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PARTNER  作者: 橘。
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第14話 恋が交わる 3.映画(2)

 

(・・聖が笑っとる。)


 二人を盗み見ながら、巽はその事実に驚いていた。勿論その表情を見たことがない訳ではない。ホームで仲間達と居る時、パートナーの瑠璃と『会話』を交わしている時、時折見せる顔だ。だが、それでも頻繁ではない。無表情の方が圧倒的に多いのに。

 すると巽の様子を見ていた春彦に声をかけられた。


「気になるんですか?」

「!?」


 ぱっと視線を前に向ける。ジロリと隣の春彦を見ると、興味津々といった顔をしていた。


「うっさい。」

「はーい。そう言えば、今日声かけてきた女の子、知り合いだったんですか?」

「・・・。まぁな。」

「可愛い子でしたね。」

「そうか?・・あいつらには言うなや。」

「あいつら?」

「修と八代や。」

「あはははっ。しつこく追求して来そうですもんね。」

「全くや。タチ悪でホンマに。」


 頼んでいた料理がくると巽はバーガーの皿に添えられているポテトを指で摘んだ。二人ともすでに昼食は済ませたのだが、食べ盛りなこともあってバーガーセットをそれぞれ頼んでいた。


「巽さん。あの子に告白されたんでしょ。」

「!!」


 驚きでむせてしまい、巽は飲んでいたコーラのストローから口を離した。ごほごほと咳をしながらも春彦を睨む。


「おま、聞いてたんか・・」

「いえ。でもあんな真っ赤な顔して声かけてきたら誰でも分かりますよ。」

「・・・。」


 一瞬岬の方を確認する。だが、こちらの会話は聞こえていないようで、ボリュームたっぷりのこの店のバーガーに驚いているようだった。


「結局あの子どうしたんです?断っちゃったんっスか?」

「・・あぁ。」

「可愛かったのに。」

「あんなぁ、顔が良ければええっちゅーもんでもないやろ。」

「でも学校も違うし、ある程度つき合ってみなければどんな子かなんて分からないんじゃないっスか?」

「・・・・。」


 春彦の言うことは正しい。けれど、断った理由を説明するには抵抗がある。増してやこの場所では。


「なんやねん。お前、やけに今日は絡んでくるやないか。」

「だってー。巽さん自分からそういう話してくんないしー。」

「女やあるまいし・・」


 誤魔化すようにバーガーにかぶりつく。隣で春彦は不満そうな顔をしていた。






 食事を終えて聖と岬は立ち上がる。お会計をしようとレジに行くと、後ろから来た巽が聖の持っていた伝票を横から奪った。


「巽くん?」


 岬が訊くと、気恥ずかしそうに横を向く。


「ここはおごったるわ。」

「え?いいよ、そんな。」

「ええから。」

「でも・・。」

「ホワイトデー・・・。」

「え?」

「何もしてへんかったやろ?」

「あ・・・、ありがとう。」


 聖には「お前は自分で払えよ」とジロリと睨み、巽は会計を済ませた。先に外で待っていた岬は、巽が店を出ると頭を下げる。


「ごちそうさまでした。」

「おう。」

「ゴールデンウィークはホームに来るの?」

「ん?あぁ、まぁ、どうやろな。」

「蛍が喜ぶよ。」

「・・考えとくわ。」

「うん。」


 全員が店から出てきた所で、一緒に歩きだした。聖と岬はもうホームに帰るので、駅前の大通りまで共に向かう。

 すると、近くでキャーと言う声が聞こえた。芸能人でもいるのかと思って振り返ると、数人の女の子達がこちらを見ている。よく見るとその中には岡崎が居た。一緒にいるのはクラスの友達のようだ。


「妙!」

「岬ー!!なんか久しぶりだね。クラス違っちゃうとやっぱ会わなくなっちゃうしー。」

「あ、うん。そうだね・・。」


 やけに興奮気味の岡崎に、岬はどうしたのかと訊いてみる。すると岬の隣に立っている聖をちらりと見た。


「いやぁ。やっぱ二人もデートとかするんだなぁ、と思って。」

「え?」


 一緒にいる友達は私服デートしている聖の姿にテンションを上げたらしい。岡崎の2メートル程後ろで、ちらちらと聖のことを見ている。今までは近づきがたい存在だったとしても、友達の彼氏となると多少の躊躇いはなくなるらしい。騒ぎ方も遠慮がない。


「まぁ、付き合ってるなら当然だよねぇー。じゃ、邪魔してごめんね~。またね~。」

「ちょっと、妙・・・」


 騒ぐだけ騒いで彼女たちはどこかへ行ってしまった。唖然とした後、聖を振り返る。すると、その時傍に立っていた巽達が目に入った。


(あ・・・・。聞こえちゃった、よね?)


 岬と聖がつき合っているのはフリだけだ。当然仲間にはその事を話していない。


「行くぞ。」

「あ、うん。」


 何事もなかった様に歩きだした聖に、声をかけたのは巽だった。


「ちょお、待て。」

「・・・何だ。」

「何や今の。お前等・・・、つき合っとんのか?」


(・・どうしよう・・。)


 肯定するべきなのか、否定するべきなのか。岬には判断が出来なかった。巽達に嘘をつく必要はない。否定すればいいのかもしれないが、フリをしていることを話す事になる。でもそんな事を話したら、普通はどう思うだろう。巽は馬鹿馬鹿しいと笑うだろうか。

 岬が迷っていると、巽の問いに答えたのは聖だった。


「フリをしてるだけだ。つき合ってない。」

「はぁ?」


 言葉の意味を飲み込むと、巽の顔が段々と不機嫌なものになっていく。


「フリってなんや?なんでそないな事せなアカンねん。」

「葉陰には俺が頼んで協力してもらってる。お前には関係ない。」

「全部お前の都合っちゅーわけか?」

「そうだ。」

「他人巻き込んでくだらんことするんやない!」


 段々と巽の声が喧嘩腰になっていく。どうしたらいいのか分からず、岬はその場に立っていることしか出来なかった。

 聖は熱くなっている巽を一瞥する。


「お前は、何をそんなに怒ってるんだ?」

「うっさいわ!ボケッ!!」


 そう言い捨てると、巽は一人で反対方向へ歩きだしてしまった。春彦は岬達に軽く挨拶すると、慌ててその後を追いかける。

 岬はそっと聖の隣に並んだ。


「悪い・・。」

「ううん。私も、ちゃんと説明出来なかったから。」

「いや。いいんだ。巽の言う通り、俺の都合でアンタを巻き込んだんだし。」

「でも橘くんが困ってたのは確かでしょう?私もそれが分かってて協力してるんだもん。橘くんが悪い訳じゃないよ。」

「・・・サンキュ。」


 二人は駅に向かって歩きだした。岬は巽にメールをしようかと思ったが、何て打ったら良いのか分からずに、結局携帯を閉じた。






「巽さん!!どこ行くんですか?」


 やっと追いついて隣に並ぶと、早足で歩く巽の顔を覗き込んだ。不機嫌を隠さないその表情はなかなか険しいものになっている。


「ゲーセン。」

「えぇ!そんな金あるんスか?」

「ええからつき合え。」


 そう言って、さっさと歩いて言ってしまう。その後ろ姿を見ながら、春彦は溜息をついた。


(やっぱ、岬さんのこと好きなんだなぁ。)


 春彦から見ても、やはりつき合っているフリをするというのはおかしい。あの聖、という人物がどんな人なのかは知らないが不自然な気はする。本当につき合っているのならともかく、フリなんてもので岬を拘束しているのは、彼女に想いを寄せている者からすれば理不尽でしかない。問題は岬本人もそれを嫌がってはいないということだ。

 それにもし自分に他に好きな相手がいたら、そんなこと引き受ける筈はない。となれば、岬自身は今恋愛に興味がないか、もしくは聖に好意を持っていることになる。どちらにせよ、巽が機嫌を損ねるのには十分な理由だ。

 再び巽の姿を見失いそうになって、春彦は慌てて追いかける。

 今日は巽につき合うしかないようだ。





 * * *


 春彦は目の前のドアをノックする。するとすぐに返事があった。


「どうぞ。」


 白いドアを開けて部屋を覗く。部屋の主はタンスの中から洋服を出していた。ベッドの上にもTシャツやスカートなどが積み重ねられている。


「姉ちゃん、何やってんの?」

「冬服クローゼットにしまっちゃおうと思って。どうしたの?」


 朋恵はドアを閉めて部屋に入ってきた春彦を見た。その手にはCDが数枚握られている。


「あ、これ、借りてたヤツ。」

「あぁ。机の上に置いといて。」


 春彦はCDケースを机の上に置くと、そのままベッドの空いたスペースに座った。何気なく、その上に置かれたセーターなどを眺めている。

 特に春彦が何も言い出さないので、朋恵も服の整理を続けた。春彦が黙ってこの部屋にいる時は、大抵何か言い辛いことを抱えているのだと分かっている。

 しばらくそうしていると、春彦が口を開いた。


「ねぇ。」

「ん?」


 朋恵は服をたたみ直しながら春彦を見た。


「何?」

「今日岬さんに会ったよ。」

「岬に?」

「うん。」

「そうなんだ。」

「聖って人と一緒だった。」

「聖・・?あぁ。橘ね。」


 特に朋恵に驚いた様子はない。となれば、朋恵も二人がつき合っていることは知っている筈だ。でも、それがフリであることはどうなんだろう。


「あの人って岬さんの彼氏?」

「うん。そうよ。」

「・・・・・。」


 あっさりと答えるその様子からは、朋恵が知っているのかどうかは分からなかった。知っていても、口止めされていれば朋恵も隠している可能性はある。


「わざわざそれ訊きに来たの?」

「え、あぁ。ホラ、岬さん俺の先輩にバレンタインくれたじゃん?だから、てっきり俺勘違いしてて。」

「あぁ。お世話になってるって言ってたから、あれは義理だったんじゃない?」

「やっぱ、そうだよなぁ・・。」


 春彦はがっくりと肩を落とすとベッドの上にあったリモコンを手に取った。


「テレビつけていい?」

「いいわよ。」


 朋恵の部屋のテレビをつける。自分の部屋で見れば?と言わない所が朋恵の良い所だ、と春彦は思う。

 この歳になって姉の部屋でテレビを見ている自分は、多分周りから見れば普通ではないだろう。シスコンと言われても仕方がない。現に、親友から「お前の初恋姉ちゃんだろ」と指摘されたことがある。見事図星だったが。


「ねぇ。」

「何?」

「姉ちゃんは彼氏いんの?」

「いないわよ。」

「ホントに?」

「嘘ついてどうするのよ。」

「・・そうだけど。出来たら教えてよ。」

「えぇ?なんで?」

「俺が姉ちゃんにふさわしいかどうか判断するから。」

「何それ。父親みたい。」

「いーから!!絶対教えろよな!」

「はいはい。」


 笑いながら朋恵は洋服をたたんでいる。多分、春彦の言っていることなど本気にしてはいないのだろう。

 ちぇー、と呟きながら、春彦はベッドの上に寝っころがってテレビのチャンネルを回した。

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