表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/28

17. 佳奈子の危機


 夜の7時半、佳奈子は講習会(こうしゅうかい)に参加するため、町営(ちょうえい)の体育館を(おとず)れていた。


「え~と、講習会は8時からだから、まだ時間はあるよね…。多恵(たえ)ちゃんも来るはずだけど、もう来てるかな~?」


 佳奈子はそう言って、多恵を(さが)す。


 ちなみに多恵も新人呪具師(じゅぐし)なので、この講習を受ける必要があるのである。


「お~い!佳奈ちゃ~ん!」


「!」


 佳奈子は名前を呼ばれ、声の(ぬし)を探す。


 すると、手を振って、こちらに走ってくる多恵を見つけた。


「多恵ちゃん!」


「イエ~イ!4時間ぶり~!」


 佳奈子たちは合流(ごうりゅう)し、(たが)いの手を合わせる。


「先に来てたんだね!何時に来たの?」


「私も、ついさっき着いたとこ!ところで佳奈ちゃん、晩ごはん、ちゃんと食べてきた?」


「もちろん!途中(とちゅう)でお(なか)が鳴ったら、()ずかしいもん!」


「だよね!だよね~!私もそう思って、しっかり食べて来たよ~!…でも、ちょっと食べすぎちゃってさ…。眠くなったら、どうしよう~!」


「大丈夫!その時は、私が起こしてあげるよ!席が(となり)なら、手も届くしさ!」


「ほんとっ?!ありがとう~!じゃあ2人で(なら)べる席に座ろう!今なら席も()いてるし!」


「うん!」


 そうして2人は、体育館に並べられた、パイプ椅子(いす)に向かった。


「…それにしても、新人って意外にいるんだね…。数人かと思ってたよ…」


 多恵が(まわ)りを見渡して言う。


「ああ、そうだよね。でも、昨日の退魔師研修よりかは少ないよ」


「えっ?そうなの?昨日は退魔師の人たちだけ、だったんだよね?」


「うん。でも昨日は、県外(けんがい)からも来てる人が多かったから。今日ここに来てるのは、3つの町の、人たちだけでしょ?」


「ああ、なるほど~」


 そうして佳奈子たちが話していると…、


「てめぇ!俺たちを()めるのも、いい加減(かげん)にしやがれ!」


「ぶっ飛ばしてやる!」


 そんな怒鳴り声が聞こえてきたのである。


「えっ?!なに?!なに?!どうしたの?!」


 ざわざわと(さわ)ぎ出す会場に、佳奈子たちは驚く。


「あっちだ!行ってみよう!」


「あっ!多恵ちゃん!」


 佳奈子は野次馬(やじうま)の多恵を追いかけ、人が集まる騒ぎの現場(げんば)に向かった。


 すると…。


「くらえっ!」


「絶対、泣かすっ!」


 そう言って誰かに(なぐ)りかかる、2人の少年がいたのである。


「!あれって…、山崎と山田じゃん…」


「それに(から)まれてるの、功刀(くぬぎ)くんだよ…」


「あいつら、またやってるの~?場所を考えなよ~」


 佳奈子たちは、驚きつつも(あき)れてしまう。


 一方、ケンカを仕掛(しか)けられた功刀(くぬぎ)は、うんざりした顔をしていた。


「…お前ら、しつこいな…。邪魔(じゃま)だ」


 功刀(くぬぎ)はそう言うと、山崎と山田の攻撃を受け流し、ついでに2人を投げ飛ばした。


「グッ!」


「ガハッ!」


 投げられた2人は、(ゆか)の上で苦悶(くもん)の声を上げる。


 そして功刀(くぬぎ)は、それを冷たい目で見下ろして、ふんっ!と言って(はな)れていった…。


「くそっ…!」


「ちっくしょ~!」


 そう言って(くや)しがる山崎と山田は、今にも泣きそうな顔だ。


「…。…学校の時と、(まった)く同じじゃん…。あいつらも()りないね…」


 多恵はそう言って(あき)れる。


 すると山崎たちは、(まわ)りの観衆(かんしゅう)たちに、やっと気がついたようだ。


「…お前ら、なに見てんだよ!見せもんじゃねぇぞ!」


「そうだ!見てんじゃねぇ!」


 そう言って観衆たちに、怒鳴りだしたのである。


「うわぁ…。これも学校と一緒だ…。(あき)れた。行こ、佳奈ちゃん」


「うん…」


 佳奈子は2人に同情しながらも、その場を離れようとする。


 しかし…、


「!…おいっ!そこの八乙女(やおとめ)!お前は待て!」


「えっ?」


 佳奈子は呼び止められ、足を止める。


「お前、自分は関係ねーみてーなツラしてるが、アイツに()められるのは、お前のせいでもあるんだからな!」


「えっ?!私?!」


「そうだ!研修で見たが、お前の羽衣、ノロノロじゃねぇか!あんな役にたたねー(わざ)使ってっから、穴脇(あなわき)の退魔師みんなが、()められる事になるんだよ!」


「そうだ!「八乙女の羽衣」は(すご)いとかって言われてっけど、全然(たい)したことねーじゃん!()められるのは、お前のせいだ!」


 山崎と山田は、佳奈子に八つ当たりを始めたようだ。


「なっ!アンタたち、いい加減にしなさいよ!八つ当たりなんて、恥ずかしいと思わないの?!」


 多恵が怒って、間に入る。


「八つ当たりじゃねー!本当の事だ!それに八乙女、前から思ってたが、お前、その(うで)()けてる呪具(じゅぐ)、なんだよ!」


「えっ?」


 実は佳奈子はずっと、右手に、水晶のブレスレットを付けているのだ。


「いつも付けてるよな、その呪具。それ、()よけじゃないのか?」


「えっ?違うけど…」


「うそつけ!魔よけだろ!そんなのいつも付けてっから、穴脇の退魔師たちが、舐められる事になるんだよ!」


「だから違うって!」


「とぼけるつもりか?!それ見せてみろ!」


「えっ?!ちょっと…!やめて!やめてったら!」


 佳奈子は腕をつかまれ、ブレスレットを(うば)われそうになる。


「やめなさいよ!それは魔よけじゃないって言ってるでしょ!」


 そう言って多恵が、山崎たちの手を引きはがそうとする。


 しかし…。


土師原(はじはら)、お前はどうせ、友達だからって、かばってんだろ!引っ()んでろ!」


「きゃっ!」


 多恵は、山田に()き飛ばされてしまった。


「なっ!多恵ちゃん!」


「おら!よこせ!」


「あっ!」


 佳奈子は、多恵に気をとられている(すき)に、ブレスレットを奪われてしまった…。


「返して…!それがないと…!」


 佳奈子は真っ青になって、自分の手を見る。


 すると、なんと佳奈子の手から、次々に羽衣が飛び出してくるのだ。


「そんな!止まって…!止まってよ…!」


 佳奈子は、ひどく(あせ)りだす。


 一方、山崎たちは、ブレスレットに、魔よけの文字や模様(もよう)があるはずだ、と探していた。


 しかしブレスレットには、それらの模様が見つからない。


 そんなハズは…と、おかしく思っていると、山崎たちも、佳奈子の異変(いへん)に気が付いた。


「あ?お前、何やってんだよ…」


 佳奈子の手からは、不気味(ぶきみ)なほどに、もこもこと羽衣が飛び出してきていたのだ。


「止まらない!止まらないの!早くブレスレットを返して…!」


 佳奈子は自分の手を(おさ)えながら、そう(うった)える。


 しかし山崎と山田は、異様(いよう)光景(こうけい)に驚き、(あと)ずさっていくばかり…。


「な、なんだよ、これ…」


 そうして、山崎たちが戸惑(とまど)っている間にも、飛び出してくる羽衣は、次第(しだい)(いきお)いと量を増してゆく…。


「お願い…!早くブレスレットを返して…!お願いだから…!」


 佳奈子の声は、今や悲鳴(ひめい)のようだ。


 そして羽衣は、ついには、まるで間欠泉(かんけつせん)のように()き出すようにまでなって…。


「…助けて…!」


 佳奈子は噴き出す羽衣の隙間(すきま)から、そう(うった)える。


「えっ?」


 山崎と山田は、ポカンとする。


 一方、多恵はハッ!と(われ)に返った。


 実は、多恵はこの瞬間(しゅんかん)まで、初めて見る異様(いよう)な光景に、(こし)()かしていたのだ。


 けれど、(とも)の助けを求める声を聞き、やっと我に返ったのだった。


(ごめん!佳奈ちゃん…!私、ビックリして腰を抜かしてた…。でも今、助けるから…!)


 多恵は、佳奈子を助けるため、動き出そうとする。


 しかし、そんな多恵より先に、動き出した者がいた。


 功刀(くぬぎ)である。


 功刀は驚くほどの速さで、山崎の(もと)()け寄った。


 そして…、


「かせ!」


 そう(みじか)くだけ言って、山崎の手から、ブレスレットを(うば)い取ったのである。


 そして彼は、それを佳奈子に(わた)そうと近づく。


 しかし…。


 ヒュッ!


 羽衣は、まるで竜巻(たつまき)のように猛烈(もうれつ)な速さで佳奈子の(まわ)りを渦巻(うずま)き、それ以上、佳奈子に近づくことが出来ない…。


「くっ…!何なんだこれは…!」


 さすがの功刀(くぬぎ)も、羽衣の猛烈(もうれつ)(いきお)いに(あと)ずさるしかなかった。


 そして佳奈子は、()()くその羽衣に、完全に閉じ込められてしまったのである…。


 今や羽衣は、渦巻(うずま)きながら、丸い(たま)のような形になって空中に浮かんでいる…。


「佳奈ちゃん!大丈夫?!佳奈ちゃん!」


 多恵は、血相(けっそう)を変えて呼びかける。


「やめろ!それ以上近づくな!危険だ!」


 功刀(くぬぎ)が多恵を引き止める。


「でも佳奈ちゃんが…!」


 そうして周囲の人々が驚き戸惑(とまど)っているうちに、渦巻(うずま)いていた羽衣の動きは、次第(しだい)にゆっくりになってきた。


「!羽衣の動きが、遅くなってきている…」


 そして丸くなっていた羽衣は、徐々(じょじょ)に、ほどけていったのだ。


 やがて羽衣の多くが(まわ)りに()ってゆくと、中にいる佳奈子の姿が、周りの人間にも見えるようになってきた。


「!佳奈ちゃん…!よかった…!ケガはないみたい…」


 とりあえずケガのなさそうな佳奈子の様子(ようす)に、多恵はホッと、安堵(あんど)(いき)をつく。


 しかし佳奈子は…、


「………」


 多恵の呼びかけに、まったく答える様子がない…。


 それどころか、その顔は無表情(むひょうじょう)で、開いた目には、何も(うつ)していないよう…。


 そして、そんな魂の()けたような表情のまま、佳奈子は羽衣をまとい、フワリと(ちゅう)に浮かび続けているのであった…。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ