プロローグ
「なんだって?」
『感じる。ナカマ。』
「・・・本当なのか?」
『近い。強くなってる。』
「もっと、詳しいこと分かるか?」
『・・ヒトリは目覚めてる。感覚、強い。もうヒトリはまだ。こっちも感じる。でも気付いてない。』
「東京にいるのか?」
『うん。』
「オレはお前みたいに感覚が鋭くないからな。探せるかどうか。」
『ヒトリは気付く。もうヒトリは・・』
「人か?」
『かも。』
「分かった。」
『ミンナ、知らせる?』
「・・・いや、まだいい。」
夜の東京。空には月が浮かんでいる。夜にも関らず、眩しい程の光を放っている地上。それは無機質な輝きだ。そのせいで夜空にはほとんど星を見ることはできない。暗澹たるの空の中、全面に光を受けて輝く月だけが、地上の光に対抗するように孤独に輝いている。
その空を見上げながら、“二人”は語り合っていた。
冷たい夜風が体をなぞっていく。しかしその寒さも気にならないのか、その内の一人は建物の屋上で身じろぎ一つせずに佇んでいる。
だが、どこを探してもその人物と話している筈の相手の姿を見ることはできない。にも関わらず、彼は見えない相手に向かって話し続けている。その人物の囁くような声は、一体誰に向かって発せられているのだろうか。それを知る術は無いように思われる。
やがてその人物は月明かりを避けるように静かに居なくなっていた。
残ったのは瞬くことも、消えることも無い強い光。そして柔らかい光を惜しみなく降り注ぐ、欠ける所の無い月だけだった。