表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/28

26. 天降女の伝説


 …とうとう大型(おおがた)連休(れんきゅう)が始まった…。


 それはつまり、佳奈子の山籠(やまご)もりの始まりである…。


 佳奈子は、修行をする山へと、車で運ばれた…。


 車を運転しているのは、化け猫のタマである。


 その車には、祖母の絹代(きぬよ)も乗っている。


 そうして佳奈子は、修行をする山、飛立山(とびたちやま)へとやって来た…。


 この山はなんと、千年以上も前から、佳奈子たちの一族が、所有(しょゆう)している山らしい…。


 そして、この山が、飛立山(とびたちやま)と呼ばれるのには、八乙女家に深く関わる、ある由縁(ゆえん)があるのである…。


「…この山が飛立山(とびたちやま)かぁ…。初めて見るけど、けっこう大きいんだね…」


 車から()りた佳奈子は、そう言って、山を見上げる…。


「修行するには、もってこいだろ…?もうすでに、山の(まわ)りには結界石(けっかいせき)()めて、結界を張ってある。ウチの家族以外は、誰も入れないよ」


 絹代が、そう説明する。


「…本当に…?本当に誰も入れない…?絶対…?」


 佳奈子はこれから、ほぼ、すっ(ぱだか)になって修行をするのだ…。


 そんな姿、家族以外には見られたくない…。


 なので、不安な佳奈子は、そう確認した。


「ああ。結界を(やぶ)ろうとする者がいたら、アタシやタマたちが、すぐに察知(さっち)して撃退(げきたい)に向かう。…けどまぁ、例外として、山の鳥たちだけは、(えさ)をとりに、山の外に行かなきゃいけないからね…。そこだけは、カバーできない…。けど、それ以外は、本当に誰も出入りさせないよ」


「…そう…」


 佳奈子は、一応(いちおう)納得(なっとく)する。


「それじゃあ、もう一度、説明をするよ。今回の修行は、山の中腹(ちゅうふく)に作った、野営地(やえいち)拠点(きょてん)に行う」


「野営に必要なものは、もうすでに、そこに用意してありますよ…!私と、ネネとウタで運んだんです…!ネネは家でお留守番(るすばん)してますけど、ウタはもう、野営地で準備をしてますから、安心してください…!」


 タマがそう、元気に言う。


「だが、修行を始める前に、まずは、ご先祖(せんぞ)様に、ご挨拶(あいさつ)をしなくてはね…。この山は、ご先祖様と(ゆかり)が深い…。ここに来て、挨拶をしないのは失礼にあたる…。だから、まずは、山頂(さんちょう)にある(ほこら)へ向かうよ。いいね?佳奈子」


「…はぁい…」


 佳奈子は、しぶしぶ、了解(りょうかい)の返事をする。


 そうして佳奈子は、祖母の後に続き、山を(のぼ)り始めた…。


 ちなみに、この山は、当然、観光地(かんこうち)ではない。


 人手(ひとで)がほとんど入っていないため、登山道(とざんどう)もなく、歩きづらいこと、この上ない…。


 なので佳奈子は、木の(えだ)に引っかかったり、大きな石に、何度も(つまず)く…。


 けれど途中(とちゅう)休憩(きゅうけい)(はさ)み、なんとか佳奈子は、山頂(さんちょう)へと、たどり()いた…。


「ほら、佳奈子、ここが山頂だよ」


「や、やっと着いた…!」


 佳奈子はゼーゼーと息をして、フラフラと()れながら、安堵(あんど)の声を上げる。


 そうしてたどり着いた山頂は、木が少ない…。


 これまで(のぼ)ってきた山肌(やまはだ)には、あんなに木が多かったのに…と、山頂の景色を、あまり知らない佳奈子は意外(いがい)に思う。


 山頂の地面(じめん)は、短い草が()えている程度(ていど)で、あとは大きな岩が、ちらほらと見えるだけ…。


 ところどころ、(つち)の地面が見えている所もある…。


 そうして佳奈子が、(あら)(いき)のまま、山頂の景色を(なが)めていると…、


「ほら、佳奈子。あそこに見えるのが、ご先祖さまの(ほこら)だよ」


 そう言って、絹代が教える。


 そこには、石造(いしづく)りの、小さな古い祠が()っていた…。


「!あれが…!」


 佳奈子は、ハァハァと、息を切らせながらも、祠へ向かおうとする…。


 しかし…、


「あたっ…!」


 フラフラしていた佳奈子は、石につまずいて、(ころ)びそうになる…。


「!佳奈子…?!」


 すると、近くにいたタマが、とっさに佳奈子の(うで)をつかんで、(ささ)えてくれた。


「大丈夫ですか…?佳奈ちゃん…」


「!あ、ありがとう…!タマちゃん…!」


 佳奈子はタマにお礼を言う。


「…はぁ~。まったくお前は…、修行が()りないね…!この程度(ていど)で、フラフラになって…!そんな格好(かっこう)じゃ、ご先祖様に、ご挨拶(あいさつ)が出来ないよ…!みっともない…!まずは、汗を()いて、(いき)(ととの)えな…!」


 絹代がそう言うと、


「はい!どうぞ…!佳奈ちゃん…!タオルです…!使ってください…!水筒(すいとう)のお茶もありますよ…!」


 そう言って、タマがタオルを(わた)してくれる。


「!ありがとう…!」


 佳奈子は、再び、タマにお礼を言い、受け取ったタオルで汗を()く。


 そして、お茶をもらい、ごくごくと飲んだ。


「…ぷはぁ~!生き返る~!」


 佳奈子は、元気を取り戻した。


「まったく…、お前は、おおげさだねぇ~」


「ふふっ…!佳奈ちゃんらしいです…!」


 そう、絹代とタマが言い、佳奈子たちは、3人で笑い合った…。


「それじゃ、そろそろ、(ほこら)のご先祖さまに、ご挨拶(あいさつ)をしようか」


 絹代も、お茶で一服(いっぷく)したあと、そう言った。


「あ、うん」


 佳奈子は返事をし、目的の(ほこら)を見る。


「…古い祠だって聞いてたけど…、意外(いがい)とキレイだね…。もっと雑草(ざっそう)とかに、()もれているのかと思ってた…」


 佳奈子は少し、不思議に思う。


「ああ…!だってここ、この前、私たちが、お掃除(そうじ)しましたから…!この山で修行をするなら、きっと、ここにお(まい)りするだろうと思って…!」


 そうタマが言う。


「!そうだったんだ…」


「タマ、ありがとうね。あとでウタとネネにも、お礼を言うよ。ちゃんと、この(ぶん)のボーナスと、有給(ゆうきゅう)も出すからね」


「うふふ…!いえいえ…!どういたしまして…!」


 タマはそう言って笑う。


 そうして佳奈子たちは、古い(ほこら)に向かい合った。


 ちなみに、日本の山の山頂には、(ほこら)がある事が多い。


 山頂は、天に近い神聖な場所とされ、(いの)りの場として、祠が建てられているのだ。


 そこの祠に、何が(まつ)られているのかは、地域それぞれによって違い、決まってはいない。


 (まつ)られているのは、有名な神様や(ほとけ)様の場合もあるし、その土地にまつわる、伝説上の人物である場合もある。


 そして驚くべきことに、今、佳奈子たちの目の前にあるこの祠は、なんと、千年以上も前から、ここにあるのだという…。


 そのうえ、ここに(まつ)られているのは、佳奈子たちの先祖(せんぞ)である、伝説の妖怪・天降女(あもれおなぐ)なのである…。


「…佳奈子、ここに(まつ)られているのが、誰なのか、なぜ祀られているのか、お前は、ちゃんと()かっているね?」


 絹代がそう聞いてくる。


「うん…。その話は何度も聞いたから、ちゃんと(おぼ)えてるよ…」


 佳奈子はそう返事をし、伝説の妖怪・天降女(あもれおなぐ)の話を思い返した…。




 …はるか千年以上前…、佳奈子の一族が、まだ、「八乙女(やおとめ)」という苗字(みょうじ)ではなかった(ころ)のこと…。


 八乙女家の祖先(そせん)である、一人の妖怪・天降女(あもれおなぐ)が、この地で、人間の男と(とも)()らしていた…。


 しかしそれは、天降女(あもれおなぐ)の…、彼女の望んだことではなかった…。


 妖怪である彼女は、陰陽師(おんみょうじ)である人間の男に、無理やり羽衣の力を(ふう)じられ、絶対服従型(ふくじゅうがた)式神(しきがみ)にされていたのである…。


 その天降女(あもれおなぐ)は、それはそれは美しい女性だったという…。


 彼女は、妖怪たちから、櫻未(さくらび)、という名前で呼ばれていた…。


 その美しさは、まるで、(さくら)の女神のようであったという…。


 そんな彼女は、もともと、この地にいた妖怪ではない。


 ここから遠い、とある地から、無理やり()れてこられたのである…。


 その、とある地には、力の弱い、白いウサギの妖怪が住んでいた。


 彼女は、その妖怪と(なか)がよく、そのウサギに会いに、よく天から()りてきていたのである…。


 しかし、ある時、旅の途中(とちゅう)の一人の陰陽師(おんみょうじ)が、その地を通りかかった…。


 その陰陽師(おんみょうじ)の名は、伊氏(これうじ)…。


 「天才陰陽師」と呼ばれる男だったが、とても強欲(ごうよく)で、傲慢(ごうまん)な男だった…。


 そんな陰陽師の男は、偶然(ぐうぜん)、彼女の姿を垣間(かいま)見る…。


「うっひょ~っ…!なんて別嬪(べっぴん)の妖怪だ…!マジで俺の好み…!」


 男は、一目(ひとめ)見て、美しい彼女に、心を(うば)われてしまう…。


 すると、彼女に恋した男は、なんと(わな)を使って、彼女を(つか)まえる事を計画したのだ…。


 男はすぐに、計画を実行(じっこう)した…。


 まず初めに、男は、ウサギを()らえた…。


 そして、彼女が、そのウサギを、助けに来たところを、(わな)を使って、()らえてしまったのである…。


 男は、まんまと、計画に成功したのだ…。


 そのうえ男は、(つか)まえた彼女を、()して自分に反抗(はんこう)できないよう(じゅつ)をかけて、絶対服従(ふくじゅう)(がた)式神(しきがみ)にしてしまったのである…。


「いや~!なんなのよ、アンタ…!気持ち悪い…!放しなさいよ~!」


「グヘヘ~!さぁ~!早く2人で、愛の()を作りに行こうぜ~!」


 そうして男は、彼女を()れて、自分の故郷(こきょう)である、この地へと帰ってきた…。


 男は、異常(いじょう)なまでの独占欲(どくせんよく)で、彼女を愛したという…。


 やがて、2人の間には、子供も生まれる…。


「あはは~!俺たちの、愛の結晶(けっしょう)だな~!櫻未(さくらび)~!」


 しかし…、天降女(あもれおなぐ)の彼女は、()して男を、愛してはいなかった…。


 彼女は、自分を(わな)にはめて、()らえた男を、ずっと(うら)んでいたのである…。


 けれど、彼女が男を(うら)むのも、仕方のないことだった…。


 なぜなら男は、彼女に、さまざまな(おく)り物をして、愛しているとは言うものの、彼女が自由に気晴(きば)らしに出かけることも、彼女の、家族や友人の(もと)へと帰ることも、()して許しは、しなかったのだから…。


 そのため彼女は、(にく)い男から(はな)れることができず、心を許せる相手もなく、嫌悪(けんお)する環境の中で、ずっと一人きりだった…。


 そもそも、彼女の友人たちがいなくなったのは、ぜんぶ男のせいだった…。


 男は、彼女から、それらを(うば)っていったのである…。


 …ある時など、男は、彼女を解放(かいほう)しろと言って、追いかけてきたウサギの妖怪を、返り()ちにしたあと、(なわ)(しば)った…。


 そして、そのウサギを、彼女に命令し、(がけ)から、投げ捨てさせたのだ…。


 …また、ある時は、夜の(あか)りにするための妖怪を、男は無理やり、彼女に(つか)まえさせた…。


 そして、その捕まえた、火属性の妖怪たち…、炎をまとった猫の「火車(かしゃ)」や、炎に(つつ)まれた鳥の「ふらり火」、炎を出すことができる子供の「ブナガヤ」…などを、男は余興(よきょう)だと言って、彼女に柄杓(ひしゃく)で水をかけさせ、苦しませた…。


 …さらにある時は、彼女を助けにやってきた、仲間の、天降女(あもれおなぐ)たちを、男は彼女に命令し、攻撃させて、深手(ふかで)()わせた…。


 彼女は、命令に逆らえないとはいえ、自分の手で、友人たちを傷つけてしまったことに、激しいショックを受ける…。


 そうして彼女は、友人や仲間たち…、心の支えを、(うしな)ってしまったのである…。


 …人が、心の安定を(たも)つには、心を許せる相手との会話や、つながりが必要だ…。


 孤独感(こどくかん)というものが、人の大きなストレスになるからだ…。


 たとえ一人であったとしても、没頭(ぼっとう)できる趣味があったり、自分にとって心地いい環境をもっている人ならば、そこで楽しんだり、リラックスすることで、ストレスの発散(はっさん)になっており、一人でも、孤独感を感じることはないという…。


 しかし、彼女の場合はそうではない…。


 彼女は、毎日、男に話しかけられていたが、男は、彼女にとって、嫌悪(けんお)の対象でしかなかった。


 心の安定に必要なのは、あくまでも心を許せる、心地いいと感じられる相手なのである…。


 彼女は、嫌な事をさせられ、嫌な環境から()け出すこともできず、多大なストレスを受けていた…。


 そのうえ、嫌悪(けんお)する男との間に、子供まで作らされ、彼女は、すっかり心を()んでしまったのである…。


 記録によれば、彼女は、深刻(しんこく)(うつ)状態に(おちい)ってしまったようである…。


 食べ物はのどを通らず、眠ることも出来なくなり、顔色は悪くなって、(ほほ)はこけ、いつもぼんやりとして、目はうつろ…。


 時には、血を()くこともあったという…。


 また突然(とつぜん)、はらはらと泣き出しては、悲鳴をあげることもあり、何かの幻覚(げんかく)や、幻聴(げんちょう)を聞いているようでもあったという…。


 彼女がそんな状態(じょうたい)になって、さすがに男も心配した…。


 しかし、それでも男は、これまでの自分の態度(たいど)を、反省(はんせい)することはなかった…。


 それどころか、彼女がこんな(ふう)になったのは、自分がいない間に、彼女と会っていた者たちのせいだ…!といって、家の使用人たちを(とが)める始末(しまつ)…。


 そして、そんな時…、彼女たちが暮らす村に、凶悪(きょうあく)小鬼(こおに)たちの襲撃(しゅげき)があったのである…。


 小鬼(こおに)たちは、この地の(ちゅう)に、突如(とつじょ)として出現(しゅつげん)した(あな)から、ぞろぞろと()き出してきたのであった…。


 陰陽師(おんみょうじ)の男は、村人たちに願われ、仕方なく自分の財産(ざいさん)を守るため、村人たちと(とも)に、凶悪(きょうあく)な小鬼たちの退治(たいじ)に向かった…。


 しかし、小鬼たちは、想像以上に強かったうえ、数も多く、苦戦(くせん)()いられてしまう…。


 そこで村人たちは、この地にある山…、つまり、飛立山(とびたちやま)の山頂で、呪術(じゅじゅつ)を行い、小鬼たちを弱体化(じゃくたいか)する(じゅつ)を、大地のエネルギーにのせ、()りまこうと考えた。


 そして、その山頂での呪術は(こう)(そう)し、ぞろぞろといた小鬼たちは、次々に弱体化していったのである…。


 弱った小鬼たちを、待ってました、とばかりに、(たお)してゆく村人たち…。


 しかし、そんな時、なんと一匹の小鬼が、巨大な鬼へと変化(へんげ)したのである…。


 巨大な鬼は、それまで、小鬼に()けて、姿を(かく)していたのだ…。


 (しん)の姿を(あらわ)した巨大な鬼は、自分たちを弱体化させている(じゅつ)の存在に気づいてしまう…。


 そして、その術を止めようと、山頂へと向かい始めた…。


 男と村人たちは、そうはさせてなるものか…と、鬼に立ち向かう。


 しかし、巨大な鬼は、恐ろしく強かった…。


 そうして、男と村人たちは、山頂で鬼に追いつめられてしまう…。


 そして、その時、男は、天降女(あもれおなぐ)の力を封じていた呪具を、その鬼に(こわ)されてしまったのである…。


 すると、それにより、天降女(あもれおなぐ)の彼女は、力を取り戻した…。


 しかも、封じられている間に、ため()まれた力は、すさまじいものであった…。


 力あふれる彼女は、羽衣を使い、山頂へと、恐ろしい(はや)さで飛んでいく…。


 そして、その力で、彼女は巨大な鬼を、あっというまに(たお)してしまったのである…。


 もはや命もこれまでか…、と、(あきら)めかけていた男と村人たちは、命が助かり歓喜(かんき)する。


 笑顔で、彼女に感謝する男と村人たち…。


 特に陰陽師の男の喜びは大きかった…。


櫻未(さくらび)…!愛する俺を、助けに来てくれたんだな…?!ああ…!俺の愛しい櫻未…!」


 そう言って、男は彼女に、()きつこうとする…。


 しかしその瞬間…、彼女はなんと、陰陽師の男を…、今まで自分を(しば)っていた男を…、村人たちの前で、惨殺(ざんさつ)し始めたのである…。


(らく)になんて、死なせてあげない…!」


 そう言って…。


 そう…、彼女は、男を助けに来たのではない…。


 (にく)い男を、自分の手で殺すために、急いでやって来たのである…。


 それは…、見るも無残(むざん)な、恐ろしい光景だったという…。


 しかしその時、彼女は、泣きながら、これまでの苦しみを語っていたそうだ…。


 村人たちは、恐怖しながらも、彼女の苦しみを理解した…。


 そして、自分たちが、これまで彼女を助けなかったことを、強く後悔(こうかい)した…。


 村人たちの中には、前から彼女に同情(どうじょう)していた者もいたが、陰陽師の男が恐ろしく、助ける事ができなかったのだ…。


 やがて、男の惨殺(ざんさつ)を終えた彼女は、村人たちにも敵意(てきい)を向ける…。


 次はお前たちの番だといって…。


 恐怖する村人たち…。


 しかしそんな時…、彼女と、殺された男との間に出来た子供が、まってください…!と言って、立ちふさがったのである…。


 村の人たちを許してください…、と言って。


 この子供は、霊力が強かったため、山頂での呪術に、霊力を提供するため、ここに来ていたのである…。


 子供は、村の人たちも、父上が怖くて反抗(はんこう)できなかっただけなんです…と(うった)えた。


 その言葉を聞き、村人たちも、彼女の前に土下座(どげざ)して、これまでの男の仕打(しう)ちを話した…。


 あの男…、伊氏(これうじ)は、気にいらない村人たちに、たびたび暴力をふるい、その家族を人買いに売ったり、家に火をつけたりもしたのだと…。


 あの陰陽師の男は、この鬼よりもおぞましい、鬼のような男だった…と…。


 しかし、その男が、いくら恐ろしかったとはいえ、あなたを助けられなくて申し訳なかった…と、村人たちは謝罪(しゃざい)した…。


 子供も、彼女に、必死で懇願(こんがん)してくる…。


 ここにいる村人たちは、私の大切な人たちなのです…と。


 どうか私に(めん)じて、彼らを許してください…と言って…。


 すると彼女は、きっ…!と(するど)い目を子供に向ける。


 そして子供に向かい、罪のない妖怪たちを、私のような目には、決して()わせるな…!と、(さけ)んだ。


 お前や、お前の守ろうとする者たちが、罪のない妖怪たちを、私のような目に遭わせたのなら、その時は、必ずお前たちを(ほろ)ぼしてやる…と…。


 子供と村人たちは、それを聞き、必ず約束を守ります…!と彼女に(ちか)った…。


 そして彼女はその誓いを聞くと、羽衣をまとい、さっ…と、天へと(のぼ)って行ってしまったのである…。


 …その後、村人たちは約束を守り、この村を(すく)ってくれた天降女(おもれおなぐ)を神として(まつ)った…。


 そして村に神社を建て、山には(ほこら)を作った…。


 村人たちが約束を守っているためか、以降(いこう)、この地に、天降女(おもれおなぐ)が天から()りてきたことはない…。


 しかし、伝説は語り()がれ、この山は、伝説の天降女(あもれおなぐ)が、天へと飛び立った山…、飛立山(とびたちやま)、と呼ばれるようになったのである…。


 だが、今ではなぜか…「あの山は、悪い鬼の首が()ち切られて飛んだ場所だから、飛断山(とびたちやま)って名前なんだ。()ちっていう字は、時代が()って、()ちっていう字に変わっちゃったんだよ…!」と言っている者が多いらしい…。


 まぁ、それも、ウソとは言えないし、由来(ゆらい)によくある、諸説(しょせつ)あり、ということになるのだろう…。


 佳奈子はそう、考えをまとめる…。


「…佳奈子…。この山にまつわる話は、()して忘れるんじゃないよ…」


 絹代がそう、真剣(しんけん)な声で言う。


「うん…。っていうか、忘れられないよ…。この山のお話、(ひど)すぎるし…。(おも)くって、気分が(ふさ)いじゃう…。天降女(あもれおなぐ)櫻未(さくらび)さまはともかく…、陰陽師の男の方…、ええと…伊氏(これうじ)だったけ…?その伊氏(これうじ)の方は、そんな人と血がつながってるって、考えるだけでイヤになるし…」


 佳奈子はそう言って、顔をしかめる…。


「ああ…。アタシもだよ…。だが、この話はね、多くの教訓(きょうくん)や、(いまし)めを(ふく)んでるんだ…」


「教訓や戒め…?」


「ああ…。陰陽師の男…、伊氏(これうじ)は、術者として、まれにみる天才だった…。だが、とんでもなく強欲(ごうよく)傲慢(ごうまん)な男だった…。自分以外の者の、意見や感情はすべて無視(むし)…、いつも自分勝手に()()って、目的のためには手段(しゅだん)を選ばない…。だが、そんな人間の末路(まつろ)がどうなるのか…、そんな人間が、どれほどの危険を呼び込むのか…、それを考えさせる教えなんだよ…」


「?え~と…、末路は分かるけど…、危険を呼び込む、ってのは、一体なに…?」


「ん…?そういや、お前には、まだ、この話の外伝(がいでん)を読ませていなかったね…」


「えっ…?!外伝…?!なにそれ…?!そんなのがあるの…?!」


 佳奈子は驚く。


「ああ」


「私も昔、読みましたよ…!」


 タマもそう言う。


「え~っ!そんなの初耳(はつみみ)だよ~!(くわ)しく教えて…!一体どんな内容なの…?!」


「いや、外伝は長いんだよ…。本を貸してやるから、あとで自分で読みな」


「え~っ…!お願い…!ちょっとだけ…!ちょっとだけ今、どんな内容なのかを教えてよ…!」


 佳奈子は(ねば)る。


「…はぁ…。仕方ないねぇ…。じゃあ、ちょっとだけだよ…」


 そう言って、絹代は、飛立山(とびたちやま)伝説・外伝を話し始めた…。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ