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06:涙の神殿と、閉ざされた心

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はじまりは、乾いた風の音だった。


足元に広がるのは、ひび割れた岩の道と、朽ちかけた石の階段。

俺とティアは、古代遺跡みたいな神殿の入り口に立っていた。


「……ここが、“涙の神殿”か」


「うん。記録によると、第一の神涙石がこの中にあるはず」


ティアがマップを広げながら言う。

けど、その声は少し緊張していた。


目の前の扉には、銀色の模様が刻まれていた。

それはまるで、涙の形をした迷路。

中心には、“空白”の部分がぽっかりと開いている。


「ナッキー、あれ……もしかして」


「ああ。涙の……鍵穴、かもしれないな」


試しに、俺はポーチの中からあのときのブローチ──

ルイ王女がくれた“共感石”を取り出してみた。


でも……反応はない。


「ダメか」


「ってことは、これって……“本物の涙”じゃないと開かないとか!?」


「マジかよ、物理涙認証とか聞いてないぞ」


「泣くしかないねぇ、ナッキー♪」


「気軽に言うなよ!」


でも、たしかに……この旅は、俺の涙が“鍵”になることが多いんだろう。


よし、泣いてみるか。……って、泣こうと思って泣けるもんじゃないけど。


深呼吸して、目を閉じる。


心の中に浮かぶのは、王都での出来事。

ナケネーナの静かな瞳。

ティアの笑顔の裏にある、泣けなさ。


——そして、自分の無力さ。


守りたいのに、泣くことしかできない自分。


「……っ」


じわ、と涙がこみ上げてくる。

胸の奥がギュッと締めつけられる。


その瞬間——


神殿の扉が、静かにきしむ音を立てて開き始めた。


「ナッキー、開いたっ!」


「……マジで、涙鍵だったか」


神殿の中は、想像以上に広かった。


白く濁った光が天井から差し込んでいて、

柱の間には水晶のようなオブジェが並んでいた。


その中央に、ひときわ大きな祭壇。


そこに——銀色の石が浮かんでいた。


「……神涙石」


俺は息をのんだ。

でも、その瞬間——


神殿の奥から“声”が響いた。


「涙を流す者よ。

  お前の心が、真実であるか試そう」


突然、足元が震えた。

俺たちの前に、黒い影のようなものが現れる。


「ナッキー、来るよ!」


ティアが杖を構えた。

俺も反射的に、《エモ・シャイニー》を発動しようとする。


目を閉じて、心を集中させる。

けど……何も出ない。


「えっ……なんで!?」


「ナッキー! 涙、流れてない!」


くっ……さっき泣いたばっかりで、もう涙が残ってねぇ!?


影が、こっちに迫ってくる。

ギラリと光る目が、俺を見据えていた。


その瞬間——


ティアが俺の前に立った。


「ナッキーは下がって! 今度は、私の番だから!」


「でもお前、泣けないだろ!?」


「……泣けないよ。でも、それでも……守りたいって思ったら、体が動いちゃったんだよ!」


ティアが構えた杖から、光の波が放たれた。


それは決して強くなかった。

でも、まっすぐだった。


影がそれに怯む。ほんの一瞬。


「ナッキー、今……泣けるなら、今だよ!」


 


——泣ける、か。


俺は、拳を握る。


目の奥が熱い。

ティアが俺の前で、あんな風に叫ぶのは……初めてだった。


誰かを守りたいって気持ちが、心の奥で波のように広がる。


 


「……っ」


涙が、ひとすじ流れた。


光が広がる。


 


「《エモ・シャイニー》!!」


 


神殿全体に、あたたかい波動が響く。

空気が震えて、影が砕けていく。


 


「……やった」


 


ティアが、ゆっくりこちらを振り返る。

その顔には、涙こそなかったけれど——


笑顔があった。


「ナッキー……すごいよ」


「いや……お前もだ。

俺、泣けなかったら終わってた。

ティアが動いてくれたから……俺、泣けたんだ」


 


彼女は一瞬、驚いたように目を丸くしたあと——

照れたように笑った。


 


「……じゃあ、これからも、

ナッキーが泣きやすいように、いっぱい支えてあげなきゃだね」


 


「……お、おう。頼むわ」


 


いつもの明るい調子。

でも、その笑顔には、ほんの少しだけ——違う色があった。


強がりじゃない、ほんとうの“安心”の色。


 


 


神涙石に触れたとき、俺の中に——何か、流れ込んできた。


映像?……記憶?


それは、誰かの過去だった。


女の子。ひとりで泣いていた。

何も言えず、誰にも見せられず。

その子の涙が、石に吸い込まれていった——


 


「ナッキー? 大丈夫?」


 


「……ああ。

ちょっとだけ、誰かの気持ちに触れた気がする」


 


「神涙石って、感情を記憶してるのかもね」


 


「……かもな」


 


神殿を出ると、夕陽が空をオレンジに染めていた。


ティアが隣にいて、俺たちはしばらく黙って並んで歩いた。


 


「ねぇ、ナッキー」


「ん?」


「今日、わたし……泣けなかったけど、ちょっと泣きそうだった」


 


「……そっか」


「でも、まだ……涙、出ないや」


 


「いいよ。泣かなくて」


 


「……いつか泣けたら、抱きしめてくれる?」


 


その言葉に、俺は答えられなかった。


 


風が、二人の間を吹き抜けた。


でもその風は、もう“ただの風”じゃなかった。

たしかに、心を揺らす風だった。

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