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そう遠くない未来の事。
大手ゲーム会社が協力し合い、世界で初めての革新的ゲームの開発に成功した。
Virtual Reality(仮想現実)
この技術の開発からわずか数か月。
ゲーム史上、最大ともいえる進化を遂げた。
だが同時にもう一つ、追随するように進化を遂げたものがある。
開発者が意図しない遊び。
触れてはいけない禁忌の領域。
その領域に足を踏み入れてしまった者のお話。
☆★☆★
あるフルダイブ対応、VRオンラインアクションRPG内。
エリア1のダンジョン、草原。
見渡す限り何もない。
さわやかな草原地帯。
そこに佇む一軒の古い小屋。
壁面の一部は植物で覆われ、深夜に見ると僅かに恐怖を感じるだろう。
そんな物であっても、何もなければ存在しない。
最初のダンジョン。
その入り口を守る為に、設置された物。
それは今日もまた、懲りない挑戦者を迎え入れた後だった。
小屋の内部から、地下へと続く階段。
一歩足を踏み入れると、そこには幻想的な光景が広がっていた。
光る植物によって、ほんのりと明るく照らされた洞窟。
現実ではありえない見た目の、人を襲う生物。
そんな物が大量に存在する、広大な地下迷宮となっている。
そしてさらに奥へと進んだ先に一人のプレイヤーと、三人のNPCがいた。
身軽な服装で、腰に刀を提げた女性の戦士。
近接職、サムライ。
甲冑をまとい、盾と剣を持った男性の騎士。
近接職、ナイト。
露出が激しい、両手に拳銃を持った女性銃者。
遠距離職、ガンマン。
巨大な本を持ち、ローブを羽織った男性科学者。
魔法職、アルケミスト。
この中でサムライだけが、本当の人間。
すなわち、プレイヤーだった。
残りは機械が作り出した、知能を持たない擬似的な生命体。
その証拠に彼女らは、攻撃する瞬間のみ声を発するだけで、会話らしい会話はしていない。
ただ黙々と、敵を倒すという行為を行っていた。
ケイブ・バット。
ここのダンジョンで、最も多く湧く雑魚の一種。
大きさはプレイヤーと同じくらい。
今、四体のそれと戦っていた。
アルケミストによる、火炎攻撃。
それと同時に、白色で全体に110の数字が表示される。
ガンマンの攻撃により、中央二体の敵が羽を撃ちぬかれる。
白で109の数字。
被弾したそいつらは、一時的に飛行能力を失った。
私とナイトは、地に伏した敵の元へ走り出す。
両手で刀を持ち、顔のすぐ横で真っ直ぐ先端を敵に向ける。
スタミナが減り、柄の部分から先端へと白い輝きが移動していく。
先端に光がたどり着いた瞬間、一気に刀を突出し踏み込んだ。
突進系スキル。
数秒間普通に走るよりも早くなり、かつ敵を蹴散らすことができる。
吹き飛ばした敵から、552の数字が表示された。
ナイトとほぼ同時に放たれた攻撃は、敵を強く吹き飛ばす。
攻撃後の隙を狙って、近くの敵が大きく口を開ける。
ギリギリの所でかわし、元の位置へと戻った。
敵が他のゲームと比べ敵が非常に強く、それでいてレベルがなかなか上がらない。
結構な回数このダンジョンに挑戦したが、まだ攻略できていない。
オンラインゲームではあるのだが、ある程度進めなくてはオンラインはできないと聞いた。
それまではオフライン。
一人とNPCでどうにかするしかない。
アルケミストの攻撃で、二体先にやっつけた。
残り二体。
武器を構え、再び突進攻撃。
攻撃は敵の一方に運良くヒットする。
突き出したその体制で、刀をひねり水平に切り伏せる。
ガンマンが撃ち落としていたそれに、きれいに当たった。
地面にぐったりとしたまま、それらは黒く、小さくなり消えた。
四体倒すだけでこの苦労。
このダンジョンはそろそろ終わりだが、オンラインまではまだまだ遠い。
ボス部屋の前やや開けた場所に、重厚感あふれる巨大な扉がある。
これを開ける条件はただ一つ。
キーモンスターを倒す必要がある。
ここのキーモンスターは、リトル・ゴーレム。
全体的に物理攻撃が多い今のパーティで、特に苦労する相手ではない。
時間はかかるが。
広場のほぼ中央に、抱えるほどの石が落ちている。
何度も戦ったから分かる。
それがそうだ。
一歩一歩、ゆっくりと近づく。
ある瞬間を境に、その石に変化が起きる。
回転しながら宙に浮き、どこからか同じような石が集まってきた。
それらは胴を、腕を、足を構成し。
初めに落ちていたそれは、人で言う所の頭に収まった。
武器を取り、素早く溜めに入る。
アルケミストの魔法攻撃は、蚊が刺すようなダメージしか入らない。
リトル・ゴーレムは地面から岩を取り出し、それを宙に浮かせている。
それが奴の武器だ。
溜まりきった。
だが、まだ踏み込めない。
岩が邪魔している。
こうしている間も白い数字は出続ける。
ガンマンによるものだ。
スキル、黒の雨。
それにより、通常ではありえない量の弾丸が敵を襲っていた。
リトル・ゴーレムはガンマンへと向き直る。
そして宙に浮いた岩が、彼女に襲いかかった。
ナイトが盾で彼女をかばう。
この瞬間だけは無防備になる。
一気に踏み込み、懐へと突っ込む。
敵は勢いに押され、地面へと倒れた。
この隙に一気にたたみかける。
残ったNPC達も、ありったけの力を込めて攻撃する。
だが削りきることはできない。
またゆっくりと起き上がる。
攻撃されるよりも早く、距離を置いた。
一撃一撃が強すぎる。
それは、この敵だけに言えたことではない。
先ほどのケイブ・バットにも当てはまる。
一発でも食らおうものなら、即死する。
安全に、的確に。
繰り返すこと数十回。
疲弊しながらも、何とか倒すことに成功した。
地面が細かく振動し、扉がゆっくりと開き始める。
ここに来るのも五度目か、六度目。
半球状の巨大な部屋。
ほんのりと中央だけが明るくなっている。
ボスはいない。
真ん中に咲く、真っ白な一輪の花。
風もないのに、ゆらゆらと妖しく揺れる。
刀を手に、そっと近づく。
近づくにつれ、天井から土が落ちてくる。
刀の間合いへと近づいた。
根元から切ったその瞬間、何かが地面へと落ちてくる。
あらかじめその事を知っていた私は、簡単に回避することができた。
巨大モグラ。
見た感じそれが一番近いだろう。
頭から落ちてきたそれは、二本足で立ちあがるが。
すぐ地面に腹ばいになる。
鼻だけは動かしながら。
こちらを感知した瞬間、既にそこにはいない。
鼻の先端にまっすぐ突き刺し、力づくで切り開く。
ダメージは大きくない。
二撃目を溜め始めた時、いつもと違う動きを始めたのに気が付いた。
足踏み?
二本足で再び立ち上がり、地面を踏み鳴らしながら歩き回っている。
激しい揺れ。
それ故動けないでいた。
だがそんな事よりも、一つの心配事が頭の中を支配していた。
崩れるのではないか?
部屋全体で細かい砂が、土が降りつつある。
そして降ってくるそれらは、少しづつ大きくなりつつある。
まずい!
部屋全体に石が、岩が大量に落ちてきている。
扉は当然しまっており、出ることはできない。
開いていたとしても、揺れのおかげで移動もろくにできない。
巨大な影が体を覆った。