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第四章 はなまる果樹園、結成

――五人が選んだ、続けるという答え――

集まったのは、夜だった。

場所は伊木力の集会所。

かつては寄り合いや祭りの準備で賑わった場所だが、その夜、灯りは一つだけだった。長机を囲むように、五人の男が腰を下ろす。

全員、同じように日焼けした顔をしている。

年齢は違えど、育ってきた景色は同じだった。

最初に口を開いたのは、誰でもなかった。

しばらく、沈黙が続いた。

時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる。

「正直な話ばしてよかですか」

誰かがそう言い、空気が少しだけ動いた。

「このままじゃ、伊木力は終わると思う」

否定する声は、なかった。

それぞれが、同じことを考えていた。


親の背中を見て育ち、自分も斜面に立つようになった。

だが、その親たちが、次々と畑を下りていく。

人手は足りず、作業は増え、気候は変わっていく。

「一人じゃ、もう限界ばい」誰かがつぶやいた。

技術の話が始まった。

害虫の被害。

肥料の配合。

天候の読み方。

だが、それはすぐに行き詰まった。

「結局、みんな同じとこで悩んどる」

山野は黙って聞いていた。

そして、ゆっくりと口を開いた。

「一人で考えよるけん、苦しいんじゃなかとですか」

全員が顔を上げた。

「畑は違っても、条件はほとんど同じです。斜面も、風も、虫も。なら、悩みも一緒のはずです」

誰かが、腕を組んだ。

誰かが、深くうなずいた。

「一緒にやる、ってことか」

「ただの情報交換じゃなか。もっと踏み込んだ形で」

それは簡単な話ではなかった。

やり方は人それぞれだ。

代々受け継いできた方法もある。

自分の畑を、他人にさらすことへの抵抗もある。

「それでも」

山野は言葉を選びながら続けた。

「このまま何もせんやったら、確実に終わります。味じゃなか。人が、いなくなる」

再び、沈黙。


やがて、一人が笑った。

小さく、力の抜けた笑いだった。

「なあ、子どもの頃のこと、覚えとるか」

突然の話題に、全員が戸惑った。

「テスト返ってきて、はなまるもろた時のこと」

その言葉に、場の空気が変わった。

努力した結果が、ちゃんと形になった瞬間。

親に見せて、少し誇らしかった気持ち。

認められた、という感覚。

「みかんも、同じじゃなかとかな」

「ちゃんとやった分、はなまるもらえる仕事にしたか」

その一言で、決まった。

名前は、自然と出てきた。

「はなまる果樹園」

大げさな目標は掲げなかった。

世界一になるとも言わなかった。

ただ一つ。

「続ける」こと。

十年先も、二十年先も、この斜面にみかんの樹があるように。

次の世代が、戻ってこられる場所であるように。

その夜、五人は約束を交わした。

書類も、契約もない。

だが、誰一人として軽く考えてはいなかった。

伊木力みかんの歴史は、ここで新しい形を取った。

それは革命ではない。

だが、確かな継承だった。

斜面は、まだそこにある。

そして今、登る人間が、再び増え始めていた。

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― 新着の感想 ―
劇的な革命は起きない。 だが、「一人で抱え込まない」という決断が、確実に流れを変える。 五人が集会所に集まる場面の静けさと緊張感は、スポーツでも起業でもなく、生活の共同体が生まれる瞬間そのものです。 …
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