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27. 伝説・外伝


飛立山(とびたちやま)伝説は、お前も知っての通り、天降女(あもれおなぐ)櫻未(さくらび)さまと、彼女を式神(しきがみ)にしていた、陰陽師(おんみょうじ)伊氏(これうじ)とを中心にしたお話だ。一方、その外伝(がいでん)は、2人の(まわ)りにいた村人たちや、村に(かかわ)りをもつ妖怪たちを中心にしたお話なのさ」


 絹代(きぬよ)は、(まご)の佳奈子に、話をねだられ、外伝の説明をする。


「さっきも言ったが、外伝は長いからね…。今は、あらすじしか、言う気はないよ?それでも、けっこう長いんだけどね…」


「うん。お願い…!教えて…?」


 佳奈子は、絹代にお願いする。


「ああ、わかったよ…」


 絹代は、仕方ない、といった感じに、承諾(しょうだく)する。


 すると、そこへ、タマが話しかけてきた。


「あ…!じゃあ、私はその間、そっちで、()い物をしていてもいいですか…?なんだかリュックの、(かた)のベルトの()け根が、(やぶ)れそうになっていて…。ちょっとですから、すぐに(なお)せると思うんですけど…」


 そう言ってタマは、破れそうな付け根を見せる。


「ああ、ホントだね…。破れたら大変だから、直せるんなら、直しちまいな」


「はい…!じゃあ、あっちで、ちょっと、直してきますね…!」


 そう言ってタマは、少し離れた岩の上に座った。


「…んじゃ、アタシたちは、外伝の話をしようかね…」


「うん…!お願い…!」


 佳奈子は、再びお願いした。


「ああ。…話のあらすじはこうさ…。強欲(ごうよく)傲慢(ごうまん)な陰陽師の伊氏(これうじ)は、櫻未(さくらび)さまを使って、周辺にいる妖怪たちを(つか)まえて、その捕まえた妖怪たちを、売り(はら)ったり、虐待(ぎゃくたい)したりして、苦しめていたんだ…。…まぁ、それは妖怪に(かぎ)った話じゃなくて、人間に対しても、だったんだけどね…」


 絹代は、苦々(にがにが)しげに話す…。


「…うん…。それは知ってる…。そのことは、伝承(でんしょう)の本編にも書いてあったから…」


 佳奈子は、伝承が書かれた、本を思い返す。


「ああ…、そうだったね…。…けど外伝では、その傲慢(ごうまん)伊氏(これうじ)に対して、強い怒りを持った、櫻未(さくらび)さま以外のヤツらが出てくるんだ」


櫻未(さくらび)さま以外…?…たしか、村の人たちも、(ひど)い目に()ってたんだよね…?」


「ああ…、村人たちも、伊氏(これうじ)虐待(ぎゃくたい)をされていた…。だが、それ以上に、妖怪たちが怒っていたんだよ…。それも、大妖怪を怒らせちまったんだ…、伊氏(これうじ)は…」


「大妖怪…?」


「ああ…。伊氏(これうじ)のヤツが、夜の(あか)りになる妖怪を、集めていたのは知ってるね…?」


「あ、うん…。…たしか、その妖怪たちも、櫻未(さくらび)さまに命令して、虐待(ぎゃくたい)していたんだよね…?」


 佳奈子は、不快(ふかい)になりながらも、話を思い返す。


「ああ…。そして、その中に、(きつね)の妖怪…、妖狐(ようこ)がいたんだよ…」


妖狐(ようこ)…。あっ、そうか…。(きつね)の妖怪は、狐火(きつねび)っていう、火が(とも)せるっていうもんね…」


「ああ、そうだ」


 絹代は、うなずく。


 妖狐(ようこ)とは、様々な能力を持つといわれる、キツネの妖怪である。


 幻術(げんじゅつ)催眠術(さいみんじゅつ)を使ったり、「狐火(きつねび)」と呼ばれる、火を(とも)したりも出来るほか、人間や他の動物、無生物(むせいぶつ)にも、姿を変えることが出来ると言われている…。


 また、妖狐(ようこ)は、非常に長生きするとされており、歳を(かさ)ねるごとに()の数が増え、力を()すと言われている…。


「だから、その「狐火(きつねび)」を、夜の(あか)りにする為に、伊氏(これうじ)は、その妖狐(ようこ)も、(つか)まえたのさ…。その妖狐(ようこ)は、まだ、子供だったっていうのにね…。しかも、母親と一緒に捕まえたんだ…。その妖狐(ようこ)の親子は、この地を通りかかった時に、運悪(うんわる)く、伊氏(これうじ)に見つかったのさ…。別に、なんにも、悪さをしてなかったのにね…」


「…なにも悪いことをしてない妖怪を、無理やり(つか)まえるなんて、(ひど)いよ…」


 この世界の妖怪の多くは、人間の言葉を、理解する知能があり、そのほとんどは、人に無害(むがい)なのである…。


「ああ。しかも、性悪(しょうわる)伊氏(これうじ)は、その(つか)まえた子供と母親を、わざと引き(はな)したんだ…。子供を自分の手元に置いて、母親の方を人買いに売り(はら)ってね…」


(ひど)い…!ホントに酷いヤツだね…!伊氏(これうじ)は…!」


 佳奈子は、怒りがこみ上げる。


「ああ。外伝には、櫻未(さくらび)さまが、そんな悪事の片棒(かたぼう)(かつ)がされて、毎度、涙を流していたと書かれているよ…」


「…櫻未さま…、かわいそう…」


「ああ…、ホントにね…。…けど、その妖狐(ようこ)の母親は、売られる途中(とちゅう)に、仲間の妖怪に助けられるんだ…」


「あっ、そうなの…?よかった~!」


「ああ。そして、その母親の妖狐(ようこ)は、(つか)まっている自分の子供を助けてくれと、自分の父親に、(たの)みに行ったんだ…。それで、その父親ってのが、なんと、あの大妖怪の九尾(きゅうび)だったのさ…」


九尾(きゅうび)…?!九尾って、あの九尾の(きつね)…?しっぽが9本あるっていう…?!」


 九尾(きゅうび)(きつね)とは、絶大(ぜつだい)な力をつけた、妖狐(ようこ)のことである。


 キツネの妖怪、妖狐(ようこ)は、歳を(かさ)ねるごとに()の数が増え、力を()すといわれるが、その()が、9本になるまで成長した妖狐(ようこ)は、「九尾(きゅうび)」と呼ばれ、神にも近い力を持つと言われている…。


 また、九尾は、非常に聡明(そうめい)とされており、圧倒的(あっとうてき)な知識と策略(さくりゃく)をも、持っているといわれている…。


 ちなみに、九尾は、美しい姿をしていることでも有名である。


「じゃあ、(つか)まえられた、子供の妖狐(ようこ)って…」


「ああ…。九尾の(まご)だったってわけさ」


「大妖怪の孫…」


「しかも、九尾が大層(たいそう)かわいがってた(まご)らしくてね…。九尾たちキツネ族は、そりゃあ、もう、怒ったらしい…。「おのれ…!クソ人間どもが…!なんて汚い奴らだ…!あの子を助けなくては…!あの村に、(なぐ)()みじゃあ~!」…ってな具合(ぐあい)にね…」


「うわぁ…。…不当(ふとう)な暴力は、許しちゃいけないけど…、九尾たちの、その気持ちは、私にも()かるなぁ…。私だって、もしも大事な家族が、伊氏(これうじ)みたいな悪いヤツに拉致(らち)されて、そいつの奴隷(どれい)にされたうえ、虐待(ぎゃくたい)なんかされてたら、絶対、奪還(だっかん)しに行きたいって思うもん」


 佳奈子は、弟の颯太(そうた)が、そうされている状況を思い浮かべる。


 颯太が「お姉ちゃん…。助けて…」と泣いている状況を…。


「ああ。アタシもそう思う…。…だが、知略(ちりゃく)にすぐれた九尾は、すぐには(なぐ)り込みに行かなかった」


「えっ?!そうなの…?!」


「ああ…。こういうのは、(わな)の可能性もあるからね…。自分を(おとしい)れるための…。櫻未(さくらび)さまが(つか)まった時の話を、思い出してごらん…?」


「えっ…?あっ!そっか…!櫻未(さくらび)さまは、友達のウサギの妖怪を助けようとして、(わな)にかかって、(つか)まっちゃったんだ…」


 佳奈子は、伝承を思い出す…。


 そうして、罠にかかった櫻未さまは、友人や仲間を傷つけるよう、伊氏(これうじ)に命令されて、逆らうことが出来なかった…。


「そう…。もしも助けに行って、逆に自分が(つか)まってしまったら、被害(ひがい)は、さらに大きくなる…。今度は自分を助けるために、別の家族のだれかが、(つか)まってしまうかもしれない…」


「!そっか…」


 佳奈子は想像する…。


 もしも佳奈子が、(とら)われている颯太(そうた)を助けに行って…、


「助けに来たよ…!颯太(そうた)…!今、出してあげる…!」


 そう言って、助けようとした途端(とたん)、佳奈子は、仕掛(しか)けられていた(わな)()んでしまう…、


 すると、地面に(かく)されていた(あみ)()ね上がって…、


「きゃ~っ!」


 佳奈子は、(あみ)()らわれ、()り上げられてしまう…。


「な、なにこれ~!助けて~!」


 佳奈子は、(あみ)の中でもがく…。


 すると…、


「大丈夫…?!颯太(そうた)…!佳奈子…!助けに来たわ…!」


「えっ…?!お母さん…?!」


 なんと、母の昭子(あきこ)が、フライパンを持って助けに来たのだ。


 しかし…、


「きゃ~っ!」


 母の昭子(あきこ)も、同じ(わな)にかかって、()り上げられてしまう…。


 すると今度は…、


「大丈夫か…?!颯太(そうた)…!佳奈子…!昭子(あきこ)…!助けにきたぞ…!」


「えっ…?!お父さん…?!」


 なんと今度は、父の幾太郎(いくたろう)が、助けに来たのだ。


 父は、その手に、()()のついた、細長い鉄板(てっぱん)のようなものを持っている…。


「お父さん、その手に持ってるのは、まさか…!」


「ああ。たい焼き機だ。一度に5匹焼ける…。そんな事より、お前たち、すぐに助けてやるからな…!まってろ…!」


 しかし…、


「うおぉ~っ?!な、なんだこれは~?!」


 父の幾太郎も、同じ(わな)にかかって、()り上げられてしまう…。


 そうして、佳奈子たち家族は皆、()り上げられて、(あみ)の中で「出せ~!」と、もがく…。


 すると…、


「ケケケケケ…!うまくいった…!こいつらを利用すれば…。ケケケケケケケ…!」


 そう言って、悪者(わるもの)たちが笑うのだった…。



「………。それはマズいよ…。次はきっと、おばあちゃんだ…。それで、その次は、おじいちゃんで、その次は、タマちゃん…、その次は…!」


 佳奈子は、広がっていく被害(ひがい)を想像する…。


「こら!佳奈子…!勝手(かって)にアタシが(つか)まるって、決めつけるんじゃないよ…!」


 絹代は、佳奈子の考えを見抜(みぬ)いて怒る。


「えっ?!あっ…!ごめん…。そうだよね…。おばあちゃんが、そう簡単(かんたん)(つか)まるはず、ないもんね…。よかった~!」


 佳奈子は、ホッ…と安心する。


「まったく…。だが、お前にも、()かるだろう…?そうなったら、マズいって…。だから、慎重(しんちょう)な九尾は、そうならないよう、情報を集めることにしたんだ…。これは、自分たちを(おとしい)れるための(わな)なのか…。それを調べたうえで、(なぐ)り込みに行くためにね…」


「おお~!なるほど~!」


 佳奈子は、感心する。


「キツネ族は、すぐに動いて、情報を集めた…。すると、伊氏(これうじ)のヤツが、櫻未(さくらび)さまを使って、夜の(あか)りになる妖怪を集めていることが、すぐに()かったんだ…。すでに、伊氏(これうじ)悪名(あくみょう)は、世間に、知れ(わた)っていたんだよ…」


「うわぁ…。いやだ~。そんな先祖(せんぞ)…」


「ああ…。アタシもだよ…。だが、そんな先祖ばっかりじゃない。立派なご先祖さまだっていたんだ…。その事を忘れるんじゃないよ…」


「あ、うん…。そうだよね…」


 佳奈子は、気分(きぶん)を持ち(なお)した。


「…話が少しそれたね…。外伝(がいでん)の話に戻すよ」


「あ、うん…!」


「そうしてキツネ族たちは、伊氏(これうじ)の情報を知った…。火属性の妖怪を集めている事や、式神(しきがみ)として、天降女(あもれおなぐ)櫻未(さくらび)さまを(したが)えていること…、交渉(こうしょう)を、まともにするべき相手じゃ、ないって事をね…」


 絹代は、静かな声で話を続ける。


「だが、キツネ族たちが、一番知りたかったのは、拉致(らち)された子供の、安否(あんぴ)だったんだ…。当然だね…。いざ、助けに行ったとき、その子に、解除(かいじょ)不能(ふのう)(じゅつ)でもかけられていたら、大変なことになるからね…」


「解除不能の術…?…ハッ…!それって、つまり…」


 佳奈子は、その状況を想像する…。


「助けに来たよ…!颯太(そうた)…!」


「父さんも来たぞ…!」


「お母さんもよ…!もう大丈夫だからね…!颯太…!」


 そう言って、佳奈子たち3人は、(とら)われている颯太(そうた)(もと)にたどり着く…。


 しかし…、


「お前たち…!そこを動くな…!動けば、そいつに()けている爆弾(ばくだん)を、爆発(ばくはつ)させるぞ…!」


 そう、悪者(わるもの)たちが言う。


「なっ…?!爆弾(ばくだん)…?!」


 見ると、颯太(そうた)の体には、なんと爆弾が巻き()けられていたのだ…。


「ケケケケケ…!その爆弾は、お前たちじゃ、解除(かいじょ)できないぞ~!爆弾を爆発(ばくはつ)させられたくなかったら、おとなしく、(つか)まりな~!ケ~ケケケケケ…!」


「くっ…!くっそ~!」


 そうして、佳奈子たち3人は、動けなくなり、悪者(わるもの)たちに、次々と(つか)まってしまうのだった…。


「………。それはマズいよ…」


「あ?」


 佳奈子のつぶやきに、絹代が反応する。


「次はきっと、おばあちゃんだ…。それで、その次は、おじいちゃんで、その次は、タマちゃん…、その次は…!」


「~~~っ!佳奈子~!」


 ゴチン…!


 佳奈子の頭に、鉄拳(てっけん)が落とされた…。


「~~~っ!」


 佳奈子は痛みで、うずくまる…。


勝手(かって)に人を(つか)まるって、決めつけるんじゃないって、言っただろうが…!いいかげんにしな…!」


 絹代は、そう言って怒る。


「うう~っ…。ごめんなさい…」


 佳奈子は、素直(すなお)にあやまった…。


「まったく…!次、同じことを言ったら、ただじゃおかないよ…!」


「はぁい…」


 佳奈子は、再びあやまった…。


「はぁ…。で、どこまで話したっけ…?()からなくなっちまったよ…」


「…キツネ族が、拉致(らち)された子供の、安否(あんぴ)を知りたがってた、ってところまでだよ…。解除不能の術が、かけられている可能性もあるからって…」


「ああ…。そうだったね…。じゃあ、続きを話すよ。…キツネ族たちは、子供の状況を知りたかった…。だが、さすがにそこまでは、外には聞こえてこなかった…。だから、内部の情報を知るために、伊氏(これうじ)の元に、密偵(みってい)を送り込むことにしたんだよ…」


「ええっ?!密偵(みってい)…?!それって、スパイのことだよね…?!うわぁ~!なんかドキドキしてきちゃった…!外伝って、そんなお話だったんだ~!」


 佳奈子は少し、わくわくする。


 それもそのはず、佳奈子は、スパイ映画が、結構(けっこう)、好きなのだ。


 この1970年には、すでに、スパイ・アクション映画として有名な、あの「007シリーズ」が、日本で、6作品も上映(じょうえい)されており、大ヒットしていたのだ。


 ちなみに、1967年に公開された映画「007は二度死ぬ」は、日本を舞台(ぶたい)としていることで、有名である。



「ああ。この外伝は、正義のスパイが、活躍(かつやく)する話だよ。んじゃ、話の続きに戻っていいかい…?」


 絹代は、佳奈子に聞く。


「うん…!早く、続きを聞かせて…!」


「ああ、わかったよ…。…九尾たちは、情報を得るために、密偵(みってい)を送り込むことにした…。けど、その事に伊氏(これうじ)が気づいてしまったら、その密偵の命が危ない…。しかも、これは、キツネ族を(おとしい)れるための(わな)かもしれない…。その可能性を考えた九尾は、キツネ族以外の妖怪に、伊氏(これうじ)屋敷(やしき)の、内部調査を(たの)んだんだ…。キツネ族との(かかわ)りが、すぐには()からない妖怪にね…」


「キツネ族以外の妖怪…?」


「ああ。この伝承の本編を読んだとき、おかしいと思ったところはなかったかい…?」


 絹代は、そう聞いてくる。


「えっ?おかしいところ…?う~ん…。特には、思いあたらないけど…」


 佳奈子は、話を思い返すが、特に、変だと思ったところはなかった…。


「はぁ~。まったく、お前は…、退魔師だってのに、妖怪の知識が()りないねぇ…。本編で、櫻未(さくらび)さまが、火属性の妖怪に、水をかけるよう、伊氏(これうじ)に命令されていた場面があったろう…?」


「えっ?あ、うん…。それはもちろん(おぼ)えてるよ…?…(ひど)い話だよね…。火属性の妖怪に、弱点の水をかければ、弱って、(きず)になるかもしれない…。(ひど)ければ、死んじゃう事だってあるのに…」


「ああ…。だが、火属性の妖怪の中には、雨の日を好んで動き回る火の玉みたいに、水に耐性(たいせい)を持つヤツらもいる…。だが、天降女(あもれおなぐ)の作り出す水は、普通の水とは違う…。だから、よっほどの水耐性(たいせい)がなければ、体には(がい)がでちまう…」


 絹代は、そう妖怪について話す。


「そして、そのことには、九尾も気づいていたんだよ…。内部調査するために、伊氏(これうじ)が欲しがっている、火属性の妖怪を送り込むにしても、天降女(あもれおなぐ)櫻未(さくらび)さまがいる(かぎ)り、命の危険性が高いってね…。だから、九尾は、送り込む密偵の安全も考えて、火属性と水属性、両方を、持っている妖怪に、調査を頼んだんだ…」


「えっ?!火属性と水属性、両方を、持っている妖怪…?!そんなのいたっけ…?…一体だれのこと…?」


 佳奈子は考えるが、()からない…。


「はぁ~。ここまで言ってもわからないか…。佳奈子、お前は、退魔師なんだから、もっと妖怪について勉強しな…!」


「うっ…。ごめんなさい…。…それで、一体、だれなの?その妖怪って…」


「はぁ…。仕方ない、教えてやるよ…。…ブナガヤさ…」


「ブナガヤ…?あっ…!そうか…!ブナガヤって、火を使う妖怪なのに、普段は、川底(かわぞこ)に住んでるんだっけ…?!しかも、水の上を歩いたりもできる…。だから、火属性なのに、水属性…!そういうことか~!」


 佳奈子は、納得(なっとく)する。


 ブナガヤは、赤い髪をした、人間の子供のような姿をした妖怪である。


 平和と自然を愛し、森を守る存在とされ、自然環境がいい、森の奥で暮らしている…。


 釣りが大好きで、いたずら好きの妖怪である。


 ブナガヤは、普段、森にある川底(かわぞこ)に住んでいて、保護色(ほごしょく)で、姿を(かく)しているといわれている。


 そのため、川底で眠っているブナガヤの姿は、人に見えないので、川に遊びにきた人が、あやまって、寝ているブナガヤを()んでしまうことがある…。


 すると、ブナガヤは怒って、「ブナガヤ火」と呼ばれる火の玉を放ち、その相手に仕返(しかえ)しをして、ヤケドをさせてしまうと言われている…。


 しかし、自分たちや、森に危害が加えられない(かぎ)り、ブナガヤは、普段、とても(おだ)やかで、優しい性格の妖怪だと言われている。


 普段は、人間を(がい)することがないどころか、漁師(りょうし)に、大漁(たいりょう)をもたらしてくれたり、材木を運び、家を作る手助けをしてくれたり、ケガした人や、漁師(りょうし)背負(せお)って、水面を歩き、運んでくれたりもするなど、(こま)った人を助けてくれた、という伝承は多い…。



 そんなブナガヤは、さまざまな能力を持っている。


 有名なのは、ブナガヤ火と呼ばれる、火を(はな)つ能力だが、川底(かわぞこ)に住み、水辺(みずべ)での生活を愛するブナガヤは、水辺の清らかさを守る、水の守り神としても知られている。


 そのため、浄化(じょうか)の能力や、治癒(ちゆ)の能力を持っているともされ、ケガや病気を、(なお)すことが出来ると言われている。


 また、水面を歩くことができ、さまざまな姿に変わることもできる。


 さらに、怪力(かいりき)を持っていることでも有名である。


 他にも、森で、人を(まよ)わす幻覚(げんかく)の能力や、植物の成長を助ける力、さらには予知能力までも、持っていると言われている…。



「…考えてみると、ブナガヤって、すごい妖怪だよね…」


 佳奈子は、つぶやく。


「そりゃそうさ。沖縄では、ブナガヤは、精霊(せいれい)として、今も信仰(しんこう)されてるんだから」


 絹代が、当たり前のように言う。


 そう、妖怪には、精霊や、神様のお使いと呼ばれる者や、ずばり、神様そのものとして、(まつ)られている者がいるのである。


 日本では、妖怪と、神様との境界(きょうかい)は、とても曖昧(あいまい)だ。


 たまに、恩恵(おんけい)を与えるのが神で、(わざわ)いをもたらすのが妖怪だ、と言う人がいる…。


 しかし、妖怪の中には、座敷(ざしき)わらしのように、(ふく)を与えてくれる存在もいる…。


 そして、神の中には、貧乏神(びんぼうがみ)や、疫病神(やくびょうがみ)のように、人々に(わざわ)いをもたらす存在もいるのだ…。


 ただし、貧乏神や、疫病神は、丁重(ていちょう)(まつ)ることで、災いを退(しりぞ)けてくれる、福の神に変わる…、と言われている。


 つまり、妖怪も神も、人間に対して恩恵(おんけい)を与えることもあれば、災いをもたらすこともあるのである…。


 そのため、妖怪と神との線引きは、とても難しいのだ…。


 さらに…、かつて人々に信仰(しんこう)されていた神が、信仰を失い、妖怪と見なされるようになることもある…。


 逆に、人々が、特定の妖怪を、(おそ)(うやま)うようになって、妖怪が、神として(まつ)られることもある…。


 その時代、時代によって、妖怪への見方は、大きく変わっているのである…。



「…そっかぁ…、ブナガヤは、精霊信仰されるくらい、すごい妖怪なんだね…。九尾は、そんなブナガヤとも(した)しかったんだ…?調査を、依頼するくらいだもんね…?けど、九尾とブナガヤが(した)しかっただなんて、全然知らなかったよ…」


 佳奈子は、少し驚く。


「ああ。九尾は、知略(ちりゃく)(すぐ)れた妖怪だからね…。あらゆる事態(じたい)を想定して、他種族の妖怪や、人間たちとも、交友関係を作っていると言われているよ…」


 絹代は、この世界の、九尾情報を語る。


「…それって、なにかあった時のために、友達を作ってるってこと…?…なんだかなぁ…」


 佳奈子は、微妙(びみょう)な気分になる…。


「ん…?」


「だって…、友達って、なにかの保険で作るものじゃないよね…?ただ、一緒にいると、楽しいから、友達になるんじゃないの…?」


 佳奈子は、そう思う…。


「もちろん、それが一番さ。ただ、そんなに気が合わなくとも、つきあいをする必要もある…。そういうのは別に、悪いことじゃないんだよ…。たとえば、洪水(こうずい)とかの災害(さいがい)が起こった時や、不審者(ふしんしゃ)がうろついていた時なんかに、自分の被害を防ぐためにも、その情報を教えてもらえるように、近所(きんじょ)づきあいを、しといた方が、安全だろう?」


「えっ…?あっ、な~んだ…、そういうことかぁ~」


 そう、ご近所づきあいや、ママ友たちの関係が、まさにそれと言えるだろう。


 お(たが)いに、情報交換をしあって、地域で、災害が起こったときの対策(たいさく)や、防犯(ぼうはん)意識を高める、大変、有益(ゆうえき)な協力関係である。


 けれど…、ママ友や、ご近所づいあいは、つき合うのが苦しいとか、イヤで仕方ないとか、悩んでいる人が多いとも聞く…。


 価値観(かちかん)が合わない人たちと、無理に仲良くしようとすると、些細(ささい)な事がきっかけで、トラブルに発展(はってん)する事もあり、精神的な、ストレスになる事もある…。


 そして過度(かど)なストレスは、精神的な(やまい)を引き起こすだけでなく、その人の体の、血流(けつりゅう)を悪くしたり、免疫力(めんえきりょく)を低下させて、肉体的な、様々な病気を引き起こすことでも知られている…。


 そうやって、大きな病気にかかってしまえば、仕事や、日常生活が、ままならなくなってしまう…。


 これからの生活を考えれば、健康でいることは、とても重要だ…。


 だから、つき合いが、しんどすぎるのであれば、無理にすることはないのだ…。


 そもそも、ママ友や、近所づきあいは、必ずしも、必要な事ではない…。


 問題が起こった時に、自分で解決できたり、それを解決してくれる、家族や友人などの伝手(つて)があるのであれば、ママ友や、近所づきあいの必要性は、それほど高くはない…。


 ただ、ママ友や、近所づきあいには、多くのメリットがあるのだ…。


 特に、災害時や、防犯対策として、大きな安全・安心を得ることが出来る…。


 だから、近所の人とは、何かあった時のために、()り切った関係…、必要最低限の、挨拶(あいさつ)簡単(かんたん)な会話を()わすだけでも、きっと安全や安心につながっていくだろう…。


 あと、もちろん、ママ友や、ご近所さんで、本当に仲がいい、友達どうしの人たちというのも、たくさんいる…!


 どうか誤解(ごかい)なきよう…!



「ああ。何かあった時のために、つき合いをするっていうのは、そういうのと、おんなじ事なんだ。だから、別に難しく考える必要はないんだよ。…それより、外伝の続きを話すよ」


「あ、うん…!」


「…そうして、色んな事態を想定したうえで、九尾は、ブナガヤに調査を依頼した…。頼まれたブナガヤは…「君は僕の友達だし、(こま)っているなら助けてあげる…!」と、(こころよ)く、調査を引き受けてくれたそうだ」


「へぇ~。ブナガヤって、本当に優しいんだねぇ~。私も会ってみたいな~!」


 佳奈子は、ブナガヤに興味がわいた。


「願っていれば、いつかは(かな)うかもね。…じゃ、話を続けるよ」


「うん…!」


「…そうして、密偵(みってい)の仕事を、引き受けてくれたブナガヤに、九尾は、守りの術を、かけることにした…。伊氏(これうじ)のヤツが、式神(しきがみ)にする(じゅつ)をかけてきても、式神には、ならないようにする術をね…」


「ああ…。そういえば、あったよね、そういう(じゅつ)…。けど、すごく難しいんでしょ…?それに、術を、絶対に(ふせ)げるわけじゃないって聞いたよ…?」


 佳奈子は、術を思い出す。


「ああ、その通りだ。だが、この術を(やぶ)って、妖怪を式神にするのは、相当(そうとう)、難しいんだ…。まず、普通の術者じゃ、この術を破れない…。九尾のような大妖怪は、間違っても、式神には出来ないだろうね…」


「ふ~ん…。そうなんだ…」


 まだ、新米(しんまい)の佳奈子には、よく分からない…。


「…ま、お前にはまだ、妖怪を式神にする術は、早すぎるよ…。たとえ、任意型(にんいがた)の式神であったとしてもね…」


「…もぉ~。そんなの()かってるよ~。…話の続き、お願いしま~す…!」


「ああ、分かった。…式神になるのを、(ふせ)ぐ術を、かけてもらったブナガヤは、伊氏(これうじ)屋敷(やしき)潜入(せんにゅう)するため、わざと(つか)まった…。式神になったふりをしてね…。この時代の、この辺の人間たちは、まだ、ブナガヤが、水属性を持っている事を、知らなかったんだ…。だから、ブナガヤは、伊氏(これうじ)に、警戒(けいかい)されることなく、屋敷に潜入することができた…」


「ふ~ん…」


「そうして、(ねら)い通り、屋敷に潜入したブナガヤは、予想していたとおり、伊氏(これうじ)から虐待(ぎゃくたい)を受ける…。櫻未(さくらび)さまに、水をかけられてね…。けど、水属性があるうえに、浄化の能力も持ったブナガヤには、なんの痛手(いたで)でもなかった…。だが、痛がらないと、伊氏(これうじ)不審(ふしん)に思われる…。だから、ブナガヤは、痛がってるふりをしたんだよ…。いたずら好きのブナガヤには、それくらい、朝飯前(あさめしまえ)の事だった…」


「おお~!そういう事だったんだ~?!全然、気づかなかったよ~!あはははは…!」


 佳奈子は笑う。


「バカだね…!笑いごとじゃないんだよ…!退魔師だったら、気づきな…!仕事に影響(えいきょう)するだろが…!」


「ひっ…!ご、ごめんなさい…!」


 佳奈子はあやまる。


「…まったく…!…続きを話すよ…!…そうして、潜入(せんにゅう)したブナガヤは、他の虐待(ぎゃくたい)されて、(きず)を負った妖怪たちを、治癒(ちゆ)の力で(いや)しながら、目的の子供の妖狐(ようこ)を見つけ出した…。そして、変化(へんげ)の術や、保護色(ほごしょく)で、姿を(かく)す力を使って、屋敷の情報を集めることに成功したんだ…」


「おお~!すごいね…!ブナガヤ…!」


 佳奈子は、ブナガヤに感心する。


「そうして、情報を集めたブナガヤは、九尾たちの所へ戻り、報告をした…。残念ながら、子供の妖狐(ようこ)は、式神にされてるせいで、屋敷から出ないよう、命令されていて、()れ帰ることが出来なかった…。しかし、伊氏(これうじ)が死んだりすれば、あとは、(なわ)を切るだけで、子供の妖狐は、解放されるだろう…、と言って…」


「ふんふんふん…」


「その情報を聞いた、九尾たちは、村に、殴り込みに行くことを決めた…。万が一にも、伊氏(これうじ)を逃がさないよう、大勢(おおぜい)のキツネ族で、村を取り囲んでね…」


「うわぁ…。なんか怖いね…、それ…」


「ああ。…そうして、村を取り囲んだ九尾たちは、いよいよ村に、(なぐ)り込もうとするんだ…。けど、そんな時、思いもよらない事態(じたい)が起こった…」


「えっ…?思いもよらない事態…?…あっ…!そうか…!分かった…!小鬼(こおに)でしょ…?!突然、村に、穴が出現(しゅつげん)して、小鬼(こおに)たちが()き出してきたっていう…!」


 佳奈子は、伝承を思い出す…。


「ああ、そうだ。予想もしなかった事態に、キツネ族たちは混乱(こんらん)する…。小鬼は、キツネ族たちにも、攻撃してきたしね…。殴り込みの邪魔(じゃま)をされるかもしれない…。けど、村人たちは、小鬼への応戦(おうせん)(いそが)しいし、これは、子供を奪還(だっかん)するためのチャンスかもしれない…。九尾たちは、そうも思った…」


「うんうん。そうだよね~」


「それに、村人たちは、小鬼あいてに苦戦(くせん)していた…。もしかしたら、戦力として、自分たちの子供を使うかもしれない…。そう危惧(きぐ)した九尾たちは、やはり、この()(じょう)じて、殴り込みをかけようと考えた…」


「う~ん…。それは、たしかに心配だもんね~」


「だが、そんな九尾たちに、ブナガヤが、待ったをかけたんだ」


「えっ…?ブナガヤが…?」


「ああ…。今は、殴り込みに、行くべきじゃないって言ってね…。ほら、ブナガヤには、予知能力があるだろう…?だから、その言葉を聞いた九尾たちは、殴り込みに行くのを、(おく)らせることにしたんだ…」


「へぇ~!そうなんだ~!」


「…ブナガヤは優しくて、平和を愛する妖怪だって言われてる…。だから、もしかしたら、情報を集める間に、村人たちが、悪い奴らばっかりじゃないってことや、虐待(ぎゃくたい)されていることを知って、かわいそうに思ったのかもね…。罪のない村人と、キツネ族…、その両方に傷ついてほしくないと思ったのかも…。それで、キツネ族たちを、止めたのかもしれないよ…」


「!そっか~!」


「…そうして、キツネ族たちが、様子見(ようすみ)をしている間に、鬼たちは退治され、伊氏(これうじ)のヤツは、櫻未(さくらび)さまに殺された…。そして、そのあと、すぐに村人たちは、伊氏(これうじ)(つか)まえていた、妖怪たちを解放したんだ…。そうやって、子供を取り返したキツネ族たちは、怒りを(おさ)めて、帰っていった…というわけさ…」


「ふぅ~ん…。外伝って、そういうお話だったんだ~」


 佳奈子は、伝承って、奥が深いな~と思ったのであった…。






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