3話 薬草取り
目の前の美しさに心を奪われた。
花が舞い、蝶が飛び、若葉が夏に向けて葉を伸ばしている。市街地の汚れた空気とは違う、新鮮で心地よい。
アランさん達と話しながら、学校で貰った花がそろそろ咲く。そう言うと綺麗な場所があるんだ、と連れてきてもらった。
アランさんは少し遠くを見ながら懐かしそうに言う。
「マキオ君、綺麗だろ、知り合いに昔教えてもらったんだ。」
「でもな、クーを連れてきたときは喜んでくれなかったんだよ。マキオ君みたいな反応だと可愛げもあったんだけどな」
小声で僕に伝えてくる。困ってると、聞こえてたのかクーさんがやってきてじとっとアランさんを見つめ、無機質で何も映さないような瞳で言う。
「可愛げがなくてごめん、嬉しかったよ」
「そうなら、喜ぶとかいろいろあっただろ……」
頭を抱えるアランさん。ちらっと僕の方を見ると。
「でも、マキオ君は新鮮な反応で喜ばしいよ。でもな他の人には教えないでほしいんだ」
なんでだろう? と頭を傾げ、考えてるとクーさんが教えてくれた。
「ここは私達の薬草スポット。沢山の人が来るとちょっと困る」
「そんなところ、会ったばかりの僕に教えていいんですか……?」
「当然の疑問。私もわからない」
2人揃ってアランさんに視線をやる。
困った表情で、髭を触り。
「色々と理由はあるんだが……マキオ君は花好きみたいだからな、知り合いと被ってね。」
『この場所は、秘密だよ~、でも君が連れてきたい! と思った子には綺麗な光景を見せてあげて』
「ふと、知り合いが言っていたことを思い出して連れてこようと思ったんだ」
そう説明されると納得する。いや、せざるを得なかった、アランさんの物悲しい雰囲気を見ると。
アランさんに気遣ったのかクーさんが提案する。
「薬草集めをしよう、依頼を終わらせるのが先」
僕もそれに乗っかった。
「そうですね! 25束集めちゃいましょう、アランさん薬草の見極め方教えてください!」
アランさんはいつもの雰囲気に戻り、色々教えてくれたのだった。
暫く薬草集めをしてると、近くの茂みがガサガサと揺れ、ぴょこっと可愛げなスライムが出てきた。これがモンスターか、初めて見るが可愛いじゃないか。そう思った時正門前で交わした3つの約束が頭をよぎった。
――――逃げないとだ!
周囲を見渡すと、アランさんが細剣を抜いてるのが見えた。急いで走る。
「うわぁっ」
木の根に躓いてしまった、スライムに溶かされて死ぬのか。そんなのは嫌だ! 嫌だ! 恐怖で頭が回らない、アランさんはどこ!? 刹那、大きな背中が眼前に現れスライムの粘液を切り刻む。露わになった赤核を執拗に足で踏み、壊していく。
「大丈夫だったか、マキオ君。怪我はないか」
手を差し伸ばされ、掴みながら起き上がる。
「怪我はないです、ただ腰が抜けちゃって……足も震えてます」
モンスターに襲われた。その事実を理解すると泣きそうだ。
「スライムは下級のモンスター、襲われても服を溶かされるくらい」
近づいてきたクーさんが教えてくれる。そ、そうだったのか……。
骨も無くなると思って焦ってしまった自分が恥ずかしくて顔が熱い。
「そう顔を赤くする必要はないぞ、君達の年代に薬草取りをさせるのは、モンスターと遭遇させる意味合いもあるんだよ。」
「郊外だと、スライムしか生息してないから丁度良いのさ」
「アランさん、なんでそんなことをするんですか?」
「スライムと会わせても死ぬことはない。ただ、モンスターと遭遇した恐怖は経験できる。それによって遭遇したらすぐ逃げる教訓を教えられる。後は冒険者適正も見るとかあるな」
なんて荒療治だ……。少し呆れながらも、冒険者としての適性がないことは自覚できた。こんな怖い思いは二度と味わいたくないもん。
「少年、まだ薬草集めは終わってない。そろそろ帰る時間」
クーさんに言われ、空を見ると、橙色に染まり、遠くから鳥の鳴き声が聴こえる。
「もうそんな時間なんだ……後少しなので急いでやりますね!」
そうして残りの薬草を集めきったのだった。
疲れたぁ……早く家に帰って花壇の世話もしないと。けど妙に達成感がある、少し大人になった気分。
「よし、集めきったなら急ぐぞ。サッチャーさんに心配かけるのも申し訳ない」
僕達は早歩きで帰るのだった――。