表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PARTNER  作者: 橘。
30/104

第8話 胸を焦がす 1.神楽梓(3)

 

 吉田に案内されて、岬達は一階から店内を見て回った。きらびやかな店内の装飾と、それに劣らないディスプレイされた服の数々。見ると、普段使いするような服よりもパーティードレスなど華やかな衣装が目を惹いた。


「ドレスが多いんだね。」


 そう朋恵に声をかけると、隣で彼女が頷く。その言葉を聞いて、後ろに控えていた吉田が口を開いた。


「今はクリスマス前でしょう?ですから、今回店内は『特別な夜』をコンセプトにしているんです。女性が特別な日のために着る特別な服。ですので、パーティードレスや見栄えのするワンピースなどを中心としてディスプレイしています。」

「そうなんですか。」


 へぇ、と言いながら次々と店内を見て回る。どの服も魅力的で目移りしてしまうが、値段を見て岡崎が大きな声を上げた。


「ワンピース一着5万円!!」

「高校生じゃ気軽に手が出ないよね~。」


 吉田がいるにも関わらず素直な感想を言う二人に、思わず朋恵が苦笑する。けれど吉田自身は気にしていない様子で、四人の後を歩いていた。

 二階に上がるとそこはパーティーシーンがメインのフロアだった。ドレスに靴、バッグ、アクセサリーなど一式が揃っている。

 その一角に差し掛かった時、村田が一つのマネキンを指さした。


「あ!あのドレス!岬に似合いそう!」


 皆がその先に目を向ける。するとそこにあったのは仄かなピンクに染められたワンピースドレスだった。薄いレースが何枚も重ねられ、スパンコールや刺繍などは一切使われていない、フォルムの綺麗なシンプルなドレス。梓が大輪の赤い薔薇なら、このドレスは花開く前の桜の蕾のようだった。

 似合う、と言われ嬉しくなるが、同時に恥ずかしさも込み上げる。岬はこれまでドレスになんて袖を通したことがない。憧れる気持ちは当然あるが、友達の言葉通り似合うとは到底思えなかった。


「試着してみますか?」


 突然吉田の言葉に岬は慌てて首を横に振った。


「い、いえ!大丈夫です。ドレスなんて買えませんし・・」


 すると、吉田がくすっと笑う。


「勿論、試着だけで構いませんよ。どちらにしろ、今日はお買い物していただくことは出来ませんから。」

「でも・・・」

「人が着て、それは初めて服になる。」

「?」

「神楽の口癖です。綺麗に飾っているだけの服なんてなんの価値もない。彼女らしい言葉でしょう?」


 梓とはまだ二回しか会ったとこがない。しかもとても短い時間だ。けれど、岬は吉田の言いたいことがが分かる気がした。岬から見る神楽はテレビで見る女優のように艶やかで魅力あふれる女性だが、美しいものをただ手元に置いて満足するような、そんなお金や物の使い方をするような人間ではないと感じていた。神楽梓という人間は前を見続ける、とても強い女性に見えた。


「はい・・・。」


 岬がそう返事をすると、満足そうに吉田も頷いた。


「ですから、あのドレスもお客様に着ていただければ本望です。こちらにどうぞ。」


 言われるがまま、岬はフィッティングルームに通された。そこ自体が小さな個室になっていて、大きな鏡やバッグ等を置く棚もアンティーク調の上品な物で揃えられている。鏡の横にも生花が飾られていた。そこにあったのは赤いカーネーションだ。このショップの建物自体は白を基調としているが、所々に赤い小物が添えられている。それがアクセントになって、ショップ全体を上品な印象に仕上げていた。


 岬はそこにバッグを置き、靴とコートを脱いで準備をすると声がかけられ吉田が現れた。手元には先ほど見たドレスを持っている。吉田はドレスを壁のハンガーラックにかけると、「着替え終わったら声を書けて下さい」と言ってフィッティングルームを出た。


(なんか・・、緊張しちゃうな・・・。)


 改めてドレスを見る。緊張と共にやはり嬉しい気持ちが沸き上がる。

 岬は服を脱ぐと、ドレスを手に取った。するとお店のタグが目に入る。ショップに入った時は緊張で表をじっくり見る余裕など無かったのだが、そこには梓のブランド名が書かれていた。


(PARTNER・・・・)


 胸が熱くなる。どれだけ梓かパートナーを大切にしているか、これを見ればよく分かる。彼女が大切にしているものの中に自分も入っているのかと思うと、泣きたくなるくらい嬉しかった。 


 ドレスを着終えると、バッグを置いた棚の上にネイビーの小さな箱と白い大きめの箱が置いてあるのに気がついた。岬がここに入った時は置いていなかった筈のその箱。不思議に思って手に取ると、箱にもブランド名が書かれている。蓋を開ければそこにはピンクシルバーのネックレスと、お揃いのイヤリングが入っていた。白い箱にはパンプスが入っている。

 ドレスに合わせて吉田がコーディネートしてくれたのだと気づくと、嬉しくなってそれを付けてみる。イヤリングを付けるのは初めてだった。

 全身を鏡で何度もチェックする。前、後ろと見直して、ドキドキする胸を押さえながら、岬はフィッティングルームのドアを開けた。


「あの・・」


 すると、そのすぐ横には吉田が立っていた。彼は岬を上から下まで眺めると、「よくお似合いですよ。」と微笑む。


「ありがとうございます・・・」


 お世辞でも嬉しく思っていると、岬が着替え終えたことに気づいて朋恵達が次々に傍にやってきた。


「お!やっぱり似合うよ。可愛い~!!」

「マジやばいって!!可愛すぎ!!岬はこういう淡い色が似合うよね~。」

「確かに!パンプスも可愛いし。完璧じゃない?」


 次々と出てくる友達のほめ言葉に、思わず顔を赤くする。ちらりと朋恵を見ると、彼女も楽しそうに微笑んでいた。


「脱がなきゃいけないなんて、勿体ないね。」

「そっかな?変じゃない?」

「全然。可愛いよ。」

「ありがとう。着替えてくるね。」


 その前に、と言って岡崎が携帯を取り出す。吉田に頼んで四人一緒に写メを撮ってもらい、岬は再びフィッティングルームへと姿を消した。

 可愛い服を着て、友達と一緒に楽しい時間を過ごせるなんてとても幸せな気分だった。






 一通りお店を見終えると、吉田にお礼を言って四人は店を出た。最後に梓にもお礼を言いたかったがやはり忙しいらしく、それは出来なかった。

 店には1時間程居たのだが、それでも野次馬は絶えることなく周りをおおっていた。

 表参道から原宿に向かって歩きながら、四人のおしゃべりは続いた。


「はぁ~。すごかったねぇ。」

「ほんと。別世界みたいだった。」

「っていうかさ、聞いてよ、岬!!」


 岡崎と村田が後ろを歩いていた岬を振り返る。「どうしたの?」と岬が訊くと、岡崎が先を続けた。


「岬が着替えてる間にね!雑誌の取材の人に声かけられたの!!」

「えぇ!!そうだったの?」

「そう!その人なんて言ったと思う?朋に『どこの事務所の方ですか?』って訊いたんだよ!」

「え?事務所?」

「なんかその人、朋のことどこかの事務所のモデルと勘違いしたみたい。」


 確かに、朋恵は学校でも噂の美人だ。四人の中で一番背も高いし、バレーボール部に所属していて、スタイルもいい。


「はぁ。流石朋だね。」


 岬が素直な感想を漏らすと、朋恵は返答に困って苦笑した。


「そんなこと言われても・・。」

「いやぁ。美人の友達を持つと鼻が高いよねぇ。」

「何それ?」


 うんうん、と頷く岡崎の隣では、興味津々の顔で村田が朋恵に声をかける。


「朋ってどこかにスカウトされたことないの?」

「無いよ。そんなの。」

「えぇ?そうなの?原宿ってそういうの多いって聞くよね。」

「確かに!!今行ったらスカウトされちゃうかも!?」


 本人を置いてきぼりにしてテンションを上げる二人に、岬と朋恵は顔を見合わせて笑った。

 

【登場人物】


・葉陰岬(16):月高1-4。色々抱えている大人しめな女子高生。

・木登渚(25):見た目も口調も軽い双子の父。

・神楽梓(27):モデル顔負けのスタイルを持つファッションデザイナー。


・東川朋恵:1-4。岬の親友。女バレの黒髪美人。

・岡崎妙:1-4。岬の友人。噂好きでミーハー。

・村田真紀:1-4。岬の友人。いつも妙とつるんで騒いでいる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ