09. 再戦・泥田坊
真人にアドバイスをもらってから3日後。
佳奈子が、家の道場で朝の修行をしていると、祖母の絹代が声をかけてきた。
「佳奈子」
「あっ、おばあちゃん、おはよう!」
「ああ。おはよう。…昨晩、知らせがあったよ。また、例の泥田坊が、悪さをしているってね」
「!」
「全く、質の悪い奴らだ…。必ず捕まえないといけないね…。やれるかい?佳奈子」
「…うん!今回は策があるんだ!だから、きっと大丈夫!」
佳奈子はそう、自信を持って答える。
「!…ふふっ。そうかい。期待しているよ。それじゃあ、決行は今日の夕方。それまでにちゃんと準備をしておくように!」
「はいっ!」
佳奈子は力強く返事をし、気合を入れた。
そしてその日の夕方…。
佳奈子は田んぼ近くの住宅街で、再び泥田坊たちを見つけた。
3匹の泥田坊のうち、1匹は小さいので、この前の泥田坊たちで間違いないだろう。
そして彼らは、またも、住宅に泥水をかけていたのだった。
「もう!あななたち、全然、懲りていないのね!またそんな事をして!」
佳奈子がそう声をかけると、泥田坊たちは、声を探して振り向いた。
「ねぇ、一体どうしたら、そのドロかけを止めてくれるの?」
佳奈子はそう問いかけて、対話を試みる。
しかし…、
「ブブーッ!」
泥田坊は以前と同じく、またドロをかけてきたのだ。
けれどそのドロは、佳奈子にはかからない。
なぜなら、佳奈子は天の羽衣を出して、そのドロを防いだからだ。
「!」
「ふふっ!同じ手には、かからないよ!ちゃ~んと対策してきたんだから!じゃあ、話も聞いてもらえないようだし、実力行使で行かせてもらうね!…神気招来!」
佳奈子は懐からお札を取り出し、呪文を唱える。
するとお札はバチバチと、静電気のようなものを発し始めた。
そしてそれを見た泥田坊たちは、顔色を変え、佳奈子から逃げ出し始める。
「…思った通り、田んぼに向かって逃げてく…。でも今回は、絶対に逃がさない!…天の羽衣!」
佳奈子がそう言うと、なんと、泥田坊たちが通る道から、大量の羽衣が、ヒュッと立ち昇ったのである。
そしてその羽衣は、泥田坊たちを閉じ込めるように、グルグルと巻きつき始めた。
「今回はあらかじめ、あなた達が逃げる方向に、羽衣を敷いておいたの。羽衣を飛ばし続けるのは難しいけど、地面から立ち上げるだけなら、わりと簡単…。だから今回は、大量の羽衣を使えたんだ。どう?大量に巻き付けたから、逃げる隙間がないでしょう?」
佳奈子が言う通り、泥田坊を包んで丸くなった羽衣は、もぞもぞと動くだけで、中から泥田坊が出てくる様子はない。
「ふっふっふ~っ!今回は大成功~!」
佳奈子は、うまくいって上機嫌になる。
すると佳奈子の背後から、
「なかなかやるじゃないか、佳奈子。ワナを張るとは考えたね」
そう言って祖母の絹代が、珍しく佳奈子をほめたのである。
「あ~実は…、この方法は、真人さんに教えてもらったんだ…」
佳奈子は、自分だけの手柄にするのが忍びなくて、正直に言った。
「ほう?…まぁ、それでも、実際に成功させたのはお前だ。頑張ったじゃないか」
「!お、おばあちゃんが、褒めてくれた…。う、うれしい~!」
佳奈子は嬉しすぎて、涙が出てきた。
「おやおや。まったく大袈裟な子だねぇ。だが、まだ仕事は終わってないんだ。そんなに気を緩めるんじゃないよ」
「えっ?あっ、そっか!ちゃんと、壺の中に封印しないといけないんだね!じゃあ、さっさと封印して、終わらせちゃおう!え~と、壺、壺…」
佳奈子は、肩にかけていた布製カバンから、手のひらに乗るサイズの、小さな壺を取り出した。
「佳奈子、依頼は小さくない泥田坊の捕獲だ。だからまずは、大きい奴らだけ壺に封じな」
「うん!分かった!え~と、大きい泥田坊は、アレとアレだね!」
佳奈子は、羽衣に包まれている泥田坊に、走って近づく。
そして壺のフタを開けたあと、片手で印の形を作った。
「妖怪封印!」
そう佳奈子が唱えると、羽衣がわずかにめくれ、中の泥田坊が、霧状になって飛び出してきた。
そしてその霧は、まっすぐに壺の中へと、吸い込まれていったのである。
佳奈子は、泥田坊が完全に壺の中に入ったのを見て、壺のフタを閉めた。
「よし!ちゃんと封印できたっと!できたよ!おばあちゃん!」
佳奈子は仕事の完了を祖母に伝える。
「そうかい。じゃあ、あっちの小さい泥田坊も、別の壺に封じな」
「えっ?どうするの?あの子」
「先方に事情を話して、引き取ってもらうしかないだろう。元々、妖怪を更生させるために捕まえるんだし、このまま放置する事は出来ないからね」
「なるほど。分かった。じゃあ、あの子も封印するね」
佳奈子はそう言って、小さい泥田坊の元へ、駆けて行こうとした。
しかし…。
「あたっ!いたたたた…。」
佳奈子は足元の石につまづいて、転んでしまったのである。
「佳奈子?!大丈夫かい?!」
「だ、大丈夫。ちょっと、つまづいただけだから」
「はぁ…。まったくお前は、ドジだねぇ」
「あはははは…」
事実なので、佳奈子は苦笑いするしかなかった。
けれど、そのつまづきは、笑い事では終わらなかったのである。
なぜなら佳奈子は、倒れた拍子に、地面に置いていた壺を、倒してしまっていたのだから…。
そして倒れたせいで、壺のフタは外れてしまって…。
「?!佳奈子!封印した泥田坊が、外に出てきちまってるよ!」
「えっ?!うそっ?!」
「さてはお前!フタをした後、ちゃんとお札を貼らなかったね?!」
「えっ?!あっ!そうだお札!忘れてた…!」
「忘れてたじゃないよ!このバカ!すぐに逃げた奴らを捕まえな!」
「は、はい~っ!待って~!泥田坊、待って~!」
こうして、佳奈子は再び、泥田坊たちを追いかける事になったのだった…。




