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25. 言えない悩み


 学校からの帰り道。


 骨董屋(こっとうや)の前で、真人(まさひと)と、彼の飼い猫たちに出会った佳奈子…。


 真人は「(ひさ)しぶり」と言って、佳奈子に会えて(うれ)しそうにする。


 ただ、佳奈子が、真人と最後に会ったのは、一週間前…。


 久しぶり、というには短すぎる期間だ…。


 しかし、ほぼ毎日、彼と会っていた佳奈子は、たしかに、そんな気がするな…、と感じた。


 そして佳奈子は、真人と最後に会った、あの事件の日を思い出す…。


(…真人(まさひと)さんには、あの事件で、ずいぶんと迷惑(めいわく)をかけちゃったからな…。ちゃんとお()びを言わないと…)


 佳奈子はそう思い、お()びを言うため、彼に歩み()った。


「…ほんと、なんか、久しぶりって感じですね…。真人(まさひと)さん…」


「うん…。あれから、佳奈子ちゃんは、どうしているだろうって、ずっと気になっていたんだ…。学校もしばらく休んでいたみたいだし…。大丈夫かなって…」


「…心配をおかけしてすいません…。…それに、あの時、助けてくださって、本当にありがとうございました…。もしも、真人さんが、助けてくださらなかったら、私、一体どうなっていたか…。それに、真人さんが早く助けて下さったから、皆の体にも、(がい)がでなかったんです…。本当にありがとうございました…」


 佳奈子は、深く頭を下げる。


「いやいや…!そんなお(れい)なんていいよ…!佳奈子ちゃんや、皆が無事(ぶじ)だったのが、何よりだから…!それより、体調(たいちょう)は大丈夫…?具合(ぐあい)が悪くなったりはしなかった…?」


「いえ…。体調は全然(ぜんぜん)…。学校を休んでいたのは、おばあちゃんに謹慎(きんしん)してろって言われたからで…」


「そっか…。でも、体調に問題がないならよかったよ…。それで、今日からは学校に通えるんだね…?…学校…、大丈夫だった…?…なにか、イヤな事とか、言われたりしなかった…?…たとえば、功刀(くぬぎ)くんとかに…」


 真人は、あの事件のとき、功刀が怒って帰っていくのを見ていた。


 だから、彼に何か、仕返(しかえ)しをされたのでは…、と心配をしているのだ。


「いえ…!功刀(くぬぎ)くんは何にも…!…むしろ功刀くんは、私の事を、(ゆる)してやるって言ってくれて…。…あの優待(ゆうたい)カードの、おかげのような気もするけど…」


 佳奈子は最後、ボソッ…と、つぶやく…。


「えっ?優待カード…?」


「ハッ…!い、いえ…!なんでもありません…!(たし)かに、色々(いろいろ)とウワサはされてますけど…、あれだけの事件だったんですから、それは仕方(しかた)がないですし…」


「…佳奈子ちゃん…」


 真人は、心配そうな顔をする。


「あっ…!だ、大丈夫ですよ…?!多恵(たえ)ちゃんとか、中学から(なか)の良かった友達とかは、ウワサなんか気にせずに、いつも通りに、話をしてくれますし…!だから、学校は大丈夫です…!これまで(どお)りに、(かよ)っていけます…!」


 佳奈子は、真人に心配をかけないよう、元気に答える。


「…そう…?…でも、何かイヤな事があったら、無理(むり)をしないで、俺に相談(そうだん)して…?できる(かぎ)り、力になるから…」


「…ありがとうございます…。真人(まさひと)さん…」


 佳奈子は、真人の優しい言葉に、心があたたまる。


(…真人さんって、ホント優しくて、いい人だなぁ…。きっと、私にだけじゃなく、皆にやさしいんだろうな…)


 佳奈子はそう思う。


(…でも、皆に優しい人って、人の痛みがわかるぶん、繊細(せんさい)だっていうからなぁ…。あんまり、心配をかけないようにしないと…。むしろ、いつも仕事の相談に乗ってもらってるぶん、何かあったら、私が助けてあげなくちゃ…!)


 佳奈子は、そう思い立つ。


「真人さん…!真人さんこそ、何かあったら、私に言ってくださいね…!私も、できる限り、力になりますから…!」


「えっ?あ、うん…。…ありがとう…。佳奈子ちゃん…」


 真人は、一瞬、驚き、そのあと、とてもうれしそうな顔をする。


 そして、あっ、と何かを思い出し、話をつづけた。


「そういえば…。このまえ連盟会館(れんめいかいかん)で、絹代(きぬよ)さんに会ったんだ…」


「えっ?おばあちゃんに…?」


「うん。それで、この前の事件の、お(れい)を言われたんだけど…、その時に「(まご)未熟(みじゅく)なせいで、迷惑をかけて申し訳ない」って言われたんだ…。「これからは、孫を、もっと(きび)しく監督(かんとく)する」って…。その言葉が、なんだか気になって…。…佳奈子ちゃん…、あれから、絹代さんの修行(しゅぎょう)、厳しくなったりしていない…?何か、とんでもない事をさせられたりとか…」


「えっ…?!」


 佳奈子は、ギクッ…!とする。


(す、するどい…!なんて(かん)がいいの…!真人さん…)


 佳奈子は、真人の洞察力(どうさつりょく)(した)()く。


(…でも…、いくら真人さんでも、山籠(やまご)もりのことは言えないよ…。すっ(ぱだか)になって、修行をする事になっただなんて…。…言うのも()ずかしいし…、もしかしたら、あんな修行をやるって決めた事、軽蔑(けいべつ)されちゃうかも…)


 佳奈子は、軽蔑する真人を思い浮かべる…。


「…はぁ…?!山で、すっ(ぱだか)で修行をする~?!…祭りとかの神事(しんじ)ならともかく、それ以外で、そんな事をしようだなんて、考えること自体(じたい)、信じられないよ…。あっ…!まさか(きみ)裸体(らたい)主義者だったわけ…?!」


 世の中には、裸体(らたい)主義者・ヌーディストと呼ばれる、(はだか)で生活することを主義(しゅぎ)とする人々がいるのである。


 日本とは違い、ヨーロッパ(けん)では、比較的(ひかくてき)、彼らに寛容(かんよう)な文化があり、ヌーディストビーチや、専用のリゾート施設(しせつ)など、公認のヌーディストエリアが、多数存在している。



「そんな修行をしようだなんて、(きみ)裸体(らたい)主義者だよね…!…けど、ヨーロッパとは違って、日本には裸体主義を実践(じっせん)する公認の施設(しせつ)はない…。他人の目に()れない場所なら、制限(せいげん)されてはいないけど…、たとえ私有地(しゆうち)屋内(おくない)であっても、他人の目に触れる状況(じょうきょう)なら、変質者(へんしつしゃ)露出狂(ろしゅつきょう)とみなされる…」


 そう、日本では、自宅や、温泉などの一部の(みと)められた場所以外では、人前(ひとまえ)で、すっ(ぱだか)全裸(ぜんら))になることは、犯罪である。


 外で()(ぱら)って、こんな格好(かっこう)にならないよう、気をつけよう…!


「…けど、裸体(らたい)主義者は犯罪者とは違うし、差別するのはいけないことだ…。(はだか)は、健康にいいっていうしね…。絶対に人目(ひとめ)につかない場所や、認められた場所でなら、それをしたって、俺も、何も言う気はない…」


 ここで誤解(ごかい)がないよう、注記(ちゅうき)するが、裸体主義者たちは、決して(よこしま)な気持ちで、(はだか)になっているわけではない。


 裸体(らたい)主義とは、性的な感情とは、無関係な点が、非常に重要視されているからだ。


 彼らは、裸体でいることが、大変健康に良いと考えて、この活動をしている。


 また、彼らの活動には、社会規範(きはん)からの解放、という思想的な側面(そくめん)があるとされている。


 そして、この裸体主義は、一般的に言われている露出(ろしゅつ)行為(こうい)とは、(こと)なるものだとされているのだ。


 露出行為との違いは、「性的感情の有無(うむ)」などを基準(きじゅん)に、区別されている。


 また、ヨーロッパなどでは、社会問題や、政治問題への抗議(こうぎ)として、(はだか)になってデモ活動をすることが、わりと知られている。


 この(はだか)になってのデモ活動は、必ずしも、裸体主義者たちだけが行うものではない。


 様々な目的を持った人々が、世間(せけん)の注目を集めるために、「抗議(こうぎ)戦術(せんじゅつ)」として、(はだか)(もち)いることがあるのである。


 (はだか)でのデモの参加者の中には、裸になることに抵抗(ていこう)を感じている人もいるが、抗議という目的のために、あえて裸を選択しているのである。


 しかし、このデモの形がとられるのも、ヨーロッパ諸国が、比較的(ひかくてき)、裸体主義に寛容(かんよう)で、理解があることと、無関係ではないだろう…。



「…でも…、君が修行をしようとしてる場所は、屋外(おくがい)だ…。他人の目に、絶対に()れないとは、言いきれない…。しかもあの山は、この町の人たちに、それをしていいと認められた場所でもない…。それなのに、あの山で、すっ裸になろうだなんて…。俺にはとても信じられないよ…。だって、もしも、自分の子供の目の前に、そんなすっ(ぱだか)の人間が、突然、(あらわ)れたら、どう思う…?!もしかしたら、変質者(へんしつしゃ)露出狂(ろしゅつきょう)かもしれないんだ…!怖いだろう…?!そんな(ふう)に、不安に思う人や、不快(ふかい)に思う人がいるのに、認められてない場所で、それをやろうとするなんて…。…俺は君を軽蔑(けいべつ)する…。…君みたいな子、(した)しいと思われるのも不愉快(ふゆかい)だ…。もう、ここへは来ないでくれる…?」


「!」


 自分の想像したことなのに、佳奈子は強いショックを受ける…。


(も、もしも、そんな(ふう)に言われたら、私…!)


 佳奈子は、想像しただけで泣きそうになり、(ふる)え始める…。


「?!ど、どうしたの…?!佳奈子ちゃん…?!ごめん…!俺、何かイヤな事を言った…?!それとも、どこか具合(ぐあい)が悪いの…?!ど、どうしたら…?!」


 真人は取り(みだ)し、おろおろとする…。


 けれど、そんな時、骨董屋の中から、ジリリリリ~ン…!という音が聞こえてきたのだ。


 これは、この時代に一般的な、黒電話がかかってくる時の音である。


 しかし真人は、その電話を無視して、佳奈子のことを気にかける…。


「と、とりあえず、そこのイスに座って…?!あっ、店の中の方がいいかな…?!」


「いえ…。大丈夫です…。心配をおかけしてすみません…。何でもないんです…」


「何でもないって…」


「ホント、大丈夫ですから…!どうぞ、電話に出てください」


「でも…」


「大事な電話かもしれないでしょ…?ご家族に何かあったとか、緊急(きんきゅう)のことかもしれない…。だから、どうか出てください…」


「~~~っ!ちゃんと、あとで話を聞くから…!ちょっとだけ待っていて…?!」


 真人はそう言って、急いで店の中へと入っていく…。


 佳奈子はそれを見ると、小さな声で…。


「…真人さんに、言えるわけない…。今度の連休…、山で、すっ(ぱだか)になって、修行することになっただなんて…。そんな恥ずかしいこと、知られたくない…。なにより、軽蔑(けいべつ)されるのはイヤ…!」


 佳奈子は泣きそうな顔で、そう、つぶやく…。


 それは、誰も聞いていないと思ったからこそ言えたこと…。


 しかし…、それを聞いていた者たちがいた…。


 そう、真人の飼い猫たちである。


 2匹の猫たちは、佳奈子のつぶやきを聞くと、驚いたように目を見開く。


 そしてそこへ、真人が戻ってきた。


「ごめん…!お()たせ…!佳奈子ちゃん…!全然(ぜんぜん)たいした電話じゃなかった…!だから、ちゃんと話を聞くよ。外だと話しにくいだろうし、店の中に入って…!」


 真人(まさひと)はそう言って、佳奈子を店の中に(まね)く。


 しかし佳奈子は…、


「…いえ…。今日はこれで、お(いとま)します…。真人さん…」


「えっ…?!」


「私…、今は、修行に専念(せんねん)しなくちゃいけなくて…。だから、しばらく、ここには、来ないことにします…。さよなら…!真人さん…!」


 佳奈子はそう言って、(もう)ダッシュで走り()っていく…。


「えっ…?!ちょっ…!()って…!佳奈子ちゃ~ん…!!!」


 真人は佳奈子を呼び止めようと、必死に手を伸ばし、声を上げる…。


 しかし、佳奈子は()り返らない…。


「…俺…、もしかして(きら)われた…?」


 真人(まさひと)は、ガーン…!と(はげ)しいショックを受ける…。


 ズーン…と落ち込み、震える真人…。


 しかし、そんな真人に、


「いや、違うんじゃね…?」


 そう言って、なんと猫のクロが、話しかけてきたのである。


「えっ…?」


 真人は、クロを見る。


「佳奈子のヤツ、お前が電話に出てるとき、言ってたんだよ。今度の連休に、山で、すっ(ぱだか)になって修行をすること、お前には知られたくないって…」


「えっ…?!す、すっ(ぱだか)…?!」


 真人は真っ赤になる。


 そしてそこへ、


「うんうん、言ってた…!そんな恥ずかしいこと、言えないって。軽蔑(けいべつ)されるのがイヤだって。そう思うのも無理はないわね~」


 そう言ったのは、なんと猫のシロである。


「それにしても、すっ(ぱだか)で修行をさせるなんて、絹代さんったら、厳しすぎるんじゃないかしら…?佳奈子ちゃん、あんなにイヤそうだったし、かわいそうだわ~!」


「たしかにな…。まぁ、あんな事件、二度と起こしたくないって気持ちは分かるけどさ…。やりすぎは良くねーぜ…!」


 クロは、そう、シロに言う。


「でしょ~!」


「ああ。…けどな…、佳奈子は知られたくないと思ってるんだし…、絹代に、真正面(ましょうめん)から意見(いけん)をするのもな…。それに絹代は、佳奈子の事を、すげぇ大事に思ってる…。たいした理由もなく、ひでぇ事をするヤツでもねぇ…。だから、もしかすると、その修行、八乙女家に必要な、伝統(でんとう)の、行事(ぎょうじ)とかなのかもしれねぇ…」


「ええっ…?!伝統の行事…?!まさか、山で、すっ(ぱだか)になって()ごすのが、八乙女家の伝統だっていうの…?!八乙女家は、代々(だいだい)、そんなことをしてきたって…?!…いや…、ないとは言い切れないわね…。…むしろ、ありえる…。ありえるわ…!だって、日本には、はだか(まつ)りもあるし…!」


 そう、日本には、はだか祭り、と呼ばれる、お(まつ)りが、全国に(いく)つもあるのである。


 この祭りの参加者たちは、基本的(きほんてき)に男性たちだ。


 例外的な一部の場所では、女性の変則的(へんそくてき)な形での参加もある。


 しかし、男性参加者たちの、その格好(かっこう)は、祭りの名前のとおり、全裸(ぜんら)に近い格好か、本当に全裸である。


 この格好は、もちろん、(わる)ふざけでやっているわけではない。


 この格好をするのには、もちろん理由があるのだ。


 祭りなどの神事(しんじ)では、(きよ)らかである事が、非常に重要視(じゅうようし)される。


 衣服(いふく)などから、俗世(ぞくせ)(けが)れを持ち込まず、()まれたままの姿(すがた)に近い、(もっと)も清らかな姿で、神と()き合う…。


 そんな理由があるのである。


 この祭りの参加者たちは、()して(よこしま)な気持ちで、こんな格好(かっこう)をしているのではなく、地域(ちいき)全体の、無病息災(むびょうそくさい)や、五穀豊穣(ごこくほうじょう)豊漁(ほうりょう)や、安寧(あんねい)を、神に祈願(きがん)するために、住民たちに(のぞ)まれて、このような格好をしているのである。


 いうなれば…、


「パパ…!お願い…!行ってきて…!」


「おう!まかせとけ…!お前たちのために、神様にしっかりとお願いしてきてやるぜ…!」


「きゃっ!ステキ…!」


 …とまぁ、こんな感じである…。


 ちなみに、はだか祭への、参加を希望する人は多い。



「きっとそうだわ…!はだか祭りと同じで、山で、すっ(ぱだか)になって()ごすのは、八乙女家の伝統なのよ…!」


 シロは、そう言い切る。


「ああ。たぶんな…。けど、それなら、止めるのは、逆に、佳奈子の(ため)にならねぇかも…」


「あっ…。たしかに…。伝統って大事だものね…。けど、伝統をイヤがる人の気持ちも分かるし…、佳奈子ちゃんが、あんなに(つら)そうなのに、なんにもしないのは、なんだかムシャクシャするわ~!」


 シロは、まるで人間のように、(ほほ)に手を当てて、考え始める。


 そしてその間も、真人は、赤くなって(かた)まっていた…。


「…それにしても、山で修行って、どこでやるのかしら…?やっぱり修行場(しゅぎょうば)で有名な霊山(れいざん)とか…?」


「いやいや…!修行場で有名な霊山(れいざん)は、修行してるヤツらが、たくさんいるだろ…?!そんなヤツらの前で、すっ(ぱだか)になんかなったら、公然(こうぜん)わいせつ(ざい)(つか)まっちまうぞ…!」


 (かさ)ねて注記(ちゅうき)するが、日本では、認められた場所以外で、人前で、すっ(ぱだか)になることは、犯罪である。


 もしも、認められた場所以外で、そんな人を見かけたら、犯罪や、事件の可能性がある。


 すぐに警察に通報(つうほう)しよう…!


「…そもそも霊山は、神聖な場所として信仰(しんこう)されてるだろ…?そんな場所で、女が、すっ(ぱだか)になってたら、他の修行してるヤツの(さまた)げになるし、なにより、聖地(せいち)への冒涜(ぼうとく)だって言われて、怒られるぞ…」


 そう、たとえば、富士山は代表的な霊山の一つだ。


 そして、その山頂(さんちょう)には、木花咲耶姫(このはなのさくやひめ)主祭神(しゅさいじん)とする、神社があることで有名である。


 しかし、富士山を(のぼ)登山者(とざんしゃ)の中には、途中(とちゅう)で体が熱くなり、服をぬいで、上半身(じょうはんしん)はだかのまま、この神社に参拝(さんぱい)する人がいて、問題になっているのだ。


 日本に(かぎ)らず、多くの聖地では、肌の露出(ろしゅつ)(ひか)えることが、求められているのだが…。


 こんなことを言うと、あれ…?じゃあ、はだか祭りはどうなんだ…?と疑問に思った人もいるだろう。


 神の前で、はだかになるのは、最も清らかなことだったんじゃなかったの…?と。


 一見(いっけん)すると、それらは矛盾(むじゅん)しているように見える。


 しかし、はだか祭りは、そこの神と、そこの地域の人々が望んだ、特定(とくてい)の日に、特定の場所で行われる、()日常的な、特別な神事なのである。


 そして、この祭りを(まわ)りで見ている人々も、神事の参加者たちなのだ。


 すなわち、この地域の神と人々は、この祭りの間だけ、いっときの間だけ、この特別な神事のために、この格好(かっこう)を許しているのである…。


 つまり、はだか祭りは、日常的な肌の露出(ろしゅつ)とは、まったく(こと)なる、特別な意味を持っているのである。


 なので、特別な神事でもない限り、過度(かど)な露出は、トラブルのタネになることがあり、時には犯罪になることもある…。


 TPOに合った…、つまり、その時、その場所、その場面に合った服装であるならば、好きな格好をして、もちろん楽しんでいいのだ。


 服は、人に元気をくれたり、前向きな気持ちにも、させてくれるのだから。


 ただ、TPOにそぐわない服装は、周りの人々に不快感を与え、怒りなどの悪感情を(いだ)かせてしまう…。


 そのため、一部の歴史ある教会などでは、肌の露出(ろしゅつ)が多い格好(かっこう)の人には、入場を(ことわ)るケースもある…。


 聖地での、肌の露出が多い格好(かっこう)は、周りの人々に不快感(ふかいかん)を与えることも多く、(いの)りの(さまた)げになったり、修行の妨げになったりもするからだ…。


 神社、または教会などは、神聖な場所であり、そこを、(いの)りの()として、大切に思っている人々がいるのである…。


 彼らの思いを傷つけないためにも、聖地での、肌の露出(ろしゅつ)が多い格好(かっこう)や、祈りの(さまた)げになる行動には、気をつけるべきである…。



「それもそうよね~?でも、有名な霊山じゃなかったら、どこで修行をするのかしら…?」


 シロはクロに聞く。


「え…?あ~、それは…、…自分ちの山とか…?自分ちだったら、怒るヤツもいないだろ…?」


「ああ、そうねぇ…。ってことは、八乙女家の所有(しょゆう)してる土地のどこかね…。あの家って、(おが)み屋としても有名だけど、他にもやってる事業(じぎょう)があって、かなり(かせ)いでるのよ…。だから土地や不動産(ふどうさん)をいっぱい持ってるのよね…。たしか、都内(とない)にも、土地や不動産があるって話よ…」


「…お前って、そういう話、やたらと(くわ)しいよな…」


「やっだ~!そんなに()めないでよ~!」


「いや…。褒めてはないぞ…」


「…でも、八乙女家が持ってる山で、修行に向いてる山っていったら…、この町にある、飛立山(とびたちやま)くらいかしら…?他の山は、大地の気がそんなにないし…」


「ふ~ん…。飛立山(とびたちやま)か…。すぐ近くだな…」


 そう、シロとクロは話す。


 すると、そんな時、


「おっ…!いたいた…!」


 そう言って、真人の友人、武男(たけお)が、道の()こうからやって来たのである。


「お~い…!マサ~!」


 武男は、背を向けている真人(まさひと)に呼びかける。


「なぁ~!こんどの連休、飛立山(とびたちやま)に行かねぇ…?!あの(あた)りさぁ、いいらしいんだよ~!」


 武男は、笑顔で真人に話しかける。


 しかし真人は…、


「ああ~?!お前、今、なんて言った…?!飛立山って言ったか…?!言ったよなぁ…?!」


 そう言って、殺気(さっき)(はな)ちながら、恐ろしい形相(ぎょうそう)で振り返る…。


 しかも、その手には、お(ふだ)がしっかりと(にぎ)られていた…。


「いっ…?!お、お前、なんだよ、その殺気は…!しかも、その呪符(じゅふ)呪殺用(じゅさつよう)のヤバいヤツじゃねーか…!携行(けいこう)禁止の危険物(きけんぶつ)だろ…!なんでそんなの持ってんだよ…!」


「うるさい…!それより質問に答えろ…!なんで飛立山(とびたちやま)なんて言葉が出た…!返答(へんとう)次第(しだい)じゃ、ただじゃおかない…!」


 真人はそう言って、呪符(じゅふ)を武男に()きつける。


()て待て待て…!ちゃんと話すから、落ち着けって…!」


「俺は十分(じゅうぶん)、落ち着いてる…!早く話せ…!」


()かった…!分かった…!はぁ…。一体、何に怒ってるのか知らねーが、別に、なんにも変な意味はないんだぜ…?ただ、最近、飛立山の(ふもと)の川で、よく魚が釣れるって評判(ひょうばん)なんだよ…。(めずら)しい鳥が、来るとかも言われてる…。だから一緒(いっしょ)に、釣りにでもどうかな~って、さそいに来ただけだったんだ…!」


 武男は、そう正直(しょうじき)に答える。


 すると真人は、


「…魚に鳥…。それを口実(こうじつ)に、あの山に近づくつもりか…?!…害虫(がいちゅう)どもが…!そうはさせるか…!…行くぞ…!クロ…!シロ…!」


「ん…?おう…!」


「うふふ~!まっかせて~!」


 そう言って、真人と2匹の猫たちは歩き始める。


 その様子を見た武男は、


「お、おい…!お前ら…!行くってどこへ…?!何しに行くんだよ…?!」


 そう呼びかける。


「…決まってるだろ…。害虫(がいちゅう)駆除(くじょ)だ…!…言っとくが武男…、連休中に、飛立山(とびたちやま)に近づいたら、殺すからな…」


 真人は、()り返らずに、そう言い放つ。


「はぁ~?!お、おい…!待てよ…!真人…!待てって…!お~い…!」


 武男は、そう呼びかけるが、真人は振り返らない…。


「…おいおいおい…。ホントどうしちゃったんだよ…アイツ…。昔っから性格(せいかく)は良くなかったが、ここまで怒りっぽくはなかったぞ…?」


 武男は自分の頭をかきむしりながら、真人の変化を不審(ふしん)がる…。


「…はぁ…。お願いだから、ヤバい問題は起こさないでくれよ…」


 武男は、遠ざかっていく真人を見て、そうつぶやいたのだった…。






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