表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

02. 天の羽衣


「ひっ…!おばあちゃん、なんかすごく怒ってる?!」


 鬼のような形相(ぎょうそう)の祖母・絹代(きぬよ)


 それを見て、佳奈子(かなこ)(おび)えつつも戸惑(とまど)う。


 ほんの少し前までは、おばあちゃんは怒ってなんて、いなかったのに…と…。


 そもそも佳奈子たちは、問題の泥田坊(どろたぼう)手分(てわ)けして探していたのだ。


 そして佳奈子が先に見つけたら、その場で仕事にかかっていいと決めてもあった。


 なのに…。


「ど、どうしてそんなに怒ってるの?おばあちゃん…。私、先に問題の泥田坊を見つけて、ちゃんと言われた通りに、仕事してたのに…」


 佳奈子は(おそ)る恐る問いかける。


 これ以上おばあちゃんが怒りませんように、と願いながら。


 しかしその願いむなしく、絹代はさらに怒りを()して、こめかみを引きつらせた。


「なぁにが言われた通りにだ!バカものが!全然、指示(しじ)と違うじゃないか!今回の依頼(いらい)が何か、忘れたのかい?!」


「えっ?わ、忘れてないよ?問題の泥田坊の捕獲(ほかく)でしょ?だから弱らせた後、ゆっくり(つか)まえようと…」


「違うだろうが!今回の依頼は、ただ(つか)まえればいいんじゃない。弱体化(じゃくたいか)して小さくなるより前に捕まえる事だ!ちゃんとそう言っただろうが!」


「えっ?!あっ!そうだった…!小さくなるまで弱らせたら、ダメなんだった…!ご、ごめんなさい、おばあちゃん…。私、ドロをかけられたせいで、頭に血がのぼっちゃって…。ホント、ごめんなさい…!…私、また失敗しちゃった…」


 佳奈子は自分の(あやま)ちに気づいて、ひどく落ち込む。


 それというのも、佳奈子の失敗はこれが初めてではないからだ…。


 佳奈子は以前にも、仕事で使うお(ふだ)を、風に飛ばされてしまったり、結界を張っている(なわ)を、引っかかって切ってしまったり、封印(ふういん)につかう(つぼ)を、手を(すべ)らせて落とし、()ってしまったりと、何度も失敗を()り返しているのであった…。


 そのため失敗の多い佳奈子は、自信喪失(そうしつ)ぎみなのである…。


 そしてそんな佳奈子を見て、絹代は深くため(いき)をついた。


「はぁ~。お前って子はまったく…。いっつもどこか()けてるんだから…。…いや、説教(せっきょう)は後だね…。…佳奈子!」


「は、はい…!」


「お前は仕事の途中(とちゅう)に何を落ち込んでるんだい?!反省(はんせい)なら帰ってからにしな!今はそんなヒマ、ないはずだろう?!」


「えっ?」


「ほら、後ろを見な!ぐずぐずしてると、さっきの泥田坊たちが逃げちまうよ!田んぼの(そこ)に逃げ()まれたら、もう手は出せないからね!」


 絹代はそう言って、佳奈子の後ろを指さす。


 佳奈子はそれを見てハッとし、後ろを()り返った。


 すると…。


「うそっ!泥田坊たちがいない?!あっ!もうあんな所に!」


 なんと泥田坊たちは、みんな逃げていたのだ。


 小さくなって痙攣(けいれん)していた、あの泥田坊すらも。


「みんな田んぼに()かってる…!まずい!(いそ)がないと!」


 このままでは絹代の言う通り、泥田坊は田んぼの底に逃げ込んでしまうだろう。


 佳奈子は気持ちを切り()えて、急いで泥田坊を追いかける事にした。


「おばあちゃん!私、行ってきます!」


 そう言って佳奈子は、ふところから3枚のお(ふだ)を取り出し、走り出した。


 しかし…。


「待ちな!佳奈子!お(ふだ)を使うのは()めな!」


 そう言って、絹代が呼び止めたのである。


「えっ?」


 思いがけない言葉に、佳奈子は足を止めて振り返る。


「お前も八乙女(やおとめ)家の娘なら、羽衣(はごろも)を使いな。(あま)の羽衣を。それでヤツらを()らえるんだ」


「えっ?!で、でも…。私は羽衣を使うのが苦手(にがて)だし…。まだ、お(ふだ)のほうが…」


 自信のない佳奈子は、一応(いちおう)反論(はんろん)してみる。


 しかし…。


「なぁにを弱気(よわき)な事を言ってんだい!苦手だからといって使わなかったら、一生、上達(じょうたつ)できないよ!そもそも今回の依頼は、お前の修行を()ねているんだ。実戦(じっせん)にまさる修行はないからね」


「で、でもぉ~」


「つべこべ言わずに、やるっ!」


「は、はいっ!い、行ってきます!」


 絹代の気迫(きはく)()された佳奈子は、涙目(なみだめ)になって走り出した。


 そしてなんとか、泥田坊たちが田んぼにたどり()く前に()いつく。


「よかった!追いついた…!泥田坊たち!もう逃がさないんだから!…じゃあ、いくよ!…出て来て!八乙女家(やおとめけ)相伝(そうでん)、天の羽衣!」


 佳奈子がそう言った途端(とたん)、なんと彼女の手のひらから、半透明(はんとうめい)のうすい(おび)のようなものが飛び出して来た。


 これこそが、八乙女家の女性のみが持つ異能(いのう)(あま)羽衣(はごろも)なのである。


 実は佳奈子の家・八乙女家の人間は、妖怪の血を引いている。


 その妖怪の名は、天降女(あもれおなぐ)


 天女(てんにょ)の姿をした妖怪である。


 天降女(あもれおなぐ)は、人間の男性を妖艶(ようえん)に笑って誘惑(ゆうわく)し、この誘惑に負けた男性の命を(うば)ってしまうと言われている…。


 また、柄杓(ひしゃく)を手にしている事があり、その柄杓の中の水を、男性が飲んでも、命を奪われ、(たましい)を持ち()られてしまうと言われている…。


 …しかし、そんな事をするのは、あくまでも、一部(いちぶ)の悪い、天降女(あもれおなぐ)だけだ…。


 ただ、天女(てんにょ)の姿をした天降女(あもれおなぐ)たちは、(みな)例外(れいがい)なく、羽衣を持っている…。


 その為、天降女(あもれおなぐ)の血を引く、八乙女家の女性にも、羽衣を生み出し、それをあやつる能力が(あらわ)れるのであった…。


 そして、その羽衣は今、佳奈子のコントロールによって、泥田坊たちに向かって飛んで行く。


 …ものすご~く、ゆっくりと…。


「ううっ…。やっぱりスピードが出ないよ~。お(ふだ)の方が、ずっと(はや)く動かせるのに…」


 佳奈子はそう泣き言を言いつつ、羽衣のコントロールを続ける。


「あ、でも…、泥田坊が(おそ)いから、なんとかなりそう…。よしっ!じゃあ、羽衣を()き付けて捕まえるぞ~!いけっ!天の羽衣!」


 佳奈子がそう命じると、泥田坊の頭上に飛んでいた羽衣は、ゆっくりと()りて来て、泥田坊に(から)みつく。


 しかし…。


 むにゅ…。


 なんと(やわ)らかい泥田坊たちの体は、つきたての(もち)のように()びて、その拘束(こうそく)から(のが)れ出てしまったのである…。


「ええっ?!うそっ?!拘束(こうそく)できない?!そんなバカな!…もう一回…!」


 しかし、もう一度やってみても結果は同じ…。


 泥田坊たちは拘束の隙間(すきま)から、むにゅっと(のが)れて、出て行ってしまうのである。


「うそでしょ~?!逃げられちゃう~!どうしたらいいの?!逃げないで~!」


 佳奈子は四苦八苦(しくはっく)しながら、羽衣を動かし続ける。


 けれど、やはり泥田坊を()らえる事はできない…。


 そうして佳奈子がもたもたしているうちに、後ろから祖母の絹代が追いついてきた。


「もう!何をしてるんだい、お前は!もっと(はや)く、ぐるぐる()きにしないか!」


「これ以上速くは無理だよ~!これが限界(げんかい)なの~!」


「なら、もっとたくさん羽衣を出して、(やつ)らの逃げる隙間(すきま)をなくしな!」


「そうしたいけど、羽衣を飛ばし続けるのが(むずか)しくって…!これ以上羽衣を出しても、コントロール、出来ないって~!…ああっ!」


 泣き言を言っていた佳奈子は、突然(とつぜん)(あわ)てた声を出した。


 なぜなら、ついに泥田坊が、田んぼへと、たどり着いてしまったからだ。


「泥田坊が田んぼの中に入っちゃう!待って!行かないで!」


 佳奈子は切羽詰(せっぱつ)まった声をあげ、脇目(わきめ)も振らず、泥田坊を追いかけた。


 しかしそのせいで…。


 ズルッ…。


「うわっ?!」


 なんと佳奈子は、道と田んぼの間にある(あぜ)で、派手(はで)(すべ)ってしまったのだ。


 けれど、まだギリギリ(たお)れてはいない。


「わわわわわっ!わわわわわっ!」


 (すべ)った佳奈子は、(ころ)ぶまいと両手を振って、なんとか体勢(たいせい)を立て直そうとする。


 しかし、その努力は(かな)わなかった…。


 むしろ前後に()れてあらがったせいで、体は前に(かたむ)いて…。


 …バッシャン…!


 …かくして、(あわ)れ佳奈子は、顔から田んぼへとダイブすることになったのだった…。


「………」


「佳奈子?!大丈夫かい?!佳奈子!」


「……。…ぷはっ!うぇぇぇっ!口にドロが…!…ハッ!そんな事より、泥田坊たちは?!」


 見ると泥田坊たちは、田んぼの底へと、ずぶずぶと(もぐ)って行くところだった…。


 これではもう、泥田坊を捕らえる事は出来ないだろう…。


「ああああ~っ!逃げられた~!」


「もう!何をやってるんだい!お前は!本当に全くもう!」


 絹代は鬼の形相(ぎょうそう)で、怒りの声をあげる。


「うわぁぁぁん!ごめんなさ~い!」


 佳奈子は田んぼの中で、ドロまみれになりながら、謝罪(しゃざい)の声をあげたのだった…。






 ※天降女<あもれおなぐ>は、日本の鹿児島県の奄美大島(あまみおおしま)に伝わる妖怪です。


  天降女<あもれおなぐ>という呼び名の他にも、幾つかの別名があります。


  その中でも有名なのは、天降女子<あもろうなぐ>という呼び方ですが、名前の響きがあまりピンとこなかったので、天降女<あもれおなぐ>にしました。


  羽衣を生み出せる、というのは、そうだといいなぁ、という作者の創作です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ