14. 剣士
夕暮れの林を飛び回る、幾つもの火の玉…。
そしてそれを追う、多くの新米退魔師たち…。
「くそっ!また逃がした!」
「くっ…!なんだ、この油坊、やたら速いぞ!」
研修に参加する退魔師たちは、苦戦の声をもらしていた。
一方、火の玉・油坊は、ケケケケ…!と、バカにするような笑い声を立て、宙を飛び回っている。
しかも油坊たちは、あまり遠くに逃げて行かない。
どうやら彼らには、まったく危機感がないようである。
それどころか、まるで「捕まえられるもんなら、捕まえてみな~!」とでも言うように、参加者たちを煽って、遊んでいるようだった。
「くぅ~っ!腹立つ~!」
「絶対、捕まえてやる!」
参加者たちのやる気に、火がついた。
そしてその参加者の一人である佳奈子も、もちろん闘志を燃やしていた。
しかし佳奈子の飛ばす羽衣は、ノロノロとしていて、まったく油坊に追いつかない…。
「うう~っ!羽衣を飛ばしても、全然追いつかない…!…やっぱり作戦を変えるしかないかぁ…」
佳奈子がそう考えながら、羽衣を動かしていると…。
「くそっ!待ちやがれっ!油坊!」
「止まれって言ってんだろ!」
そう言って同じクラスの山崎と山田が、近くに現れたのである。
2人は呪言が書かれたグローブで殴りかかったり、術が込められた土の玉・呪言玉を投げつけて、油坊を追っているようだった。
しかし油坊は、それらの攻撃を楽々とかわし、ケケケケ…!と笑い飛び回っている。
「…うわぁ…。あの2人も苦戦してるな…」
佳奈子はいったん手を止めて、2人を観察してみる。
他の退魔師の技を見て学ぶのも、この研修の目的だからだ。
しかしその時、サッと、人影が現れたのである。
そしてその人影は、2人の追う油坊を、瞬く間に、刀で叩き落としてしまったのである。
えっ?!と、佳奈子と、2人は驚き、硬直してしまう。
そして3人が驚き固まっているその間にも、その人影は、またも近くを飛ぶ油坊を、地面に叩き落としたのであった。
(!今、油坊を叩き落としたの…、もしかして、刀…?すごい速さだった…。剣の達人みたいだけど、一体何者…?あっ!あの人…!さっき広場で見かけた、同じ学校の人だ…!)
佳奈子は刀を持った人物の、制服を見て思い出した。
「おいっ!てめぇ!そいつは俺たちが追ってたんだよ!横取りするんじゃねぇ!」
「そ、そうだ!礼儀をわきまえろ!」
山崎と山田の2人が、そう剣士に怒鳴る。
しかし剣士の方は…、
「はぁ?礼儀ってなんだ?そんな決まりはないだろう。俺はただ、近くに標的が来たから叩き落としただけだ。まったく…、自分たちの技量不足のせいで、奴らを捕らえられないくせに、それを他人に当たるとはな…。幼稚すぎるにも程がある」
「なっ?!なんだと~!」
山崎と山田は、顔を真っ赤にして怒る。
しかし剣士は、そんな2人を全く気にする様子がない。
それどころか、近くに置いていたスポーツバックの中から、小さな壺を取り出して、その中に、叩き落とした油坊を封印していく…。
どうやらさっきの油坊は、斬らないで、峰打ちにしていたようだ。
「てめぇ!言わせておけば、いい気になりやがって!こんなマネして、ただで済むと思ってるのか!おいっ!聞いてるのか?!てめぇ!」
「…配布された壺はすべて使ったな…。これ以上は、捕らえる事が出来ないか…。大した研修でもなかったし、時間の無駄だったな…。俺はこれで帰る。あとは好きにすればいい」
「なっ!てめぇ!待ちやがれ!」
「…はぁ。穴脇の退魔師は、粒ぞろいと聞いていたのに、ただのガセだったようだな。ガッカリだ」
「なっ!なんだと~!」
2人は怒って、剣士を追いかける。
しかし剣士の方は、2人に構わず、林の出口に向かっていく。
そしてその際、剣士は、佳奈子の方をチラリと見た。
しかし、まるでつまらない物を見たかのように、フン!とすぐに顔を背けてしまう。
(…。誰だか知らないけど…、独特な人だなぁ…。それにさっきの言葉…、私の事も含んでるよね…。ホントの事だけど、ちょっとショック…)
佳奈子は、すこし傷つきながら、去り行く剣士を見送った。
ちなみにそのあと、佳奈子は作戦を変え、例の、羽衣を地面に敷いてワナを張る、という方法で、なんとか一匹だけ油坊を捕まえる事に成功した。
そして参加賞をもらうことも出来たのである。
参加賞は、この町・穴脇町の名物の一つである、穴あきせんべいだった。
(…一匹だけとはいえ、なんとか油坊を捕まえられたんだし、おばあちゃんも、そんなに怒らないよね…?)
佳奈子はそう思って家に帰り、祖母に報告した。
しかし絹代は…、
「なに?!八乙女家の跡取りのお前が、たった一匹しか、油坊を捕まえられなかっただって…?!許さないよ…!修行だ!修行!」
そう激怒され、こってり絞られる事になったのだった…。




