20. 救出
しばらく更新を不定期にします。
すいません。
体育館に逆さに吊られ、助けを求める幾人もの人々…。
体育館に着いた真人と武男は、その惨状に、息をのむ…。
「…まじかよ…。ホントに皆、ミノムシになってるじゃねーか…」
武男は驚きを隠せない。
「はぁはぁ…。わ、私が言った、通りだろう…?」
追いかけてきた壺倉が、息を切らせながら言う。
「…佳奈子ちゃん…」
真人は体育館に浮かぶ佳奈子を見てショックを受ける。
「…あ~。これはアイツの仕業か…。八乙女の羽衣の力…。どうも暴走しているみたいだな…。意識がないのか?…にしてもアイツ、こんなに霊力が強かったのかよ…。この前会った時は、こんなに感じなかったぞ?」
武男は佳奈子の霊力に驚く。
「…いつもは呪具のブレスレットで、力を抑えていたんだ…。今はたぶん、それが外れてしまってる…。きっとそのせいで…」
真人はこの事態を、そう推測する。
「ああ~。なるほど…。それでトランス状態に陥って、分別を無くしてるってところか…。でもまぁ、皆ミノムシにされてるだけで元気そうだし、そう最悪の事態ってわけでもないな」
「…いや…。長時間の逆さ吊りは命にかかわる…」
「えっ?!そうなのか?!」
「ああ…。だから悠長にはしてられない…。佳奈子ちゃんを殺人犯にしない為にも…」
真人は、事態の解決を急ごうと決めた。
するとその時、
「お~い!真人さ~ん!」
そう言って多恵が、真人に呼びかけてきたのである。
「!多恵ちゃん!大丈夫かい?!」
「私は平気~!それよりも佳奈ちゃんを助けて~!佳奈ちゃん、山崎と山田のせいで…!」
多恵は真人たちに、事の次第を説明する。
「…やっぱりそうか…」
「推測どおりだな…。どうする?術で正気に戻す事はできると思うが…」
武男は、事態の解決法を話し合う。
「いや…。今の佳奈子ちゃんは、力の波に押し流されて、おぼれているような状態だ…。一時的に正気に戻しても、すぐにまた力の波に飲み込まれてしまうだろう…」
「じゃあどうすんだよ?」
「…力の波に飲み込まれないよう、まずは力を封じないと…」
「う~ん…。あれを封じるのは、相当、骨が折れるぞ?」
「大丈夫…。俺がやる…。俺が、絶対、佳奈子ちゃんを助けてみせる…!」
真人はそう力強く言い、手持ちの札から一枚を選び出した。
そして呪文を唱えだす。
「…力を貸したまえ!木花咲耶姫…!神気招来!」
すると、真人が持つ札が、ぽぅ…っと光り始めた。
「なるほど!木花咲耶姫か!」
武男は、真人の作戦を理解する。
木花咲耶姫とは、日本で最も美しいとされる女神である。
この女神は火の中で出産したことから、火の神ともいわれている。
しかし同時に、水徳を持つ神としても知られているのだ。
この女神は、その水徳をもって、富士山の噴火を鎮めた。
そのため、山を鎮める神として、今も富士山に祀られている。
つまりこの女神には、強大な力を、鎮める力があるのだ。
そして佳奈子の持つ力・妖怪・天降女の力は、水と深い関りを持つ…。
つまり水徳を持つ、この女神ならば、水の力におぼれる佳奈子を、きっと助けてくれるだろう…。
真人は佳奈子を救うため、光るお札を手に、体育館の中へと駆けてゆく…。
すると、宙に浮かぶ羽衣たちが、それに反応する。
そして真人めがけて、襲い掛かってきた。
しかし真人はそれらに慌てず、
「荒ぶる力よ、鎮まりたまえ!花鎮め!」
そう呪文を唱える。
するとお札の光はさらに増し、真人の前に、光るバリアが現れた。
恐れを知らぬ羽衣たちは、そのバリアに向かっていく…。
しかし、羽衣がそのバリアに触れたとたん、なんと羽衣は、パッ…!と桜の花びらへと、姿を変えてしまったのである…。
体育館には、美しい桜の花びらが、ひらひらと舞い上がった…。
「なっ…!羽衣が、花びらになっちまった…」
山崎たちは驚きを隠せない。
一方、武男は、
「なるほど~、そうなるか…。桜は、木花咲耶姫の霊木だからな…」
この状況を妙に納得していた。
「わぁ…!すごい…!すごいよ!真人さん!」
多恵は真人の技に興奮する。
「…あの動き…、あの霊力の使い方…。只者じゃないな、アイツ…」
功刀はそう言って、真人を凝視する。
そして退魔師の黒田は…、
「…さすがは真人くん…。敵いませんねぇ…」
そう小声でつぶやいて、事の成り行きを見守っていた…。
真人は、羽衣を花びらに変えたり、避けたりしながら前へと進む。
そして、とうとう佳奈子の元へとたどり着いた…。
「佳奈子ちゃん…!待ってて…!今助ける…!」
真人はそう言うと、飛んできた羽衣を足場にし、ひときわ高くジャンプした。
すると彼は、宙に浮かぶ、佳奈子の前へと躍り出る。
そして、
「力よ鎮まれ!」
真人はそう言って、持っていたお札を、佳奈子の額に貼り付ける。
すると、佳奈子の嵐のような力が、フッ…と、一瞬でおさまってしまう。
けれど、それと同時に、今まで浮いていた佳奈子の体も、急速に浮力を失ってしまったのである。
このままならば、佳奈子は床に落ち、ケガをしていたことだろう。
しかし、そうはならなかった。
なぜなら真人が、サッ…と佳奈子を受け止めたから…。
そして真人は、佳奈子を抱えたまま、危なげなく着地を果たす。
「ふぅ…。助けられてよかった…。佳奈子ちゃん…」
そう言って真人は、涙ぐんだ目で佳奈子を見る。
その佳奈子は、お札を貼られたまま、ぐっすりと眠っていた。
そしてそこへ、
「お~い!マサ~!うまくいったな!」
事の成り行きを見守っていた武男が、駆けつけてきたのであった。
「ああ。あとは、呪具のブレスレットがあれば、このお札が取れるんだけど…」
「ああ、そうか。え~と…、おっ!あれか?」
武男は見つけたブレスレットを拾いに行く。
そしてそれを真人に手渡した。
「ああ。このブレスレットで間違いない」
真人は受け取ったブレスレットを確認する。
そしてそれを佳奈子の腕に優しくつけた。
「よし…。これでもう、お札を取っても問題ないな」
真人はそう言って、佳奈子の額からお札を取った。
するとその途端、眠っていた佳奈子が、身じろぎをし始める。
「…う~ん…。…もう朝~?…あ、あれ…?真人さん…?!」
目覚めた佳奈子は、目の前にいる真人に驚く。
「佳奈子ちゃん…!よかった…!本当に…!」
真人は感極まった声で言う。
「えっ?よかったって何が…?っていうか私、どうしてこんな所で寝ちゃってるの…?」
佳奈子は左右を見まわして言う。
「あ、え~と…、それはね…」
真人は、気まずそうに言葉を濁した。
「おい!バカ佳奈子!分からないなら教えてやる!お前はな、ブレスレットを外されて、今までトランスしてたんだよ!」
「お、おい!武男!もっと言い方を…!」
「…トランス…?」
「ああ。ボケっとしてるヒマはないぜ!上を見てみろ!お前のやった事をな!」
「えっ?上って…?…!うそっ?!なにこれ~?!」
佳奈子は大勢のミノムシたちを見て、大きな悲鳴を上げたのだった…。
「ほんと~に、すみませんでした~!」
正気に戻った佳奈子は、すぐにミノムシたちを開放した。
そして現在、彼らに土下座をして、謝罪をしている最中である。
「ほら!お前らも謝りな!」
武男は、山崎と山田の頭をつかみ、無理やり頭を下げさせる。
そして退魔師の黒田は、
「いやはや…。一時はどうなるかと思いましたが、誰にもケガはなかったし、無事に解決して、良かった!良かった!あっはっはっ!」
安堵の表情で笑っていた。
けれどそんな黒田に、一人の講習スタッフが、ためらいがちに話しかける。
「あ、あの~、黒田さん?誰にもケガはなかったとおっしゃいますが、壺倉さんだけは、ギックリ腰になって、あちらで休まれているのですが…」
そう、壺倉は、久しぶりに全速力で走ったせいで、ギックリ腰になってしまったらしい。
そして動けなくなって、今は体育館の隅で休んでいるのだ。
「え~?壺倉さんは、別にミノムシにされた訳でもないでしょう~?ギックリ腰になったのは運動不足のせいで、いわば自業自得…。生活習慣が悪いんでしょうね~!」
そう言った黒田の声には、悪意がこもっていた。
そしてそれを、離れた場所で聞いていた壺倉は、
「なっ!一体、誰のおかげで助かったと思ってるんだ!私が助けを呼びに行ってやったから…!うっ…!アタタタタタタ…!」
壺倉は大声を出したせいで、腰に響いてしまったようだ。
そして、その苦しむ声を聞き、黒田は黒い笑みを浮かべる。
「というわけで!講習会の責任者である壺倉さんは、今、役に立ちません。ですので、ここは、私、黒田が代理を務めさせていただきます」
黒田はそう言って、
「え~皆さん。今日は本当にびっくりしましたねぇ~。きっとお疲れでしょう?ですので講習会は、また後日、日を改めて、という事に致しましょう…。講習日が決まりましたら、すぐにご連絡いたします。…というわけで、今日は、これにて解散と致します。どうぞこのままお帰りになって下さい。お疲れさまでした~!ゆっくり休んでくださいね~!あ、なにか体の不調や、苦情などがありましたら、どうぞ遠慮なく、呪具師協会か、退魔師連盟にご連絡くださ~い!それではまた、次の講習会で~!ごきげんよう~!さよ~なら~!」
そう少しばかり強引に話をまとめ、皆に帰りを促した。
それを聞いた者たちは、皆それぞれ、安堵した顔や、複雑な表情をしながらも、体育館を後にしてゆく…。
そして佳奈子は、帰ってゆく彼らに、何度も何度も頭を下げた…。
その佳奈子の姿を見て、ほとんどの者たちは、仕方ないな~許してやろう、という表情で帰っていったが、そうではない者もいた。
功刀である。
功刀は、佳奈子を震え上がらせるほどの目つきと声で、
「…八乙女…。今日の仕打ちは決して忘れない…。それと俺の名前は、功刀 刀馬だ。…覚えておけ…!」
そう言い捨てて帰ってゆく…。
「は、はいっ…!すいませんでした~!」
佳奈子は深く深く土下座した…。
そしてそんな佳奈子の肩を、真人と多恵は、ドンマイと言って叩き、慰めてくれていたのであった…。
コノハナノサクヤヒメのお名前は、漢字で色々な書き方があります。
そして家庭円満・安産・子安・水徳の神とされ、火難消除・航海・漁業・農業・機織等の守護神であるともされています。




