10. 天然パーマ
泥田坊と再戦した次の日、佳奈子は、真人のいる骨董屋を訪れていた。
「真人さん、ありがとうございました!策を教えてもらったおかげで、なんとか無事、泥田坊を捕獲する事が出来ました!これも全て、真人さんのおかげです!本当にありがとうございました!」
佳奈子は真人に感謝の言葉を伝える。
「いやいや!あれは策ってほどのものじゃないし、成功したのは、佳奈子ちゃん自身の力だよ。よく頑張ったね、佳奈子ちゃん」
「!真人さん…!」
(努力を認めてもらえた…!うれしい…!)
佳奈子は嬉しさで泣きそうになり、目を潤ませる。
けれど、その様子を見た真人は…。
「うっ…!」
顔を赤くし、口元を押さえて目をそらす。
「?真人さん…?」
「あ、あ~!そ、そういえば!最近、町の山手の方で、土転びが暴れてるんだって!知ってた?!」
土転びとは妖怪の名で、その姿は、毛の生えた、巨大なマリモによく似ている。
そして彼らは時たま、山道を行く人めがけて、ゴロゴロと転がってくるのであった。
「はい。その話なら知ってます。実は今日これから、その土転びを捕まえに行くんです!」
「あ、そうだったんだ…。…連日の仕事で大変じゃない?」
「いえ!おばあちゃんが一緒だから力強いし、むしろ、退魔師になれたって感じがして、嬉しいです!」
「…そっか…。でも、くれぐれも無理はしないでね」
「はい!」
佳奈子は元気に返事をする。
するとその時、ガラガラ~ッと、骨董屋の戸が開かれる音がした。
そして…。
「お~い!マサ~!いるか~?」
そう言って骨董屋に、人が入って来たのである。
「?!この声…。まさか武男か?!」
真人は驚きの声を上げ、立ち上がる。
一方、佳奈子の位置からは、骨董のせいで、相手の姿が見えない。
しかし来客は、こちらに歩いて来ているようだ。
「おお!いたか、マサ!久しぶり~!」
そう言って現れたのは、天然パーマの男性だった。
歳は真人と同じくらいで、30ほど。
見た目はワイルドな感じで、なかなかの男前である。
「武男!どうしてお前がここにいる?!九州に出張しているはずだろう?!」
「ああ、その出張がやっと終わったんだよ。3年は長かったぜ~!」
「なに?!聞いてないぞ、そんな話!」
「ハハッ!ビックリさせようと思ってな!…ん?なんだ?客がいたのか?」
武男という人物は、佳奈子の姿を見つけて言う。
「あ、いえ、私は、真人さんに、仕事のアドバイスのお礼を言いに…」
「仕事のアドバイス?」
「あ~、彼女はな、俺たちと同じ、退魔師なんだよ」
「…へぇ?」
「えっ?!同じって事は…、この方も退魔師なんですか?!」
佳奈子は真人の言葉に驚く。
「あ、うん。紹介するよ。こいつは、山背 武男。俺の幼馴染で、同い年の退魔師なんだ」
「!そうだったんですか!じゃあ、私の先輩になるんですね!」
「まぁ、一応、そういう事になるかな…」
真人はそう説明する。
一方、武男の方は、説明の間も、ジロジロと佳奈子の事を見ていた。
「ふ~ん。こいつが退魔師ねぇ…。…けど知らない顔だな…。お前、3年前には、この町にいなかっただろ」
「え?ええと…。私は3年前にこの町に来て…。あっ、申し遅れました。私は、八乙女 佳奈子って言います。初めまして!先輩!」
佳奈子は立ち上がり、礼儀正しく挨拶をした。
「八乙女…?」
「彼女はね、幾太郎さんの娘さんだよ」
「えっ?そうなのか?東京にいるって聞いてたが…」
「!山背さん、父を知っているんですか?!」
佳奈子は、父の名前を聞いて驚く。
「ん?ああ。幾太郎さんには、ガキの頃、よく遊んでもらった。あの人は10才年上だったけど、年下にもよく構ってくれたからな…。いい兄貴分だった…。…幾太郎さんは、元気にしてるか?」
「…えと…、元気だとは聞いています…」
「あ?」
「父とはその…、ケンカをしたまま、こちらに来てしまったので…。3年前から、あまり口をきいていないんです…。夏休みとかに東京に帰っても、ほとんど話をしてくれないし…」
「は?なんだってそんな事に…」
「それはその…、私、どうしても退魔師になりたくて…、父の反対を押し切って、こちらに来てしまったから…」
「…ああ~。そういえば、幾太郎さん、退魔師を毛嫌いしてたな…。…けどお前、なんだって、そんなに退魔師になりたかったんだよ?」
「…私、4年前のお祭りのとき、大首に襲われたんです…。そしてその時に、常盤木の伊吹さまに、命を救って頂いた…。それでその時から、伊吹さまみたいな退魔師に、どうしてもなりたくなって…」
「…4年前…、常盤木の伊吹…」
「あの!山背さん!山背さんは、常盤木の伊吹さまの事、何かご存じないですか?!私、伊吹さまに、その時のお礼が言いたいんです…!」
「……」
武男は一瞬、真人の方を見る。
しかしその視線をすぐに戻した。
「…悪いが何も知らねぇな」
「そうですか…。やっぱり、常盤木の方を知っている人は、ほとんどいないんですね…。おばあちゃんも知らなかったし…」
佳奈子はそう言って肩を落とす。
そしてその時、ボ~ン!と時計が鳴って、午後4時を知らせた。
「あっ!いけない!早く家に帰らなきゃ!仕事に遅れちゃう!すみません!私、今日はこれで失礼します!真人さん、アドバイス、本当にありがとうございました!」
「あ、うん。気をつけて帰ってね」
「はい!それでは!」
佳奈子は、また礼儀正しく挨拶し、急いで家に帰っていった。
「…アドバイス、ね~?お前、そういうの、するガラだったか~?」
武男はニヤニヤしながら、真人に言う。
「おい!冷やかしは止めろよ!」
「あ~、さてはお前、感謝されて、ほだされちゃったか~?なぁ?イ・ブ・キ・さ・ま?…けど、未成年に手を出すのは止めとけよ~」
「なっ!そんな事するわけないだろ!あの子は姪っ子みたいなものだ!」
真人はそう言って怒る。
しかし武男が伊吹と呼んだことに対しては、否定しなかった。
「ハハッ!まっ、そうだよな。あの子、お前の趣味とは違うし。…それにしても、ひ弱そうな子だったな…。あんなんで退魔師をやっていけるのかねぇ…」
「…佳奈子ちゃんはすごい努力家で、とても心が強い子だ。今はまだ仕事に慣れていないけど、きっと、いい退魔師になる」
「へぇ…?俺には頼り無く見えたがねぇ…。それこそ最近暴れてるっていう土転びに、ポーンと、撥ね飛ばされそうな感じに、さ?」
「いや、あんな小型の妖怪に、さすがにそれはない…はずだ…」
真人はそう言いつつも…、
(…大丈夫だよね?佳奈子ちゃん…)
佳奈子の事が、とても心配になったのだった。




