07. 4年前の続き
お祭りでの大首騒ぎから3日後…、佳奈子は、家でイライラしていた。
「あ~!もぅ~!どうしてあの人の事が分からないの~!もう3日も経ったのに~!」
そう言って、佳奈子は畳の上でジタバタする。
「ん~?あの人って、大首を倒したって言う、例の仮面のヤツの事か?」
仕事休みで、遅く起きてきた父の幾太郎が、ちゃぶ台で新聞を読みながら言う。
ちなみに、母と弟は今、買い物に出かけている。
なので、佳奈子はさっき、父に、お茶を入れてあげたばかりだ。
「そうだよ~!あれから私、お祭りに来てた人達に、あの人の事を聞いて回ったの。でもみんな、あの人が目の前で、ケムリのように消えちゃった~なんて言うんだよ?!」
そう、あの仮面の人物を見た人は、結構いたのである。
しかし直接見た人たちは皆、彼が、ケムリのように消えてしまった…、と言うのであった…。
「…あの事件はニュースにもなったのに、なぜかあの人の事には、ほとんど触れないし…。これじゃあ、あの人が、どこの誰なのか、全然分からないじゃない!このままじゃあ、ちゃんとお礼も言えないよぉ…。もぉ~!どうしてもっとニュースで、あの人の事、報道してくれないの~?!」
佳奈子はそのせいで、ずっとイライラしているのだった。
「…あ~。それはたぶん、報道規制がされてるからだな…。ヤツは『常磐木』だって話だから…」
「?!報道規制?!何それっ?!それに、ときわぎって?!お父さん、あの人の事、何か知ってるの?!どうして今まで教えてくれなかったのよ~?!」
佳奈子は飛び起きて、父の肩をがくがくと揺らす。
「待て待て待て!俺も昨日の夜、町内会長から聞いたばかりなんだよ!ちゃんと教えるから、落ち着けって!」
父にそう言われ、佳奈子は即座に正座をした。
「はい!落ち着きました!なので教えてください!お父さん!」
「…はぁ~。お前ってヤツは全く…。まあ、いい。教えてやる。その仮面のヤツはな、特級の退魔師だ」
「特級?!特級ってたしか、退魔師の中でも、一番上の階級だよね?」
「そうだ。そしてその特級退魔師たちは、別名、常磐木って呼ばれているんだ」
「ときわぎ…?それって、どういう意味の言葉なの?」
「常盤木っていうのはな、常緑樹の事を指すんだ」
「じょうりょくじゅ…。あっ!それってたしか、一年中、緑色の葉っぱをつけてる木の事でしょ?松とか杉みたいに!学校で習ったよ!」
「そうだ。よく覚えてたな。えらいぞ~!」
「へへ~!」
「まぁ、つまりだ、常緑樹の別名を、常盤木っていうんだよ」
「ふ~ん」
「一般的に常緑樹はな、家の生垣や防風林によく使われる。そういうのは、強風とかの災害を防いだり、動物の侵入を防いだり、悪い奴からの目隠しにもなったりするんだ。だから、大昔のある特級退魔師が、自分たちも、そんな常緑樹のように、人々を守る存在になろうって言って、常磐木って名乗るようになったんだとさ。昔はまだ、まともな退魔師がいたんだな~」
「へぇ~!そうなんだ~!お父さん、物知り~!」
「ふふん!そうだろう!ついでに言うとだな、特級の退魔師、常磐木たちは、それぞれ常緑樹の仮名がつけられてるって言われてるんだぞ」
「かめい?」
「あ~。仮名っていうのはだな、本名を伏せた名前…、仮の名前の事だな。だから奴らの場合、松とか、杉とかって呼び合ってるんだろうさ。…祭りに現れた例のヤツは、着物に『伊吹』って書いてあったんだろ?」
「うん!そう書いてあった!」
「伊吹ってのはヒノキ科の常緑高木の名だ。だから、きっとそれが、ヤツの仮名なんだろうな」
「!…そうなんだ…。伊吹っていうのが、あの人の仮名…」
佳奈子は、あの人の事が少し分かって、嬉しくなる。
「…あっ、でも…、どうして常盤木の人達は、仮の名前なんかつけてるの?本名で呼び合えばいいのに…。それにあの人は、顔に仮面までつけてた…。どうしてあんなの、被っていたんだろう…?」
佳奈子は、あの人が仮面をしていて、ビックリしたのだ。
「…昔っから常磐木の奴らはな、秘密主義で有名なんだよ。その姿も、本名も、周りには明かさない…。正体を知ってる奴は、ほとんどいないんだ。だからニュースになっても、ヤツの素性は隠される…。ヤツの情報が出ないよう、裏で、色んな力が働いてるんだ…。あ~!イヤだ!イヤだ!黒いぜ!退魔師連盟!」
父・幾太郎は、とてもイヤそうな顔をする。
「…じゃあ、あの人の本当の名前や、いる所は分からないの?」
「…ああ。俺もヤツが常磐木だって事しか聞いてない。町内会長も、退魔師連盟から連絡があって、それしか知らされてないって言ってたぞ」
「そうなんだ…。…じゃあ、どうすれば、あの人に直接お礼を言う事が出来るのかな…?」
「…それはたぶん無理だろう。常磐木に会うこと自体、滅多にないからな…。それにヤツらに会うって事は、それだけ危険な目に遭ってる時だ。だから会わない方がいいんだよ。なによりヤツらは得体が知れなくて気味が悪い…。それに退魔師ってのは、みんな性格が悪いからな。関わらない方が身のためだ」
(……。私たちを助けてくれた恩人にヒドイ言い方…。お父さんの拝み屋嫌いは、筋金入りだな…)
「はぁ~!やっぱり俺、退魔師を辞めてよかったぜ~!今も退魔師を続けていたら、常磐木のヤツらと関わらなきゃいけなかったかもしれないからな。あんな正体不明の不気味なヤツら、関わるのはごめんだぜ!」
(!そっか…!退魔師になれば、あの人に会えるかもしれないんだ…!)
佳奈子はその可能性に気づいた。
退魔師になる…、今までその道を、佳奈子は考えた事はなかった…。
けれど…。
(大首から私たちを助けてくれたあの人、カッコよかった…。まるでヒーローみたいだった…。私もあんな風に、みんなを助ける事が出来たなら…)
佳奈子は3日前を思い出して、そう思う。
「…私もあの人みたいな、退魔師になりたいな…」
佳奈子は知らず、そう口にしていた。
「なに?!お前何言ってるんだ?!退魔師なんて、絶対ダメだぞ!」
父・幾太郎は、人が変わったように怒りだす。
「で、でも…!私は霊力が強いんでしょ?だったら退魔師にだって向いてるはず!それに私の羽衣の力も、何か人の役に立つかもしれない…!」
この時、佳奈子の羽衣の力は、父がつけたブレスレットによって、固く封じられていたのだった。
「なっ?!羽衣の力は、絶対に使うな!その力を使えば、お前は不幸になる!退魔師になんかなったりしたら、もっともっと不幸になるんだぞ!」
「そんなの、分からないじゃない!」
「分かってるから言うんだバカ!退魔師なんて、絶対ダメだ!」
「む~っ!お父さんの分からず屋~!」
「なんだと~!!!」
佳奈子と父は、口論になってしまった。
そしてそんな時、出かけていた母の昭子と、弟の颯太が、部屋に入って来たのである。
「ちょっと!ちょっと!2人共、一体何を騒いでいるの?!近所迷惑じゃないですか!」
「怒鳴り声が、外まで聞こえてるよ」
そう言って母と弟は、2人の口論を止めようとする。
しかし…、
「お前たちは黙ってろ!」
「2人は黙っていて!」
幾太郎と佳奈子はそう言って、母たちの制止を振り切り、長い事、口論を続けたのであった。
そして結局、2人の意見は、噛み合う事がなかった…。
けれど佳奈子は、退魔師になる夢を、どうしても諦める事が出来なかった。
むしろ、なりたい気持ちは、日に日に強まっていくばかり…。
なので佳奈子は、両親の不在を狙って、家にある連絡帳を調べ、父の従兄弟の春彦に連絡をとったのだ。
「もしもし、春彦おじさん?私、佳奈子です。お久しぶり。実はね、ナイショの相談があるんだ…」
そして、その春彦に色々と協力してもらい、父が家出した実家、つまり、おばあちゃんの家で、退魔師の修行が出来る事になったのだった。
修行するにあたって、東京の父や母、それに弟とは、離れて暮らす事になってしまったが、佳奈子は後悔していない。
だって、自分が決めた、自分の夢のためなのだから…。




