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PARTNER  作者: 橘。
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第1話 君と出会う 3.左目

 

 体育館内に楽しそうな声が響いている。現在は体育の授業中。体育館を二つに分けて出入口側で女子はバレーボール、舞台側で男子はバスケットボールの真っ最中だ。

 岬は体育館入口の脇で試合の順番を待っていた。今試合をしているのは朋恵のいるチーム。彼女はバレー部の実力を遺憾なく発している。素人では相手にならないが、もちろん遊び程度に手加減していた。

 順番を待っている女子達は岬と同様にバレーの試合を見ている者もいれば男子のバスケの方に夢中になっている生徒もいて、そちらの方から時々黄色い声が上がっている。その原因の一つが現在試合に出ている橘聖だった。いちいちゴールを決める度に上がる女子の声援に聖の表情はどんどん不機嫌になっていくが、ギャラリーはそんなことにも気付かずに変わらず奇声を発していた。

 もちろん他の男子達もその状態を良くは思っていなかった。聖に注目が集まっているのが気に入らないのではない。皆、聖がそういったことを好きではないのは知っているし、何より怒った聖は恐いからだった。


 ピピーッ


 女子のコートから試合終了を告げる笛が鳴った。


「次のチームコートに入ってー。」


 その声を聞いて岬はコートへ移動した。基本的に体を動かすのが好きなので体育の時間は好きだ。部活に入っていない分、体育の授業ぐらいしかスポーツをする機会がない。

 すぐに試合は始まった。しかし、始まってすぐに岬は目に違和感を覚えた。


(ごみでも入ったのかな・・?)


 少し目を擦ってみる。違和感があるのは左目だった。何だか目の奥が熱い。

 相手チームからサーブがくる。それを岬の左後ろにいた女子がレシーブした。そのボールがセッターにいって相手コートに返す。相手チームはセンターの生徒がそれをレシーブした。


『ミ・・・・・キ・・』

「!!」


 突然聞こえた声。それは日の夜聞こえた声と同じ声だ。驚いた岬は辺りを見回した。確かに今は沢山の生徒達がいる。誰かが自分の名前を呼んでもおかしくない。けど、そんな感じではなかった。確かに頭の中に直接響いてくるような感じがしたのだ。普通に誰かに呼ばれるのとは違う感覚。それとも、空耳・・・?

 その時ふと、視線を感じそちらに目を向けた。その先にいたのは教室で友達が噂していた男子。橘聖だ。試合中の彼はボールを追いかけて走る男子達の中で一人、驚いたようにこちらを見ていた。誰もが試合を見ている中で、彼だけが岬の方を見ている。


「熱っ・・・!」


 誰にも聞こえないような小さな声で、岬が悲鳴にも似た声を上げた。突然、左目が自ら熱を発したように熱くなったのだ。思わず目に手を当て、下を向いてしまう。


「岬!」


 岬が目を抑えたと同時に、試合を終えてコート近くでこの試合を見ていた朋恵が警告の声を上げた。その声を聞いて岬は左目を抑えたまま顔を上げる。その目には真っ直ぐにに岬に向かって飛んでくるボールが映った。だか遅い。もうすでに避けられる距離ではない。どこかからか「危ない」という声が次々と聞こえる。

 その瞬間岬は何を考えていただろう。ただ呆然と、自分に向かってくるボールを見つめていた。避けなくてはいけないことを分かっていても体が動かない。


 バンッッ・・・・・・


 何かが激しく当たる音が広い体育館に響く。皆何が起こったのか理解できないでいた。二人以外は。


「岬!大丈夫?」


 真っ先に動いたのは朋恵だった。岬に駆け寄って安否を確認する。それから次々と女子が岬の方に駆け寄り、皆口々に岬の状態を確認した。


「大丈夫。当たらなかったから・・」


 そう言って、岬は体育館の隅を指差した。


「えっ?」


 皆がその方向を振り返る。そこにあったのは、二つのボール。さっき岬に向かって飛んできたバレーボールと、もう一つは隣のコートで男子が使っていた筈のバスケットボールだ。


「あれっ、なんで?」


 朋恵が説明を求めるように、もう一度岬に視線を戻した。


「バスケットボールが横から飛んできて、バレーボールにぶつかって当たらなかったの。」


 その説明を聞いて皆が驚きの声を上げる。


「うわっ、マジ!!」

「よかったねぇ。偶然バスケットボールが飛んでくるなんで。」

「ね、運が良かったよねぇ。」


(違う・・・。)


 岬は男子の方を振り返った。


(偶然じゃなくて、あれは・・・・・)


 その視線の先にいるのは橘聖。

 聖は女子の方にゆっくりと歩いてくる。そのまま岬を通り過ぎ、隅に転がっていたバスケットボールを拾い上げた。岬の方を一瞥もせずにまた男子の方に帰っていく。


「あっ・・・・・。」


 岬は声をかけようとするが、言葉が出てこない。のではなく、橘聖の名前を思い出せず、声を掛け損なったのだった。


(何て言ったっけ、朋達がさっき話してたのに・・・・・)


 岬に向かってバレーボールが飛んできた時、男子の方ではパスを受け取っていた聖がそのバレーボールに向かってバスケットボールを投げたのだ。岬にバレーボールが当たるのを防ぐ為に。岬は視界の端にその姿を映していたのだった。

 しばらくして授業は再開し、チャイムが鳴って終了した。

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