそこで、一つの画面を見ていた。
「確かに、変なプレイヤーだね。」
肩に手を置きながらも、覗き込む。
表示されているプレイヤーIDはH。
たった一つだけのH。
「これはチートでは無いのでしょうか?」
パソコンを操作する彼は、そう尋ねる。
確かに、普通ではありえないような動き方をしていた。
「スキャンしてみたら、分かるのではないでしょうか?」
「もっとも、オンラインゲームではチートそのものが使えないことが多いのですが。」
同じように画面を覗き込んでいた佐藤は、僕の代わりにそう答える。
「分かりました。」
「では、このデータのみスキャンしてみます。」
そういうと彼は、パソコンを操作し始めた。
「じゃ、なんかあったら連絡して。」
「僕らはこれで失礼するよ。」
ほとんど人が居ない為に、一部が暗い部屋。
僕らはそこを後にした。
「どう、佐藤さん。」
「今日行くかい?」
薄暗い廊下を歩く二人。
足音がどこまでも響いていた。
「いいですね。」
「いつもの場所、ですか?」
彼は中々楽しそうに答える。
「そうだね。」
時刻にして、丁度零時。
二台の車が、深夜の街へと走り出していた。
☆★☆★
長い山道をただ一人、いつまでも走り続ける。
道行くモンスターを蹴散らしつつも、向かう先は銀髪の少女に話しかけられた場所。
バジさんはそこにいるらしい。
表示が戦闘中ではなかった為に、既に勝負はついたようだ。
「やぁ、おつかれさん。」
「いま、この子たちと話していたんだ。」
バジさんは切株に腰かけ、片手をあげる。
そしてその向かいには、先ほどの対戦相手がいた。
「どうも、先ほどはお疲れ様でした。」
「私は赤月と申します。」
「以後、お見知りおきを。」
そう言って挨拶したのは、腰まで無造作に垂れた髪の少女。
なんとなく、聞いたことがあるような名前だ……
一体、どこだったか。
今度は、後ろで髪を結んだ少女が口を開く。
「私はモルフォです。」
「よろしくです。」
よろしく、と答えながらも疑問をぶつけてみる。
「バジさん、勝った?」
開始早々に負けた俺には、勝敗の行方は分からない。
日は上り、眩しく輝く。
「ギリギリ、だね。」
勝ったのか!
さすが。
「で、この子たちに今。」
「うちのギルドに入らないか、って勧誘してた。」
なるほど。
確かに、俺より強かった。
だが、それは……
「ねぇ、君たち。」
「チート使っていない、よね?」
戦闘中から気になっていた。
普通ではできないような動きに、疑問を抱いていたのだ。
「それに関しては問題ないよ。」
「この私が保証する。」
胸を張り、まっすぐとこちらを見据えるバジさんに、木漏れ日が当たっていた。
俺はため息を吐きつつも。
「分かりました。」
「認めますよ。」
「うちに来ることを。」
と、言うことしかできなかった。
「よし。」
「副リーダーの許可も得られたことだし、申請を送ろう。」
納得がいくはずない。
だが、まぁ。
これからじっくりと、観察させてもらうとしようか。
まだまだ時間はある。
今日だけではない。
明日だって、来週だって、来月だって……
いつか必ず、暴いて見せる。
ひっそりと心の内で決心した。
「はい。」
「では、入団を歓迎する。」
「ようこそ、『翠玉の薔薇園』へ。」
彼女らの話を、聞き流しながらポイントがどうなったのかを確かめる。
現在2864位。
まぁ、ね。
バジさんにボコられたからね……
一応は、少しだけポイントが入ったようではあるが。
あまり差は無いかな。
100位圏内に入るにはどれ程のポイントが必要だろうかと、上へと一気にスクロールする。
その時、彼女らの名前をどこで聞いたのか。
理由が分かった。
(96位 モルフォ)
(98位 赤月)
そういう事、だったか……
彼女らは、トップランカー。
道理で強いわけだ。
だが、それは。
虚偽の力の可能性もある。
「じゃ、目的の場所へ行こうか。」
もしかすると、チートと知っていて彼女たちを庇ったのかもしれない。
自らの築き上げたギルドを拡張するために……
背を向けて歩き出すバジさんに、不信の目を向けながらも。
私たちは歩き出した。
☆★☆★
降り注ぐ星々を眺めながらも、私はただ一人ラストダンジョンを進み続ける。
ここに来てようやく、人工物で埋め尽くされたダンジョン。
これまでは、自然のダンジョンが多かった。
そのためにどのような敵が出てくるのか、大体の見当はついていたのだが。
まだ、序盤。
いつまでも続く上り坂で、周囲を極限まで警戒しつつ上り続ける。
今のところ、重力に変化はない。
だがそれもまた、いつ変化が起こるのかも分からない。
それでも今、できることは進むことだけ。
ゲームの中だから、たとえ頭を吹き飛ばされようと、胸を貫かれようと死ぬことはない。
ゲームの中だからこそ、チートによるパワーアップが出来る。
この世で俺が、最強だ。
それを証明するには、早くオンラインに行かねばならない。
あまりの長さに鬱陶しさを覚えながらも、間もなくオンラインへと行けることに悦びを感じていた。
まずはどうするべきか。
PVPもいいな。
誰もクリアできていないような、そんなダンジョンを攻略するのもいいね。
先ほどまでの警戒心が無くなりかけたころ、少し先でシャッターが閉まった。
当然、後ろも。
閉じ込められたら、何をするべきかは決まっている。
そう。
敵の殲滅。
刀を抜き、飛斬を溜める。
溜まり切ると同時に、姿を現したのはなんと。
ケイブバット4体。
人工物に囲まれているこの部屋で。
現れたのがケイブバット。
馬鹿にしながら、スキルを放つ。
ほぼ水平に放たれたそれは、固まって現れたその軍勢にまとめてヒットした。
……あっけないな。
なんとなく物足りなさを感じながら、奥へと進もうと踏み出したとき。
あることに気が付いた。
まだ、いる?
シャッターは相変わらず閉じており、先へは進めない。
一体、どこに……?
残り二発を残し、未だに輝き続ける刀を手に周囲を見まわす。
目に付いたのは満点の星空と、反対にうかぶ巨大な月だった。
右と左で大きく違うその景色は、宇宙だからこそ。
いや。
ゲームだからこそ、の光景だろう。
と、そんなことを考えているうちに、新たな刺客が出現していた。
……モグラ?
宇宙に?
いや、見覚えがある。
昔の事のように感じるが、つい先ほど私が倒した敵。
草原のダンジョンに現れたボス。
巨大なモグラ。
そこそこ広い通路ではあるのだが、さすがに狭いな。
二本足で立ちあがり、両手を上げ大きく威嚇するのだが。
その太った腹から、輝く斬撃が通り抜けた。
透過したそれは、壁に当たり霧散する。
同時に、前のシャッターだけが開き始めた。
奥へ進もうと一歩踏み出したその時、ようやく床へと倒れこんだ。
瞬く星々が、歓迎するかのように。
キラキラと、ただキラキラと。
いつまでも煌めき続ける。
それにしても。
ここに来て初めのボスが現れたと言うことは。
もしかして、ボスラッシュの可能性がある。
以前、チートを使っていても負けた相手もいる。
どれだけ警戒しようとも、し過ぎる事は無いだろう。
残り一発分の輝きを放つ刀を手にしたままに、私は奥へとすすんだ。