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万物商人  作者: 高正ましろ


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2/2

カフェにて

 翔は背筋に走る不快感を拭えないまま、更に思考を巡らせた。


 探偵…でも誰が?なんのために?いや、ストーカー…闇バイトか…?殺されるのか…?時間をずらして帰るか…?でももしそれで逆上されたら…?


 瞳孔が激しく動き、息も上がる。鼓動がはっきりと聞こえてくる。だが、決断しなければならない。大人しく正門に向かい、約束通り佐藤と会うか、他の門を使って帰るか。幸い、大学には正門に当たる南門のほかに、北、西、東にそれぞれ門がある。遠回りにはなるが、もちろん帰れないことはない。


 「よし…。」


 誰にも聞こえない程度に小さく、固めた決意を口にして翔は立ち上がった。荷物を持った翔が向かった先は、西門だった。

 シンプルで小さい門であり、人の出入りもそれなりにあり、目立つことは考えにくい。門に向かって動く足は、意識せずとも加速していた。


 『大川田さん、どこ行くんです?』


 心臓が口から飛び出そう、とはよく言ったものだ。翔は後々この場面を振り返った時にそう思った。翔の目の前には間違いなく西門があり、その門柱の陰から聞こえてきた声は、翔にとっては絶望を告げるものだった。


 「ぅわあぁ!!!!」


 情けない声が翔の口から飛び出たが、佐藤は気にも止めずに、場違いなほど明るい笑顔と声色で続けた。


 『まぁ、そうですよね。目的もわからない、誰かもわからない不審な人から声かけられたら誰だってそうなります。でも、危害を加えたりはしません、約束します。少し場所を変えてお話しましょう。人の大勢いるところで結構ですよ。』


 張り裂けてしまいそうなほど跳ね上がった翔の心臓は少し落ち着きを取り戻したが、不安は消えたわけではない。だが、翔の直感は、ここで逃げてもどうせ捕まってしまう、そんな不思議な諦めを発していた。


 「………わかりました。カフェでいいですか。」


 結局徒歩5分もかからない、大学最寄りのカフェで話をすることになった。もちろん、何の話かは不明なままであった。カフェまでは、佐藤から世間話のような話題が振られていたが、翔の耳にはほとんど届いていなかった。

 カフェに着くと、佐藤が2人分のコーヒーを注文し、空いていたテーブル席についた。近いせいで、

隣の席の学生らしき女性の話は丸聞こえだった。


 『単刀直入に言いますね。私、商売をやっておりまして。大川田さんにご提案にきたんです。』


 やっぱりヤバいヤツか。翔は心の中でしっかりと落胆した。それを見抜いてか、佐藤は続けた。


 『でも、おそらく大川田さんが考えているような商売人ではないんです。いわゆるネズミ講でもなければ、この場で買う買わないを決定しろというものでもありません。』


 さらに佐藤は優しい声でゆっくりと続けた。


 『信じてもらえないと思いますが、私、この世の全てを取り扱っておりまして。いわゆる、神なんですよ。大川田さんの世界の言葉で言うと。』


 いよいよこいつはマジでヤバいヤツだった、と翔は吐き気を催すほどの嫌悪感を抱いた。同時に、ようやく翔からも言葉が出た。


 「意味がわかりませんし、警察呼びますよ…というか、正直周りからヤバいヤツだと思われてますよ、神とか…。」


 翔の反応を予想していたかのように、佐藤はすぐに言葉を返した。


 『大丈夫です、私たちの会話は私たちにしか聞こえてません。周りには他愛のない会話に聞こえています。』


 「…え?」


 2人を包んでいる時だけが止まってしまったかのように、急に周りの音が聞こえなくなったような、そんな感覚が翔を襲った。そう、確かにこんな異常な話をしているのに、周囲は全く気にも留めていない。さすがにこの佐藤の声のボリュームで聞こえていないわけはない距離だし、こんな変な話されたら視線は一瞬でもこちらを向くはずだ。だが、そんな様子は一切ない。佐藤は、言葉を繋げる。


 『おわかりいただけましたか。ただし、大川田さんと取引をするに当たって、もちろん信頼関係が必要と考えておりますので、可能な限り質問にお答えしようと思います。ただし、全てと言うとさすがにキリがないかと思いますので、とりあえず今日のところは5つにお答えして、それ以降は契約成立した場合に限り、適宜お答えしようかと思います。』


 佐藤からの言葉には不思議な説得力があり、不思議とデタラメを言っているようには翔には思えなかった。それどころか、最初は何の信用もなかったはずの佐藤の言葉を真実として、翔は質問を急いだ。


 「まず、この世の全てを取り扱っている、というのはどういう意味なんですか…?」


 佐藤はフッと口角を上げ、


 「言葉の意味の通りですよ。なんでも取り扱っています。なんでもです。」


 自信に満ちた声色ではっきりと答えた。翔の混乱はますます深いものになっていった。

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