5話 休暇
――良く晴れた夏の日、清爽な風が吹き、人は陽気に歩いている。
だが、市街地から外れた丘にある教会は、重苦しく、参列者は沈痛な面持ちでいた。
その中に俺はいた。自分の確認不足であいつは死んだ、まだ受け止められない。ふわふわとして目の前の光景を受け止めきれない。
そんな中、PTを組んでたやつがのそのそと歩いて、目の前に立った。真っ赤な顔で誰の目にも、憤激しているのが伝わった。
――お前がちゃんと仕留めないから! あいつは死んだんだ! 二度と俺の前に顔を表すな、代わりにお前が死ねばよかったのに……。
周囲も同じことを思ってるだろう。刺さる。咎める視線が。ぽつりぽつりと非難する声も聴こえてくる。
――俺はただ黙って俯くしかできなかった――。
飛び起きる。寝汗が胸を滴る。まだ責め立てる声が響く、嫌な目覚めだ……。
木製の、建付けの悪い窓をぎいっと開けると部屋に陽射しが降り注ぐ。朝の涼しい空気を浴びていると声が聴こえ、視線を向けると街の子供達が元気に走ってる。今日は休日だったか。
リビングへ行くと、クーがキッチンで朝食を作っている。
「珍しいな、お前普段、飯作りたくないって言ってるのに」
こちらを向くことも、調理する手を止めることなく答える。
「起きてこなかった、お腹すいたから仕方なく」
「うなされてたけど、嫌な夢でも見てた?」
顔を洗うため、洗面台に向かいながら返事をした。
「昔のをちょっとな、キングスライムに攻撃されたときの夢だったよ」
嘘を付くのが心苦しい。クーは心配してくれたのか料理する手を止め、こちらに顔を向けてきた。
「リラックスするハーブティー淹れようか」
「頼む、クー」
顔と髭を整え、テーブルに座る。
焼きたてのこんがりとしたパン、ラズベリージャムに黄金色のコンソメスープと言う組み合わせだ。
「とても美味しそうだ」
そう言って席に座る。
「できたよ」
後ろから手がでてきて、ソーサーの上にカップをかちゃりと載せ、横にポットを置いた。中は翠色の液体で満たされていて、爽やかさの後に甘く成熟した花の香りがし、とても落ち着く。
対面にクーも座ったことだし、朝食を頂くとしよう。
「ハーブティーは好きなタイミングで飲んで」
「色々と作ってくれてありがとうな、頂きます」
「頂きます」
食事に集中して食べてると、声をかけられた。
「今日の予定は?」
顎に手を置き、痛みだした天井を眺め、思い出そうとする。
「う――ん、今日はないな。なんかあったか?」
「とくに、なにも」
そう言いつつ、パンにジャムを塗っている。
塗っている姿を見ていると、頭の中に予定が浮かび上がってきた。
「すまん、思い出した。予定あったわ。」
こてっと首を傾げられたので説明する。
「今日は休暇! 一緒に市街地へ出て、飲み食いしようぜ」
それに、あの場所をこいつに見せたいんだ。
「いいの? ここにはそんな余裕もないはず」
帳簿を付けてるクーに言われると耳が痛い。
「たまにはいいだろ? ずっと家に居ても息が詰まっちまう。食べ終わったら準備しよう」
「……わかった、時間かかると思う」
そして食べ終わり、片付けをした後、各々の準備をするのだった――。
なにを着るか。せっかくの休日だ、クーも時間がかかると言っていたからお洒落をするんだろう。俺もそれに応えなければいけない。
春用のコート? 暑く見えるな。ジャケットか? いつもと同じだ。胸当てでもどうだ? 蛮族に思われそうだ。迷う、とても迷う。
考えた末、黒ズボン、緑のニットに白シャツを着て、腕を捲くることにした。腕時計を付けて服の準備は終了、洗面台に向かおう。
鏡を見ながら、整髪剤を付け髪を整える。これで準備万端だ。
クーを待つこと15分くらいたっただろうか、がちゃりと扉が開き、可憐な春の妖精が現れた。
「どう? アラン、似合ってるかな」
紺色のマーメイドスカート、純白のブラウス、深碧のカーディガン。いつもと違う格好にかなり見惚れてしまう。
「とてもよく似合ってるよ。言葉がでないぐらい可愛い」
「そう、嬉しい」
とてとてと横に近付いてくる。よく見れば髪もハーフアップだ。清涼感のある香水を付けていて、とても落ち着く。
「普段とは違う香水つけてるな」
そう言うとこちらを向き。
「これはお洒落用の、滅多につけない」
「先に行ってる」
久々の外出だからって、気合い入ってるなぁ。そう思い込む事にした。
クーを追いかけ外に出ると、陽光に照らされた姿は比喩抜きで天使のようだ。
「どうしたの?」
「大丈夫、とりあえず市街地に向かおうか。美味しい屋台巡りしよう」
休日だけあって、人混みが凄いな。はぐれないようにしないと。
「クー、手を繋ごうか」
そう言うと少しびっくりした顔でこちらを見てきた。
「……なんで?」
「はぐれないようにだ、この人混みだとちょっとな」
彼女を見つめると、拗ねた声色でじとっと見てきた。
「私、身長は普通だよ」
「それは分かってる。分かってるが、心配なんだ」
「お嬢さん、お手をどうぞ」
気取りすぎたかな。クーの反応を見ると固まっていた。だが、数秒立つとそっと手を添えて握ってきた。
白くて柔らかい、乙女の手。まじまじ見るのもよくないな。握り返して、早速回っていこうか。