05:笑顔の影と、泣けない約束
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旅立ちの朝は、やけに眩しかった。
王都ナケナイザーの外れ。
城門の向こうには、石畳の道がずっと先まで続いている。
「……よし、行くか」
肩に下げた荷物は、昨日よりちょっとだけ重い。
けど、それ以上に重たいのは——俺の胸の奥だった。
「ナッキーっ!」
後ろから元気な声が跳ねてきた。
振り返ると、ティアノーンが両手をぐるんぐるん振って駆けてくる。
「おっっっまたせっ!ほら見て〜、新しい旅装っ!」
「うお、まぶし……」
ティアの旅服は、王国の“軽装礼服”をリメイクしたような仕立てで、
陽光にさらされて、淡い琥珀色が柔らかく反射している。
腰には小さな短剣と、魔導ポーチ。
見た目はお姫様だけど、本人の動きはどう見ても元気系旅女子。
「どぉ? 可愛くない? 似合ってると思わない?」
「……まぶしい」
「わぁ、それって“まぶしいほど可愛い”って意味だよね!? ナッキーやる〜!」
いや、そうとは言ってない。
でも、笑ってる彼女を見ると、なんか否定する気にもなれなかった。
ティアは、ほんとに感情豊かだ。
顔に出るし、声に出るし、リアクションも大きい。
それがこの国では“変わり者”扱いされるのが、ほんとにもったいないくらいに。
「今日は、どこまで行くの?」
「とりあえず、“ルド村”ってとこ。
王国から南に三日くらい。そっちの方に神涙石の痕跡があるらしい」
「了解〜!よーし、ナッキー隊出発っ!ってことで、先導は私に任せなさ〜いっ!」
ぴょこん、とティアが石畳の上に飛び乗る。
風が吹いて、栗色の髪がふわっと舞った。
彼女の背中を見ながら、俺は不思議な気持ちになる。
——この子、なんであんなに笑えるんだろう。
「ティアってさ、昔から明るかったの?」
「え?」
歩きながらふと訊いた俺の言葉に、ティアは一瞬だけ止まった。
その動きが、風の流れの中で少しだけ浮いて見えた。
「うん、まぁ……ね? そーだね。
でも、うーん……どうかなぁ」
「……どうかな?」
「うちのお母さんがね、
“ティアは笑ってれば、みんな安心するのよ”って言ってたの」
「そっか」
「だから、泣くのは……やめた。
泣きたくなっても、“笑ってればなんとかなる”って、思い込むようにしたんだ」
その声は、少しだけ……遠かった。
ティアは笑ってる。
でも、その目の奥にある何かが、昨日のルイと同じに見えた。
「……無理してるわけじゃ、ないよ?」
「……ああ、分かってる」
「ただ、なんていうか。
“笑ってる方が、傷つかない気がした”ってだけで」
風が、草を揺らす音がした。
鳥のさえずりが、やけに遠く聞こえた。
俺は何も言えなかった。
でも——なんとかして言葉を紡ぎたかった。
「……俺は、泣けるからな。
だから、代わりに泣いとくよ。
ティアの分も」
ティアがこちらを見た。
まるで、空を見上げるような目だった。
「……ありがと、ナッキー」
「泣き虫なだけだけどな」
「うん。でも、それが……あったかいんだよ」
そう言って、彼女はまた笑った。
その笑顔は、さっきよりも少しだけ、素直だった。
夕方。
ルド村の手前、小さな川を渡ろうとしたときだった。
「——助けてぇっっ!!」
誰かの叫び声が、森の奥から響いた。
「女の子の声っ!?」
ティアが走り出す。俺もすぐに後を追う。
木々をかき分けると、そこには——
一人の少女が、獣のような影に追われていた。
「ティア、こっち!」
俺が駆け寄り、彼女をかばうように立ちはだかった。
「うおっ……でっか……!」
影の正体は、魔瘴に侵された“獣霊”だった。
目が赤く濁り、牙をむいている。
「ナッキー、私が囮になる!魔法で引きつけるから、お願い!」
ティアが杖を構える。
その瞬間、彼女の身体から薄い光の波動が広がった。
「《エモ・シャイニー》!」
放たれた光の魔法が、獣霊の注意を引きつけた。
俺はその隙に少女を抱えて飛び退く。
「ティア、気をつけろ!」
「任せてっ!」
ティアが笑っていた。
恐怖よりも、目の前の人を守ることを優先して。
その姿が、すごく眩しかった。
俺は——不意に、涙が出そうになるのをこらえた。
なんでこんなときに。
でも、きっとこれは、ティアの“笑顔”に泣きそうになったんだ。
無事に獣霊を退け、少女を村へ送り届けたあと。
川辺に腰掛けて、二人で夕焼けを眺めていた。
「今日は、ありがとね。ナッキーが泣き虫で助かった〜」
「泣いてねぇよ!」
「うそ。ちょっと目、潤んでた」
「いやそれは……」
「うん。うれしかったからでしょ?」
俺は言い返せなかった。
「……わたし、ナッキーみたいに泣けたらって、ちょっと思った」
ティアは、ぽつりとそう言った。
「でも、いつか。ちゃんと泣けたときは——
そのときは、ナッキーの前がいいな」
風が、二人の間を吹き抜ける。
まるで、心のどこかに溜まっていた埃を、そっと吹き払うような風だった。
「……ああ。そのときは、ちゃんと隣にいるよ」
ティアが笑った。
いつもの元気な笑顔じゃなくて——
静かで、やわらかい笑顔だった。
たぶん、旅はまだまだ続く。
でも、今日一日だけで。
俺は、この旅が“涙だけじゃない何か”を教えてくれる気がしたんだ。
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