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30. 謎のカラス

更新が遅くなって、申し訳ありません…。

次も遅くなるかも、しれません…。


 修行(しゅぎょう)をするため、山の中に作った、拠点(きょてん)へとやって来た佳奈子たち…。


 しかし、たどり()いた拠点では、(あば)れるカラスが、物干(ものほ)竿(ざお)()るされていた…。


 そして、そのカラスの前では、()け猫のウタが、笑いながら、包丁(ほうちょう)()いでいるのであった…。


 周囲(しゅうい)には、包丁(ほうちょう)()ぐ音と、「うふふふふ…」という、不気味(ぶきみ)な笑い声が、(ひび)(わた)っている…。


 その異様(いよう)光景(こうけい)に、佳奈子は、恐怖(きょうふ)を感じ、次の一歩(いっぽ)が、()み出せなくなっていた…。


(なに…?!なんなの…?!どうしてウタちゃんは、笑いながら、あんな事をしているの…?!ぶ、不気味(ぶきみ)すぎる…。とてもじゃないけど、気軽(きがる)には、声をかけられないよ…。一体(いったい)、どうしたらいいの…?!)


 佳奈子は、そう思い、恐怖で緊張(きんちょう)しながら、思い(なや)む…。


 そして、そう感じていたのは、(となり)に立つ、絹代も同じだった…。


 しかし…、絹代は、これまでに、(いく)つもの修羅場(しゅらば)を、くぐり()けてきた強者(つわもの)である…。


 そのため、佳奈子よりも、ずっと(きも)()わっていた。


 なので、絹代は、ゴクリ…、と、(つば)をのんだ(あと)覚悟(かくご)()めて、口を(ひら)いた…。


「…ウタ…、お前…、何をしているんだい…?」


 絹代は、そう、ゆっくりと、()いかける…。


 そんな絹代の行動(こうどう)に、佳奈子は…、


(す、すごい…!…さすがは、おばあちゃん…!この状況(じょうきょう)でも、そんな冷静(れいせい)に、声をかけられるなんて…!)


 そう思い、絹代を、尊敬(そんけい)のまなざしで見る…。


 一方(いっぽう)…、絹代に声をかけられたウタは、やっと佳奈子たちの存在(そんざい)に、気がついたようだ…。


「え?あら~?みんな、来ていたの~?全然(ぜんぜん)、気づかなかったわ~!ごめんなさ~い!」


 ウタは、そう、驚いた顔で言う…。


 そして、にっこりと笑い…、


「うふふ~!ようこそ、拠点(きょてん)へ~!みんなが()ごしやすいように~、がんばって(まわ)りを(ととの)えたのよ~?どう?なかなか立派(りっぱ)な拠点でしょ~?」


 ウタは、そう、自慢(じまん)げに言う…。


 すると、そんなウタの反応(はんのう)が、よほど意外(いがい)だったのだろう…、絹代は、(きょ)()かれて…、


「えっ?!ああ…、うん…、(たし)かに立派(りっぱ)拠点(きょてん)だ…。準備(じゅんび)、ご苦労(くろう)だったね…、ウタ…」


 そう、反射的(はんしゃてき)に答えてしまう…。


 そしてウタは…、


「いえいえ~!どういたしまして~!」


 そう、(うれ)しそうに笑って答える…。


 それは、(さき)ほどまでの緊張(きんちょう)が、ウソのような会話だった…。


 しかし、目の前にある問題からは、大きくズレた会話である…。


 そのため、佳奈子は、恐怖(きょうふ)も忘れ、ずっこけた…。


「ちょっと…!おばあちゃん…!今、言うことは、それじゃないでしょ…?!」


 佳奈子は、すぐに()き上がり、絹代に、つっこむ…。


 すると、絹代は…、


「はっ…!そうだった…!」


 そう言って、(われ)に返った…。


 …(じつ)は…、絹代は、一度(いちど)信用(しんよう)した人間には、とても弱い…。


 (とく)に…、ウタは、絹代にとって、赤ん(ぼう)(ころ)から、自分を(そだ)ててくれた、母親や、姉妹(しまい)のようなものである…。


 そのせいもあり、絹代は、のんびりとしたウタのペースに、(なが)されてしまったようだ…。


 しかし、佳奈子に、つっこまれ、絹代は、その事に気がつき…、


(くっ…!アタシとした事が…、すっかり、ウタのペースに流されちまった…。のんびりした、あの口調(くちょう)には、昔っから弱いんだ…。けど、もう流されたりしないよ…!)


 絹代は、そう思い、気を引き()めた…。


 そして…、


「…ウタ…!お前、なんで包丁(ほうちょう)なんか、()いでるんだい…?!正直(しょうじき)に、理由(りゆう)を言いな…!」


 絹代は、さっきとは、()って変わって、(きび)しい顔で、問い()める…。


 すると、ウタは、悪事(あくじ)がバレて、ギクリ…!…なんて顔は、しなかった…。


 むしろ、不思議(ふしぎ)そうな顔をして…、


「え?包丁(ほうちょう)~?包丁なら、いつだって()いでるじゃな~い?時間があれば、家でだって、()いでいるでしょ~?」


 そう、()たり(まえ)のように言う…。


「え…?…あ…、そういや、そうか…」


 絹代は、それを思い出す…。


 すると、ウタは…、


「おいしい料理を作るには~、包丁(ほうちょう)手入(てい)れは、()かせないのよ~?()(あじ)がいい包丁だと~、料理がおいしくなるんだから~!」


 ウタは、そう言って、話を続ける…。


「うっふふ~!私~、いつも包丁(ほうちょう)()ぎながら~、どんな料理を作ろうかしら~?って、考えるの~!そして~、その時に、想像(そうぞう)するのよ~。私が作った料理を~、みんなが、おいしい…!って言って~、食べてくれる所を~!うっふふ~!そうやって~、私が、みんなの健康(けんこう)と、胃袋(いぶくろ)(つか)んでるんだ~、って思うと~、もう楽しくって、しょうがないわ~!うふふふふ~!」


 ウタは、そう言って、笑う…。


(あ、あれ…?もしかして、私たちって、ウタちゃんに、命を(にぎ)られてる…?)


 佳奈子は、そんな気がしてきた…。


 すると、絹代が…、


「ウタ…!お前…!」


 そう、(きび)しい顔で、ウタの名を呼ぶ…。


(!おばあちゃん、もしかして、(おこ)ったの…?!)


 佳奈子は、そう思い、絹代を見る…。


 すると、絹代は…、


「…お前…、…いつも、みんなのために、包丁(ほうちょう)手入(てい)れを、していたんだね…。しかも、そんなに、やりがいを持って…。…ありがとうね…、ウタ…」


 絹代は、目を(うる)ませて、ウタに言う…。


(!おばあちゃん、感動(かんどう)してる…!)


 佳奈子は、祖母(そぼ)の気持ちに気がついた…。


 そして、絹代は…、


「…そうかい、そうかい…。異様(いよう)雰囲気(ふんいき)だったもんで、つい(おどろ)いちまったが…、よく考えりゃ、別に、(へん)な事なんか、何にもないね…」


 絹代は、そう言って、安堵(あんど)表情(ひょうじょう)をする…。


 どうやら、絹代は、また、ウタのペースに(なが)されてしまったようだ…。


 しかし、そんな絹代に、佳奈子は、(ふたた)び、つっこんだ…。


「いいや!おばあちゃん…!あんなに笑いながら、包丁(ほうちょう)()いでるのは、十分(じゅうぶん)(へん)で、(こわ)いから…!なにより、あの()るされてるの見て…!あのカラス、なに…?!」


「!そうだった…!」


 絹代は、気づく…。


「え?カラス~?…ああ~!あの子のことね~。あの子を、ああして()るしてるのは~、やむにやまれぬ~、事情(じじょう)があるのよ~。仕方(しかた)な~く、ああしているの~」


 ウタは、そう言って、(さか)さまに()るした、カラスを見る…。


「やむにやまれぬ、事情(じじょう)…?」


「ええ~。あのカラスったらね~、登山(とざん)ルートの目印(めじるし)を、()がそうとしていたんですって~」


 ウタは、そう、(こま)った顔で、事情を話す…。


「えっ?登山(とざん)ルートの目印…?それって、木に()けてあったテープのこと…?あのマーキングの…」


 佳奈子は、これまでに何度も見た、マーキングのテープを思い出す…。


「あ~、テープの(ほう)じゃなくって~、矢印(やじるし)()いてある、ステッカーの方よ~」


 ちなみに、ステッカーとは、(おも)屋外(おくがい)で使われる、シールのことである。


 そして、今、話題(わだい)(のぼ)っているステッカーは、八乙女(やおとめ)()の会社で使われているものである。


 そのため、ステッカーの下の方には、小さく、会社名と、電話番号の、印字(いんじ)もあった…。


「ああ…、矢印(やじるし)の…。(たし)かに、あれは、カラスでも、()がせそうだね…」


 佳奈子は、今までに見た、ステッカーを思い出す…。


「ええ~。あれはね~、元々(もともと)、この連休(れんきゅう)が終わったら、回収(かいしゅう)する予定だったから~、あんまり強力(きょうりょく)には、くっつけてなかったの~。でも、あれがないと~、これからの修行に(こま)るでしょ~?なのに、あのカラスったら~、それを、イタズラで~、()がそうと、していたらしいのよね~」


「?…らしい…?らしい、って事は…、ウタちゃんは直接(ちょくせつ)、見てはいないの…?」


 佳奈子は、不思議(ふしぎ)に思って聞く…。


「ええ~。ステッカーの(けん)は、見てはいないわ~。でも~、そこにいるメカブはね~、その犯行(はんこう)現場(げんば)目撃(もくげき)して~、犯人(はんにん)のカラスを~、ビシッ…!と、()めたんですって~」


 そう言って、ウタは、自分の(よこ)にある、おしゃれなバスケットを見る…。


「?メカブ…?メカブって、だぁれ…?」


 佳奈子は、()からず聞く…。


 すると突然(とつぜん)、ウタの(よこ)にあった、バスケットの中身(なかみ)が、もぞもぞ…と、動き出した…。


「わっ…?!」


 佳奈子が、突然の事態(じたい)(おどろ)いていると…、バスケットの中にあった、ブランケットが、めくれて、一匹の猫が顔を出した…。


 猫は、()ぼけているのか、くぁ~っ…!と、大きな、あくびをする…。


 そして、そのあと、んにゃ…?と、()いた…。


「び、びっくりした…。猫がいたんだ…。全然、気づかなかったよ…」


 佳奈子は驚きながら言う…。


「あら~。驚かせちゃった~?ごめんなさ~い。でもね~、この子が、今、話をしたメカブよ~。この子も、ワサビたちと(おんな)じで、ウチの大事な社員なの~」


 ウタは、そう言って、メカブを紹介(しょうかい)する。


「あ、そうだったんだ…。よろしくね…!メカブちゃん…!」


 佳奈子は、メカブに挨拶(あいさつ)をする。


 すると、メカブは…、


「んにゃ~!」


 そう、元気に挨拶(あいさつ)を返してくれた。


 そして、同行(どうこう)していた、ワサビたちも、メカブと、(かる)挨拶(あいさつ)()わす…。


 そんな猫たちの挨拶(あいさつ)を見て、佳奈子は、「かわいい~」と、なごんだ…。


 やがて、その挨拶(あいさつ)()んだのを見て、ウタは…、


「ねぇ~、メカブ~、あなた~、あのカラスが、ステッカーを()がそうとしているのを、見たんでしょ~?」


 そう、ウタは聞く。


 すると、メカブは、んにゃ…!んにゃ…!と言って、うなずいた…。


「うんうん。メカブは~、間違(まちが)いなく「見た」って言ってるわ~」


 ウタは、そう、ネコ()(やく)す…。


「あ、そうなんだ…。(たし)かに、目印(めじるし)()がされちゃうと、山の中で(まよ)うかもしれない…。それは(こま)るな~」


 佳奈子は、そう言って、眉根(まゆね)()せる…。


「でしょ~?目印がなくなったら、(だれ)かが、遭難(そうなん)しちゃうかもしれないわ~。だから、メカブが~、あのカラスを()めてくれて、()かったわ~。(えら)かったわね~。メカブ~」


 ウタは、そう言って、メカブをなでる…。


「そうだね…。ありがとう、メカブちゃん。…でも…、だからってさ…、あのカラス…、あんな(ふう)に、(しば)って、()るしちゃう…、っていうのは…、いくら何でも、やりすぎだよ…。鳥のことは、よく()からないけど…、あんまり、長く()るすと、体に、()くないかもしれないし…、もしかしたら、死んじゃうかもしれない…。だから、もう、ステッカーの(けん)(ゆる)してあげて、早く(はな)した方が、いいんじゃない…?」


 佳奈子は、そう言って、カラスの体を心配する…。


 すると、ウタは…、


「私だって~、本当は、こんな事、したくはないの~!でも~、今、解放(かいほう)すると、そのカラス~、きっと、また、私たちを(おそ)ってくると思うのよ~。だから、これは~、仕方(しかた)がないの~!」


 ウタは、そう、(うった)える…。


「えっ?!襲ってくる…?!」


「ええ~。そのカラスったらね~、ステッカー()がしを()められて~、それを止めたメカブを、逆恨(さかうら)みしたらしいのよ~。そのあとは、ず~っと、メカブの事を()いかけまわして、もう大変だったんだから~」


「えっ?!追いかけてくるの…?!そのカラス…?!」


「ええ~。しかも、すご~く、しつこく、()いかけまわして~、メカブの()を、たっくさん、むしったのよ~?その現場(げんば)は、私も、し~っかり見たんだから~!あれは、ひどかったわ~!ほら!見て~!メカブの背中(せなか)…!この(ひど)い、十円(じゅうえん)ハゲを…!」


 ウタは、そう言って、メカブを()き上げる…。


 すると、メカブの背中や、頭の後ろには、十円玉(じゅうえんだま)サイズのハゲが、いくつもあった…。


「うわぁ…。ひどい十円ハゲ…」


「ほんとだねぇ…」


「これは、ひどいです…!」


 佳奈子と絹代、そしてタマも、そのハゲを見て、メカブをかわいそうに思った…。


「でしょ~?!でも~、連休中って~、動物病院は、お休みだから~、()てもらえないのよね~。…まぁ、(たい)した(きず)じゃないし~、(くすり)も、しっかり()ったから~、もう大丈夫(だいじょうぶ)だとは思うけど~。(ねん)のため~、(しず)かに休ませていたのよ~」


「そうだったんだ…」


 すると、ウタは、また、メカブを、バスケットの中に入れ、ブランケットを(やさ)しく()けた…。


「ほんと、メカブの悲鳴(ひめい)を聞いた時は、驚いたわ~。私~、(いそ)いで助けに、行ったんだから~。…でも~、そうしたら、そのカラス~、今度は、私にも、攻撃(こうげき)してくるようになったのよ~!」


「えっ?!ウタちゃんにも…?!」


 佳奈子は驚く…。


「ええ~!それも、ほんと、しつこいの~!(はじ)めは~、ただのカラスだと思って~、たいして、相手(あいて)になんか、しなかったのよ~?()かって来ても、ちょ~っと、はたき落としただけで~」


 ウタは、そう言って、話を続ける…。


「でも~、そのカラスったら~、異常(いじょう)に、しつこくて~。ずっとついてくるし~、10分()っても、全然、攻撃を()めないの~。だから、だんだん、ガードするのも、めんどくさくなってきて~。もういいや…!(つか)まえちゃえ~!って、護身用(ごしんよう)に持っていた(あみ)を~、バッ…!と、()げちゃった~ってわけ」


 ウタは、身振(みぶ)手振(てぶ)りをつけて、そう話す…。


 佳奈子は、それを聞いて…、


「…う~ん…。気持ちは、()からなくもないけど…。やっぱり、そのカラス…、(しば)って、()るしちゃう、っていうのは、さすがに、やり()ぎだよ…。きっと、無理(むり)やり(つか)まった…、ってだけでも、相当(そうとう)に、(こわ)くて、ストレスになってるだろうし…。それに…、普通、こんな目に()ったら、怖くて、もう追っては来ないと思うよ…?だから、もう、(はな)してあげた方が、いいんじゃないかな…?」


 佳奈子は、そう、ウタに言う…。


 すると、絹代とタマも…、


「ああ、そうした方が、いいよ、ウタ…」


「早く、(はな)してあげた方が、いいです…」


 そう、ウタに言う…。


 しかし、ウタは…、


「それなら~、もう、とっくに、やったわよ~!」


 そう、不満(ふまん)を、あらわにして言う…。


「えっ…?それって、どういう意味…?」


 佳奈子は、言われた意味が、()からなかった…。


「だから~、(おそ)ってくる、その子を(つか)まえて~、拠点(きょてん)から(はな)れた所で、()がしたのよ~。でも~、逃がした途端(とたん)、その子は、すぐに、また、襲ってくるの~!もう、それを、7回はやったわ~!」


「えっ?!7回も…?!」


「ええ~!だから~、もう、ただ()がすのは、(あきら)めたのよ~。ただ逃がしても~、また、すぐに(おそ)って来るだけだから~」


「うわぁ…。まさか、逃がしても、すぐに(もど)ってくるなんて…。それは、(たし)かに、(こま)るなぁ…。…でも…、カラスに(おそ)われない方法は、(しば)って、()るす以外(いがい)にだって、あるんじゃないかなぁ…?」


 佳奈子は、やはり、カラスを()るす事に、賛成(さんせい)ができなかった…。


 すると、ウタは…、


「私だって~、最初(さいしょ)っから、カラスを()るしたわけじゃ、ないのよ~?初めは~、そのカラスを、(だん)ボールの(はこ)に、入れたんだから~。その箱を~、(あと)で、家にいるネネに(あず)けて~、何とかしてもらおう~!って思って~」


 ウタは、そう言って、話を続ける…。


「けど~、そのカラス…、(だん)ボールの(はこ)に入れても~、あっという()に、箱を()(やぶ)って、出てきちゃうのよ~」


「えっ?!うそぉ?!」


残念(ざんねん)ながら、ほんとうよ~?()げた(あみ)も~、(ぬの)(ふくろ)に入れても~、同じように(やぶ)られたの~。だから~、何かに()()める方法は~、(あきら)めるしか、なかったのよ~」


 ウタは、そう言って、話を続ける…。


「でも~、その迷惑(めいわく)カラスを、なんとかしないと~、おちおち料理もできなくって~。しょうがないから~、(つぎ)は~、気絶(きぜつ)させてみたりもしたのよ~。けど、そのカラス~、何度(なんど)、気絶させても~、10秒もしないうちに、目を()ましちゃうのよ~。それで、また、私を()いかけてくるの~。ほんと、とんでもなく、しつこいのよ~、そのカラス~」


「うわぁ…、まさか、そこまでだったとは…。っていうか…、ウタちゃん、カラスを、気絶(きぜつ)させる事が出来るんだ…?」


 佳奈子は驚く…。


「ん~?まぁね~。首の急所(きゅうしょ)を~、トン…!ってするのよ~。あ、でも~、これは、すっごい(むずか)しい(わざ)だから~、素人(しろうと)がやろうとすると~、相手(あいて)の体に、後遺症(こういしょう)が出ちゃったり~、死なせちゃう場合もあるの~。だから~、佳奈ちゃんは、絶対に、やっちゃあダメよ~?」


「う、うん…」


 そう、時代劇(じだいげき)などで、よく見られる、人の急所(きゅうしょ)(たた)いて気絶(きぜつ)させるシーンは、あくまでもフィクションであり、実際(じっさい)にそれをやるのは、大変、危険(きけん)なのである…。


 もしも、実際にそれをやると、成功率(せいこうりつ)よりも、相手に、重い後遺症(こういしょう)が出てしまったり、死亡(しぼう)するリスクの方が、はるかに高い…、と言われている…。


 なので、(わる)ふざけや、おもしろそうだ、なんていう興味(きょうみ)本位(ほんい)で、それを、マネしようとするのは、絶対にやめよう…!



「けど…、(だん)ボールに入れるのもダメで、気絶(きぜつ)させるのもダメだったんだ…。なんか、とんでもないね…、そのカラス…」


 佳奈子は、目の前にいる、カラスの評価(ひょうか)(あらた)めた…。


「でしょ~?こんなに、(うら)みがましいカラスは~、私も、初めて会ったわ~」


 ウタも、(こま)ったように、カラスを見る…。


「…ウタちゃんの話どおりなら…、そのカラス…、どう考えても、普通(ふつう)じゃないよね…。…もしかして…、何かの妖怪(ようかい)が、カラスに()けて、いたりして…」


 佳奈子は、そう思い、(あば)れるカラスを見る…。


 すると、ウタが…、


「私も、(はじ)めは~、そう思ったわ~。けど~、そのカラスからは~、全然、妖気(ようき)を感じないの~。それに~、(ほか)姿(すがた)になったりもしないし~、しゃべったりもしないから~、やっぱり、カラスなんだと思うわ~。普通じゃないけど~」


「…そっか…。世の中には、とんでもないカラスが、いるんだね…」


 佳奈子は、まだまだ世界は、知らない事ばっかりだな…、と、思った。


「そうね~。…けどまぁ、そういうわけで~、そのカラスは、もう最終(さいしゅう)手段(しゅだん)で~、仕方(しかた)な~く、そこに()るしてあるの~。そうやって、(あば)れさせておけば~、そのうち、(つか)れて、ぐったりするでしょ~?そうすれば、すぐには、追って来れないだろうし~、そのあと~、(とお)くに()いてこればいいや~って思って~」


 ウタは、そう説明を終えた…。


 事情(じじょう)を聞き終わったタマは…、


「…う~ん…。この状況(じょうきょう)は、絶対、()くないとは思いますけど…、そのカラスに、ずっと()いかけられるのも、イヤですしねぇ…」


 そう、複雑(ふくざつ)な顔で言う…。


 それを聞いた佳奈子も…、


「そうだね…。まさか、そんな事情(じじょう)があったなんて…。…けど…、そのカラス、ちゃんと、逃がすつもりが、あったんだね…。そこだけは、安心したよ~。てっきり、包丁(ほうちょう)なんか()いでるから、今から、そのカラス、食べるつもりなのかと、思っちゃった…。けど…、冷静(れいせい)に考えてみれば、カラスを食べるなんて、ありえないよね~」


 佳奈子は、そう言って笑う…。


 しかし、ウタは…、


「え~?そんな事ないわよ~?ごくわずかだけど~、カラス料理を出している、お店もあるし~。私も~、食糧難(しょくりょうなん)の時代には~、カラスを、たま~に食べたわ~」


「えっ…?!うそっ…?!カラスって、食べられるの…?!」


 佳奈子は驚く…。


「そうよ~?だから~、そのカラスも~、食べちゃおうかな~?って、一度だけは、思ったわ~」


「ええっ…?!」


「だって~、そのカラス、しつこいから~、相手(あいて)をしてるの、(つか)れちゃったんだもの~。だから~、もう、ここで(さば)いて~、(なべ)具材(ぐざい)にしちゃおっかな~?って思ったの~。そうすれば~、この迷惑(めいわく)カラスも~、お(ひる)のごはんに大変身(だいへんしん)~!みんなの、お(なか)(ふく)れるし~、面倒事(めんどうごと)解決(かいけつ)できて~、一石(いっせき)二鳥(にちょう)かも~?!って思って~」


「わ、私たちの、ごはんに…?!」


「けど~、それは、時間的に、無理(むり)だな~って、すぐに気づいたわ~。野生(やせい)の動物って~、病原菌(びょうげんきん)とか~、ウイルスとか~、寄生虫(きせいちゅう)なんかを、持っている事があるから~、安全に(さば)くのが、大変なのよね~」


「そ、そうなの…?」


「ええ~。(さば)く時には~、危険な(きん)が、(まわ)りに、うつらないように~、気をつけながら(さば)かないといけないし~。その(さば)いた肉も~、しっかりと、火を(とお)して食べないと~、食中毒(しょくちゅうどく)()こす、危険があるのよ~。だから~、野生の動物の肉を~、(なま)で食べたり~、しっかり火を(とお)さないで食べちゃうと~、最悪、食中毒で~、死んじゃう場合もあるのよ~?」


「ええっ…?!そうなんだ…?!」


 そう、(たと)えば…、人間が(そだ)てている家畜(かちく)は、人が、衛生(えいせい)管理(かんり)をしているので、危険な(きん)を持っていない…。


 しかし、野生(やせい)の動物は、そうではないので、危険なウイルスなどを、持っている可能性があるのだ…。


 ちなみに、野生の動物肉は、「ジビエ」とも呼ばれている。


 日本には、ジビエを販売(はんばい)している場所もあり、そういった所では、衛生(えいせい)管理(かんり)徹底(てってい)されている。


 けれど、たとえ徹底(てってい)した衛生管理のもとで、(さば)かれたものであっても、ジビエを、(なま)や、加熱(かねつ)不十分(ふじゅうぶん)状態(じょうたい)で食べる事は、危険だと言われている。


 ジビエを食べる場合は、適切(てきせつ)な方法で処理(しょり)をし、肉の中心部まで、75℃で、一分以上、加熱(かねつ)することが不可欠(ふかけつ)だとされているのだ。


 ちなみに、ジビエ料理店で提供(ていきょう)される料理というのは、そうした処理(しょり)過熱(かねつ)が、しっかりとされているので、安全に食事を楽しむことが出来る。


 それと、ジビエ料理店で使われている、「食用(しょくよう)のカラス肉」というのは、都会(とかい)のカラスではなく、農作物(のうさくぶつ)()らすなどして駆除(くじょ)された、里山(さとやま)のカラスだという…。


 近年(きんねん)は、その駆除(くじょ)したカラスを、「ただ処分(しょぶん)するのではなく、命を無駄(むだ)にしない(ため)にも、少しでも、活用(かつよう)できるようにしたい…」…そう、考える人が、多いらしく、カラス肉への関心(かんしん)は、高まっているそうである。



「そういうわけで~、そこの迷惑(めいわく)カラスを(さば)くのは~、とっても大変で~、時間がかかるのよ~。だから~、お(ひる)には、()に合わないな~、って、気づいたの~。それで~、仕方(しかた)な~く、カラス料理は~、(あきら)める事にしたのよ~」


 ウタは、そう、残念(ざんねん)そうに言う…。


 それを聞いた佳奈子は…、


「う~ん…。食べずに()んで、よかったような…。ちょっと、()しかったような…。複雑(ふくざつ)な気分…。…けど…、カラスって、(つか)まえて、食べても、いいものだったんだね…。知らなかった…」


 佳奈子が、そう素直(すなお)に言うと、ウタが…、


「あ、でもね~、(だれ)でもカラスを、(つか)まえていいわけじゃ、ないのよ~?」


 そう、注意(ちゅうい)をする…。


「えっ…?」


「あのね~、ドブネズミみたいな~、一部(いちぶ)例外(れいがい)はあるけど~、原則(げんそく)~、(すべ)ての野生(やせい)動物は~、許可(きょか)なく、(つか)まえたり~、(ころ)したり~、(きず)つけたりしちゃあ、いけないって~、法律(ほうりつ)()まってるの~」


「!法律で…」


「だから~、カラスを(つか)まえるには~、県知事(けんちじ)許可(きょか)とか~、狩猟(しゅりょう)免許(めんきょ)とか~、狩猟者(しゅりょうしゃ)登録(とうろく)なんかが~、必要になるのよ~?」


「へぇ~。そうだったんだ~。…あれっ…?じゃあ、今、そこで、カラスを(つか)まえてるのって…、もしかして…、犯罪…?!ど、どうしよ~!」


 佳奈子は(あわ)てる…。


 しかし…、


「うふふ~!大丈夫(だいじょうぶ)だから~!安心して~!佳奈ちゃん…!私は、狩猟(しゅりょう)免許(めんきょ)を持ってるし~、登録(とうろく)もしているの~。だから~、私が、カラスを(つか)まえて食べても~、大丈夫なのよ~!」


 ウタは、そう、自信(じしん)満々(まんまん)に言う…。


「あ、な~んだ、そうだったの…?よかった~。…って、ウタちゃん、狩猟(しゅりょう)免許(めんきょ)なんか持ってたの…?!」


 佳奈子は、驚く…。


「ええ~。私だけじゃなくて~、タマも、ネネも、(きぬ)さんも~、ちゃ~んと免許(めんきょ)を持ってるわ~。ね~?」


 ウタは、そう、タマに聞く…。


「はい…!だから、私たち、町で、イノシシや、(くま)なんかの被害(ひがい)が出た時には、お手伝(てつだ)いに、行ってるんです…!」


 タマは、そう元気に答える…。


「そ、そうだったんだ…」


 佳奈子は、知らなかった事実に、驚きを(かく)せない…。


 しかし、そこへ…、


「…いいや…、全然(ぜんぜん)大丈夫(だいじょうぶ)じゃないよ、ウタ…」


 そう言って、絹代が、(きび)しい顔で、()って入った…。


(?おばあちゃん…?)


 佳奈子は、いつになく、(きび)しい顔つきの絹代を見て、不思議に思う…。


「?大丈夫じゃないって、何が~?」


 ウタも、絹代の態度(たいど)を、不思議に思いながら、聞き返す…。


 すると、絹代は…、


「…食べてもいいカラスは…、合法的(ごうほうてき)に、捕獲(ほかく)がされたものだけだよ…、ウタ…」


 絹代は、そう、重々(おもおも)しい声で言う…。


「?だから~、私たちは、免許もあるし、登録もしてるから~、とっても合法的(ごうほうてき)に~、カラスを(つか)まえてるでしょ~?」


 そう、ウタは言う…。


 しかし…、


「…いいや…」


 絹代は、なおも、重々(おもおも)しい声で言う…。


「?どういう事~?」


 ウタは、さっぱり()からず、眉根(まゆね)()せる…。


「…(なさ)けない事に、アタシも、ついさっきまで(わす)れていたよ…」


「?」


「…(たし)かに、カラスを(つか)まえるには、狩猟免許と登録が必要だ…。だが、それだけじゃ、()りないだろう…?」


「えっ…?」


「…(ほか)にも…、狩猟期間(きかん)や、狩猟区域(くいき)(りょう)の方法なんかも、決められていただろう…?」


「!そうだったわ~!」


 ウタは、しまった…!…という顔をする…。


「…それに…、日本で狩猟(しゅりょう)してもいいカラスは、3種類だけだ…。(ほか)のカラスは、狩猟が(ゆる)されていない…」


「!そうだったわ~!それも忘れてた~!ど、どうしよう~?!」


 ウタは、(はげ)しく(あわ)てだす…。


「えっ…?!えっ…?!どういう事…?!一体(いったい)、なんでそんなに(あわ)ててるの…?!ちょっと、解説(かいせつ)、お願い…!おばあちゃん…!」


 佳奈子は、そう、絹代に(たの)む…。


「…はぁ…、(たし)かに、佳奈子にも、知っててもらう必要があるね…。わかったよ…。…つまりだ…、カラスなんかを(つか)まえる為には、免許や、登録の(ほか)にも、決められた条件(じょうけん)を、()たす必要があるんだよ…」


 絹代は、そう言って、解説(かいせつ)をする…。


「決められた条件…?」


「ああ…。たとえば…、狩猟(しゅりょう)をしてもいい、「期間(きかん)」や「区域(くいき)」ってのが、()められているんだ…。だが…、今は、狩猟(しゅりょう)をしても、いい期間じゃあ、ないんだよ…」


「えっ…」


「それに…、たとえ自分の土地であったとしても、狩猟(しゅりょう)の許可は必要なんだが…、そもそも、この山では、狩猟(しゅりょう)を、禁止(きんし)しているんだ…。だから、ここは、「狩猟(しゅりょう)区域(くいき)」じゃあ、ないのさ…」


「ええっ…」


(ほか)にも、(りょう)の方法なんかも、決められているんだが…、それらの条件(じょうけん)()たした上でも、(つか)まえてもいいカラスってのは、3種類だけなんだ…。…日本には、その3種類以外にもカラスがいるが…、それは、(つか)まえちゃあ、いけないんだよ…。…アタシは、あんまり、カラスには、(くわ)しくないんだが…、そのカラスは、その3種類じゃあ、ないような気がするね…」


「ええええええ~っ…!じゃ、じゃあ、今の状態(じょうたい)って、どういう事になるの…?!」


 佳奈子は、うろたえながら聞く…。


「…犯罪(はんざい)…、って事になるかもね…」


「ひっ…!」


「…たとえ、野生(やせい)動物に(おそ)われた場合であっても、そいつを許可(きょか)なしに、(つか)まえたり、(きず)つけたりすると、(つみ)になる可能性があるんだ…」


 絹代は、そう言って、話を続ける…。


「…なのに、アタシたちは、今、その(つか)まえちゃいけないカラスを(つか)まえて…、なおかつ、それを、()るした状態(じょうたい)で、(よわ)らせようとまでしている…。…こりゃあ、逮捕(たいほ)される可能性もあるね…」


「い、イヤああああああ~!!!」


 佳奈子は、(ふる)えだし、蒼白(そうはく)になって、(さけ)ぶ…。


 その、心からの恐怖(きょうふ)の声は、風に乗り、山に(ひび)いていったのだった…。





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