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23. 事件の余波


 ミノムシ事件があった次の(しゅう)…。


 謹慎(きんしん)()かれた佳奈子は、学校へと向かった。


 けれど、今度の連休(れんきゅう)にする事になってしまった山籠(やまご)もりの事を考えると、気分が(ふさ)いでしかたない…。


 なので佳奈子は、(くら)い顔で、ため(いき)をつきながら歩いていた。


 しかし、そんな時、


「あっ!あそこにいるの、八乙女(やおとめ)さんだ…!」


「ほんとだ!ここ何日か休んでたけど、やっと登校(とうこう)するんだね」


「それにしても、あのウワサ、本当なのかな…?」


「ああ!あれでしょ!私も聞いた!聞いた!」


 そう言って、同じ学校の生徒らしき少女たちが、ヒソヒソと話しだす。


「???」


 佳奈子は、なんだろうと思いながら、彼女たちを見る。


 そしてその時、自分を見ているのが、彼女たちだけではないことに気がついた。


 そう、周囲の人々から、強い視線(しせん)を感じるのだ…。


 この通学路(つうがくろ)には今、たくさんの同じ学校の生徒たちが歩いている。


 しかし彼らは皆、チラチラと佳奈子を見ては、ヒソヒソと話をしているのだった…。


 中には「こえ~っ!」と言って、(おそ)ろしいものを見るかのような目を向けてくる男子生徒…。


 逆に「ステキ…!」と言って、キラキラと目を(かがや)かせ、熱い視線を送ってくる女子生徒…。


 様々(さまざま)な視線を()びて、佳奈子は緊張(きんちょう)する…。


(な、なに…?!もしかして、ミノムシ事件の事が広まってる…?田舎(いなか)町って、ウワサが広がるの早いんだよね…。…一体、どんな(ふう)に言われてるんだろう…?うう~っ!気になる~!けど怖いよ~!もしも(ひど)く言われていたら…。うっ…!ストレスで()が痛い~!)


 佳奈子はキリキリと痛み出した胃を、そっと手で押さえた…。





 そうして不安な気持ちを(かか)えながら、佳奈子は学校に到着(とうちゃく)する。


 しかし自分の席についても、周りの生徒たちはヒソヒソと話すばかりで、近づいては来なかった。


 これでは何を話しているのか、佳奈子には知ることが出来ない。


(…皆が話してる内容、気になるけど、どうしよう…)


 佳奈子は自分から話しかけてみようか…と(なや)むが、その悩みは、すぐに解決された。


 なぜなら、


「あっ!ホントに来てる!」


 そう言って、情報通(じょうほうつう)が、佳奈子の前に姿を(あらわ)したからだ。


 学校の情報通、(となり)のクラスの井住(いずみ)くんが。


 井住(いずみ)くんは、そばかすのある顔にメガネをかけた細身(ほそみ)の男子生徒だ。


 一見(いっけん)、ひ弱そうに見えるが、その目は生き生きとして、生気(せいき)にあふれている。


 そして今日も、彼はその目を輝かせ、佳奈子の前に(あらわ)れたのだった。


「おっはよ~ございます!八乙女さん!あなたが学校に来るのを、ずっと待っていましたよ~!」


「お、おはよう…。井住(いずみ)くん…。今日はずいぶんとごきげんだね…」


 佳奈子は井住の威勢(いせい)のよさに、若干(じゃっかん)、引いてしまう。


「当然ですよ!やっとあなたから直接、話を聞けるチャンスがきたんだ!これが興奮(こうふん)せずにいられますか!」


「私から話を…?」


 …これは絶対、ミノムシ事件の事だろうな…、と佳奈子は予想して緊張する。


「ええ!先週(せんしゅう)あった「呪具取り(あつか)い新人講習会」…。その時のお話を、あなたにお聞きしたいんです!今、この学校では、その講習会で()きた事件の事で、話が持ち切りなんですよ…!」


(や、やっぱり…!)


 佳奈子は予想が当たって、緊張をさらに深める。


「その講習会に、あなたが出席していた事は周知(しゅうち)の事実…!そして世間(せけん)では、あなたこそが、その事件の、最重要人物だ!とウワサされているんですよ…!」


(ば、ばれてる~!)


 佳奈子は、もう()(あせ)が止まらない。


(ど、どこまでバレてるの…?!全部…?!全部なの…?!いや!落ち着け、私…!ウワサって、事実以上に大げさに言われたり、変な(ふう)(ゆが)められて伝わったりもするから、どんな(ふう)に言われてるのか、ちゃんと(たし)かめなくちゃ…!よ、よしっ…!)


 佳奈子はゴクリ…、と(つば)を飲み込み、覚悟(かくご)を決めた。


 そして、


「そ、そうなんだ~!それでウワサでは、私はどんな(ふう)に言われてるのかな~?」


 佳奈子は、冷静さを(よそお)って聞き返す。


 しかし口元(くちもと)はピクピクと痙攣(けいれん)し、あまり冷静には見えない…。


 けれど、井住は話を進めたいらしく、そこには()()まないでくれた。


「よくぞ聞いてくれました!ウワサではこう言われているんですよ!…このクラスの山崎君と山田君が、あなたの友人の土師原(はじはら)さんに暴行(ぼうこう)(くわ)え、さらには、あなたの身に()けてるのものを、無理やりに()ぎ取った…と!」


「!」


 井住は、さらに話を続ける。


「山崎君と山田君は、あなた方を(はずかし)めようとし、それに怒ったあなたは、彼らをボコボコにして(かえ)()ちにした…!けれど、あまりにやりすぎの報復(ほうふく)に、三級の退魔師や、(まわ)りの人々が()めに入った…。しか~し!(いか)りの(おさ)まらなかったあなたは、止めに入った人々を、なんと逆さにして、体育館の天井に()り下げてしまった…!そう言われているんですよ!」


(え…?!ええええ~?!そんな(ふう)に言われてるの~?!)


 佳奈子は事実(じじつ)と違う、井住の話に驚く。


(いや、一部、あってる所もあるけど…。山崎君たちをボコボコにしたってのは、一体どこから…?…あっ!そういえば、山崎君と山田君、家の人たちと一緒に、ウチに(あやま)りに来たって、おばあちゃんが言ってた…。しかも山崎君たち、家の人たちに(しか)られて(たた)かれたらしくって、顔がボコボコになってたって…。それが私のせいにされてる…?!)


 佳奈子はウワサ話を、そう推測(すいそく)する。


(…でも私がトランスしちゃった事とかは、まだ言われてないのかな…?…けど、その事は、あまり知られたくないし…。う~ん…)


 そうして佳奈子が考え込んでいると、


「八乙女さん…。(はずかし)めを受けて、さぞや(つら)かったでしょうね…。そんな事を思い出させるのは、僕も(つら)いっ…。しかしっ!僕は、新聞部の部員として、この特ダネ…、じゃなかった、この真実(しんじつ)を、世の(ため)、人の為に、(あき)らかにしなくてはならないっ…!」


 井住は、こぶしを(にぎ)り、そう力強く宣言(せんげん)する。


「だから、どうかお願いします!八乙女さん!教えてください…!…一体、どこまでされたのか…」


「…えっ…?」


「言いずらい事は分かっています…!ですが!これは世の為なんです…!皆の混乱(こんらん)(しず)める為なんですよ…!だから教えてください…!()ぎ取られたのは、上着だけなんですか…?!それともシャツ…?!も、もしや下着だったり…!ぐべばっ…!」


「いいかげんにしろ~!!!」


「えっ?!多恵ちゃん?!」


 なんと、話の途中(とちゅう)に、いきなり多恵(たえ)(あらわ)れたのだ。


 多恵はカンカンに怒って、井住の顔を、手のひらでグイグイと押す。


「このバカ井住(いずみ)~!毎日!毎日!(はずかし)めを受けて、怖かったでしょうね…?だの、(きず)ものにされて、さぞ(つら)いでしょうね…?だの、失礼な事ばっかり言ってきて…!私も佳奈ちゃんも、そんな事はされてないって、何度も言ってるでしょう?!っていうか、そんなことをズケズケと聞いてくるなんて、どんだけデリカシーがないのよ…!アンタは女の(てき)よ敵…!」


 多恵は井住の首を()めて、ガクガクと()らす。


「ぼ、暴力反対(ぼうりょくはんたい)…!暴力反対…!」


 井住は、青くなって(うった)える。



 …ちなみに、暴力(ぼうりょく)とは、目に見える体への攻撃だけでなく、相手が「(いや)だ」と感じる、不当(ふとう)(おこな)い、全般(ぜんぱん)()す…。


 相手(あいて)の心を(きず)つける言葉や、(いや)がる相手に、ポルノを見せることなども、暴力にあたる…。


 ただし、相手の(ため)を思って、適切(てきせつ)な形で、相手を(しか)ることは、たとえ相手に不快感(ふかいかん)を与えたとしても、その相手のこれからを思ってのことなので、暴力にはあたらない。


 そして、もし、そんな暴力に(なや)んでいる場合は、一人で(かか)()まずに、信頼(しんらい)できる大人や、警察、相談窓口(まどぐち)などに相談(そうだん)しよう。



「た、多恵ちゃん!落ち着いて…!」


 佳奈子は席から立ちあがり、多恵を止めた。


「止めないでよ!佳奈ちゃん!こいつはホントにしつこくて(たち)が悪いんだから…!トイレの前にもずっと()()せして「長かったですね!大きい方だったんですか?!それとも今日は、女性のあの日?!どっち?!ねぇ?!どっち?!」とか大声で聞いてくるのよ?!」


「ええっ?!」


(も、もしかして、私もそんな(ふう)()きまとわれるの…?!…すっごいヤダ!井住くん…!)


 佳奈子は井住に嫌悪感(けんおかん)を感じてしまう。


 ちなみに、この時代の日本人男性は、デリカシー意識が低いと、世界的に有名だった。


 そして、嫌悪感を感じた佳奈子の顔は、恐ろしいまでに変わってしまう…。


「うっ…!」


 さすがに、そんな目で見られて、井住も、少しばかり傷ついた。


「し、仕方(しかた)ないじゃないですか…!土師原(はじはら)さんたちが真実(しんじつ)を話してくれないからですよ…!」


「ああん?!だから!そんな事はされてないって、何度も言ってるでしょう?!」


「じゃあ、どうしてそんな事件が起きたんですか?!」


「えっ…。そ、それは…」


 多恵は言葉に()まり、目をさまよわせる…。


「教えてください…!秘密(ひみつ)なんてズルいですよ~!一体、何があったんですか?!ねぇ?!」


 そうして、(ふたた)び井住は、佳奈子と多恵に(せま)ってきた。


(ど、どうしたら…!)


 佳奈子がそう(こま)っていると、


「おい、井住(いずみ)野球(やきゅう)部のヤツらが、お前の事を(さが)してるぞ」


 そう言って、なんと功刀(くぬぎ)(あらわ)れたのだ。


(えっ…?!功刀くん…?!)


 思いもしなかった人物の登場(とうじょう)に、佳奈子は驚く。


「お前、野球部のスコアブックを、()りたまま出ていったんだってな…。顧問(こもん)の教師が、それがないと朝練(あされん)を終わりに出来ないって言って、探してるぞ」


 功刀は、そう冷静な声で言う。


 けれど井住は、


「はぁ?!そんなの、今は、かまってるヒマないんですよ!特ダネが目の前にいるんですから…!さぁ!早く事件の話を…!」


 そう言って、功刀(くぬぎ)の話を聞かない…。


 すると、その様子(ようす)を見た功刀は、


「はぁ…。仕方(しかた)ないな…」


 そう言って、教室の入り口に行き、


「お~い!野球部~!井住(いずみ)ならここにいるぞ~!」


 そう声を上げたのである。


 すると、


「なに…?!」


「そこにいたのか井住…!」


 そう言って、大勢(おおぜい)の野球部員たちが、ドタドタドタ!と、押し()せてきたのだった。


「井住…!お前のせいで、朝練が終わらないんだ!早くスコアブックを返せ…!」


「それと、閲覧届(えつらんとどけ)にもしっかりとサインしろ…!俺たちが怒られるんだぞ…!」


「えっ?!ちょ…?!ちょっと…?!まってよ…!ねぇ~!」


 そうして井住は、大勢(おおぜい)の野球部員たちに()れていかれてしまった…。


「………」


 佳奈子と多恵は、急な展開(てんかい)に、あっけにとられる。


(…び、びっくりした~!でも、おかげで助かった…)


 そう思って、佳奈子はホッ…と息をつく。


(あ、でも、これって、功刀(くぬぎ)くんが機転(きてん)()かせてくれた、おかげかも…?)


 佳奈子はそう気づき、功刀(くぬぎ)を見る。


 功刀は、何を考えているのか分からない顔で、井住が連れていかれるのを見ていた。


(…お(れい)…、言った方がいいよね…?)


 佳奈子はそう思い、


「…あの…、ありがとう…、功刀くん…。おかげで助かったよ…」


 そうお礼を言う。


 すると、


「…別に、お前たちを助けたわけじゃない。野球部がうるさかったから、早く静かにしてほしかっただけだ」


 功刀(くぬぎ)はそう、感情の分からない声で言う。


(…功刀くん、やっぱりまだ、事件のこと、怒ってるよね…)


 佳奈子はそう思い、


「…あの、功刀君…。この前は、本当にごめんなさい…。私…」


 佳奈子は謝罪(しゃざい)の言葉を続けようとした。


 しかし、


「おい。学校でその話はよせ。ウワサが、もっと(ひど)い事になるぞ」


「えっ?」


「…はぁ…。もう謝罪はいい…。一応(いちおう)(ゆる)してやる。…忘れはしないがな…」


「えっ…?!」


(今、許すって言った…?!)


 佳奈子は、功刀の言葉に驚く。


 体育館を()って行ったときの彼の様子から、相当(そうとう)、怒っていると思っていたのに…。


 しかも、今なんて、佳奈子たちを助けてくれた…。


「…もしかして、功刀(くぬぎ)くんって…」


(優しい人…?)


 そう、佳奈子は続けようとしたのだが、功刀は、なぜかハッ…!として、


「ち、違うぞ!俺は(かね)に弱くなんかない…!」


 そう、(あわ)てて言いだしたのである。


「…は…?」


 佳奈子は、なぜ功刀(くぬぎ)がそんな事を言い出したのか分からない…。


 しかし、功刀は慌てたまま、


勘違(かんちが)いするなよ!あの優待(ゆうたい)カードを(もら)ったからじゃない…!あんなもの(もら)わなくとも、俺は初めから、お前を(うった)えようなんて考えていなかった!ただ、お前の家の(やつ)が、どうしても貰ってくれって頭を下げるから、仕方なく貰っただけだ…」


「え…?」


 …優待(ゆうたい)カード…?


 …何のこと…?


 佳奈子には、話が(まった)く見えない。


「…まぁ、物を無駄(むだ)にするのは良くないし…、一応、使わせてはもらうが…。それにつられて心を変えたとか、そんなんじゃないからな…!絶対、勘違(かんちが)いするなよ…!いいな…!…言いたかったのはそれだけだ…。俺は教室に帰る」


 功刀はそう言って、教室を出ていった。


「………。…一体、何のこと…?優待(ゆうたい)カード…?」


 佳奈子は(わけ)()からず、途方(とほう)()れる。


 すると多恵が、


「えっ?もしかして佳奈ちゃん、カードの事、聞いてないの?」


 そう聞いてくる。


「えっ?!多恵ちゃん、何か知ってるの?!」


「うん。知ってるもなにも、私も絹代さんのお弟子(でし)さんから、優待(ゆうたい)カードをもらったから…。ほら、これ」


 そう言って多恵は、一枚のカードを取り出した。


「今回の事件で、ご迷惑(めいわく)をかけたお()びに、どうしても(もら)ってくれって言われてさ…。あんまり頭を下げられるもんだから、私も、仕方なく貰ったんだ…」


「そ、そうなの…?!」


 佳奈子には初耳(はつみみ)だった。


「うん…。こういうのを(もら)うのは気が引けるんだけどね~。でも、お()びをしないと気が()まないからって言われて…。貰ってくれると、ありがたいって…。だからここは素直(すなお)に貰っといた方が、いいのかなって思ってさ…」


 多恵は、(こま)った顔をして頭をかく。


「別に、ほしかった訳じゃないんだけどね~。けどもう(もら)っちゃったし、使わないのも、もったいないかな~って思って。一応、このカード、どんな所で使えるんですか~?って聞いてみたの。そしたらさ、この(あた)りのお店なら、どこでも使えるし、一年間、大抵(たいてい)の商品は4割引きになります~って言われて、もうビックリしちゃったよ!」


「…大抵(たいてい)の商品…?」


「うん!カードが使えるお店と、買える大体(だいたい)の商品が()ったリストを(もら)ったんだけど、ホントにほとんどの物が、4割引きになるらしくってさ!食料品とかだけじゃなく、家電や車、住宅関連の物なんかも、割引の対象になるんだって…!」


 多恵は興奮気味(こうふんぎみ)に言う。


「それを聞いたウチの家族ったらさ、もう興奮しちゃって!おじいちゃんなんて、今年中に、呪具の工具(こうぐ)や、材料を大量発注(はっちゅう)しよう!なんて言いだして、見積(みつ)もりを始めちゃうし…、お父さんなんか家を()てかえようか…、なんて言い出すし…、お母さんとおばあちゃんは、金や銀の相場(そうば)を調べ出すし…、もう浮かれすぎでさ~!()ずかし~!」


 佳奈子は驚き、開いた口が(ふさ)がらない…。


 しかし、多恵はそんな佳奈子の様子に気づかず、話を続ける。


「もう!いくら4割引きになるからってタダじゃないんだし、6割は(はら)わなきゃいけないんだから、そうなんでも買える予算はないってのにね~!ほんとバカだよ~!あっ!でも私が欲しかった工具はね、お父さんが買っていいよって言ってくれて、実はもう買ってもらっちゃったんだ~!ほんと4割引きって、ありがたいよ~!…けど、いいのかな…?こんなにいいもの、もらっちゃって…?」


 多恵は心配そうに、佳奈子に聞いてくる。


「えっ…?!も、もちろんだよ…!事件のお()びはしたかったし、皆のお(やく)に立てたなら、何よりだよ…!あははは…」


 佳奈子はピクピクと、顔を引きつらせながら言う。


(い、言えない…!この状況でダメだなんて…!あんなにカードを喜んで、ありがたいとか言ってるのに…!しかも、もう使っちゃったんでしょ…?!今更(いまさら)ダメだなんて言えないよ~!)


 佳奈子は心の中で、そう(さけ)ぶ。


 しかし、佳奈子の汗は、(たき)のように流れて止まらない…。


「そう?佳奈ちゃんの気がそれで()むんなら、私も(うれ)しいよ!私は元々(もともと)、気にしてなかったしね!あっ!それとね!ありがたかったのは、優待カードだけじゃないんだ!」


「えっ…?」


「講習会が延期(えんき)になったせいで、あの日に「受講済み証」を(もら)えなかったでしょ?あれがないと、呪具師は特定(とくてい)の商品を売ることが出来ない…。その商品を、今度の連休から売り出そうって、考えてた人たちもいたんだ…。けど、それがダメになっちゃったでしょ…?」


「あっ…」


 その事に気づかなかった佳奈子は、罪悪感で青くなる。


「でもね!絹代さんが、それを申し訳ないって言ってくれて、今回の事件に関わった、新人呪具師たちの商品を、夏休みの(だい)呪具(いち)に、出品(しゅっぴん)させてくれる事になったんだ~!あんな立派(りっぱ)な会場の、大きなイベントに出品させてもらえるなんて、信じられないよ~!新人じゃあ、まずありえない事だしさ!」


「そ、そうなんだ…」


「うん!あのイベントに出品できるだけで、知名度(ちめいど)がグッ!と上がるし、顧客(こきゃく)や取引先を増やす、販路拡大(はんろかくだい)の大チャンスになる…!この機会(きかい)(のが)す手はないって…!ああっ!私の呪具師としての船出(ふなで)に、強い()い風が吹いているのを感じるわ…!」


 多恵はそう言って、両手を広げる。


「………」


 そんな多恵を見て、佳奈子は複雑(ふくざつ)な気持ちになる。


 …優待(ゆうたい)カードに、イベントへの出品許可(きょか)…。


 数日前…、祖母の絹代は、ばらまく(かね)は、たっぷりあるから心配するな、と言っていた…。


 たぶん、これが、お金をばらまいた結果なのだろう…。


 あの事件で迷惑(めいわく)をかけた人たちに、お()びや、補償(ほしょう)をしたい気持ちはある…。


 しかし、これはもう、賄賂(わいろ)というんじゃないだろうか…。


 賄賂(わいろ)は犯罪で、処罰(しょばつ)される…。


 もしも、そんな事になってしまったら…。


 そう考え、佳奈子は不安になる…。


(…それに、もしかしたら、あのウワサも、ばらまいたお金で操作(そうさ)されたものなのかも…。…こんな事をしちゃって、ホントにいいの…?!(ばち)が当たりませんか?!神様…?!…ううっ…!いたたまれないよ~!)


 佳奈子はそう思い、心の中で涙を流し、(ふる)え始めたのであった…。







賄賂(わいろ)とは、公務員、または、みなし公務員が、職務に関係する事で、受け取った、または、送った、不正な利益の事です。


 そして、みなし公務員というのは、公共性・公益性の高い業務に関わる、民間企業も入ります。


 なので、この世界では、拝み屋は、みなし公務員に入ります。


 ちなみに、公務員の退魔師もいます。


 ただし、呪具屋は、みなし公務員に入りません。


 賄賂(わいろ)は、(おく)っても、受け取っても、(つみ)になります。


 気を付けましょう!




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