13. 新人退魔師研修
ガヤガヤガヤ…。
ガヤガヤガヤ…。
ある4月の夕方…。
町外れの広場に、多くの退魔師たちが集まっていた…。
なぜなら今日は、新人退魔師研修会の日。
退魔師になったばかりの者たちが、ここに集っているのである。
ちなみにここにいるのは、この町の者だけではない。
県外から来た者たちもいるのだ。
そしてその年齢もバラバラだった。
しかし佳奈子のような未成年は少数で、ほとんどは大人である。
そしてこの研修会に、一人で参加する佳奈子は、少し緊張していた。
「うわぁ~。けっこう人がいるんだなぁ…。新人って多いんだ…」
佳奈子はキョロキョロと周りを見渡して言う。
「…でも、ほとんどは大人の人だね…。同年代の人っているのかな~?あっ!あそこにいるの、同じクラスの山崎君と、山田君だ!そっか、2人も今年から退魔師デビューしてるから、この研修会に参加するんだ…」
ガラの悪い2人は、退屈そうに話をしている。
「え~と、他にも同年代の人はいるかな~?あっ!あそこにいる人、学ラン着てる…!それにあの校章は…、ウチの学校のだ…!ってことは、同じ学校の生徒…?!でも、見た事ない人だなぁ…」
佳奈子は、同じ学校の校章をつけた、学ラン姿の少年を見つける。
ちなみに、佳奈子の学校の男子は、詰め襟の学ランが制服である。
学ランは現在、一般的な男子の学生服で、その見た目は、どの学校も似通っている。
しかし、似ているように見えても、学校によって、ボタンのデザインは違うし、つける校章も違うのである。
そして、佳奈子の学校の学ランは、襟につける校章が、少し変わっている。
何というか、飛んでいる人魂のような、そんな形をしているのである。
そのため、少し離れた所からでも割と目立つ。
あの校章をつけているということは、同じ学校の生徒であることに間違いないだろう。
しかし佳奈子には、彼の素性に心当たりが無い。
少年は、背が高く、クールそうな印象で、かなりの美少年だ。
影が薄いとか、目立たないという感じでは、全くないのだが…。
「あの人、何年生だろう…?背が高くて大人っぽいし、2年生か3年生かな…?」
そうして佳奈子が、彼に目を奪われていると…、
「え~。こほんっ!新人退魔師の皆さん!こんばんは!これより、新人退魔師研修会を始めたいと思います。まずは皆様、今回の研修にご参加下さり、誠にありがとうございます!私は、今回の研修を監督いたします、3級退魔師の黒田、と申します」
そう言って、40代半ばほどの、糸目の男性が、丁寧に挨拶を始めた。
「新人の皆さまは、今回が初めての研修ですね。中には、この研修の意義に、疑問を持っておられる方もいるかもしれません。しかし退魔師連盟は、今回のような研修を定期的に開き、皆様の技術の向上、情報の共有に、役立てて頂きたいと考えております」
そう、このような研修は、定期的に開かれているようなのだ。
参加は強制ではないが、参加しないと「階級を上げる試験に響くよ」と、佳奈子は、祖母の絹代から言われているのであった。
ちなみに階級を上げないと、望む仕事をもらえなかったり、使える呪具に制限があったり、開示される情報が少なかったりするのである。
「それでは、これから皆様には、指定の妖怪を捕獲して頂きます。捕まえた妖怪は、さきほど配った壺の中に封じてください。特にノルマなどはありません。他の退魔師の技や策を見て学んだり、自分の足りない点に気づいて頂く事が目的です。ではこれから、その妖怪がいる場所へとご案内いたします。お手数ですが皆様、スタッフの指示に従って、移動をお願いいたします」
そう言われ佳奈子たち新人は、研修スタッフに案内され、移動を始めた。
歩き始めてしばらくすると、日が暮れてきて、だんだんと暗くなってくる。
そして歩き始めてから15分ほどが経った頃、道の先に、薄暗い林が見えてきた。
しかしその林には、光る何かが、飛び回っていたのである。
「?なんだ?あの光って、飛び回ってるの…」
研修参加者たちが、ザワザワと騒ぎ出す。
「はい!皆さま!到着~!到着です!ここまでご足労、ありがとうございました!すでに見えているとは思いますが、あそこに見える火の玉…『油坊』が、今回、捕まえて頂く妖怪です」
黒田はそう言って、林を飛ぶ、火の玉の群れを指さした。
ちなみに油坊とは、人の顔が浮かぶ火の玉である。
「それと、さきほどはノルマがないと申しましたが、油坊を捕まえた数に応じて、参加賞を用意しております!なので、どうか頑張ってくださいね!それでは各自、油坊の捕獲へ向かって下さい!研修課題スタートです!」
監督の黒田がそう言って、皆の行動を促す。
すると参加者たちは、ゆっくりと林の中へ入っていった。
「あ~。研修なんか、めんどくさ~」
佳奈子のそばを歩く参加者が、そんな、やる気のない事を言う。
「おいっ!そういう事を、大きな声で言うな!この研修は、階級試験に響くって有名なんだぞ!一応、やる気のあるフリをしておかないと、後に響く!」
知り合いらしき参加者が、そう注意をする。
「…はぁ…。分かってるって…。…よぉ~しっ。じゃあやるぞ~。まってろ~。あぶらぼう~」
明らかに演技と分かるやる気を見せ、その参加者は油坊に向かって行く。
(…。あの人、すごい大根役者…。でも階級試験に影響するって話、やっぱり有名なんだ…。出世ばかり考えるのはイヤだけど、ずっと十級のままじゃ、おばあちゃん悲しむかな…)
佳奈子は「はぁ…、情けない孫だねぇ…」と悲しむ絹代を想像する。
しかし…、
(いや…、おばあちゃんなら、ただ悲しんで終わりはないな…。それより、もっと…)
「このバカ佳奈子!八乙女家の跡取りが、いつまで十級でいるつもりだい?!許さないよ!寝ずに修行だ!」
(!鬼のように怒るよ!きっと…!)
佳奈子は、怒る絹代を想像し、身震いをする。
(…ま、マズいよ、それは…!…わ、私も研修、頑張らないとっ!)
佳奈子は、恐ろしい想像を振り払い、気合を入れて、油坊に向かって行った。




