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なんでもアラン屋  作者: 如月夜
日常
5/10

5話 休暇

 ――良く晴れた夏の日、清爽な風が吹き、人は陽気に歩いている。

 だが、市街地から外れた丘にある教会は、重苦しく、参列者は沈痛な面持ちでいた。

 その中に俺はいた。自分の確認不足であいつは死んだ、まだ受け止められない。ふわふわとして目の前の光景を受け止めきれない。

 そんな中、PTを組んでたやつがのそのそと歩いて、目の前に立った。真っ赤な顔で誰の目にも、憤激しているのが伝わった。

 ――お前がちゃんと仕留めないから! あいつは死んだんだ! 二度と俺の前に顔を表すな、代わりにお前が死ねばよかったのに……。

 周囲も同じことを思ってるだろう。刺さる。咎める視線が。ぽつりぽつりと非難する声も聴こえてくる。

 ――俺はただ黙って俯くしかできなかった――。



 飛び起きる。寝汗が胸を滴る。まだ責め立てる声が響く、嫌な目覚めだ……。

 木製の、建付けの悪い窓をぎいっと開けると部屋に陽射しが降り注ぐ。朝の涼しい空気を浴びていると声が聴こえ、視線を向けると街の子供達が元気に走ってる。今日は休日だったか。

 リビングへ行くと、クーがキッチンで朝食を作っている。

「珍しいな、お前普段、飯作りたくないって言ってるのに」

 こちらを向くことも、調理する手を止めることなく答える。

「起きてこなかった、お腹すいたから仕方なく」

「うなされてたけど、嫌な夢でも見てた?」

 顔を洗うため、洗面台に向かいながら返事をした。

「昔のをちょっとな、キングスライムに攻撃されたときの夢だったよ」

 嘘を付くのが心苦しい。クーは心配してくれたのか料理する手を止め、こちらに顔を向けてきた。

「リラックスするハーブティー淹れようか」

「頼む、クー」

 顔と髭を整え、テーブルに座る。

 焼きたてのこんがりとしたパン、ラズベリージャムに黄金色のコンソメスープと言う組み合わせだ。

「とても美味しそうだ」

 そう言って席に座る。

「できたよ」

 後ろから手がでてきて、ソーサーの上にカップをかちゃりと載せ、横にポットを置いた。中は翠色の液体で満たされていて、爽やかさの後に甘く成熟した花の香りがし、とても落ち着く。

 対面にクーも座ったことだし、朝食を頂くとしよう。

「ハーブティーは好きなタイミングで飲んで」

「色々と作ってくれてありがとうな、頂きます」

「頂きます」

 食事に集中して食べてると、声をかけられた。

「今日の予定は?」

 顎に手を置き、痛みだした天井を眺め、思い出そうとする。

「う――ん、今日はないな。なんかあったか?」

「とくに、なにも」

 そう言いつつ、パンにジャムを塗っている。

 塗っている姿を見ていると、頭の中に予定が浮かび上がってきた。

「すまん、思い出した。予定あったわ。」

 こてっと首を傾げられたので説明する。

「今日は休暇! 一緒に市街地へ出て、飲み食いしようぜ」

 それに、あの場所をこいつに見せたいんだ。

「いいの? ここにはそんな余裕もないはず」

 帳簿を付けてるクーに言われると耳が痛い。

「たまにはいいだろ? ずっと家に居ても息が詰まっちまう。食べ終わったら準備しよう」

「……わかった、時間かかると思う」

 そして食べ終わり、片付けをした後、各々の準備をするのだった――。


 なにを着るか。せっかくの休日だ、クーも時間がかかると言っていたからお洒落をするんだろう。俺もそれに応えなければいけない。

 春用のコート? 暑く見えるな。ジャケットか? いつもと同じだ。胸当てでもどうだ? 蛮族に思われそうだ。迷う、とても迷う。

 考えた末、黒ズボン、緑のニットに白シャツを着て、腕を捲くることにした。腕時計を付けて服の準備は終了、洗面台に向かおう。

 鏡を見ながら、整髪剤を付け髪を整える。これで準備万端だ。

 クーを待つこと15分くらいたっただろうか、がちゃりと扉が開き、可憐な春の妖精が現れた。

「どう? アラン、似合ってるかな」

 紺色のマーメイドスカート、純白のブラウス、深碧のカーディガン。いつもと違う格好にかなり見惚れてしまう。

「とてもよく似合ってるよ。言葉がでないぐらい可愛い」

「そう、嬉しい」

 とてとてと横に近付いてくる。よく見れば髪もハーフアップだ。清涼感のある香水を付けていて、とても落ち着く。

「普段とは違う香水つけてるな」

 そう言うとこちらを向き。

「これはお洒落用の、滅多につけない」

「先に行ってる」

 久々の外出だからって、気合い入ってるなぁ。そう思い込む事にした。

 クーを追いかけ外に出ると、陽光に照らされた姿は比喩抜きで天使のようだ。

「どうしたの?」

「大丈夫、とりあえず市街地に向かおうか。美味しい屋台巡りしよう」



 休日だけあって、人混みが凄いな。はぐれないようにしないと。

「クー、手を繋ごうか」

 そう言うと少しびっくりした顔でこちらを見てきた。

「……なんで?」

「はぐれないようにだ、この人混みだとちょっとな」

 彼女を見つめると、拗ねた声色でじとっと見てきた。

「私、身長は普通だよ」

「それは分かってる。分かってるが、心配なんだ」

「お嬢さん、お手をどうぞ」

 気取りすぎたかな。クーの反応を見ると固まっていた。だが、数秒立つとそっと手を添えて握ってきた。

 白くて柔らかい、乙女の手。まじまじ見るのもよくないな。握り返して、早速回っていこうか。

 

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