4話 依頼完了
もう暗くなってしまった。ガヤガヤとしてる市街地を抜け、なんでもアラン屋に戻ってきた。
「ふぅ……疲れたな。椅子に座ってくれ、金銭の処理をしよう」
椅子に座り、アランさんと向き合った。髭を触りながら申し訳なさそうに言ってくる。
「無事、依頼完了だな。マキオ君もう少しだけ付き合ってくれるか」
僕が頷くと、アランさんは軽く頭を下げてから。
「まず薬草25束はマキオ君が持って帰りなさい。そしてこちらの紙にサインをお願いする。クー、あれを持ってきてくれ」
彼女は本棚の前にいた。細くて長い指が彷徨う。見つけたのかファイルを取り出し、紙を4枚取り出すと僕とアランさんの前に優しく置く。
「これが依頼完了書と金銭受領書だ、目を通してから書いてくれ。俺とマキオ君のサインが書かれたのをお互いで保有する形にしてある」
アランさんは言いながらサラサラと紙に書いていく。僕も急いで文章を読み把握した。
これなら大丈夫そうだ――。
「マキオ君も書き終わったみたいだな。次は金銭の受け渡しだが、この封筒をサッチャーさんに渡してくれ」
受け取った封筒は軽く、空にすら感じる。
「ちょっと手紙を書いてな。多く請求しようとかそんなんじゃないから安心してくれ」
不安になる。けれど、今日一日アランさんの人柄に触れたが、変なことをする人じゃない。わかったよと返事した。
「よーし、これで依頼はおしまい! マキオ君一日お疲れ様、家に帰ってゆっくり休むといい。夜も遅い、クー、送っていってあげて」
クーさんはこくりと頷いた。
「子供一人帰らせて、なにかあったら私達の責任、しっかり送ってく」
せっかくの好意を無下にはできない。気恥ずかしいが送っていってもらおう。
「アランさん、本当にありがとうございました! またお会いする機会があれば、色々お話ししたいです!」
笑いながら軽く手を降って見送ってくれた。
「少年、行こうか。道案内は頼んだ」
クーさんと一緒に帰るなんて、今日一緊張するかも、いや、してる。
横に近づくと香水だろうか。優しくて上品で、上手く言えないが、彼女に似合った香り。ドキドキしてくる。
話題が出てこず、無言で歩いているとクーさんから声をかけてきてくれた。
「スライムに襲われた時、反応できなくてごめん。私、戦闘ダメなんだ」
「いえいえ! そんなことないですよ。気にしないでください!」
少し声が大きくなってしまった。びっくりしたのか少し目を大きくして。
「気にしてはいない。ただ私が守れなかったのは事実」
それを最後にまた会話が途切れてしまった……。
暫く歩いて、家に着いた。ここでお別れだと思うととても残念、最後にクーさんの声を聴きたくて、呼びかけてみた。
「クーさんとまた会えるかな」
彼女は少し考える素振りを見せた。その姿も様になる、見惚れてしまう。月明りと相まって神様に見える。
「私達のところに依頼を持ってこれば、いつでも会える」
「なんでもやれと言われたら、できないものもある。それが私達のモットー」
「また、待ってるよ。少年」
側から見ると、ずっと無機質かもしれないが、僕にはとても優しい表情に見えた――。
家に入り、お母さんに封筒を渡すと、中身に入ってた手紙を読んできゃぁっと、驚いた声をあげていた。
「お母さん!? どうしたの、なにかあった?」
「それがね、マキオ。これを読んで」
お母さんから貰った手紙に目を通す。
ご依頼ありがとうございますMrsサッチャー。手紙を拝読しました。相場より少ないとの事でしたが、私共が認知している相場と照らし合わせますと、大幅に多く、全額受け取ることはできません。ですので銀貨1枚、銅貨7枚を頂戴し、銀貨4枚を返却させていただきます。
またのご依頼をお待ちしております。
「え、えぇ……でも、僕金額受領書にサインしたよ? お母さん読んでみて」
そう言い、2枚の紙を渡す。
お母さんは紙を受け取り、左右にじっくりと読んでいく。そして軽くふぅと溜息をついた。
「金額受領書の最後の方に、訂正で書かれてるよ」
そう言われ、もう1回じっくり見直すと確かにそう書いてあった。急いで文章を読んでたから、見落としたのだろうか、少しショックだ。
「マキオ。よく薬草をこんなに収穫できたね、どうだったのか良く聞かせて」
お母さんと食卓を囲みながら話す今日の出来事は、とても楽しく充実した1日だったことを実感した。
――寝る前に花壇の世話だけしとかなくちゃだ。
見送った後。新聞を読みつつまったりしているとがちゃりと扉が開き、クーが帰ってきた。
「お疲れ様、マキオ君はどうだった」
「なんでかわからないけど、顔を赤くしてたよ。そしてまた依頼したいと」
色々察するものはあるが、年頃の子はそんなもんだろう。
新聞で気になる記事があった。市内で強盗・誘拐事件が多発している。騎士団が全力で捜査してると言うが、あいつらじゃ無理だろう。
「クー、この記事を読んでくれ。お前に送らせたの軽率だったな」
「そんなこと、気にしなくていい。襲われてないから。それよりも大事な物を管理しておく方が大事」
「確かにな」
亡き知り合いの遺品であるブローチを金庫から取り出してみる。
「それ、私にも触らせない」
「そりゃ、知り合いの遺品だからな。余り触らせたくはないよ」
ブローチを眺め、思い出に浸る。知り合いってより、親友の方がしっくり来る奴だったな……。
金庫に仕舞い、厳重にセキュリティ魔法をかけておいた、これなら誰か触ったらわかるはずだ。
「クーも大事な物は仕舞っておけよ」
「私は、ずっと身に着けてるから大丈夫」そう言ってアプリコットが彩られたネックレスを触るのだった――。