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PARTNER  作者: 橘。
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第15話 傍に寄り添う 2.夜空

 

 深夜2時。ベッドの中にいても眠れず岬は体を起こした。部屋の窓にかかったカーテンを引いてみる。すると夜空の光が部屋に差し込んだ。岬の部屋からは月が見えないが、都会では見ることのできない沢山の星々が輝いている。しばらく窓から眺めていた岬は外に出てみたくなって、上着を羽織るとそっと部屋を出た。

 今日は皆早めに就寝しているので起こさないよう足音に気を使いながら階段を降りる。一階のリビングから広いバルコニーに出ると、そこにはあったのは丸テーブルと大きなウッドチェア。岬はウッドチェアに腰を下ろして空を見上げた。目に飛び込んできた沢山の光に思わず感嘆の吐息が漏れる。


「わぁ・・。」


 天の川の姿が分かる程星達の存在が大きい夜空。いくら見ていても飽きないその光景に魅入ってしまう。

 昔学校で習った星の名前を思い出しながら、岬はずっと夜の空を眺めていた。






「葉陰。」


 名前を呼ばれて岬は目を開いた。いつの間にか寝てしまったようで、少しぼーっとした頭のまま横を見る。するとそこに立っていたのは聖だった。

 彼の手がそっと岬の頬に触れる。


「起きろ。体冷えてるぞ。」

「あ、ありがとう。」


 五月と言っても山の中では空気も冷たい。慌てて椅子から立ち上がり、岬は聖と共に中に入った。


 冷えた体を温めようと、キッチンで温かいお茶を淹れる。聖の分をどうしようかと迷ったが、リビングのソファに座っている姿が見えたので二人分用意した。

 ソファまで移動してお茶を差し出すと、お礼を言って聖が口を付ける。


「眠れないのか?」

「・・うん。」


 岬は体を温めるように、膝の上に置いたカップを両方の手のひらで覆った。


「実はね、旅行なんて中学の修学旅行以来なの。だから嬉しくてなかなか眠れなかったんだ。それで部屋のカーテン開けたら星が綺麗だったから、もっと見たくなって降りてきちゃった。」

「そうか。」

「橘君は?」

「・・・。あんたが・・」

「え?」

「降りてくのが見えたから。」

「あ、ごめんね。うるさかった?」

「いや。寝てなかった。」

「そっか。」


 ふわりと岬が控えめに笑う。その笑顔に聖は目を細めた。

 皆が寝静まった深夜。物音しない静かな空間。それでもこうして二人でポツポツと話をするのは嫌じゃない。

 なんで岬の傍は居心地がいいんだろう。学校でも登下校でも一緒の筈なのに、階段を降りる音が聞こえて後を追ってしまった。瑠璃が岬を慕うから、その感情が流れ込んで自分もその気になっているだけなのかもしれない。


 お茶を飲み終わると、岬がお茶を淹れてくれたからとティーカップは聖が洗ってくれた。それを待っている間、岬は窓辺に立って再び夜空を見上げる。するとパチッとリビングの電気が消えた。


「え?」

「こっちの方がよく見える。」


 スイッチを切ったのは洗い物を終えた聖だった。確かに彼の言う通り、人工の光が消えた視界の中ではより星達の存在感が大きくなる。彼も隣に立ってリビングの大きな窓から星々を眺めた。しばらくすると夜空を見たまま聖がぽつりと零した。


「瑠璃にも見せてやりたかったな。」


 今回瑠璃は同行していない。移動中瑠璃を車の中でじっとさせているのも気の毒だし、何より鳥には縄張りがある。自分の縄張りを簡単に離れることは出来ず、こちらで生息している鳥類の縄張りを自由に飛ぶことも難しい。


「橘くん。」

「ん?」

「私達がパートナーの目を通してその先の風景が見えるなら、瑠璃も同じ事ができるんじゃないかな?」


 以前岬もパートナーの目を通して雪が見ている景色を共有したことがある。ならば、逆も可能に違いない。


「そうか。」


 聖は納得すると、目を閉じて瑠璃に語りかけた。自分も今まで瑠璃の見ているものを共有することはあっても、自分が見ているものを見せようとしたことはない。成功するかどうかは分からないが、十分やってみる価値はある。

 すぐに瑠璃からの返答があった。すでに聖の身に馴染んだ、パートナーと心が繋がる感覚。それを維持したまま瞼を開く。すると再び広がる夜空の光景に聖の胸が温かくなった。

 あぁ、良かった。瑠璃が喜んでる。

 すると、今度は瑠璃から語りかけてきた。


「・・・。」


 その言葉に聖は逡巡する。瑠璃にしては珍しい『おねだり』。だが今回一緒にいてやれなかったこともあって、聖は普段は聞けないその願いを聞くことにした。


「・・なぁ。」

「?」


 聖を見れば、そこにあるのは黒と青の瞳。神秘的で優しいその目に思わず見とれてしまう。自分も雪と心が繋がっている時、他の人からはこんな風に見えるのだろうか。

 黙って自分を見上げ、続く言葉を待っている岬に、聖は腹を決めて瑠璃の願いを伝えた。


「笑って。」

「え?」


 突然の要求。まさかそんなことを言われるとは思っていなかった岬は戸惑いの表情を見せた。


「瑠璃が、あんたの顔見たいって。」


 その言葉に、岬の中に嬉しさとほんの少しの照れくささが生まれる。それでも嬉しさの方が勝って、岬はそっと微笑んだ。

 青い目に映る岬の笑顔。それを見た聖の胸にも穏やかな歓喜が広がる。これは瑠璃?それとも自分?

 鼓動が大きくなる自分の胸を軽く押さえて、聖は瑠璃の代わりにお礼を言った。


「喜んでる。ありがとな。」

「うん。」


 しばらくそのまま夜空を眺めていたが、時計の針が3時を指した所で二人は部屋に戻った。

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