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通路に現れた10体程度のケイブ・バット。
最大レベルの突進スキルで、一掃する。
四段階までの屈折が可能。
その上スキル発動中は、通った軌跡にも当たり判定がある。
再びダンジョン入口。
鬱陶しいほどに難易度が高い。
敵自体はどうってことは無い。
何体だろうが、どんな敵だろうが。
今の私にとって関係はない。
ただ、仕掛けはなぁ……
地道に解いていくしかないか。
階段を降り切り、トロッコに乗り込む。
二桁はまだ行かないかもしれないが、もうすぐ届くだろう。
それくらい、このトロッコには乗った。
ゆっくりと動き出す。
どのタイミングで、どちらに曲がるか。
身体がそれを記憶していた。
目を閉じる。
右へ左へと圧力を感じながら、光弾を溜め始める。
トロッコが坂を上リ始めたのが分かる。
そろそろスイッチかな。
初めて来たときから一発で気づき、ずっと押していたスイッチ。
今回も押すつもりだった。
目を閉じたまま、感覚だけを頼りに光弾を放つ。
だが、タイミングが早かった。
後ろへと放たれたそれは、レールと壁だけの空間へと飛んでいく。
スイッチのポイントへと、到達するよりも先に撃ってしまっていた。
当然、私はそれに気づかない。
何も知らずに右カーブを通り過ぎた。
広大な一室へと飛び出した瞬間、予想しなかった急激な左カーブに驚く。
慌てて目を開けると、これまでにないレール上を通過している。
支柱についていた、古い木でできている看板。
いくつもの同じ物が書かれたそれを、体当たりで壊していく。
Danger
所々剥がれた黄色地に、黒の髑髏と赤で書かれた上記の文字。
古ぼけたそれらは、紙屑よりも脆くバラバラに砕け散って行く。
ヤバいヤバいヤバい……
生存本能と言うのか、第六感と言うのか。
その類の物が、危険信号を出し続ける。
止めたい。
だが。
ブレーキは無い。
これまでは自動で進んだり、止まったりしていた。
なら、飛び降りる?
それも不可能。
あるのはレールと、それを支える支柱だけ。
後は真っ暗な奈落。
どの道見えない壁があるおかげで、トロッコの外には出ることが出来ない。
風を裂く音の中に、大きな水の音が響いてくる。
滝?
レールはそこに突っ込んでいる。
まぁ、別に滝くらいなら。
完全に油断していた。
トロッコごとそこに突っ込む。
滝、自体は一瞬で抜けた。
だが看板の示す危険とは、滝の事ではなかった。
びしょ濡れのまま、勢いはそのままに奈落へと落下を始める。
身体が浮き、予想外の恐怖に思考が停止していた。
長い長い時間を滞空し、強い衝撃と共にレールの続きに着地した。
すぐに戻ったが、着地した瞬間に体力が削れたようだ。
しかし体力よりも、精神力が危ない。
もう、SAN値がギリギリだよぉ……
そんなことはどうでもいいと、トロッコはゆったりと進み続ける。
これまでに一度も来たことがない場所。
グッタリとしながらも、周囲を見まわす。
狭い洞窟のトンネル。
大量に生えた、鈍く光るキノコの群生。
トロッコについていたランプの火は消えており、代わりにそれらが灯りとなっている。
歩くのと変わらないスピードで、トロッコは進み続ける。
何も変わらない光景に、うんざりし始めてきたころ。
突然、何かにぶつかり横転した。
何とか立ち上がると、光るキノコの山に洞窟そのものが埋もれていた。
この先へは行けないか。
代わりに横道が伸びている。
ついた埃を振り払い、私は奥へと歩を進めた。
巨大な蜘蛛と、取り巻きの小さな蜘蛛。
地底のキーモンスター、スパイダルとスパイディア。
高い所にいて厄介だったが、簡単に倒せた。
残るはボス戦か。
扉の奥へと進む。
と、停車しているトロッコ。
いつもとは違う。
それでいて、これまでと同じ。
最初から最後までトロッコに振り回された訳だ。
乗り込んだ瞬間になって、これまでとは構造が違うことに気が付いた。
進行方向に何か機械のようなものがついており、右の矢印と左の矢印。
中央には、上向きの矢印が描かれている。
それぞれの印のすぐ下には、四角いボタンがついている。
ゆっくりと動き始めるのを感じながら、試しに右のスイッチを押してみる。
すると右の矢印が点灯した。
反対のスイッチも同様に、左の矢印が点灯した。
ゆっくりとしたスピードのまま、狭く細い洞窟を抜ける。
左右に並走するレール。
徐々にスピードを上げ始めながら、左のレールへと移った。
同時に矢印の灯りも消える。
右のスイッチを押すと、少しの時間をおいて右へと移動した。
レールは加速するのに合わせて、五つ、七つと増えていき、ざっと11本のレールが並んでいる。
太く、暗い洞窟の中。
トロッコにつけられた明かりだけを頼りに進み続ける。
静かな空間を裂くように、トロッコの車輪の音が響いている。
だが、このまま何もないはずがない。
どこからか響く地鳴り。
少しづつ大きくなってきている。
奥へと目を凝らした瞬間、大量の何かが両側をすれ違う。
同時にこれまでに経験したことのない、急な加速を始める。
あまりの圧力に息が苦しい。
ゆるやかな坂を下るが、あまりのスピードに体がわずかに浮き上がる。
すれ違った物を確認しようと、何とか後ろを振り返る。
あれ?
……いない?
浮き上がる体をどうにか押さえつけながらも、背後を警戒する。
地鳴りは続いている。
追ってきているのか。
だが、どうにも暗くて遠くが見えない。
それでもうっすらと、巨大な茶色い何かが見えてきた。
光弾を溜める。
ハンドレット・パラグラフィー
巨大な何かは追いつくにつれ、少しづつその姿を露わし始める。
高速で移動を続けるトロッコに、追いつける大量の足。
正面からで分からなかったが。
もしかして……
ムカデ?
寒気が全身を包む。
節足動物系統を苦手とする私にとって、とんでもない敵だ。
それでも倒さなくては、先へは進めない。
一旦大きく深呼吸をし、改めて向き直る。
相も変わらず、気持ち悪く追って来る。
溜めてあった光弾を、少しずつ追いついてきている相手へと向けて放った。
☆★☆★
ヴィクトリア・フレーム……
聞いたことのない名前。
「勝利のVシリーズなんだが。」
「知らなかったのか?」
驚く俺に驚くバジさん。
まだ暗い山道で、小石を蹴り飛ばす。
「まぁまぁ強い、ね。」
威力、速射性、取り回し共に最高クラス。
反面、弾数、リロード時間、反動に難がある。
木の陰に隠れて様子を伺う敵、それに向けて発砲した。
低レベル帯だからか、リロードするまでもなくやっつけた。
わずかに残る煙を無視して、横に振ってから上へと向ける。
そこから空になった薬莢が零れ落ち、横に出ていた弾倉が勝手に元に戻った。
横に振ってから、上に向ける。
この二段階の動作を必要とするため、リロードに時間がかかるのだ。
「あのぉ。」
あまりに突然の呼びかけに、素早く距離を空けた。
銃口を突きつけ、激しく警戒する。
「私たちとポイント戦、してくださいませんか?」
二人の小柄な女性キャラ。
共に銀髪で片方は無造作に、もう一方は長い髪を後ろで縛っている。
銃を下す。
「バジさん、どうする?」
「俺はやってもいいけど……」
武器は剣と、杖か?
近接タイプと、魔法職か。
「私も問題ない。」
「では、やろうか。」
無造作な髪の子が、ニッコリと笑いながら礼をいった。
バジさんと、女の子の一人が消えた。
機械的な、張り付いた感じの笑顔……
言葉のアクセントもなんとなくおかしい……
不思議な子達だ。
(バジリスクから、ポイントバトルの協力要請が来ております。)
(協力しますか?)
小さく表示され、同時にカウントダウンも始まっている。
俺は、はいを選択した。
その直後、地面は歪み平らになリ始める。
同時に、地中からは建物が文字通り生えてくる。
建物によって突き上げられた地面が、空中で石畳に変わり周囲を埋め尽くす。
暗いフィールドを、部分的にしかない街灯が照らしている。
気が付けば、バジさんは近くにいた。
(TEAM BLUE 2 VS TEAM RED 2)
(Town)
(障害物が多く、暗いフィールドです)
決定が選択され、表示が切り替わる。
(stand by)
10のカウントダウンが始まると同時に、全員が武器を構えた。
カウントダウンが進むにつれ、それぞれの武器が様々な光を放ち始める。
GO
スタートと同時に、俺は一気に踏み込んだ。