表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんでもアラン屋  作者: 如月夜
日常
2/10

2話 準備と講座

「マキオ君、行ったかな」俺は窓の外を見ながら呟く。

「親子なんて嘘をついて悪かったな、クー」

「別に大丈夫、私達の関係を言っても信じられないし、めんどくさいだけ」

 クーはそう言いながら、細剣を手に取り、アランに差し出した。

「貴方が左手を使えないなら、私が左手になる。それだけの関係、でもあの時助けてくれて感謝してる。」

 彼女は瓶から魔力を帯びた花を1つ取り出し、指で潰した。甘い香りが部屋の中に広がる。薬品を入れ煎じ、液を容器に注ぐと、蓋をしてアランのポーチに入れる。

「この薬を飲んだら、5分だけ麻痺は取れるはず。でも身体が悪くなるから飲まないで」

「了解、スライムがでないといいんだがな、アイツらは嫌だよ」

「さて、俺の準備は終わった。クー?」

 ジャケットを脱ぎ、ベストの上から胸当てを付けて細剣を佩く。簡素な変化なのに、今までとは意識が変わり、冒険者時代の記憶を呼び戻す。

「私も着替えたらおしまい」

「なら先に外で待ってるぞ」

俺はそう言い残し、部屋を出た。

 春の陽光が当たる市街地の中。建物の影に身体を預け、暫く外で待っていた俺はガチャリと扉を開ける音で、視線を向ける。

 そこには黒のズボンに、ストールを巻いているクーがいる、髪型もハーフアップに変えていた。

「よく似合ってるぞ」

 クーは無表情のまま先に行く。

「もう春なのね、一年ってすぐ過ぎる。」

 笑いながら後を追いかける。

「お前の年で言う台詞じゃないよ、クー。俺みたいなおじさんが言うことだ」

「確かに、アランはもうおじさんだもんね」

「自分で言うのはいいが、他人に言われると心に来るなぁ」

 傷ついた表情を浮かべ歩く、その横を付いてくるクー。

 爽やかな空、気持ち良い天気、花が綺麗に咲いてるな。

 ――そんなことを思いながら歩くと、本当の親子にでもなった気分だ。

 リュルム王国の市街地を抜け、郊外に出る2人。

「あの子供は待たなくていいの?」

 首を傾げながら言う。

「まだ待ち合わせまで時間があるからな、先に現地調査と言うやつだよ」

 軽く準備運動もしないとだしな、そう呟きながら使える花を採取していくのだった。

 

 クーは体力を使いたくないのか、こまごまと動いてるアランを見ている。本人もなにが楽しいのかよくわからない。これを父性と言うのかわからない、が、嬉しげにアランを見つめている。

「どうしたー、そんな俺の事を眺めて。ゴミでもついてる?」

「そんなことない、作業に集中して。私もやるから」

 クーはそろそろ動かないと思ったのか。アランとは別方向の花を集めていくのだった。

 暫く花を集めてるとアランから声がかかる。

「さて、そろそろ待ち合わせの時間だ、正門前に行くとしよう」歩きながらククッと笑いながらからかわれる。

「良い運動になったな、クー。お前は普段身体を動かさないから、良い機会だ」

 少し拗ねたような声色で余計なお世話と言うが、アランには聞こえていなかったようだ。



 10分くらい遅れて正門前に着くと、マキオ君がいた。

 落ち着かない様子で周りを見ては俯き。ため息をつき、憂鬱な表情を浮かべてる。周囲の人も心配そうに遠目から見ている。慌てて駆け寄り声をかける。

「すまない、マキオ君。郊外に出て調査していてな」

 長身を窮屈そうに折り曲げながら、軽く頭を下げる。

「遅れてごめん」

「え、えっと……お2人は先に行ってくれたんですね。ありがとうございます」ぺこりとお礼をし、嬉しそうな顔でこちらを見ている。

「とりあえず、行く前に依頼の再確認とマキオ君に講座をしようか。立ちながらになるが申し訳ない」

「依頼内容は薬草25本の採取。これ事態はとても簡単だ、マキオ君メインでやってもらう」

「ア、アランさんがやってくれたりとかは……」

 こちらを窺いながら言ってくるが、俺はそんな事をするつもりはない。

「それは無理だ。サッチャーさんが、君に経験を積んで欲しいともある。 できる限りのサポートはするが、見つけて実際に採取する。これはマキオ君の役割」

 厳しい表情で見つめた後、ふっと笑い。

「まぁ、子供でもできることだ。そう気負う必要はないよ、肩の力を抜いてやるといい」

 マキオ君はクーと目が合う。優しく落ち着かせるように言う。

「私達2人がしっかり、対処するから安心して」

 それらを聴くと、マキオ君の表情は落ち着き、やる気に満ち溢れた顔付きだ。それを見て満足気に頷き言葉を続ける。

「マキオ君も良い表情になってきたな、次は万が一モンスターが出た時の講座だ。これはとても簡単、次の3つを覚えてくれ」そう言って、俺は大きい手を広げ、指を3本立て、1つずつ説明していく。

「1、すぐ逃げろ」

「2、俺かクー、どちらか近くの方に行け」

「3、マキオ君の場合、大丈夫そうだが。決して戦おうとするんじゃない」

「わかったか?これらを守れないと命を落とすぞ」

 ごくり、マキオ君が喉を鳴らした後。深呼吸をして返事をする。

「わかりました、それら3つを守ります」

 マキオ君の頭を豪快に撫で、くすぐったいのか少し身体が強張っている。

「そう、ガチガチになるな。頭は警戒、身体はリラックスってな」

「綺麗な花も咲いている、それを見るのいいかも」

 クーがマキオ君に声をかける。

「おっ、どうしたクー、珍しく他人を気遣うじゃないか」

「この子に取って、嫌な思い出になって欲しくない。ただそれだけ」

 言ってることは優しいが、変わらず表情は無機質だ。

「長いこと話しちまったな、よっしそろそろ行くか!日没までには帰ってくるぞ」

 俺達は郊外に向けて歩きだした――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ