18. 嘆きのミノムシ
魂が抜けたような顔で、羽衣をまとい、宙に浮かび続ける佳奈子…。
その様子のおかしさに、多恵は気づいた。
「佳奈ちゃん…?どうしたの佳奈ちゃん?!ねぇ、返事をして!降りてきてよ!」
多恵は不安になって、佳奈子に呼びかける。
しかし佳奈子の返事はない…。
「…様子がおかしいな…。このブレスレットを取ったせいか…?」
功刀は、自分の手にある、佳奈子のブレスレットを見る。
するとそこへ、
「な、なんだよ!びっくりさせやがって!」
「べ、べつに宙に浮けるくらい、凄いだなんて、思わないんだからな!調子に乗るなよ!おい!聞いてるのか!」
「無視すんじゃねぇーよ!」
そう言って山崎と山田が、佳奈子に近づいたのである。
「おい!お前ら!様子がおかしい!まだ近づくな!」
功刀はそう言って、2人に警告する。
しかし、その警告は間に合わなかった…。
なぜなら…、
ヒュッ!
「うわぁ!」
周囲を漂っていた羽衣が、すさまじい速さで、2人に襲い掛かってきたのだから…。
そして羽衣は、あっという間に2人をグルグル巻きにしてしまった…。
さらにその羽衣は、一片を体育館の天井に突き刺し、2人を天井に吊り下げたのである…。
天井に吊り下げられた2人の姿は、まるで木からぶら下がるミノムシのよう…。
逆さまにされているので、頭が下になってはいるが…。
「なっ!」
周囲の人々は、突然の事態に驚愕する。
しかも悲劇はそれだけでは終わらなかった。
むしろ、悲劇は始まったばかりだったのである…。
なぜならば…。
「きゃあ!」
「うわぁぁぁ!」
周囲を漂う羽衣が、今度は体育館の人々に襲い掛かってきたのだから…。
羽衣は逃げる人々を捕らえ、次々にグルグル巻きにしていく…。
そして山崎や山田と同じように、皆を天井に吊り下げていったのである…。
「こ、こっちに来るな~!」
「いやだ~!」
体育館の人々は、大混乱に陥ってしまった…。
「そんなっ!やめて佳奈ちゃん!ねぇ!佳奈ちゃん!」
多恵は必死に友人に呼びかける。
しかし佳奈子の反応はない…。
「…無駄だ…。おそらく、今のアイツには聞こえていない…」
功刀はそう難しい顔で言う。
「えっ?!それはどういう…」
多恵は、言葉の意味を尋ねようとした。
しかしその瞬間、今度は羽衣が、功刀に襲い掛かってきたのだ。
「ちっ!速いっ…!」
功刀は、刀の入った袋を盾に、羽衣の攻撃を防ぐ。
「くっ…!ここで刀は使いたくなかったが…、緊急事態だ、しかたない…!」
功刀はそう言うと、袋の中の、鞘に入った刀を引き抜く。
そして、向かってきた羽衣に素早く切りかかった。
しかし…。
「なっ?!切れない、だと?!」
なんと羽衣はたわんだだけで、全く千切れなかったのだ。
「くそっ…!ハッ!しまった…!」
功刀は羽衣の攻撃を受け、佳奈子のブレスレットを落としてしまった。
しかも…、
「ぐっ!」
そのまま羽衣に巻き付かれ、身動きがとれなくなってしまったのだ。
「!功刀くん…!ハッ…!きゃあ~!」
功刀を心配した多恵だったが、彼女もまた、羽衣に捕らわれてしまった…。
そして、功刀と多恵の2人も、他の皆と同じように、天井に吊り下げられ、ミノムシ状態にされてしまったのである…。
こうして、体育館にいた全員が、ミノムシにされてしまった…。
すると攻撃対象がいないせいか、羽衣の攻撃はやっと止まる。
だが今や、体育館に立つ者はなく、ミノムシ状態の人々と、無数の羽衣が、フヨフヨと宙を漂っているばかり…。
そして佳奈子は依然として、魂の抜けたような顔で、宙に浮かび続けているのであった…。
「う~っ。頭に血がのぼる~」
「なんで俺たちがこんな目に…」
「助けてくれ~!」
体育館では、逆さづりにされた人々が、嘆きの声を上げていた…。
「くそっ!おい!八乙女!ふざけるのもいい加減にしろよ!」
「早く降ろさないと、あとでぶん殴るからな!おい!聞いてるのか?!」
山崎と山田は、怒りの声を上げる。
「なっ!アンタたち!佳奈ちゃんを殴るとか許さないからね!っていうか佳奈ちゃん!どうしちゃったの?!なんで私たち、こんな姿にされてるの?!ねぇ!答えてよ~!」
多恵は必死に友人に呼びかける。
しかし、やはり佳奈子の返事はない…。
「…無駄だ…。今のアイツには、何を言っても聞こえていない…」
「!ちょっと功刀くん!さっきもそう言ってたよね?!それ、どういう意味なの?!」
多恵は混乱で、苛立ちぎみに聞く。
「功刀!まさかお前、アイツが何かの悪霊に、取り憑かれてるとでもいうのかよ?!」
「いや。霊の類の気配はしないし、取り憑かれてるって事はないだろう…」
「じゃあ…」
「今のアイツは、おそらくトランス状態だ」
「トランス状態?」
「通常とは全く異なる意識状態のことだ。トランス状態には、色んな種類があって、人によって状態も違う。だが光や音、痛みなんかの外部からの刺激に無反応になったり、知覚に異常が起こったり、自意識が薄れて、無意識的行動をとったりもするようになる…。アイツはたぶん、それだろう」
「じゃあ佳奈ちゃんは、今、無意識でこんなことをやってるってこと…?」
「ああ…。おそらく、あのブレスレットを取ったことが、トランスの引き金になったんだろう…。お前アイツの友達なら、あのブレスレットが何か、知っているか?」
「…うん…。…佳奈ちゃん、羽衣の力を、まだ制御できないって言ってたの…。だから力を制御するために、あのブレスレットが必要なんだって…」
「げっ!魔よけじゃなかったのかよ?!」
「そ、それならそうと、早く言えよな!」
「そ、そうだ!そうだ!」
山崎と山田は、多恵を責めるように言う。
「言ったじゃない!なのにアンタたちは、それを聞こうともせず、無理やり佳奈ちゃんからブレスレットを奪い取って!こうなったのはアンタたちのせいよ!」
「そうだ!俺たちも見ていたぞ!」
「ああ!あれは酷かった!」
「もっと呪具の危険性を考えろ!」
「ぐっ…」
山崎と山田は、周囲の人々から非難を浴び、言葉を詰まらせる。
「…はぁ…。とにかく今は、この状況を何とかしないとな…。何か手はないものか…」
功刀は、目をつぶって考え始める。
するとその時、体育館の入り口から、人の話し声が聞こえてきたのだ。
「あっ!誰か来るみたい!」
「やった!助けてもらえるぞ!」
「お~い!助けてくれ~!」
逆さづりの人々は、皆、安堵し、声を張り上げたのだった…。




